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2012年08月29日

無限憎歌(7)(アニメ学校の怪談・二次創作作品)







 水曜日、隔週連載学校の怪談SSの日です。
 今回の話は、時系列上は前作の後の話になります。
 学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
 よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。


 それではコメントレス

 天然でゆずらない所はウィンらしいな、ウィンはこれでも大マジメだ、手加減なんてしないし。

 己の信念は曲げません(その方向性は別として)。にっこり笑ってサイクロン。それがうちのウィンですwww

 一陣の風いいですよね、ツイスターやトルネードでなく、こっちを持ってきたセンスは好きです。

 ありがとうごぜえやす。いや最初はそのツイスターやトルネードを使おうと思ったんですが、ふと存在を思い出したもので。

 ライナとダルクは一緒に出てくるんじゃないかなー、て気がしてました。ただ、二人で協力してエリアと戦う、なんてまともな展開にはなりそうもないな。いや、なるのか?  

 あー、読まれてたかww
 ホント、どうなんでしょうね?この二人(マテ



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                            ―神剣―

 パキィイインッッ

 甲高い悲鳴を上げて、蜘蛛糸がさらに一本、砕け散った。
 「・・・後・・一本・・・!!」
 レオが、ポツリと呟く。
 敬一郎達が見守る中、学校と外界を隔てる蜘蛛糸の結界は、天邪鬼の手によって確実にその傷を広げられていた。
 あと一本。それだけで、皆が通れるだけの穴が穿たれるまでに。
 口の中の糸の破片を、血とともに吐き捨てると、天邪鬼はフラフラとその最後の一本へと向かう。そして、渾身の力を振り絞ると、それに牙を立てる。

 バチバチバチッッ

 結界が最後の抵抗を示すが、天邪鬼は身じろぎもしない。血に塗れた牙がギリギリと食い込み、結界が悲鳴を上げる。
 その場にいる全員が、天邪鬼の勝利を確信したその時―

 ザワリ

 結界の亀裂の向こうの空気が、不吉な気配を従えてざわめいた。
 「!!、・・・何・・・?」
 最も霊感の強い桃子が、その気配に気付いた次の瞬間―

 ザワ・・・ザワザワザワザワザワ・・・

 「!!、う・・うわぁあああああっっ!!?」
 「きゃああああああっっ!!?」
 「わぁあああああっっ!!?」
 あまりのおぞましさに、全員が悲鳴を上げていた。
 結界の亀裂から、無数の血の色をした蜘蛛が這い出してきていた。
 一匹一匹が大人の手のひら程もあるそれは、剛毛の生えた節足をざわめかせ、キチキチと不気味に牙をならすと一斉に天邪鬼に襲いかかった。
 血の色が、瞬く間に夜の色を被い尽す。
 鋭い爪が、牙が、次々と天邪鬼の身体へと潜り込んでいく。
 「ぐ・・・!!」
 たまらず天邪鬼はその場に崩れ落ちてしまう。
 (・・・抜け目のねぇ野郎だ・・・番兵を忍ばせてやがったか・・・!!だが・・・!!)
 無数の蜘蛛に牙を立てられてなお、天邪鬼の牙は結界を放してはいなかった。
 残された力の全てを、己の牙へと注ぎ込む。
 ギギ・・・
 天邪鬼のその様子に、蜘蛛達が苛立たしげにざわめく。突き立てるだけでは飽き足らず、天邪鬼の身体を引き裂こうと牙にさらに力を込める。
 「カーヤ!!」
 その様子に、敬一郎が動いた。
 桃子とレオも、頷き合うと敬一郎に続く。
 (馬鹿!!来るな!!!)
 天邪鬼が心の中で叫ぶが、敬一郎達は迷う事なく駆け寄ってくる。そしてためらいもなく手を伸ばすと、天邪鬼に張り付く蜘蛛達を引き剥がしにかかる。
 「痛っ!!」
 桃子が痛みに顔をしかめる。その手の甲に走る、深い裂傷。
 蜘蛛達が、自分達の邪魔をする人間相手に大人しくしている筈もない。敬一郎達をも敵と見なし、容赦なく襲いかかる。
 ミシン針程もあるその牙は、それだけでもかなりの傷を敬一郎達の柔らかい肌に穿っていく。
 瞬く間に、敬一郎達の手や足が傷に被われていく。それでも、彼らは蜘蛛を引き剥がす手を休めようとはしない。激痛に涙ぐみながらも、必死の思いで天邪鬼の身体から蜘蛛を引き剥がし続ける。
 天邪鬼も、もう何も言わず、ただ目前の結界にのみ意識を集中する。
 しかし、蜘蛛の数は一向に減らない。結界の亀裂から次から次へと湧き出しては天邪鬼や敬一郎達に襲いかかる。
 やがて、皆の身体を異常な悪寒と痺れが襲い始めた。
 見れば、蜘蛛に噛まれた傷の周囲が紫色に腫れ上がり、熱を持っている。
 (毒・・・か・・・!!)
 敬一郎達が膝をつく。額にはじっとりと汗が滲み、顔色も蒼白になっている。それでも小刻みに震える手を伸ばし蜘蛛を掴むが、もう引き剥がす力がない。
 天邪鬼も、もう一押しの力が出せなくなっていた。
 (後一本・・・後一本なのに・・・!!)
 敬一郎の頬を、悔し涙が一筋伝う。
 蜘蛛達が、嘲り笑う様に牙を鳴らした。

