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2012年08月28日

霊使い達の宿題《逃亡編》C









 火曜日、「霊使い達の宿題」は「《逃亡編》」に突入しております。今回は”緑のあの娘”との対決!!さぁ、エリアの運命やいかに!!


遊戯王カード 【 憑依装着−ウィン 】 EE4-JP089-N 《エキスパートエディションVol.4》

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                      前回までのあらすじ

 宿題を完遂出来なかったため、ドリアードの命により他の霊使い達から追われる身となったエリアとギゴバイト。
 第一の刺客、ヒータを辛うじて退けるものの、休む間もなく第2の刺客、風霊使いのウィンが彼女達の前に立ちはだかる!!
 苦労して構築した魔法、「明鏡止水の心(ハート・オブ・クリスタル)を「はいはい、サイクロン、サイクロン」で無常にも破壊されてしまったエリア。はたして、彼女の心中やいかに!!


                              ―5―

 
 「ウ、ウィン!?今度はあんた!?」
 「その通り!!さぁ、エーちゃん、大人しくお縄を頂戴!!」
 そう言うとウィンは手にした杖をクルクルと回し、ビシィッとポーズを決める。
 結構ノリノリである。
 「あ、あんただけはと思ってたのに・・・。他称「霊使いの良心」はどうしたの!?っていうか、『明鏡止水の心(ハート・オブ・クリスタル)』どうしてくれんのよ!!せっかく人が苦労して構築したのに!!」
 がなりたてるエリアにも、しかしウィンは涼しい顔。
 「へへーん。だって、『明鏡止水の心(ハート・オブ・クリスタル)』(あれ)そのまんまにしてたらエーちゃん無敵状態でしょ?それじゃ、あたし困るんだもーん。」
 キャラキャラと笑うウィン。相変わらずの天真爛漫っぷりである。
 「ど・・・毒気抜かれるわね・・・。っていうか、あんたもアタシに恨みあるわけ?」
 その問いに、ウィンはキョトンとする。
 「ん?ないよ。そんなの。」
 「じゃあ何でよ!!そんなに先生が怖いわけ!?アタシ達の絆は!?友情はどうしたの!?」
 エリアの叫びに、ウィンは小指を頬に添え、ウーンと唸る。
 「確かに先生は怖いけど、それだけじゃないよ。絆?友情?それは大事だけど、今回ばっかりはちょっと優先順位が下なんだよね。」
 その言葉に、今度はエリアがキョトンとする。
 「へ・・・?じゃあ、一体何なのよ?」
 「それはね・・・」
 「それは・・・?」
 しばしの間。エリアが唾を飲み下す、ゴクリという音がやけに大きく響く。

