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2012年09月12日

無限憎歌(8)(アニメ学校の怪談・二次創作作品)







 水曜日、隔週連載学校の怪談SSの日です。
 今回の話は、時系列上は前作の後の話になります。
 学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
 よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。


 それではコメントレス

 アウスが悪人すぎうwww不人気設定で性格まで歪んだか……

 彼女にも、色々思う所はあるのでせう・・・。と、いうのは置いといて、悪人というよりもトリックスター的なキャラ立ちにしたいなーと思っています。そこんとこ、上手く表現できるかが今後の課題ですねぇ。
 しかし、某ランキングには苦笑しました。やっぱり見た目の地味さが・・・おや?誰か来たようだ。



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                          ―光― 
 
 ・・・たくさんの、お化けに会った・・・。怖い奴、変な奴・・・。その中には、悲しい想いを残した人達もいた・・・。楽しみにしていた運動会に出れなかった男の子・・・。大切な娘を残して、事故で逝ってしまった人・・・。大切な男性(ひと)と誓い合った将来を、奪われてしまった女性(ひと)・・・。消えてしまったお母さんを待ちながら、たった一人で泣き続けてた女の子・・・。狭い放送室で、誰にも気付いてもらえなかったのが悔しくて、みんなを道連れにしようとした娘(こ)・・・。
 みんな・・みんな・・寂しくて・・悲しい魂達・・・。
 だけど・・・だけど・・・この人は・・・この人達の想いは・・・

