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2012年07月16日

―蛍煌・B― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)



 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 今回の話は、昔書きかけで放棄した一次創作の作品を元にしています。
 故にいささか、これまでとは違った作風になってるかもしれませんが、どうぞ御了承ください。

 それではコメントレス。


 秋かなさん

 今回は裕一と里香がケンカっぽいような意見の食い違いがあるので今までとは違う面白さがあると思います。
 夏なので肝試しなどの季節にあった内容も含まれているのでいいと思います。
 引き続きがんばってください。
 
 
 
 毎度ありがとうございます。暑くて溶けそうですが頑張ります。

 肝試しとかはめちゃくちゃ苦手ですwww

 大丈夫!!小生も苦手ですwwwいやですよねー。会わなくてすむもんに、何でわざわざ会いに行かなくちゃならんのか・・・(怖)

 zaru-guさん
 
 ウン、ヨクワカランケドオメデトー
 
 アリガトゴザイマスーwww
 えーと、簡単に言うとほぼ半死の態だったトカゲが奇跡的に復活したっていう事なんですけど・・・。
 あ、ほら、文の”レオパ”の所を”愛犬”に代えればグッと分かりやすく・・・ならない?
 ならないね。ゴメンナサイ・・・orz



半分の月がのぼる空〈3〉wishing upon the half‐moon (電撃文庫)

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                           ―4―

 気付けば、そこは辺り一面の闇だった。
 ・・・ああ・・・?
 ここは何処だろう・・・?
 暗い・・・。
 暗い・・・。
 とても、暗い・・・。
 何も無い・・・。
 誰もいない・・・。
 分からない・・・。
 思い出せない・・・。
 どうして、
 あたしは、
 ここにいる?


 林の中は、思ったよりも明るかった。
 見上げてみると、空には満天の星と大きな半月。
 そこからふり注ぐ明かりが、辺りをボンヤリと照らし出していた。
 林の中には一本の小道が通っていて、それが件の池へと続く道なのだと分かった。
 その道を進みながら、あたしは胸の内で荒ぶっていたものが、だんだんと静まって行くのを感じていた。
 何で、さっきはあんな事を言ってしまったのだろう。
 彼が、裕一があたしの心配をするのはいつもの事ではないか。
 そして、その心配が決して杞憂のものではない事を一番知っているのは、あたし自身な筈だ。
 なのに―
 謝らなければならない。
 彼に。
 裕一に。
 だけど、その心に反して、あたしの足は止まらない。自分の持ち前の気性が、彼の元に戻る事を許さなかった。
 身体どころか、心までも自分の自由にならない。
 滑稽だったらありゃしない。
 ちょっとだけ、後ろを振り返る。
 薄闇に沈む小道。
 彼の姿は、なかった。


 ・・・ここにはいない。
 誰もいない。
 あたしは一人。
 たった一人。
 寂しい・・・。
 寂しい・・・。
 一人は、寂しい・・・。
 寒い・・・。
 寒い・・・。
 一人は、寒い・・・。
 ああ、お願い。
 お願い。
 誰か。
 誰か、気づいて。
 あたしは、
 あたしは、
 ここに、いる。


 「おーい、里香ー!!」
 呼びかける声に、答えは帰ってこない。
 月明かりに浮かび上がる小道を懐中電灯で照らしながら、戎崎裕一は先刻から夜闇の中へと呼び掛ける事を繰り返していた。
 「あいつ、何処まで行ったんだ!?」
 懐中電灯の光が照らす数メートル先にも、件の少女の姿は見えない。
 自分が林に入ったのは、彼女の姿が見えなくなってからさほど間を置いていない。
 秋庭里香は走れない。無理をすれば、その心臓がどうなるか分からない事は、誰でもない。彼女自身が一番よく知っている。
 なら、もういい加減追いついても良い頃合の筈だ。
 なのに、その姿は一向に見えない。
 嫌な考えが、脳裏を過ぎる。
 先程の秋庭里香の様子は、どう見てもおかしかった。
 明らかに、感情の制御が出来ていなかった。
 普段の彼女からは考えられない事だが、それが事実である。
 もし、あの勢いのまま、感情の荒ぶるままに足を速めていたら―
 戎崎裕一は、慌てて道の脇を懐中電灯で照らす。
 秋庭里香が、何処かに倒れこんでいないかと思ったのだ。
 しかし、やはり電灯の光の中に、求める姿は見えなかった。


 ああ・・・。
 聞こえる・・・。
 聞こえる・・・。
 声が、聞こえる・・・。
 楽しそうな声・・・。
 明るい声・・・。
 生きた声・・・。
 生命の、声・・・。
 行きたい・・・。
 行きたい・・・。
 あそこへ、行きたい・・・。
 だけど・・・
 ああ、だけど・・・


