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2012年07月09日

―蛍煌・A― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)








 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 今回の話は、昔書きかけで放棄した一次創作の作品を元にしています。
 だからいささか、これまでとは違った作風になってるかもしれませんが、どうぞ御了承ください。

 それではコメントレス。


 なんだか今回は今までと違い少しシリアスな雰囲気が出ています。
 冒頭からちょっと暗めかなと思いました。
 続きも気になる感じで楽しみです。
 がんばってください。


 はい。先にも書いていますが、今回の話は昔書いた一次創作が骨になっています。
 それがいわゆる”怪異譚”系統の話だったので、ちょっと”そういう雰囲気”になってる訳であります。
 季節もそういう季節ですので、丁度良いかな?とwww
 とは言っても、所詮は小生の作なのでそんなに怖くなるはずもなく・・・
 よろしければ、しばしの間、お付き合いの程お願いしますm(_ _)m



半分の月がのぼる空〈2〉waiting for the half‐moon (電撃文庫)

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                            ―2―

 おいで・・・
 おいで・・・

 ああ、またあの声が聞こえる。

 おいで・・・
 おいで・・・

 呼ばれるまま、歩く。
 気付くと、あたしはまた棺の前に立っていた。
 ただ、前と違って、棺の上にあった揺りかごは消えていた。
 その代わり、少し大きくなった赤ちゃんが棺の上に坐ってた。
 近づいて見下ろすと、赤ちゃんは大きな瞳でわたしを見上げた。
 緑色にボンヤリ光る、大きな大きな、まあるい瞳。

 おいで・・・
 おいで・・・

 声が聞こえる。
 それに応えるには、棺の蓋を開けなきゃならない。
 蓋を開けるためには、赤ちゃんを抱いて下ろさなきゃならない。
 抱き上げようとすると、赤ちゃんはいやいやと緑の瞳を潤ませた。

 わたしは、蓋を開けられない。


 「里香・・・里香・・・」
 名前を呼ぶ声に、あたしははっと目を覚ました。
 薄暗くなったテントの中で、傍らに座った裕一があたしの肩を揺すっていた。
 「夕飯、出来たぞ。」
 いつの間にか、また眠っていたらしい。
 テントの外からは、香ばしいカレーの香りがふんわりと漂ってきていた。
 その香りに、思い出したかの様にお腹が小さく、くぅと鳴った。
 「大丈夫か?起きれるか?」
 心配そうな、裕一の声。
 無理もない。結局今日一日、あたしはほとんど寝たきりで過ごしてしまったのだから。
 少し、自分の身体と相談してみる。
 充分睡眠をとったせいか、昼間感じていた疲労感というか、だるさは消えていた。
 「うん。大丈夫。」
 あたしはそう言って身を起こした。

 「里香ちゃん、本当に大丈夫?」
 夕食のカレーライスのお皿を渡しながら、世古口君が訊いてきた。
 あたしは「大丈夫だから。ありがとう。」と言いながら渡されたカレーライスを頬張った。
 「わぁ、美味しい!!」
 あたしの感嘆の声に、世古口君が微笑む。
 「そうでしょう?これ、世古口君が作ったんだよ。ちゃんと、ルーから作って。すごいでしょ?」
 まるで自分が誉められたみたいに、嬉しそうにそう言ってくるみゆきちゃん。
 「そ、そんな事ないよ。ただ、小麦粉を炒めてカレー粉を混ぜるだけだから・・・」
 「いやいや、そんな事ないぞ。オレ、こんな本格的なカレー、初めて食った。」
 「ああ、うめぇよ。ホント、うまい。」
 裕一や山西君にも口々に賞賛の言葉を贈られ、世古口君は照れ臭そうに微笑んだ。

