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2012年08月27日

―蛍煌・H― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こんばんは。土斑猫です。
 月曜日、ライトノベル「半分の月がのぼる空」二次創作の日です。
 毎度言ってますが、今回の作品、昔書きかけた一次創作の作品に「半月」の世界(と言うか、キャラクター)をはめ込んだものです。よって、半月の本来の世界観からはちょっとずれてると思われます。そこのところ、どうぞ御了承ください・・・。
 ・・・何とか、書ききったぞー・・・。



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                            ―11―

 あの池に行ってみたいと言ったのは、あたしだった。
 裕一含め皆は一様に嫌な顔をしたが、(当然か)あたしは皆を説き伏せて件の池へと向かった。

 あの暗闇の中では無限に広く見えたその池は、日の光の下では酷く小さく見えた。
 澄んだ水にはいくつも水蓮が浮き、可憐な花を咲かせている。
 時折、銀緑色の蜻蛉がキラキラと煌きながら飛び交っていた。
 「裕一、ここ・・・。」
 「・・・ああ・・・。」
 あたしが指差した場所は、池の縁が大きくえぐれ、千切れた草や藻がたくさん散らばっていた。
 昨夜、あたし達がもがいた跡だ。
 「なあ、山西・・・」
 「な、何だよ!?」
 その跡を気味悪そうに見ていた山西君が、裕一の声にビクリとしながら応えた。些か怯えすぎではないだろうか。
 「お前が話してた女の人、見つかってないんだったよな。」
 「あ、ああ、警察や消防団が洗いざらいさらったけど、結局見つかんなかったって・・・」
 裕一は頷いて、池を見る。
 「・・・そんなに大きな池じゃないのにな。」
 「こんなに澄んでるのにね・・・。」
 あたしはそう言って、池に手を浸した。
 冷たく澄んだ水は視界を遮る事はなく、浸した手が揺らめきの中に見えた。
 だけど・・・
 「・・・でも、中心の方は随分深いみたいだよ。」
 みゆきちゃんがそう言って、池の奥の方を指差した。
 そこは、昨夜”彼女”が泣きながら沈んでいった場所。
 確かにそこは、急に深みになっているらしく、澄んだ水の色がそのまま濃い藍色に変わり、底が見えなかった。
 透明なのに、見えない。
 ああ、そうか・・・。あの夢に出てきた棺は・・・
 一人合点しながら、あたしはそこに目を凝らす。
 藍色の闇が満たす中、かすかに揺らめく藻だけが見えた。

 その後、あたし達は予定のバスの時間まで思い思いに好きな事をして過ごした。(もっとも、例の池がある林には誰も近づかなかったけど。)
 テント近くの原っぱで、世古口君と山西君がキャッチボールしている。
 あたしはそれを眺めながら、地面に腰を降ろしていた。
 「おう、何してんだ?」
 そんな声とともに、裕一が隣に腰を下ろしてきた。
 「ん、ちょっと考え事。」
 「そうか。」
 「うん。」
 しばしの間。
 「あのね、」
 「あのな、」
 声が重なった。
 「な、何よ!?」
 「そっちこそ、何だよ!?」
 「そっちから言いなさいよ!」
 「お前から言えよ!?」
 あたし達はしばし、うーと睨み合う。
 「じゃ、ジャンケンな!?」
 「いいよ。一発勝負ね。」
 ジャンケンポン。
 あたしはグー。裕一はパー。
 あたしの負けだ。
 仕方なく、あたしは話し出した。
 他の皆には言っていない事。昨日の、そしてその前に見た夢の話だ。
 話を続けるうちに、裕一の顔色が変わってきた。
 どうしたのかと思っていると、「その女の夢、オレも見た。」なんて言ってきた。
 あたしが「ええ!?」と言うと、今度は裕一が話し出した。
 裕一がその夢を見たのは、昨夜。あたしと同じ様に、透明な棺に座った黒装束に長い黒髪、朱いつけ襟の女性に、散々文句を言われたそうだ。
 そして最後に、「つがいの相手くらい、変なのに引っ張られない様にちゃんと見張っとけ!!」と言い残して・・・
 「光になって、散っちゃったんだ・・・。」
 「ああ・・・。」
 また、しばしの間。
 と、あるものがあたしの視界に入った。
 「蛍・・・」
 「え?」
 あたしが指差した先には、草先に止まる一匹の蛍。
 眠っているのか、風に揺れる草の上でジッと動かない。
 「ねえ、裕一。」
 「ん?」
 「あの娘に池に引っ張り込まれそうになった時、蛍が助けてくれたでしょう?」
 「ああ・・・何だったんだろうな。あれ。」
 「あれ、あたし達を助けた訳じゃないんじゃないかな?」
 「どういう事だよ?」
 ?という顔をしている裕一に向かって、あたしは続ける。
 「山西君が言ってたよね。あの池、何年か蛍が見れない時期があったって。」
 「ああ、確か言ってたな。そんな事。」
 「知ってる?蛍の幼虫って、水の中で育つんだよ。」
 「へえ。そうなのか?」
 「うん。」
 そう。蛍は水生昆虫。成虫は陸に住むけれど、幼虫は綺麗な水の中で貝などを食べて育つ。だから、蛍は綺麗な水のない場所では生きられない。
 つまり―
 「あのさ、裕一・・・。」
 「ん?」
 「人間って、水に沈んで見つからないと、どうなるのかな?」
 「どうなるって、そりゃお前・・・!!」
 あたしが言いたい事を悟ったのか、裕一が息を呑む。
 「あたしが見た夢・・・」
 おそらく、あの池の象徴だった透明な棺。
 その上に居座り続け、あたしが棺の蓋を開けるのを邪魔し続けたあの娘達。
 揺り籠に入った赤ん坊は卵。幼女は幼虫。眠っていた少女は蛹。そして、最後に現れた女性は―
 蛍は卵のうちから、その身に光を纏うという。
 そう、彼女達はあたしを守っていたんじゃない。自分達の生きる場所を守っていたのだ。一度人の血肉に汚された池の水が、再び汚される事のない様に。文字通り、その一生をかけて。
 あたし達を助けたのは、あくまで結果論。
 それでも―
 「ありがと・・・」
 あたしの言葉が聞こえているのかいないのか、草の上の蛍はただウトウトと眠り続けるだけだった。
                         

