アフィリエイト広告を利用しています

2012年07月23日

―蛍煌・C― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こんばんは。土斑猫です。
 月曜日、ライトノベル「半分の月がのぼる空」二次創作の日です。
 毎度言ってますが、今回の作品、昔書きかけた一次創作の作品に「半月」の世界(と言うか、キャラクター)をはめ込んだものです。よって、半月の本来の世界観からはちょっとずれてると思われます。そこのところ、どうぞ御了承ください・・・っていうか、書いてる本人が違和感感じまくりです!!
 ネタがないとは言え、やはり無謀な試みだったか・・・orz
 などと言いつつ、元々好きな怪異譚。書いてて楽しいのもまた事実(←やけくそwww)
 作品としてはちゃんと完結させますので、よろしければ今しばらくお付き合いくださいませませ。
 では・・・。



半分の月がのぼる空〈4〉 grabbing at the half-moon (電撃文庫)

新品価格
¥599から
(2012/7/23 22:14時点)


                           ―5―

 気がつくと、あたしはまたあの棺の前に立っていた。

 おいで・・・
 おいで・・・

 清水の様に透き通った棺。そこからは、相変わらずあの声が聞こえてくる。
 だけど、その棺の上にもう赤ちゃんはいない。その代わり、小さな女の子が一人、眠っていた。
 棺の上で身体を丸め、両膝を細い腕で抱える様にして、女の子はすやすやと静かな寝息を立てていた。

 おいで・・・
 おいで・・・

 声が呼ぶ。
 その声に答えるには、棺の蓋を開けなきゃいけない。
 あたしは棺に近づいて、眠る女の子を見下ろした。
 手を延ばして、女の子を揺すってみる。
 だけど、女の子の瞳は閉じたまま。
 女の子は小さい。
 試しに、そっと抱き上げてみる。
 酷く、軽い。
 あたしの力でも、簡単に持ち上げられるほどに。

 おいで・・・
 おいで・・・
 早く・・・
 早く・・・

 声が急かす。
 あたしは女の子を起こさない様に、そっと傍らに寝かした。

 早く・・・
 早く・・・

 ああ、そんなに急かさないで。
 今、すぐに“いく”から。
 そしてあたしは、棺の蓋に手をかけた。


 「くそ、一体どうなってるんだよ!!」
 戎崎裕一は焦っていた。
 彼がいる林は、さほど大きなものではない。木々の密度もさほどではなく、その中に通された小道は 懐中電灯で照らせば数メートル先まで見通す事が出来た。
 なのに。
 それなのに。
 いくら走っても、秋庭里香の姿を見つける事が出来なかった。
 それどころか・・・
 「何だよ・・・これ・・・!?」
 戒崎裕一は目の前の木を見て、呆然と呟いた。
 見覚えのある枝ぶり。見覚えのある幹の傷。
 最初は、気のせいだと思っていた。
 夜の薄闇の中で、その様に見えるだけなのだと。
 しかし。
 だけど。
 もう間違いはなかった。
 それは、数分前確かに通り過ぎた筈の道程に生えていたもの。
 それも、一度ではない。
 もう何度も、目にしていた。
 枝ぶり、幹の傷、その全てを見覚えてしまうほどに。
 同じ道程を、迷い巡っている。
 その事実に、戎崎裕一は愕然とした。
 道は一本だった筈なのに。
 迷う事など、あり得ない筈なのに。
 何かがおかしい。
 何かが狂っていた。
 荒い息をつきながら、戎崎裕一は求める少女の名を呼んだ。
 「里香ーっ!!」
 叫ぶ声は、林の薄闇の中へ虚しく響いて消えていく。
 ヒー ヒョー
 何処かで鵺が、嘲笑う様に鳴いていた。


 チャプンッ
 「―――っ!?」
 不意に足に走った冷感が、あたしを我に返した。
 「な・・・何!?」
 見れば、足元が揺らぐ水に浸っている。
 「え・・・ここって・・・!?」
 周りを見渡すと、辺りに茂っていたはずの木々がない。
 代わりに目に入ったのは、夜闇の中、ゆらゆらと揺れる広い水面。

