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2012年09月04日

霊使い達の宿題《逃亡編》D









 火曜日、「霊使い達の宿題」は「《逃亡編》」に突入しております。今回は掟破りの2対1!!さぁ、エリアの運命やいかに!!


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                        前回までのあらすじ

 宿題を完遂出来ず、追われる身となったエリアとギゴバイト。
 第2の刺客、ウィンにハンバーガーの糧となる事を迫られるが、危機一髪、マドルチェ堂本舗の時間無制限スィーツバイキング・ペア招待券(50ペア限定)の尊い犠牲によってその危機を脱する。
 その事に涙する(主にペアの相手に理解されない的な意味で)エリア。
 しかし、悲しみに暮れる間もなく次なる刺客達が彼女に迫るのだった!!
                           
                            ―7―

 その日は、よく晴れた穏やかな日であった。
 降り注ぐ日の光は優しく大地を照らし、涼やかな風は新緑の梢をサワサワと揺らしていた。
 と、
 コポポポポ・・・
 その中に響く、静やかな水音。
 『ハイ、オ茶入リマシタヨー。』
 『はいはーい。』
 『お茶菓子はこれでいいのかなー?』
 『ハイ、美味シインデスヨー。ソノオ煎餅。』
 甲斐甲斐しくお茶の準備をしているのは、D・ナポレオン。
 彼女が用意したお茶やお茶菓子を、ハッピー・ラヴァーとギゴバイトが運んで行く。
 その先では―
 『はい。お茶ー。』
 「あ、どうもなのですー。」
 地面の草の上に座ったライナが、そう言ってハッピー・ラヴァーからお茶を受け取る。
 「はい、エリアちゃん。それとダルクも。」
 ライナは同じ様に座ったエリアとダルクにも、お茶を渡す。
 「悪いわね。」
 「・・・いただきます・・・。」
 ズズー
 三人がお茶をすする音が、のどかに響く。
 「・・・ということでですねー」
 お茶で喉を潤したライナが、茶碗を置きながらエリアに話しかける。
 「しぬおもいをしたわけなのですよー。ライナは。」
 それを聞いたエリアは、やれやれと頭を降る。
 「あの娘ったら、まだそんな事やってたのね。分かったわ。あんまり親しい訳じゃないけど、よく言っとく。多分、年末に一族の忘年会で会うと思うから。」
 「たのみますですよー。」
 「・・・色々難儀だな・・・。お前も・・・」
 パリパリと煎餅を齧りながら、ダルクが言う。
 「まぁねー。でも・・・」
 ふと、エリアの顔が真顔に戻る。
 「いつまでも、放っておく訳にもいかないわよ。リチュア(あいつら)がしてる事考えたらね・・・。」
 「エリアちゃん・・・?」
 その変化に戸惑ったライナが声をかけると、エリアははっとした様に相好を崩す。
 「なーんてね!別に知りもしない何処ぞの誰かさん達のためじゃないわよ!!これ以上騒ぎ起こされて、こっちまでとばっちり食うのは御免って事!!あんな精神虚弱者の寄せ集めみたいな新興宗教なんて、本当は知ったこっちゃないんだけどね!!」
 そう言って笑うと、エリアはぐいーっとお茶をあおる。
 そんなエリアの様に、ポカンとするライナ。
 その横で、ポリポリと煎餅を齧り続けるダルク。齧りながらちらりと横を見れば、真剣な顔でエリアを見つめるギゴバイトの姿。
 「・・・・・・。」
 煎餅の最後のひとかけを口に放り込み、お茶を一口。そして、ぼそりと呟く。
 「・・・本当、難儀なやつらだよ・・・。」
 小さなその呟きに、気づく者は誰もいない。