                             ―12―

 夕方、皆で帰りのバスを待っていると、山西がちょいちょいと肩をつついてきた。何かと思って見ると耳をかせ、のジェスチャー。
 仕方ないので、耳を貸す。しかし、男の吐息が耳にかかるのは正直気持ち悪い。
 「あのさ、昨夜は里香ちゃんも聞いてたから言わなかったんだけど・・・」
 そこで口ごもる。何処か言いづらそうな口調。
 何なんだよ、鬱陶しい。話したくないなら離れろ。気持ち悪いんだから。
 僕が離れようとすると、山西は慌てて僕の肩をつかんで止めた。
 「あの池で自殺したっていう娘さん、どうやら心臓の病気だったらしいんだよ。」
 その言葉に、僕は眉をひそめる。
 「手術して、一応成功はしたんだけど、完全には治らなくて余命数年って宣告されたらしい。」
 「・・・・・・。」
 「それを悲観して、自殺したらしいんだけどさ・・・」
 「何が言いたいんだよ・・・?」
 「似てると、思わねえ?」
 何が、とは訊かなかった。
 「それで?」
 僕の言葉に、山西はおずおずと答えた。
 「里香ちゃん、そのお化けに取り憑かれたりしてないよなぁ?もしかして、また引っ張られたり・・・」
 最後まで聞く前に、僕は山西の足を思いっきり踏みつけた。
 「いってぇー!?」
 山西は悲鳴を上げながら、ピョンピョンと飛び跳ね回った。
 「何すんだよ!?オレは心配して・・・」
 涙声で訴える山西に、僕はフンと鼻を鳴らした。
 「そんな事、ある訳ねえだろ。」
 「なんでだよ!?だって昨日は実際に・・・」
 「とにかく、ないんだよ!!」
 そう。僕には妙な確信があった。
 ”彼女”は、あの池から出られない。
 なぜなら、それを蛍達は許さないからだ。
 蛍達は、自分達の聖域が汚されることを二度と許さない。
 だから、”彼女”はあの池に他の誰かを呼ぶ事は出来ない。
 どんなに寂しくても、どんなに求めても。
 同情しようとは思わない。
 『自分で放棄しておいて、いざそうなってみたら今度はそれが寂しいなんて、どうしてどうして、笑わせてくれるじゃない。』
 頭の中に、夢で聞いた蛍達の言葉がリフレインされる。
 蛍の寿命は、卵から数えても一年ほどらしい。
 自分達よりも長い命を約束されながら、それを自ら捨て去る人間の姿は、蛍達にはさぞ滑稽に見えた事だろう。
 そう。どんな事情があったにしろ、手に入れられた筈の時を、自分で放り出したのは”彼女”自身なのだ。
 だから、今のその在り様を、”彼女”は受け入れなければならない。
 それが、どんなに孤独なものでも。どんなに悲しいものでも。
 きっとそれが、”彼女”の生を願っていた人達を裏切った事に対しての罰なのだろう。
 例えどんなに残された時間が限られていたとしても、生き物は輝く事が出来る。
 そう。それこそあの夜見た蛍達の様に。
 そして、里香の様に。
 ・・・そう言えば、僕も蛍達に言われていたっけ。
 『つがいの相手くらい、変なのに引っ張られない様にちゃんと見張っとけ!!』
 ・・・上等だ。
 僕は林の方を振り返ると、口の中でそう呟いた。

 突然変な声が聞こえたので振り返ると、山西君が痛い痛いと言いながら足を押さえて飛び跳ねていた。
 どうやら裕一に踏まれたらしい。二人で何を話していたのだろう。まああの二人の事だから、どうせ下らない事だろうけど。
 そんな事を考えているうちに、バスが来た。
 プシュー
 バスの戸が開く。最初にみゆきちゃんと世古口君が、次に山西君。あたしと裕一が乗ろうとしたその時、

 おいて、いかないで・・・

 かすかに、だけど確かに聞こえた。
 思わず、あの池の方向を振り返る。
 林の奥にあるあの池は、ここからはもう見えない。
 ”彼女”はあのまま、あの池の底にい続けるのだろうか。
 蛍達の光に囲まれて。
 たった一人で。
 いつまでも。

 いかないで・・・

 微かに疼く、憐憫の思い。
 ”彼女”はあるかもしれなかった、あたしのもう一つの未来。
 あたしももし、彼に会わなかったら・・・。
 だけど、あたしは彼に会った。
 自分の光を見つけた。
 なら、あたしは蛍になろう。
 たとえ、永い時ではなくとも、精一杯に輝いて生きよう。
 「里香、どうした?」
 彼が、繋いでいた手に力を込めてくる。
 温かくて強い、生命(いのち)の感触。
 そう、これがあたしのいる場所。
 あたしが、選んだ場所。
 あの、冷たい池の底じゃない。
 だから、
 だからー

 いかないで・・・

 ごめん。
 あたしは、いけない。
 貴女の所には、いけない。
 あたしはその声を振り切る様に前を向き、バスへと乗り込んだ。
 プシュー
 ドアが閉まり、バスが動き出す。
 見つめるあたしの視界の中で、あの林は見る見る小さくなって見えなくなった。


                                               続く
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