 ―あの林の奥に、大きな池があるんだよ―

 山西君の言葉が、脳裏を過る。
 そう。あたしはいつのまにか、大きな池の瀬に足を浸して立っていた。
 「池・・・?あたし、いつのまに・・・?」
 分からない。
 思い出せない。
 呆然と佇むあたしの足元に、チャプリチャプリと池の水が当たる。
 辺りは、真っ暗だった。
 空を見ると、さっきまで辺りを照らしていた筈の半月は、厚い雲に覆われて隠れてしまっていた。
 辺りには、山西君がいると言っていた蛍の姿もない。
 ただ深々と広がる夜闇の中に、暗く沈んだ水面だけが揺らめいている。

 ―なんでも、数年前に女の人が一人、その池の辺りで行方不明になってるんだと―

 山西君の言葉が、頭の中でリピートされる。

 ―池の底を片っ端からさらったけど、遺体は見つからなかった―

 チャプ チャプ
 足に、水が当たる。
 昼間の日で、温まっていてもいいはずのそれは、だけど酷く冷たく感じた。

 ―それからさ・・・。夜になると、その池から声が聞こえるんだと・・・。優しく、だけど寂しげな声で、『・・・おいで・・・おいで・・・』って―

 足に感じる冷感が、そのまま背筋を這い上がってくる。
 背骨を直接氷で撫でられる様な悪寒に、あたしは身を震わせた。
 戻ろう。
 皆の所に。
 あたしが踵を返そうとした時、それは聞こえた。

 おいで・・・

 跳ねる心臓。
 踏み出しかけた、足が止まる。
 嘘・・・。
 だって。
 だって。
 今の、声は・・・

 おいで・・・

 声が、繰り返す。
 空耳である事を願い、耳を凝らす。
 だけど―

 おいで・・・

 聞こえる。
 確かに。
 そんな、馬鹿な。
 この声は、
 この声は―

 ―池から声が聞こえるんだと・・・。優しく、だけど寂しげな声で、『・・・おいで・・・おいで・・・』って―

 頭の中でリンクする、夢の声と、山西君の言葉。
 背筋を走る悪寒が、その冷たさを増す。
 駄目だ・・・。
 頭の隅で、本能が警鐘をならす。
 ここにいちゃ、駄目だ。
 だけど、その意思に反して、あたしの足は動かない。
 まるで、冷たい水の中で、凍りついてしまった様に。
 ああ、何で、ここの水はこんなにも冷たいのだろう。
 まるで、池の中に大きな氷でもあるかの様だ。
 氷?
 いや、違う。
 あたしは知っている。
 この冷たさを。
 この、空虚で哀しい、冷たさを―

 「―里香、パパに、お別れをしなさい―」

 そうママに言われ、そっと触れた、パパの頬。
 その時に感じた、あの冷感。
 人が、生き物が持つとは思えない、あの冷たさ。
 そう。これは、この冷たさは―
 身体がガタガタと、瘧にでもかかったように震え始める。
 この震えは、身体を犯す冷たさのせいか。それとも―

 おいで・・・

 また、声が聞こえた。
 最初、声が聞こえた時、それは池の中ほど辺りから聞こえていた。
 それが、今ではずっと近くから聞こえてくる。
 ―近づいてきていた―
 駄目だ。
 駄目だ。
 心は必死にそう叫ぶ。
 だけど、足が、身体が動かない。

 おいで・・・

 声はもう、目と鼻の先。
 そして―

 ・・・・・・

 声が、途絶えた。
 まるで何事もなかった様に、辺りが静まり返る。
 「・・・・・・。」
 あたしは息を呑んで、気配を探る。
 だけど、さっきまで周囲を満たしていた異様な気配は、嘘の様に消えていた。
 ・・・終わったのだろうか?
 あたしがそう思い、息をついた次の瞬間―