 タンッ
 高らかな音とともに、空になった茶碗が置かれる。
 「あー、美味しかった。ごちそうさま。」
 茶碗を置いたエリアが、立ち上がりながら言う。
 「いえいえ。おそまつさまです。」
 自分で用意した訳でもないのに、お辞儀をするライナ。
 「いえいえ。結構なお点前でした。じゃ、アタシ達はこれで・・・」
 そう言って、エリアとギゴバイトがその場を去ろうとしたその瞬間―
 ジャカカカカカッ
 再び降って来た光剣の群が、二人の行手を阻む。
 「『えー、やっぱりやんのー?』」
 うんざりした様な顔で言うエリア達。
 「あたりまえです。ここでにがしたら、こんどはライナたちがおしおきです!!」
 「あんたの言う事、聞いてあげたじゃない!?」
 「 それとこれとははなしがべつなのですよー。」
 「ちょっと、ダルク。あんたの片割れでしょ!?何とかしてよ!!」
 話をふられたダルクだが、申し訳なさそうに首を振る。
 「・・・どうにか出来るものなら、とうにしていると言う理屈がね・・・。っていうか、僕もお仕置きは勘弁なんだよ・・・。」
 そう言って、ライナと一緒に杖を構えるダルク。
 「裏切り者・・・。」
 ガックリと肩を落とすエリア。いい加減げんなりとしながら、こちらも杖を構える。
 「さあラヴくん、ひょういそうちゃくです!!」
 『アイアイさー!!』
 「・・・D(でぃー)、こっちもだ。」
 『了解デス。マスター。』
 瞬間、白と黒の光が閃く。
 そして―
 「ひょーいそーちゃく、かんりょー!!」
 光の中から飛び出したライナが、ビシィッとポーズを決める。
 「・・・だから、無駄にテンション高いんだよ・・・。」
 その後から、スタスタと出てくるダルク。
 と、
 パチパチ
 そのダルクに向かってライナが何やら目で合図をする。
 「・・・何だよ・・・?」
 訳が分からないダルクに向かって、ライナはしきりに合図を送る。
 パチパチ
 やっぱり、訳が分からない。
 パチパチパチ
 だんだん、苛ついてくる。
 パチパチパチパチ
 「なんなんだよ!?言いたい事あるなら口で言え!!口で!!」
 ついに怒鳴るダルク。
 「あーもう、なんでわかんないですか!!ライナのきもちがツーカーでわかんないなんて、それでもおとうとですか!?」
 ライナも怒鳴る。
 「だから、いったい何なんだよ!?」
 「ポーズです!!ポーズ!!」
 「はぁ?」
 唖然とするダルクの前で、改めてポーズをとるライナ。
 「ライナがこうやってポーズとってんですから、ダルクも合わせてポーズとるです!!ほら、こうです!!こう!!」
 「な、何馬鹿な事言ってんだ!?そんなアホみたいな格好、出来る訳ないだろ!?」
 当然の如く拒絶するダルク。しかし、ライナも譲らない。
 「んな!?ライナがせっかくふたりようにかんがえたざんしんかつスタイリッシュなポーズをアホとのたまいやがりますか!?なんたるふとく!!それでもほまれたかきふたごのかたわれですか!?」
 「好きで双子に生まれたわけじゃないぞ!!大体それのどこが斬新だ!?スタイリッシュだ!?そんな役に立たない目ん玉なら、くり抜いて代わりに神聖なる球体でもはめ込んどけ!!」
 「なにいってるですか、ホーリーシャイン・ボールなんておっきなもんライナのおめめにはいるわけないです・・・ってか、んなことどうでもいいです!!いいからおとなしくだまってポーズとるです!!」
 「嫌だっつってんだろ!!目だけじゃなくて耳まで悪いのかよ!?」
 「なんですってー!?」
 「あ〜、もしもし〜!?」
 喚き合う二人の間に、別の声が割って入る。
 「なんですか!?」
 「何だよ!?」
 振り返る二人の前には、チョコンと座ったエリア(憑依装着済み)とガガギゴの姿。
 「あー、ひょういそうちゃくしてるですー!!いつのまにー!?」
 「いつの間にも何も・・・。まあいいわ・・・。」
 溜息をつくエリア。
 「あのさ、結局やるのやらないの?アタシ達、急いでるんだけど?」
 その言葉に我に返る二人。
 「そうです!!ダルク、こんなことしてるばあいじゃないです。はやくエリアちゃんをつかまえないと!!」
 「・・・誰のせいだよ・・・。全く・・・。」
 ぶつぶつ言いながらも、今度はさすがに調子を合わせるダルク。
 「もうゆうよがないです!!いっきにきめるです!!」
