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2012年08月06日

―蛍煌・E― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こんばんは。土斑猫です。
 月曜日、ライトノベル「半分の月がのぼる空」二次創作の日です。
 毎度言ってますが、今回の作品、昔書きかけた一次創作の作品に「半月」の世界(と言うか、キャラクター)をはめ込んだものです。よって、半月の本来の世界観からはちょっとずれてると思われます。そこのところ、どうぞ御了承ください・・・。



半分の月がのぼる空〈6〉 (電撃文庫)

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                           ―7―

 「「・・・・・・!!」」
 お互いに、息を飲むのが分かった。
 ポタッ
 ポタッ
 パチャンッ
 “それ”から滴る水滴の音が、妙に大きく聞こえる。
 濡れた藻の湿った匂いが、風に乗って流れてきた。
 「裕一、何だろ・・・あれ・・・?」
 「さ、さぁ・・・?」
 厚い雲の下、一切の光がない闇の中、暗い池の中から浮かび上がってきたもの。
 それは、大量の藻の塊の様に見えた。
 どうやら、何か枯れ木の様なものに、たくさんの藻が絡み付いているらしい。
 それが、プカリプカリと水面を漂っている。
 訳の分からない状況で現れた、訳の分からない代物。
 あたしと裕一は、あっけにとられた様に“それ”を見つめる。
 ―と
 ズチャッ・・・
 突然、それまでとは違う水音が響いた。
 あたし達の心臓が跳ねる。
 音にではない。
 あたし達を驚かせたのは、もっと別のもっと忌わしい事象。
 「ね・・・ねぇ、今、“あれ”、動かな・・・かった?」
 「お、お前にもそう見えたの・・・?じゃ、オレの気のせいじゃなかった訳・・・」
 ピチャンッ
 再び響く水音。
 あたし達は再び飛び上がる。
 もう、間違いはなかった。
 “それ”は動いていた。
 ゆっくりと、緩慢に。だけど確実に。
 “それ”はあたし達に向かって動き出していた。
 ズチャッ・・・
 それは、“それ”が皆底を這いずる音。
 ピチャン・・・
 それは、“それ”が動く度、纏わりつく藻から落ちる水滴の音。
 ズチャッ・・・
 ズチャッ・・・
 ピチャン・・・
 ピチャン・・・
 “それ”が水底を這いずる音と、水滴が滴る音が夜闇に響く。
 ズチャッ・・・
 ズチャッ・・・
 ピチャン・・・
 ピチャン・・・
 ゆっくりと、だけど確かに、“それ”があたしと裕一に向かって近づいてくる。
 「裕・・・一・・・。」
 あたしは震える手で、裕一の服を握り締めた。
 濡れた布地を通して、彼の震えと鼓動が伝わってくる。
 その生命(いのち)の感触にすがる様に、あたしは握る手に力を込めた。
 ズチャッ・・・
 ズチャッ・・・
 ピチャン・・・
 ピチャン・・・
 “それ”の歩みは酷く遅くて、逃げようと思えば逃げられる筈だった。
 だけど、あたしは動かなかった。
 いや、動けなかった。
 足の、いや、体中の筋肉が弛緩してしまった様に、身動きが取れない。
 ああ、これが「金縛り」というやつか。
 恐怖に麻痺しかけた思考のすみで、あたしはそんな事を考えた。
 「・・・里香。」
 裕一が、あたしを庇う様に抱き締めてきた。
 でも、その腕には力がない。
 ああ、彼も同じなんだ。
 いつもより早い彼の鼓動を聞きながら、あたしはボンヤリとそう思った。
 ズチャッ・・・
 ズチャッ・・・
 ピチャン・・・
 ピチャン・・・
 “それ”はもう、池の岸辺近くまで来ていた。
 ああ、“これ”は一体何なのだろう?
 池に沈み、藻が絡まった朽木?
 だけど、朽木がこうやって動く筈もない。
 じゃあ、何?
 これは、何?
 麻痺した思考は、グルリグルリと同じ所を空回る。
 ズチャッ・・・
 ズチャッ・・・
 ピチャン・・・
 ピチャン・・・
 “それ”は、もうすぐそこ。
 曖昧だった輪郭が、夜目にもはっきり見えてくる。
 ビシャンッ
 とうとう、“それ”の片手が岸にかかった。
 闇に慣れた目に映る、その形は―
 「―――!!」
 体中が総毛立つ。
 蘇る、足を掴んだあの、冷感。
 そんなあたしの思考を読むように、俯く様に垂れていた“それ”の頭らしき部分がグリンと持ち上がった。
 そして―
 