 ガシッ

 冷たい何かが、足首を掴んだ。

 グイッ

 「―――っ!?」
 驚く間もなく、足が引かれる。
 物凄い力。
 あたしはなす術も無く、池の中へ倒れ込んだ。
 悲鳴を上げようと開けた口に、たくさんの水が流れ込んでくる。
 むせ込み、もがきながら岸に這い上がろうとする。
 だけど、足を掴んだ“それ”は、あたしを離してはくれない。それどころか、グイグイと池の深みへとあたしの身体を引き込んでいく。
 必死で岸辺に生えるアシやヨシにしがみつくけれど、掴んだそれらも“それ”の力に耐えきれずブチブチと根こそぎ抜けて剥がれてしまう。
 「誰・・・か・・・」
 何とか絞り出した声も、しぶく水音に掻き消される。
 「は・・・はぁっ!!」
 両手で上半身を持ち上げ、何とか息をついたあたしは、ある事に気付いてさらに総毛立った。
 さっきまで、足首を掴んでいた筈の“それ”の感覚が、いつのまにか腰に移っている。
 それどころか、その感覚はまるで蜘蛛が這う様に、上へ上へと上がってくる。
 ズルリ・・・
 ズルリ・・・
 そう。“それ”は、あたしの背を、身体を這い上がってきていた。
 「やだ・・・やだぁっ!!」
 “それ”を振り払おうと、がむしゃらに腕を振る。けれど、それはただ空を切るばかり。
 ピチャン・・・
 湿った音を響かせて、“それ”の手が、ついにあたしの肩にかかった。
 このままでは、“それ”の姿が視界に入る。
 せめて、その姿を見ないように、ギュッと目をつぶる。
 真っ暗に閉ざされた視界。
 耳に、冷たい吐息がかかった。
 そして―

 ・・・さぁ、一緒に、“逝こう”・・・

 耳元で響いた声に、あたしは今度こそ、声にならない悲鳴を上げた。


                                               続く
プロフィール
土斑猫(まだらねこ)さんの画像
土斑猫(まだらねこ)
プロフィール
<< 2024年10月 >>
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
カテゴリーアーカイブ
狙いはハジメ 古より響く闇の嘶き(学校の怪談・完結(作・ナオシーさん)(11)
説明(2)
ペット(401)
雑談(254)
テーマ(8)
番外記事(105)
連絡(50)
水仙月(半分の月がのぼる空・完結)(9)
輪舞(半分の月がのぼる空・完結)(5)
不如帰(半分の月がのぼる空・完結)(2)
郭公(半分の月がのぼる空・完結)(3)
ハッピー・バースディ(半分の月がのぼる空・完結)(3)
ハッピー・クッキング(半分の月がのぼる空・完結)(3)
子守唄(半分の月がのぼる空・完結)(4)
蛍煌(半分の月がのぼる空・完結)(9)
真夏の夜の悪夢(半分の月がのぼる空・完結)(3)
想占(半分の月がのぼる空・完結)(13)
霊使い達の宿題シリーズ(霊使い・完結)(48)
皐月雨(半分の月がのぼる空・その他・連載中)(17)
霊使い達の黄昏(霊使い・完結)(41)
霊使い・外伝シリーズ(霊使い・連載中)(14)
十三月の翼(天使のしっぽ・完結)(60)
霊使い達の旅路(霊使い・連載中)(9)
十三月の翼・外伝(天使のしっぽ・完結)(10)
虫歯奇譚・歯痛殿下(学校の怪談・完結)(3)
十二の天使と十二の悪魔 (天使のしっぽ・連載中)(1)
死を招く遊戯・黄昏のカードマスター(学校の怪談・完結)(5)
絆を紡ぐ想い・澎侯の霊樹とマヨイガの森(学校の怪談・完結)(13)
無限憎歌(学校の怪談・完結)(12)
レオ受難!!・鎮守の社のおとろし(学校の怪談・完結)(11)
漫画(13)
想い歌(半分の月がのぼる空・完結)(20)
コメントレス(7)
電子書籍(2)
R-18ss(3)
トニカク……!(1)
残暑(半分の月がのぼる空・連載中)(5)
Skeb依頼品(3)
最新記事
最新コメント
検索
ファン
リンク集
EI_vI91XS2skldb1437988459_1437989639.png
バナーなぞ作ってみました。ご自由にお使いください。
月別アーカイブ