こんばんは。土斑猫です。
月曜日、ライトノベル「半分の月がのぼる空」二次創作の日です。
毎度言ってますが、今回の作品、昔書きかけた一次創作の作品に「半月」の世界(と言うか、キャラクター)をはめ込んだものです。よって、半月の本来の世界観からはちょっとずれてると思われます。そこのところ、どうぞ御了承ください・・・。
半分の月がのぼる空〈7〉another side of the moon―first quarter (電撃文庫) 新品価格 |
―9―
最初、あたしにはそれが何か分からなかった。
暗闇の中で光る“それ”は、あたし達の目の前で踊る様に飛び回る。
漆黒の闇の中、淡く、それでもはっきりと浮かび上がるその光は、暗闇に慣れた目に強く焼きついた。
「・・・蛍だ・・・。」
「・・・蛍・・・?」
今の状況にはそぐわないほど呆然とした裕一の言葉に、あたしはも場違いなくらい間抜けな調子でそう呟いた。
蛍はあたしの目の前をしばし飛び回ると、そのまま裕一の足を掴んでいる“彼女”の元へと向かった。
蛍が、“彼女”の目の前を舞う。
すると―
ア・・・アァァアアァア・・・!!
“彼女”が呻きとも、悲鳴ともつかない声を上げた。
途端、それまで強い力で引かれていた裕一の身体が急に軽くなる。
彼女が裕一の足を離したのだ。
裕一の足を放した彼女は、いやいやをするかの様に蛍の光から離れようとしている。
「裕一!!」
「お、おう!!」
訳が分からないまま、それでもあたしと裕一は慌てて池から這い上がった。
ア、アァアアアアァア!!
それを見た“彼女”が、あたし達に追いすがろうと手を伸ばしてくる。
その時―
ポウ・・・
ポウ・・・
ポウ・・・
辺り一面を覆っていた暗闇の中に、次々と光が灯る。
池の淵の葦原に。
周囲を囲む林に。
足元の草むらに。
あたし達に手を伸ばしていた“彼女”が、まるで火にでも触ったかの様に慌てて手を引っ込める。
次の瞬間、
パァ・・・
地に散らばっていた光が、一斉に舞い上がった。
黒一色だった世界が、見る見る螢緑の光に彩られて行く。
「何だよ・・・これ・・・?」
「凄い・・・。」
その光景に、あたし達は今の事態も忘れて、魅入ってしまう。
そして、それに圧倒されていたのは、あたし達だけではなかった。
アァ、アァアァアア・・・
光の世界の中に響く、呻き声。
舞い踊る光達の中で、“彼女”が苦しげに身悶えしていた。
蛍達に追いやられる様に、その姿は岸から離れていく。
「蛍を・・・光を、怖がってる・・・?」
呆然とするあたし達を残して、“彼女”は見る見る遠ざかっていく。
アア・・・
アア・・・
聞こえる。
彼女の声が。
やめて・・・
やめて・・・
酷く苦しげに。
そして酷く悲しげに。
やめて・・・
やめて・・・
眩しい・・・
眩しい・・・
蛍が燃やす、生命(いのち)の光。
それが、“彼女”の持つ死の闇を追いやって行く。
“彼女”は哀願とも懇願ともつかない声で泣くけれど、蛍達はそんな事知った事かと言わんばかりに“彼女”を追い詰めていく。
とうとう、“彼女”は池の真ん中まで追い詰められた。
周りはもう、上も下も光で埋め尽くされている。
“彼女”の頭が、グリンと動いてあたし達の方を向いた。
幾重にも重なった藻の奥の、空ろな眼差し。
それが、すがる様にあたしを見る。
だけど・・・
だけど・・・
あたしは、自分の手の中を確かめる。
そこにあるのは、確かな重み。
確かな温もり。
確かな鼓動。
あたしの腕の中、確かにある彼の存在。
―「里香はな、オレのなんだよ!!お前みたいな化けモンに、やる訳ねえだろ!!」―
―「いいか!?お前はオレが守るって決めたんだよ!!相手が人間だって化けモンだって、関係あるか!!」―
確かに胸に響いた、彼の声。
・・・やっぱりあたしは、まだ、“ここ”にいたい。
この重みを、温もりを、鼓動を。
彼を、感じていたい。
あたしはゆっくりと顔を横にふる。
“彼女”の空ろな目に、はっきりと浮かぶ悲しみの色。
それでもまだ、諦めきれないと言う様にあたしに向かって手を伸ばす。
だけど、それも舞い飛ぶ蛍達に阻まれる。
“彼女”が叫ぶ。
行かないで・・・
行かないで・・・
親を呼ぶ子供の様に。
恋人を呼ぶ少女の様に。
“彼女”が、叫ぶ。
だけど、あたしは応えない。
ただただ、ギュッと、腕の中の“彼”を抱き締める。
もがく“彼女”。
まるでとどめを刺す様に、“彼女”の周りを渦を巻いて乱舞する蛍達。
・・・おいて、いかないで・・・
最後に響く、悲痛な声。
そして、“彼女”はゆっくりと暗い池の中へ沈んで行った。
続く