 食事が終わる頃には、長い夏の日もすっかり暮れていた。
 「あ〜あ、せっかくのキャンプなのに、寝てるだけで終わっちゃった。」
 「しょうがないだろ。調子悪かったんだから。下手に無理したら、残りの時間もおじゃんだぞ。」
 皆が焚き火を囲む中、ぼやくあたしを裕一がたしなめてくる。いつもどうりの、労わりの言葉。
 だけど、今はそれが妙に癇にさわる。
 だから、ついあたしは「余計なお世話よ!!」なんて憎まれ口を叩いてしまった。
 「な、何だよ!?オレは心配して・・・」
 「それが大きなお世話なの!!」
 また、怒鳴る。
 その言葉に、裕一がむっとした顔になる。
 何か、本気で怒らせてしまったようだ。だけど、もう引っ込みはつかない。
 睨み合う、裕一とあたし。
 世古口君はオロオロし、みゆきちゃんは心配そうな、困った様な顔をしている。
 場の空気が、どんよりと重くなりかけたその時―
 「はいはーい!!そんな里香ちゃんにご朗報ー!!」
 その重苦しい空気を吹き散らそうとするかの様に、山西君がそう言って立ち上がった。
 「?」となる皆。
 視線が集まる中で、山西君は背後に広がる林の方を指差した。
 「あの林の奥に、大きな池があるんだよ。」
 「それが、どうした?」
 「その池の周りに、この季節になるとたくさんの蛍が出るんだってさ。」
 「蛍!?」
 思わず、弾んだ声が出る。
 「そう。何でかここ数年見れなかったらしいけど、去年からまた見れる様になったんだってさ。里香ちゃん、見たい?」
 「うん、見たい!!」
 山西君に向かって弾んだ声を出すあたしを見て、裕一が面白くなさそうに鼻を鳴らしたけれど、気付かないふりをした。
 「だけどよ、ただ見に行くだけじゃつまらないだろ。」
 「どういう事だよ?」
 不機嫌な声で、裕一が訊く。
 「このキャンプ地、安いのに妙に客が少ないと思わねぇ?」
 「そう言えば・・・。」
 周りを見回してみると、あたし達以外にいるのは遠くに見える2組だけだ。
 シーズン真っ盛りで、この人入りは確かに少ない。
 あたしが「どうして?」と訊くと、山西君はニヤリと笑って両手を前にだしてプラプラさせた。
 「出るんだってよ。“コレ”が。」
 「出るって何だよ?タヌキか?」
 「そう。月夜に出てきてポンポコポンのポン・・・って違うだろ!!こういう時に出るって言ったら“コレ”に決まってんだろ。」
 そう言って、改めて両手をプラプラさせる。
 「・・・お化け・・・?」
 みゆきちゃんが、心持ち潜めた声で、そう言った。
 「そう。オレが聞いたところによると・・・」
 そして、山西君はゆっくりと話し出した。


                             ―3―

 「何でも、数年前にその池の辺りで女の人が一人、行方不明になったんだと。池の周りは見ての通り林だけど、迷うほどじゃない。それなのに、その女の人はそこに行くって言ったっきり、戻ってこなかった。」
 「あ、それ覚えてる。ニュースでも少しやってたし、新聞にも載ってた。」
 みゆきちゃんの言葉に山西君は、わざとらしく、ゆっくりと頷く。
 「んで、心配になった家族が警察に言って、辺りを捜索すると、池の辺で女の人の荷物と遺書が見つかったんだ。それで、池の底を片っ端から浚ったんだけど、結局、遺体は見つからなかった。」
 そこで山西君は、あたし達を見回した。あたし達は誰も何も言わず、黙って山西君を見ている。山西君の顔には焚き火の明かりが下から当って、妙な迫力を出していた。
 あたし達が何も言わないのを確認すると、山西君は改めて言葉を紡ぎ出した。
 「それからさ・・・。夜になると、その池から声が聞こえるんだと・・・。優しく、だけど寂しげな声で、『・・・おいで・・・おいで・・・』って・・・。それで、世間の人達は言ってるのさ。あれは、池の底に沈んだままの娘さんが、一人じゃ寂しくて仲間にする人を呼んでるんだろうって・・・」
 山西君が、凄味を効かせてそう言った時、
 ヒー ヒョー
 突然、林の方からそんな声が聞こえて、ザワッと木の梢がざわめいた。
 そこにいた全員がビクッとする。ちなみに一番ビックリしてたのは当の山西君だったりする。少し、地面から飛び上がってたし。
 「な、なな、何だよ!?今の!!」
 気の毒なほどテンパる山西君。
 「と、鳥だよ。鵺(とらつぐみ)。父ちゃんの田舎で、聞いた事ある。」
 世古口君の言葉に、あからさまにホッとする山西君。ホッとした後、ばつが悪そうにコホンコホンと咳払いなどしている。何か、色々台無しだ。
 「で、結局何が言いたいんだよ?お前。」
 目を半眼にした裕一が、山西君に言う。
 「つ、つまりだなー。ほら、あれだ。肝だめし。」
 「肝だめしぃ〜?」
 裕一が、呆れた様に言った。
 