 「エーちゃん捕まえてきたら、先生が「デビコック」のハングリーバーガー食べに連れて行ってくれるんだもーん!!」

 ドシャアァアアアッ
 何の音か。エリアが盛大にずっこけた音である。
 ちなみに「デビコック」とは何か。
 虹の古代都市、レインボー・ルインで評判のハンバーガーショップである。看板メニューはハングリーバーガー。一つ2000ゴブリン。結構、お高い。リピーター曰く、食うか食われるかのスリルがやみつきになるとか。シェフはデビルコック。オーナーは成金ゴブリン。只今店舗拡大につきパート、アルバイト募集中。時給850ゴブリンなり。深夜シフトは1000ゴブリン。この世界の深夜勤務はリスクが大きい。(追いはぎやら盗賊団やら)
 などとどうでもいい話をしている間に、凄まじい勢いでずっこけたエリアがようやっと杖を支えにして起き上がってきた。その様は、まるで先ほど「大波小波(ツイン・ウェーブ)を食らって倒れたヒータそっくりである。因果は巡るのだ。
 「あ・・・あんた・・・!!友情と食いもん計りにかけて、食いもんとるってか!!この欠食児童!!」
 「あり?エーちゃん、怒ってる?何で?」
 想定外と言った顔のウィンに向かって、怒鳴り散らすエリア。
 「自分とハンバーガー計りにかけられて、ハンバーガー取られた日にゃあ、大概の人間が怒るわ!!つーか、あんたはそれでいいんか!?一人間として自分の在り方に疑問とか湧かないんか!?」
 しかし、非常に困った事にウィンは何の躊躇いもなくこう言い放つのだった。
 「駄目だよ。エーちゃん。人にとって食べ物さんはなくてはならないものなんだよ。食べ物さんなくして人は在らず。食べ物さんとの出会いは一期一会。その大事な機会を逃すなんて、あってはならない事なんだよ。」
 「あ、あんたって奴ぁ・・・」
 耐えられずorzるエリア。
 頭の中で何か大事なものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。それは人間観とか人生論とか、とにかくそういう大事なものである。
 これではかのトモダチ至上主義者、ライナと相互互換ではないか。いや、同じ霊使いである以上、相互互換なのは当たり前なのだが、今はそんな他所の世界の話をしている場合ではない。ないったらない。
 「というわけで、問答無用!!エーちゃん、お覚悟!!」
 何がというわけなのかは分からないが、再びビシィッとポーズを決めるウィン。
 「あー、もう分かったわよ!!こうなったら、やってやろうじゃない!!」
 半ばヤケクソでそう叫ぶと、エリアも杖をかまえる。
 かくして、ここに霊使い対霊使い。仁義なき戦い二の巻の幕が切って落とされた―
のだが・・・
 「破術の旋風(サイクロン)!!」
 「ウキャーッ!!」
 「砂塵の大竜巻(ダスト・トルネード)!!」
 「アヒャアーッ!!」
 「一陣の風(シャープ・ウィンド)!!」
 「ヒギャアーッ!!」
 聞こえてくるのはウィンの決め声と、エリアの悲鳴ばっかりである。
 ・・・無理もないかもしれない。
 ウィンの得意とする風系魔法は、装備魔法(クロス・スペル)や永続魔法(エターナル・スペル)、罠魔法(トラップ・スペル)の無効化や破壊の能力に特化している。
 対して、エリアの水系魔法にはずばりその装備魔法(クロス・スペル)や永続魔法(エターナル・スペル)、罠魔法(トラップ・スペル)が多いのである。
 先程の「明鏡止水の心(ハート・オブ・クリスタル)」はもちろん、「霧幻装甲(ミスト・ボディ)」も、「災厄の水面(ウォーターハザード)」も、全て装備魔法(クロス・スペル)や永続魔法(エターナル・スペル)である。
 相性が悪い事、この上もない。
 付け加えて言えば、ウィンは術式の平行励起が非常に得意であり、矢継ぎばやに魔法が飛んでくるので、おちおち呪文の詠唱やしもべの召喚もままならない有様である。
 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・こ、これは、まずいわ・・・!!」
 無駄に体力を消耗し、息も絶え絶えになったエリアが杖にすがりながら呟く。
 「へっへーん。エーちゃん、そろそろチェックメイトかなー?」
 余裕のウィンが、クルクルと杖を踊らせる。
 何かしもべを召喚し、勝負を決めるつもりなのだろう。
 焦ったエリアが叫ぶ。
 「ちょっ!!ギゴ、何してんの!?早く憑依装着を・・・!!」
 『あ〜、ちょっとゴメン。今、無理。』
 「はぁ!?何言って・・・」
 がなりながら振り返るエリア。
 『ね?無理でしょ(泣)?』
 風竜(プチリュウが憑依装着でランクアップした)に頭を咥えられたギゴバイトが、ブラ〜ンブラ〜ンと揺れながらバツが悪そうに笑って見せた。
 「ギ・・・ギゴォオオオオ!?」
 虚しく響くエリアの叫び。
 「ふっふっふっ。もはや万事手詰まりだね!!」
 ほくそ笑みながら、ウィンが杖を振り上げる。
 「さあ、諦めてハンバーガーの糧になれ!!」
 ウィンの杖が地を突こうとしたその瞬間―
 「ちょっと待ったぁあああー!!」
 そんな叫びとともに、エリアが右手を突き出していた。
 その手の中には、チケットらしき紙切れが1枚。
 それを見たウィンの顔が、驚愕に強張る。
 「そ、それはまさか!?」
 ウィンの反応に悲しげな笑みを浮かべると、“それ”を持つ手を震わせながらエリアは言った。
 「マドルチェ堂本舗の、時間無制限スィーツバイキング・ペア招待券(50ペア限定)よ・・・。お願い、これで手を打って・・・。」
 チケットを凝視したまま、滝の様によだれを流すウィンの前で、エリアはただただ悲しげに肩を震わせるのだった。