 オ゛ォ オ オォ アァア
 
 夜闇を震わせて響いた声が、今度こそあたし達の心臓を鷲掴みにした。
                    
                          
                          ―8― 
 
 本当に恐ろしい時、人間は声も涙も出ないものだと、初めて知った。
 冷たい汗が、滝の様に肌を濡らす。
 目を離したいのに、離せない。
 あたし達に出来るのは、ただ互いの身体を抱き締めあうだけ。
 そんなあたし達の前で、“それ”は池の中から這い出そうと、ビチビチともがいている。
 飛び散る飛沫が、顔にかかる。そんな距離。
 
 オォ゛ァアァアア
 
 もがきながら、“それ”が叫ぶ。
 泣く様に、嘆く様に、呪う様に。
 藻にまみれた手。そこからのぞく白いものが、掻き毟る様に地面に痕を残す。
 あの藻の奥にあるもの。それを思う度、たとえ様もない怖気が走る。
 
 オオ゛ゥィイイイ゛ィイイイ
 
 聞き取りようもない、呻き声。
 
 オォ゛ィイ ヴィイ
 
 それが、
 
 オ゛ォオ イィ ヴィイイイ
 
 形を成していく。

 オォ イ イィデェエエ エエ・・・

 「―――っ!!」
 それは紛れもなく、あの冷たい水の中で聞いた声。
 固まるあたしの目を見つめる、藻の隙間にポカリと開いた空ろ。
 オイィデ・・・
 オイで・・・
 おいでぇ・・・
 幾重にも纏い付き、たっぷりと水を含んだ藻の衣装を引きずりながら、それは真っ直ぐあたしに向かって這ってくる。
 お い で ・・・
 お い で ・・・
 お い で ・・・
 今や、はっきりと形を成した“それ”の声。
 女とも男とも、若いとも老いているとも分からない、濁った声。
 だけど―
 「女・・・の子?」
 そう。不思議とあたしにはその声が女性、それも女の子のものだという事が分かった。
 お い で ・・・
 お い で ・・・
 お い で ・・・
 声が響く。
 酷く濁って、おぞましく。だけど、今聞くそれは、同時に違う響きも持って聞こえた。
 そう。それはとても寂しげで。
 切なげで。
 そして悲しげで。 
 ただただ、必死に何かを求める声。
 いつしか、あたしの思考は酷く冷静に回り始めていた。
 ああ、そうか。
 この声は。
 この“娘”は。
 波だっていた心が、静まっていく。
 少し落ち着いた目で、“その娘”を見る。
 “その娘”は未だ、池の岸辺でもがいていた。
 何かを求めて、手を伸ばして、だけど届かなくて、ビタビタと藻と泥に塗れて、もがいていた。
 おいで・・・
 切なく響く声。
 おいで・・・
 何に向かって?誰に向かって?
 おいで・・・
 あたしを見つめる、空ろな眼窩。
 何もない。そう、この“娘”は何も、持っていない。
 おいて・・・
 友達も、仲間も、そして、自分さえも。
 おいて・・・
 だから、呼んで。だから、求めて。

 ―おいて、いかないで・・・

 そう。その声は確かに、あたしに向かってかけられていた。
 いや、考えれば、ここにきた時からあたしは彼女に見初められていたのだろう。
 だってほら、呼びかけてくるあの声は、あの夢の中と同じ。
 “この娘”を苛むもの。それは孤独。孤独という名の、絶対の闇。
 あたしは知っている。そのその切なさを。そして、その空しさを。
 だから“この娘”はあたしを選んだ。
 自分の持つその切なさを、空しさを知っているあたしを選んだ。
 でも、だからと言ってそれに応える事など出来る筈もない。
 彼女の願いに応えるという事は・・・
 そこまで考えた時、あたしはもう一つの事に気づいた。
 それまで感じていたものとは全く別の、もう一つの恐怖に。