 山西君曰く、
 「これから男女でペアを組む。そして林を通り抜けて、池まで行って、池の周りを一周してくる。そして戻ってくる時に、池まで行った証拠として蛍を一匹捕まえてくる。」
 との事だった。
 「裕一は、どうせ里香ちゃんと一緒だろ。時間もったいないから、先に行け。」
 山西君はそう行って、追い払う様にピラピラと手を振った。
 だけど、裕一は動こうとしない。
 「どした?早くいけよ。」
 「・・・オレと里香はいいよ。お前と、司達だけで行け。」
 その言葉に、あたしの心が嫌な感じに疼く。
 「は?何で?」
 「何でって、里香は昼間寝込んでたんだぞ。それを、こんな夜道を歩かせるなんて、出来る訳・・・」
 「何よ!?それ!!」
 裕一が言い終わる前に、あたしは怒鳴っていた。
 皆の目が、驚いた様に集まる。
 「な、何だよ?どうしたんだよ?里香。」
 裕一が、訳が分からないといった様子で聞いてきた。
 その様子が、ますますあたしを苛立たせる。
 「どうしたじゃない!!それじゃ何!?裕一はここまできて、あたしにずっと寝てろって言う訳!?」
 「だ・・・だってお前・・・」
 「もう大丈夫だって、さっきから言ってる!!」
 「で、でもさ・・・」 
 「うるさいうるさいうるさい!!もう、いい!!あたし、一人でいく!!」 
 内に溜まっていた苛立ちを全部吐き出す思いで喚き散らすと、あたしは件の林に向かって、ズンズンと歩き出した。

 戎崎裕一は唖然としていた。
 何しろ、秋庭里香の先の様な態度は、退院して以来、久しくお目にかかった事がなかったのだから。
しかも、その原因が彼女を案じての言葉ときている。訳が分からない。
 秋庭里香にもっとも近しい立場にいる彼でさえ、その様な有様だったのだから、他のメンバーも言わずもがなである。
 ポカンとしている一同を尻目に、秋庭里香の姿はグングン遠ざかり、林の中へと消えていく。
 一番最初に我に返ったのは、水谷みゆきであった。
 「あ、ちょっと、何してんの!?裕ちゃん、早く追いかけないと!!」
 「!!」
 その言葉に、戎崎裕一が弾けた様に走り出した。
 「待てよ!!ほら!!」
 山西保がそう叫んで、懐中電灯を投げた。
 戎崎裕一は振り返ってそれを受け取ると、秋庭里香の後を追って林の中へ消えて行った。
 「大丈夫かな・・・。」
 世古口司が心配そうに呟く。
 「・・・うん。里香ちゃん、きっと寂しかったんだよ。あたし達、ちょっとはしゃぎすぎたかな・・・?」
 そう言って、水谷みゆきもはぁ、と溜息をつく。
 しかし、そんな二人に向かって、山西保はカラカラと笑って言った。
 「なーに。大丈夫だって。何のためにオレがこんな提案したと思ってんだよ。いくら気が強くたって、里香ちゃんも女の子だぜ。こんな夜の林で、平気な訳ないだろ?戎崎が追いつけば、怖かったーって抱きつくに決まってる。帰ってくる頃には、二人は元通り。ぺったりくっついてくるって寸法さ。」
 自信満々といった態で胸を張る山西保を見て、水谷みゆきはまた、はぁ、と溜息をつく。
 「そんな簡単にいけばいいけど・・・。」
 しかし、そんな水谷みゆきの心配などよそに、山西保は「ほらほら、他人の心配してる場合か?次はお前らの番だぞ。」などと言っている。
 そんな山西保に、ふと世古口司が問いかけた。
 「だけど・・・大丈夫なの?」
 「何だよ、世古口。お前も心配性だな。大丈夫だって。オレを信用しろ!!」
 「いや、そうじゃなくて・・・」
 「ん?」
 「その組み合わせだと、最後は山西君一人で行く事になるんだけど・・・?」
 「・・・・・・え・・・・・・?」
 凍りつく山西保と皆の間を、季節外れの涼しい風がピゥーと通り過ぎていった。


                                                続く
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