                               ―6―

 『良かったね。あれでウィンさんが納得してくれて。んでなきゃ、万事休すだったよ。』
 風竜にくわえられてた頭をコキコキと鳴らしながら、そんな事を言うギゴバイト。
 しかし、当のエリアに窮地を脱した喜びはない。
 「ああ・・・せっかく・・・1年も前から手回しをして・・・貯金はたいて、手に入れたチケットだったのに・・・。」
 その細い肩が、悲しげに震えている。
 どうやら、血涙の決断だったらしい。
 『そんな事言ったって、仕方ないじゃないか。大体、さっきヒータさんが苦労して手に入れたマドルチェ堂のお菓子食べちゃったって言ってたじゃない。こういうのを因果は巡るって言う・・・ウベァッ!?』
皆まで言う前に後ろからエリアに踏まれ、ギゴバイトは派手に地面とキスをする。
 『な・・・何すんのさ!!急に!?』
 「うるさいうるさいうるさい!!人の気も知らないで!!大体、何でわざわざ入手難易度高いペア券手に入れたと思ってんのよ!?」
 『え?どう言う事?』
 何の事か分からないと言った態のギゴバイトを前に、エリアは顔を真っ赤に膨らませて黙ってしまう。
 そのまなじりには涙まで浮かんで・・・
 『え!?何!?どうしたの!?そ、そんなに大事だったの!?あのチケット・・・』
 「うるさい!!もういい!!」
 慌てるギゴバイトに向かってそう言い捨てると、エリアは浮かんだ涙を乱暴に拭いてズンズンと歩き出す。
 「ほら、さっさと行くわよ!!こうなったら、何が何でも逃げ切ってやるんだから!!」
 エリアがそう啖呵を切った瞬間―

 「・・・そうは・・・」
 「いかのスミブクロなのですー!!」

 そんな声とともに、天から無数の光の剣がジャカカカカッと降ってきてエリア達の行く手を阻む。
 言うまでもなし。お馴染み、「光の御封剣」である。
 『あ〜、これって・・・』
 「今度はあんた〜・・・?」
 「ちょ、ちょっとなんですか!?そのやるきのないリアクションは!?もっとこう、あるでしょ!?なにーとか、まさかーとか」
 などと言いながら、道端の茂みの中から出てきたのはライナである。その後ろにはやる気のなさそうなダルクが、ついでの様にくっついている。
 「あら、ダルク(あんた)も一緒なの・・・?大変そうね。お互い・・・」
 「・・・全くだよ・・・。」
 ウンザリした様な顔で頷きあう、エリアとダルク。
 「ちょー、ちょっとちょっと!!なにふたりでいきとうごうしてるですか!?ダルク、いまはエリアちゃんはてきなのですよ!?」
 「・・・って言ってるわよ?アンタの片割れ。」
 「・・・ああ、まぁ、そういう訳だから・・・」
 「・・・やるの?」
 「・・・まぁ、やんなきゃやんないで、周りが五月蝿いし・・・」
 『ですよねー・・・。』×2(ギゴバイトとD・ナポレオン)
 その場にいる全員(二人(?)除く)が溜息をつく。
 空気が重い。実に、重い。
 「まぁ、そんならとっととやりましょうか・・・。二人一緒なら、手間が省けていいわ・・・。」
 そう言って、かったるそうに杖をかまえるエリア。
 「な、なんですか!?そのワイトのむれをまとめてめんどうみるよみたいなたいどは!?ライナとダルクはそんなにやすくはないのですよー!!」
 憤慨するライナの横で、ダルクがやれやれと杖を手に取る。
 かくして、霊使い対霊使い・仁義なき戦い、第三幕は非常にかったるい雰囲気の中、その幕を上げたのだった。


                                                         続く
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