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2012年11月07日

無限憎歌(12)(アニメ学校の怪談・二次創作作品)







 水曜日、隔週連載学校の怪談SSの日です。
 今回の話は、時系列上は前作の後の話になります。
 学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
 よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
 なお、今回で書き溜めていた学校の怪談のSSは終了になります。
 次回から完全新作になりますが、ひょっとしたら少し充電期間をいただくかもしれません。
 その際は、どうぞ御了承ください。



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                     ―エピローグ― 

 一夜が明けると、町は何事もなかったかの様に、いつもの日常を取り戻していた。町の大半の人々の記憶からは、昨夜の悪夢の記憶がすっぽりと抜け落ちている様だった。
 実際、礼一郎も多少のだるさはあったものの、それを大して気にもせず職場へと出かけて行った。
 さつきとハジメの傷も不思議と一晩で塞がり、他の三人同様、何の問題もなく登校することができた。(もっとも、案の定桃子に昨夜の記憶がほとんどなく、その事をさつき達は昨日頭を打ったせいではと心配したが、本人がいたって気にしていないので結局その事はうやむやになってしまった。)
 例の刀は、朝に学校に来た時にはもう影も形もなかった。展示ケースが割られていた事から、学校側は学校荒らしの仕業とみて盗難届けを出したらしいが、きっと無駄だろうとさつきは考えていた。
 彼女達は居場所を求めて、旅立って行ったのだ。誰にも邪魔される事なく、静かに夢を見続ける事の出来る場所を探して・・・。  
 「天邪鬼・・・いつか・・・あの女(ひと)の憎しみが溶けて、あの娘達が開放される時って・・・来ると思う・・・?」
 その日の放課後、学校の屋上で真っ赤な夕焼けを見ながら、さつきはそれとなく傍らで毛繕いをする天邪鬼に問いかけた。
 「知るかよ。」
 焦げたヒゲを気にしながら、天邪鬼は素っ気無く答える。
 「あれだけ深くて強い憎念だ・・・。ま、十年や百年で消える代物じゃねぇだろうよ。」
 「・・・そっか・・・。」 
 悲しげにうつむくさつきを一瞥した天邪鬼は、ふと思いついた様に言葉を続ける。
 「だがな、そいつら自身は、まんざらでもないんじゃねぇか?」
 「・・・え?」
 「幸せそうだったんだろ?その夢の中のそいつら・・・。」
 天邪鬼の言葉に、幸せそうに赤ん坊をあやす少女の顔と、それを見つめる女性の優しい瞳がさつきの記憶に甦る。
 「・・・うん・・・。とても・・・幸せそうだった・・・。」
 「なら、それでいいだろうが。百年でも千年でも、好きなだけ眠らせてやりな。後はなるようになるだろうよ。」
 「・・・そうか・・・な・・・?」
 「そうさ・・・。」
 天邪鬼は一旦言葉を区切り、大きく伸びをする。
 「せいぜい、そいつらの事を忘れないでいてやるんだな。お前らやお前らの子供が、同じ事を繰り返さないようによ。」
 「天邪鬼・・・。」
 「俺ぁ、もう御免だぜ。あんな面倒な奴と対面すんのはよ。」
 そう言うと、くるりときびすを返してすたすたと出口に向って歩き出す。
 「・・・ありがと・・・。」
 自分の背に、そっとかけられる感謝の言葉を聞き流すと、天邪鬼は薄暗い階段を降りていく。やがて、職員室の前を通りかかると、まだ残っている職員が見ているらしいテレビの声が、戸の向こうから聞こえて来た。
 天邪鬼は戸の隙間からそっと覗いてみる。テレビが映しているのは、夕方のニュースだった。
 「・・・で起こった爆弾テロによる死傷者はこれで114人となり・・・」
 「・・・に対する軍事攻撃案が・・・の議会で可決され、来年の1月には攻撃が開始される可能性も・・・」
 「・・・における・・・人拉致事件に対し国会は・・・」
 延々と続くそんなニュースに、天邪鬼は疲れきった様な、諦めきった様な溜息をつく。
 この数百年、人間は少しも変わっていない。
 守りたいものも、愛するものも、真に求めるものも同じ筈なのに、目の前の、上っ面のものだけに歪められ、傷付け合い、殺し合う。
 歪みから生み出された憎しみは、まるで海の底に溜まるヘドロの様に溜まり続け、いつしか更なる歪みを生み出す業火となって燃え上がる。
 そしていつかその炎に飲み込まれ、人間という種族は絶えるのか。
 この星の歴史の中で、初めて「共食い」で滅びた奇怪で滑稽な種として・・・。
 そこまで考えた時、ふと天邪鬼の耳を、校庭で遊ぶ数人の子供達の笑い声が打った。
 天邪鬼は考える。
 あいつらならどうだろう。馬鹿で、純粋で、お人好しで、無鉄砲で・・・。人どころか、お化けである自分すら友として受け入れることの出来るあいつらだったら・・・。
 変われるのかもしれない。変わらないのかもしれない。少なくとも、この数百年は変われなかった。  でも。それでも。まだ形を成さない、「未来」はある。そして、そこに干渉できる「希望の種」達は、確かにここにいる。
 天邪鬼の口が、にやりと歪む。
 見届けてやろう。あいつらの行く先を。それが、憎しみの朱に焼かれる破滅の奈落か、優しい光に包まれた新しい世界か。この目でしっかりと・・・。
 まるで楽しみが増えたとでも言わんばかりに、ニヒヒと笑うと天邪鬼は薄暗い廊下の奥へと消えていった。

 朱一色の屋上に佇み、さつきは朱に染まる空を見上げていた。
 「・・・・・・。」
 やがて大きく息を吸うと、その口が何かしらを小さく呟き始める。
 それは、あの光の中で、少女に導かれるままに歌い語った言の帯。

 「・・・春に桜が香る夜は・・雲雀が恋歌歌うまで・・・父の背に乗り眠りましょう・・・
  ・・・夏に蛍の灯火燃ゆる夜は・・椎に空蝉止まるまで・・・婆の歌にて眠りましょう・・・
  ・・・秋に雁が渡る夜は・・サルナシの実が熟れるまで・・・爺の語りで眠りましょう・・・
  ・・・冬に雪虫舞う夜は・・雪が星に変わるまで・・・母に抱かれて眠りましょう・・・」
 
 言の帯は歌となり、歌は夕暮れの風に乗って、赤い空の大気へと消えていく。

 「・・・お目々覚めたら上げましょう・・・雲雀が歌った恋歌を・・・空蝉止まった椎の枝・・・
 青くて甘いサルナシを・・・雪色に光る星の屑・・・だからお休み・・可愛い子・・・お眠り・・お眠り・・愛しい子・・・」

 その歌を、風が聞くべき者達に届けてくれたかどうかは、誰にも分からない・・・。
          
                                                      
                                                       終わり
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