 気がつくと、さつきは元通り夜の学校の廊下に座り込んでいた。
 腕の中には、苦しい息をつくハジメの身体。
 窓から見える月の位置がほとんど変わっていない。時間は少ししか経っていない。
 目の前では相変わらず、闇の中に浮かんだ八つ光が無機質な音を立てながら、じっとこちらを見つめている。
 違うのは、その光が冷たいエメラルドの色ではなく、狂おしいまでの深紅に彩られていること。
 自分の網膜に焼きついた、朱一色の光景と、やけに濃い血の臭い。そして、青ざめた足につけられた、深く長い裂傷。
 「・・・さつき・・・?」
 明らかに様子のおかしい彼女を案じ、ハジメが苦しい息の下から声をかける。
 返事は、ない。
 「・・・あいつ・・・遊んでんのか・・・?」
 自分達が動けない事を知っているにもかかわらず、一向に手を出して来ない魔獣を見て、ハジメが歯噛みする。
 実際、魔獣は二人に呪のこもった傷を付けた後、ピタリと二人に対する攻撃を止めていた。そして二人の逃げ道を塞ぐ様に廊下の中心に陣取ると、そのままもう何十分も二人を見つめ続けている。
 その間、その八つの目は恍惚とした光を灯し、その口からは実に楽しそうに歯牙の軋む音が響き続けている。
 その様子はまるで、成す術もなく衰弱していく二人の様子を、楽しみながら観察している様にも見えた。 
 「・・・ムカつく奴・・・。」
 ハジメはそう言い捨てながら、魔獣を睨み付ける。が、ふと視線を感じて横を見た。
 「さつき・・・?」
 さつきがじっとハジメを見つめていた。
 「・・・どうした・・・?」
 「・・・あの人・・・殺されたんだ・・・。」
 「・・え・・・?」
 さつきの言葉にハジメが怪訝そうな顔をする。
 「わたし・・・見たの・・・。昔の人達が、あの人の村を襲うとこ・・・。たくさんの人を・・・殺すとこ・・・。」
 さつきの目から涙が溢れ出す。 
 「!!お・・おい!?」
 驚くハジメをよそに、さつきは涙を流し続ける。
 「殺してた・・・殺してたんだよ・・・。男の子も、女の子も・・・!!その子達を守ろうとしたお父さんやお爺さんも・・・!!お母さんも・・・!!お母さんの抱いてた赤ちゃんまで・・・!!」
 正気の糸が切れたかの様に、頭を抱え、髪を振り乱し、涙を流して絶叫する。
 そんなさつきの狂態を、ハジメは成す術もなく見つめる。
 「・・・真っ赤だった・・・。空も・・地面も・・近くを流れる川まで・・・!!家を焼く火と、殺された人達の血で・・・!!」
 打ち続く恐怖と迫り来る死の足音。それに加え、知らされた凄惨な事実。意識の中に、直接叩きこまれたその光景は、教科書の片隅に書かれた数行の文字の羅列よりも、学校の教師達が仕事義務で語る、退屈な講義よりもさつきの精神を深くえぐっていた。
 「あの人は・・あの人達は・・・ずっと・・ずっと恨んでたんだ・・・。ずっと・・・ずっと・・・!!・・・当たり前だ・・・当たり前だよ・・・!!酷いよ・・・酷すぎるよ・・・!!」
 「・・・何言ってんだよ!!それをやったのは、顔も知らねぇ、何百年も前の奴らだろ!!オレやお前や、現在(いま)の人達がやった訳じゃねぇだろ!!?」
 「そんなの、関係ないよ!!」
 「・・・・・・っ!!」
 その絶叫の様なさつきの言葉に、ハジメは息を呑む。
 「・・・あんな事を出来る血が・・・誰かを簡単に殺せる血が・・・!!人間(ひと)には流れてるんだ!!」
 さつきの脳裏に血に塗れ、屍の山を踏みつけ、誇らしげに凱旋する人々の姿がよぎる。
 「・・・わたしも・・・わたし達も・・やっちゃうかもしれないんだ・・・。知らないうちに・・気付かないうちに・・・!!」
 さつきは瘧に罹った様に震える両手で、脂汗に塗れ、蝋細工の様に血の気の失せた自分の顔を被う。細い指の隙間から覗く瞳からは、すでに正気の光が半ば失せていた。
 「・・・ば・・・そんな訳ねぇだろ!!」
 「思いたい・・・わたしだって、そう思いたいよ!!だけど・・・だけど・・・!!」
 「さつき・・・。」
 「怖い!!怖いんだよぉ!!自分が・・・わたしの中の血が・・・!!」
 さつきが髪を振り乱し、血を吐く様な声で叫んだその時―
 チチ・・・チチチチ・・チチチ・・・
 キチキチキチ・・・キチ・・・
 そんなさつきをあざ笑うかの様な奇音が、暗い廊下に響き渡った。
 「・・・・・・!?」
 いつの間に集まってきていたのか、無数の子蜘蛛達がさつきとハジメを取り囲み、嘲笑の鳴き声を立てていた。
 異形の群れの中央に座す巨体が、嘲りの牙鳴を立てながらその口蓋を開く。
 『ソ ウダ・・・ソウ ダ・・・!!!絶望シ ロ・・・!!!嫌悪 シロ・・・!!!己ノ 血ヲ・・・己 ノ 血脈 ヲ・・・!!!』
 そこから洩れるのは、絶える事なき怨嗟の言葉。