 ”彼女”は固執している。
 仲間を、自分の孤独を癒す存在を得ることに。
 だからこそ、こんな世の理に反する存在になってまで、それを求め続けている。
 それこそ見境なく、がむしゃらに。
 見初めたあたしだけでなく、その手が届く全ての人間を引き込もうと願う程に。
 あたしは、あたしを抱き締めている裕一を見上げる。
 汗まみれになって青ざめた、情けない顔。
 だけど、あたしを抱きしめる腕の力は、微塵も揺るがない。
 さっきから、震えっぱなしのくせに。
 あたしは苦笑すると、彼の腕から、スルリと抜けた。
 「里香!?」
 裕一が、驚いたように叫ぶ。
 さっきまで動かなかった身体が、そうと決めたら途端に動くようになった。まったく、都合良く出来てるものだ。
 「里香、何してんだよ!?動けんなら、早く逃げろ!!オレの事は・・・んぅ!?」
 しばしの間。そしてあたしは、裕一のそれを塞いでいた唇を、そっと離した。
 「裕一、もういいよ。」
 そう言って、微笑む。
 「さっきはゴメン。それから、ありがとう。」
 万感の想いを乗せて、抱き締める。
 訳がわからないといった顔の裕一を、ジッと見つめる。
 ”彼女”に連れて行かれる、その扉の向こう側で、こぼれないように。消えないように。
 その顔をしっかりと瞼に焼き付けると、あたしは背後で蠢く”彼女”に向き直った。
 「欲しいのは、あたしでしょ!?いいわ。付き合ってあげる。その代わり、裕一は見逃して!!」
 あたしの言葉に、彼と”彼女”の双方が固まった。
 「ばっ・・・お前、何言って・・・」

 あ・・・ああああああ・・・!!

 裕一の言葉を待つことなく、地べたを這っていた”彼女”が、歓喜の声を上げながら起き上がった。
 顔に、池の水がしぶく。
 湿った藻の匂いが強く匂う。
 あたしを池に引き込もうと、藻に塗れた手を伸ばしてくる。
 あたしは黙って手を差し出す。
 ”彼女”の手が、あたしの手に触れようとしたその瞬間―
 ドガァッ
 そんな音が響いて、”彼女”が池へと倒れ込んだ。
 驚いて振り向くと、そこには”彼女”を蹴り飛ばして肩をいからせる裕一の姿。
 「お前、っざけてんなよ!!」
 裕一は、今まで見たことないくらい怒った顔で怒鳴った。
 「里香はな、オレのなんだよ!!お前みたいな化けモンに、やる訳ねえだろ!!」
 らしくもない啖呵をきる裕一。 
 「裕一・・・動けるの!?」
 「知るか!!んなもん!!」
 唖然とするあたしにも、裕一は怒鳴ってきた。
 「だいたいな、お前もお前なんだよ!!何だよ!!『その代わり、裕一は見逃して!!」って。何か!?お前囮にしてオレだけ逃げろってか!?ふざけんな!?」
 本当に、本当に怒った顔だった。
 言葉を失うあたしに向かって、裕一は怒鳴り続ける。
 「いいか!?お前はオレが守るって決めたんだよ!!相手が人間だって化けモンだって、関係あるか!!それを勝手に・・・」
 裕一が、そこまで言った時―
 ズルリッ
 突然そんな音がして、裕一の姿があたしの視界から消えた。
 「う、うわ!!こいつ!?」
 響く裕一の悲鳴。
 慌てて見ると、”彼女”が裕一の足にしがみつき、引きずり倒していた。
 ズルッ
 ズルッ
 ズルッ
 ”彼女”はそのまま、池の方へと裕一を引きずり始める。
 「うわっ!!うわっ!!」
 「裕一!!」
 あたしは慌てて裕一の手を掴む。
 だけど、”彼女”は委細構わず裕一の身体を引きずっていく。
 物凄い力。
 あたしの力では抗う事も出来ず、一緒に引きずられてしまう。
 「里香、離せ!!このままだとお前まで・・・」
 裕一の叫びに、だけどあたしはかぶりを振る。
 「馬鹿いわないでよ!!自分だけ良い格好しないで!!」
 言いながら、そこらの石を掴んで”彼女”に向かって投げ付ける。
 「離せ!!この馬鹿!!」
 鈍い音を立てて、石が”彼女”に当たる。
 けれど、”彼女”は微塵も怯まない。
 ズルリ
 ズルリ
 為す術もなく引きずられるあたし達。
 ついに、裕一の足が池の中に引きずり込まれる。
 「この・・・」
 無駄と知りつつ、あたしがまた投げ付けようと大きな石を掴んだその時、
 ポウ・・・
 淡い光が、視界の隅を横切った。


                                                 続く
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