 「ん?ああ、あれやるのか?」
 「はい!!」
 言うが早いか、二人の杖が同時に地を突く。
 「『ホーリーフレーム』!!」
 「『ダークフレーム』!!」
 その呼びかけに応える様に、杖が突いた地面から2色の光の柱が伸びる。
 一つは白。眩く輝く、白色の光。
 一つは黒。暗き深淵を思わせる、黒色の光。
 やがて、二つの光柱は弾け、そこに二つの形を織り成す。
 白い光から現れたのは、軌跡を描いて飛び回る純白の光の玉。
 黒い光から現れたのは、幾つもの方体が組み合わさった漆黒の物体。
 ―「ホーリーフレーム」と「ダークフレーム」―
 どちらも、儀式魔法(セレモニー・スペル)等に必要な生贄のために造られた、意思なき擬似生命体である。
 自分達の前に浮かぶそれらに杖を突きつけると、ライナとダルクは声を合わせて呪文を紡ぐ。
 「「デミア・ルミナス・テンペスト 滅びの歌声 破滅の宣告 昏き奈落に座する玉座 これに在りし二つの御魂 其を導にその座を立ちて 此方に来たりてその威を示せ 汝は王 終焉(ヲワリ)の王 其が御名のもと 愚なる万物に永久(とわ)の慈悲を!!」」
 そして、二人の言葉が微塵のズレもなく唱を結ぶ。       
 「「ヲワルセカイ(エンド・オブ・ザ・ワールド)!!」」
 ゴンッ
 途端、空に浮かぶ巨大な魔法陣。
 黒雲と稲光を帯びて廻るその中心に、ホーリーフレームとダークフレームが吸い込まれる。
 そして―
 ドンッ
 入れ替わる様に、天から堕ちる光の柱。
 黒と白。
 目まぐるしく廻り、絡み合う二色の混沌。
 やがてその中に、何か巨大な影が浮かび上がる。
 ズシリ
 鳴り響く、重い足音。
 混沌の光の中から現れたのは、髑髏を思わせる頭に巨大な角を戴き、重厚な鎧に身を包んだ巨人。
 暗い、紺色の炎を灯した瞳にねめつけられた大気はそれだけで恐怖に震え、手にした戦斧で打たれた大地は、それだけで怯える様に揺れ動いた。
 彼の者の名は、「終焉の王・デミス」。
 儀式魔法(セレモニー・スペル)、「ヲワルセカイ(エンド・オブ・ザ・ワールド)」。それは、遠き深淵の彼方から、破壊の神々を呼び寄せる儀式魔法。
 光のライナと闇のダルクが、お互いの力を交わらせる事によって初めて使える、文字通り二人の究極魔法である。
 「にゃっはっはっはっ。どうです!!だいせいこうなのですー。」
 勝利を確信し、汗びっしょりで高笑いするライナ。
 その横では、やっぱり汗びっしょりになったダルクがへたりこんでいる。
 「・・・疲れた・・・。だりぃ・・・。」
 そんな弟には構わず、ライナはビシィッとエリアに向けて杖を突きつける。
 「さぁ、エリアちゃん!!これでしょうぶはついたです。いたいおもいするまえにこうふくするで―え?」
 驚くライナの前で、朱い魔法陣が展開していた。
 その向こうで、エリアがにっこりと笑う。
 「そうね。終りだわ♪」
 ゴバァッ
 そんな言葉とともに、魔法陣から凄まじい量の水が、これまた凄まじい勢いで溢れ出した。
 「にゃ、にゃんですとぅー!?」
 「・・・あ、そうきたか・・・。」
 ドドドドドドドドッ
 「あ〜〜れ〜〜!?」
 「・・・ついてないな・・・。まったく・・・。」
 ライナの叫びも、ダルクの諦観の声も、ついでにデミスも、渦巻く激流は容赦なく飲み込んでいく。
 ―「激流葬(フューネオル・フラッド)」―
 モンスターの“召喚”をトリガーに発動する罠魔法(トラップ・スペル)。
 その効果は、見ての通り。
 その場にいるモンスターのレベルも攻撃力も関係なく、一切の存在を押し流す。
 水系魔法の最上位に位置する魔法で、エリアの文字通り奥の手である。
 もちろん憑依装着状態でのランク上げ、尚且つ複雑難解な構築式が必要なのだが・・・。
 「・・・あいつらがアホで助かったわ・・・。」
 『術式構築の時間、たっぷりとれたもんな・・・。』
 一切合切が押し流された荒野を前に、エリアとガガギゴはそう頷き合う。
 晴れた空の下、薙ぎ倒された木の根から落ちた滴が、キラキラ光ってピチョンと音を立てた。


                                                         続く
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