 ―その場の誰もが、気付かなかった。そこに存在する、もう一つの意識を。全てを見ていた、もう一つの存在に―

 『・・・泣いている・・・皆、泣いている・・・』

 『傷だらけ・・・皆・・・傷だらけ・・・』

 『同じ・・・あの時と同じ・・・あの時の・・・わたし達と・・・』

 『大切なものを、守りたくて、血を流す・・・大切な人を、守れなくて、涙を・・流す・・・』

 『・・・悲しい・・朱・・・悲しい・・涙・・・』

 『・・・いけない・・・こんなのは・・・いけない・・・』

 『こんなのは・・・もう・・・もう!!』

 シャアン・・・

 澄んだ音色が、澱んだ大気に響いた。
 ザワッ
 その途端、蜘蛛の群れに異変が起こる。明らかに狼狽し、うろたえ始める。
 「・・・何・・・?」
 痺れる身体を無理に起こし、桃子が蜘蛛達の視線が向く方向に首を回らす。
 「・・・え・・・!?」
 振り向いた桃子の目に飛び込んだのは、青白い光りを放ち、不可視の力で宙に浮く、一振りの刀の姿だった。

シャアン・・・

 朽ち果て、欠けていた筈の刀身は、いつに間にかまるで神鉄から打ち出されたばかりの様な鋭さと輝きを纏っていた。その輝く刀身が鳴動し、涼やかな音色を奏でる。
 その音色はいつしか自らを統制し、単なる音の羅列から、意味を成す旋律へとその身を変える。

 ・・♪・・・♪♪・・♪・・・

 「・・う・・た・・・?」
 敬一郎が、苦しい息の下でつぶやく。
 それを纏う詞はなく、その旋律も聞いたことのないものであったが、それは確かに「歌」だった。
 優しく、暖かく。その調べは、妖気と血臭に汚された空気を癒していく。
 「・・・・・・。」
 桃子も、敬一郎も、レオも、天邪鬼でさえも、今の状況を忘れて思わずそれに聞き惚れる。否、彼らだけではない。たった今まで、あれほどまでに血に狂い、暴悪に荒れ狂っていた蜘蛛の群れまでが、今はかの調べに聞き入るかの様に静まり返っていた。
 そして―

 ――ッ

 宙に浮く刀が目にも止まらぬ速さで振られ、青白い刀身が横薙ぎに空を凪ぐ。
 その切っ先が描いた軌跡が青い残光となって闇を切り裂き、皆に迫る。その光の眩さに、桃子は思わず両目を手で被う。
 次の瞬間、弧月にも似た鋭い閃光が、蜘蛛の群れを貫いた。

 ・・・・・・・

 悲鳴はなかった。光の刃に薙ぎ払われた無数の蜘蛛は、細かい光の粒子へと変じ、一瞬で霧散した。
 「・・・・・・!!」
 そして、呆然と佇む皆の前で、周囲を漂っていた光の粒子が、宙に浮く刀の輝く刀身へと吸い込まれていく。
 やがて粒子の最後の一粒をその身に取り込むと、刀はゴトリと音を立てて地に落ちた。
 力尽きた様に地面に横たわるその刀身から、急激に光が失せて行く。

 『連れて・・・行って・・・あのひとの・・・元へ・・・。』

 その声が、かすかに、しかし確かに皆の耳に届く。
 そして最後の輝きが消えると、それはもう、もとの朽ち果てた古刀へと戻っていた。
 「・・・・・・。」
 桃子の手が伸び、地に横たわる刀を手に取る。
 「・・・助けてくださったんですね・・・。私達を・・・」
 そう呟くと、その赤錆びた刀身を愛しげにかき抱く。
 「・・・まったく、味な真似するじゃねえか・・・。」
 背後から響いた声に、皆が振り向く。
 天邪鬼が、再び立ちあがっていた。
 ほんの数分前まで全身を苛んでいた痺れも、今はない。毒牙に穿たれた毒は、件の剣の閃光によって蜘蛛もろともに浄化されていた。
 もはや、為すべきことはただ一つ。
 「うぉおおおおおおおおおっっっ!!!」
 裂帛の気合とともに、渾身の力を込めた牙の一撃が、最後の蜘蛛糸へと叩き込まれる。
 そしてー

 カシャアアアアアアアアンッッ

 断末魔の悲鳴を上げ、魔性の結界が微塵と散った。


                                                         続く
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