 月明かりの中を一人歩きながら、あたしの心はどんどん冷静になっていった。
 ここに来てからの自分は、何かおかしかった様な気がする。
 皆の様に振る舞えない自分が、今までにないほど煩わしく思えた。
 自分を残してはしゃぐ皆が、酷く疎ましく思えた。
 皆と同じ世界を見たい。皆と同じ世界を感じたい。
 それは確かに、心に持ち続けている想い。
 けど、それがこんなにも心の中で荒ぶった事はない。
 あの時、まるで自分一人が別の世界に取り残された様に感じて、 終いには裕一に嫉妬に近い思いすら覚えていた。
 一体、あたしはどうしてしまったのだろう。


 ああ、明るい・・・。
 明るい・・・。
 あそこは、明るい・・・。
 眩しい・・・。
 眩しい・・・。
 眩しくて、行けない。
 あたしには、行けない。

 夜闇の満ちる林の中を急ぎながら、戎崎裕一は考えていた。
 秋庭里香に、世の中に対する強い願望がある事は知っていた。
 その証拠に彼女は心配する自分を他所に、思いきった事に手を出す事がままある。
 神社でバイトをしてみたり、演劇部の代役を務めてみたり。
 正直、ヒヤヒヤさせられた事が幾度もある。
 しかし、それを誰よりも分かっているのは他でもない。秋庭里香自身の筈である。
 彼女は自身を理解し、その限界を知っている。
 だからこそ、彼女は常にギリギリより前のラインで踏み止まっていたし、自分を案ずる他者の言葉に過剰に反応する事はなかった。
 そんな秋庭里香の様子がおかしくなったのは、いつからだっただろう。
 ここに到着した時、彼女は移動の疲れからか気分を悪くしていた。そのため、大事をとってテントの中で休んでいたのだが、その際何か夢を見たらしく、うなされていた。
 その時は体の不調から、嫌な夢でも見たのだろうと思っていたが、よくよく考えてみれば彼女の様子がおかしくなったのはその時からだった様に思える。
 どこか心あらずで、浮ついた様子だった。そこにきて、あの感情の爆発である。
 戎崎裕一は思う。
 秋庭里香は、一体何を夢に見たのだろう。


 ああ、だけど。
 一人は、嫌だ。
 一人は、寂しい。
 そうだ。
 なら、呼ぼう。
 あたしがあっちに行けないのなら、向こうからこっちに来てもらおう。
 ほら、丁度、狭間に立っている子がいる。
 ここと、あっちの狭間。
 境目。
 あの子を呼ぼう。
 あの子なら、きっとあたしの事を分かってくれる。
 あたしと一緒に、いてくれる。


 ・・・あたしはまた、後ろを振り返った。
 やっぱり、彼の姿はない。
 彼の性格なら、すぐにでも追いかけてきそうなものなのに。
 やはり、怒らせてしまったのだろうか。
 心の何処かが、チクリと痛む。
 傷つけてしまったのかもしれない、とも思う。
 当然かもしれない。
 気遣った相手に、あんな態度を返されたのだ。
 傷つかない方が、どうかしている。
 彼の、しょぼくれた顔が頭に浮かんだ。
 ザザァ・・・
 木々の梢が、夜風に鳴る。
 たった一人の夜道。
 彼がいない。
 いつも側にいてくれる、彼がいない。
 チクリ、チクリ、心が痛む。
 足が、止まった。
 戻ろう。
 戻って、謝ろう。
 そう決意して踵を返そうとしたその時―

 ・・・おいで


 "それ"が聞こえた。


 おいで・・・
 おいで・・・
 こっちへ、おいで・・・。


 耳に聞こえる声じゃない。
 それは、頭の内に直接響く様な奇妙な声。
 男とも、女とも知れない。
 若いとも、老いているとも知れない。
 けれど、あたしは知っている。
 この声を、知っている。
 ああ、何故?
 何故この声が、今ここで聞こえるの?
 だって、だってこの声は・・・。


 おいで・・・
 おいで・・・


 声が、招く。
 甘く、優しく。


 あなたはこっちにいるべき子。
 だって、ほら。
 そっちにいたって、あなたは一人ぼっち。
 だから、おいで。
 こっちへおいで。

 甘い。甘い。
 甘い、声。
 頭の中が、霧が立ちこめる様にぼやけて行く。


 さぁ、おいで・・・。


 その声を最後に、あたしの意識は白濁の中へと沈む。
 ヒー ヒョー・・・
 何処かで、鵺が鳴いた。


                                               続く
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