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2012年08月13日

―蛍煌・F― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こんばんは。土斑猫です。
 月曜日、ライトノベル「半分の月がのぼる空」二次創作の日です。
 毎度言ってますが、今回の作品、昔書きかけた一次創作の作品に「半月」の世界(と言うか、キャラクター)をはめ込んだものです。よって、半月の本来の世界観からはちょっとずれてると思われます。そこのところ、どうぞ御了承ください・・・。



半分の月がのぼる空〈7〉another side of the moon―first quarter (電撃文庫)

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                            ―9―

 最初、あたしにはそれが何か分からなかった。
 暗闇の中で光る“それ”は、あたし達の目の前で踊る様に飛び回る。
 漆黒の闇の中、淡く、それでもはっきりと浮かび上がるその光は、暗闇に慣れた目に強く焼きついた。
 「・・・蛍だ・・・。」
 「・・・蛍・・・?」
 今の状況にはそぐわないほど呆然とした裕一の言葉に、あたしはも場違いなくらい間抜けな調子でそう呟いた。
 蛍はあたしの目の前をしばし飛び回ると、そのまま裕一の足を掴んでいる“彼女”の元へと向かった。
 蛍が、“彼女”の目の前を舞う。
 すると―

 ア・・・アァァアアァア・・・!!

 “彼女”が呻きとも、悲鳴ともつかない声を上げた。
 途端、それまで強い力で引かれていた裕一の身体が急に軽くなる。
 彼女が裕一の足を離したのだ。
 裕一の足を放した彼女は、いやいやをするかの様に蛍の光から離れようとしている。
 「裕一!!」
 「お、おう!!」
 訳が分からないまま、それでもあたしと裕一は慌てて池から這い上がった。

 ア、アァアアアアァア!!

 それを見た“彼女”が、あたし達に追いすがろうと手を伸ばしてくる。
 その時―
 ポウ・・・
 ポウ・・・
 ポウ・・・
 辺り一面を覆っていた暗闇の中に、次々と光が灯る。
 池の淵の葦原に。
 周囲を囲む林に。
 足元の草むらに。
 あたし達に手を伸ばしていた“彼女”が、まるで火にでも触ったかの様に慌てて手を引っ込める。
 次の瞬間、
 パァ・・・
 地に散らばっていた光が、一斉に舞い上がった。
 黒一色だった世界が、見る見る螢緑の光に彩られて行く。
 「何だよ・・・これ・・・?」
 「凄い・・・。」
 その光景に、あたし達は今の事態も忘れて、魅入ってしまう。
 そして、それに圧倒されていたのは、あたし達だけではなかった。

 アァ、アァアァアア・・・

 光の世界の中に響く、呻き声。
 舞い踊る光達の中で、“彼女”が苦しげに身悶えしていた。
 蛍達に追いやられる様に、その姿は岸から離れていく。
 「蛍を・・・光を、怖がってる・・・?」
 呆然とするあたし達を残して、“彼女”は見る見る遠ざかっていく。

 アア・・・
 アア・・・

 聞こえる。
 彼女の声が。

 やめて・・・
 やめて・・・

 酷く苦しげに。
 そして酷く悲しげに。

 やめて・・・
 やめて・・・
 眩しい・・・
 眩しい・・・

 蛍が燃やす、生命(いのち)の光。
 それが、“彼女”の持つ死の闇を追いやって行く。
 “彼女”は哀願とも懇願ともつかない声で泣くけれど、蛍達はそんな事知った事かと言わんばかりに“彼女”を追い詰めていく。
 とうとう、“彼女”は池の真ん中まで追い詰められた。
 周りはもう、上も下も光で埋め尽くされている。
 “彼女”の頭が、グリンと動いてあたし達の方を向いた。
 幾重にも重なった藻の奥の、空ろな眼差し。
 それが、すがる様にあたしを見る。
 だけど・・・
 だけど・・・
 あたしは、自分の手の中を確かめる。
 そこにあるのは、確かな重み。
 確かな温もり。
 確かな鼓動。
 あたしの腕の中、確かにある彼の存在。
 ―「里香はな、オレのなんだよ!!お前みたいな化けモンに、やる訳ねえだろ!!」―
 ―「いいか!?お前はオレが守るって決めたんだよ!!相手が人間だって化けモンだって、関係あるか!!」―
 確かに胸に響いた、彼の声。
 ・・・やっぱりあたしは、まだ、“ここ”にいたい。
 この重みを、温もりを、鼓動を。
 彼を、感じていたい。
 あたしはゆっくりと顔を横にふる。
 “彼女”の空ろな目に、はっきりと浮かぶ悲しみの色。
 それでもまだ、諦めきれないと言う様にあたしに向かって手を伸ばす。
 だけど、それも舞い飛ぶ蛍達に阻まれる。
 “彼女”が叫ぶ。

 行かないで・・・
 行かないで・・・

 親を呼ぶ子供の様に。
 恋人を呼ぶ少女の様に。
 “彼女”が、叫ぶ。
 だけど、あたしは応えない。
 ただただ、ギュッと、腕の中の“彼”を抱き締める。
 もがく“彼女”。
 まるでとどめを刺す様に、“彼女”の周りを渦を巻いて乱舞する蛍達。

 ・・・おいて、いかないで・・・

 最後に響く、悲痛な声。
 そして、“彼女”はゆっくりと暗い池の中へ沈んで行った。


                                                 続く
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