 『ア ア 呪ワ シイ!!呪 ワシイ・・・!!!消 エテ シマエ・・・。絶エ テ シマ エ・・・。己ラナド・・貴様ラナド・・ コノ世 ニソ ノ残 滓ノ欠片サ エ 残シ テ オク モノ カ・・・!!!!!』
 キィガァアアアアアアアアッッッ
 狂気の絶叫が、三度夜の大気を振るわせる。
 ザワザワ・・ザワザワザワ・・・ザワザワザワザワザワザワ
 それを合図に、無数の子蜘蛛がさつきとハジメに向って近づいていく。 
 目の前に迫る死の大群を、さつきは他人事の様にただ呆然と見つめていた。
 一匹の子蜘蛛が、さつきの足に取り付く。針の様な爪が肌に食い込み血が滲むが、その痛みですら虚ろな夢の中の事の様に現実感がない。
 足に張り付いた一匹がさつきの肌に喰らい付こうと、その歯牙を剥き出した。
 その時―  
 ガスッ
 鈍い音が響き、さつきの足に取り付いていた子蜘蛛が短い悲鳴を上げて床に転がった。
 「!?」
 『ギ・・・!?』
 さつきは目の前の床に転がってもがく子蜘蛛を呆然と見つめ、魔獣は哀れな我が子の様に怒りのうめきを上げた。
 「・・・・・・。」
 そして、蜘蛛を弾き飛ばした右手を振るわせ、ハジメは燃える視線を目前の魔獣を睨み付けた。
 『小 僧 ・・・!!』
 怒りと憎悪の炎をたぎらせながら、八つの視線がハジメに集中する。
 それを、ハジメは臆することなく正面から受け止める。
 「ハジメ・・・?」
 そんなハジメの顔を傍らから目にし、さつきは軽い驚きの混じった声を出した。
 それは、さつきが今までに見た事がない顔。顔色は、度を越した失血のために相変わらず悪い。否、むしろ先刻よりも、それは深刻さを増していた。顔色は蒼を超えて土気色に近くなり、気味の悪い程白味の濃くなった唇は小刻みに痙攣している。・・・それはハジメにゆっくりと、しかし確実に死が迫っていることを如実に物語っていた。
 にも関らず、その瞳は身体が健在である時以上の気力に満ちていた。
 その瞳の色を、さつきは知っていた。
 たった今、魔獣が見せた光景。女や子供達に襲いかかる騎兵に、敵わぬと知りながら立ち向かっていく、男達の瞳に宿っていたのと、同じ色。
 それは、己の命に代えても、愛しい者を守ろうと決めた者に宿る、気高く悲しい光。
 「・・・・・・。」
 「さつき・・・。」
 呆然とするさつきに、ハジメは苦しげな息をつきながら、言葉を紡ぐ。
 「・・・お前が見た光景、おれも見たんだ・・・。正直、おれも怖かった・・・。どうにかなっちまうかと思った・・・。だけどお前、ずっとおれのこと抱いててくれただろ・・・?暖かかったよ・・・。だから、おれは自分を忘れないで済んだ・・・。」
 「・・・・・・。」 
 「さつき・・・おれ達が見たことは、きっと間違いじゃない・・・。あの光景は、本当にあったことで、人間(ひと)にあんな事を平気で出来る面があるってのも、きっと確かな事なんだ・・・。だけど・・・だけどさ・・・だからって、お前やおれ達が、あれと同じ目に合わなきゃならないなんてのは・・・きっと間違ってる・・・。」
 「・・・でも・・・」
 さつきの頬を流れる涙を、ハジメの指が拭う。
 「おれにだって、大切な人達がいる・・・?親父やお袋・・・桃子さんやレオに敬一郎・・町や学校の連中・・・それに・・・」
 ハジメの瞳が、さつきを見つめる。
 「あ・・・。」
 さつきの頬が、かすかに染まる。
 「あれを・・・あの光景を怖いと思うなら、許せないと思うなら、もうどんな所でだって、どんな理由でだって、同じことを繰り返しちゃいけないんだ!!あんな悲しい色に染まる場所を、人達を、作っちゃいけないんだ!!」
 「ハジメ・・・」
 さつきが何事かを言おうとしたその時―
 「キィガァアアアアアアアアッッ!!!!」
 それまで以上の怒りを込め、魔獣の口が咆哮を放った。
 「「・・・!!」」
 思わず息を飲むさつき達に、何百もの紅眼が向けられていた。
 『何 ヲ勝手ナ 事 ヲ ・・・!?』
 忌々しげな声。
 『繰 リ 返シテハ イケナイ ダト  ・・・!?作ッテ ハ イケ ナイ ダト・・・!?』
 朱い光が、更なる狂怒に燃え上がる。
 『ナラバ我ラハドウナル!!アノ時流サレタ、我ラノ血ハァアッッ!!』
 ギガガガガッ
 黒曜石の爪が一閃し、校舎の壁を深く穿つ。降り注ぐ瓦礫に、さつき達は小さく悲鳴を上げて首をすくめた。
 『喰ラエ!!オ前達!!喰ラッテシマエ!!』
 魔獣の言葉に、朱い蜘蛛の群れが蠢いた。


                                                         続く
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