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2012年10月10日

無限憎歌(10)(アニメ学校の怪談・二次創作作品)







 水曜日、隔週連載学校の怪談SSの日です。
 今回の話は、時系列上は前作の後の話になります。
 学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
 よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。


 それではコメントレス

 何?カームさんと合体!?なんてうらやまs……リア充爆発しろ!

 大丈夫です。カームさんはジェムジェムしてないので、ジェムナイトの食指は動きません!!(某氏の漫画の影響でジェムナイトのイメージが・・・www)

 と、本来なら言いたいところですが。なんか普通に面白かったんで、ネタコメントとか挟む気分でもないですね(笑)

 ♪~(ノ*゜▽゜*)ノ←この頃誉められるので、調子に乗っている。

 平和なように見えて戦争や騒乱と隣り合わせな世界観を思うと、ドリアード先生の常識外れな厳しさも優しさゆえって感じもしてくる。がんばったからそれでいいなんて甘いもんじゃないんですね。でもあの人は真性のサディストだ。

 本人に自覚がないので、たちの悪さ倍増です。


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                          ―霊眠― 

 暗闇の中、ゲラゲラと響く魔獣の笑い声。
 そんな中、敬一郎は粘りつく糸の枷の中で必死にもがいていた。
 肝心の刀はレオの手を離れ、今は敬一郎の目の前に転がっている。
 右手さえ自由になれば、かろうじて届く距離。
 背後からは、近づいてくるガシャガシャという足音が聞こえる。ともすれば、恐怖に押しつぶされ泣きじゃくりそうになる敬一郎を支えているのは、先ほど天邪鬼と交わしたささやかな約束。
 「約束したんだ・・・。カーヤと・・。みんなで迎えに行くって・・だから・・・負けちゃだめなんだ!!」
 ―と、必死にもがく右手が、不意に軽くなる。不思議に思って横を見る敬一郎の目に映る赤いもの。
 レオが歯を食いしばり、両手をふんばって、自分の体で敬一郎と自分を覆う蜘蛛糸を持ち上げ、わずかばかりの隙間を作り出していたのである。硬い糸はレオの体に食い込み、血が滲み出していた。
 「レオ兄ちゃん・・・!!」
 「今のうちに・・・早く!!」
 レオの言葉に、敬一郎は再び右腕に力を込める。
 思いのほか、あっさりと手が抜けた。
 同時に自由になった右腕を外れんばかりに伸ばし、刀の錆びた刀身を掴む。
 錆びた刀身が、手に食い込むがそれも構わない。
 そして―
 「お姉ちゃんっ!!!」
 「!!」
 刀の柄を、目の前に倒れているさつきに向って突き出す。
 「この刀を・・掴んで!!」
 幸いにも、さつきの右腕は糸の束縛を免れていた。敬一郎の言葉に、訳が分からないまま、反射的に手を伸ばす。
 「もう少し・・・!!」
 「もっと・・・手を伸ばして・・・!!」
 しかし、そのことに魔獣が気付かないはずはない。
 『!!、貴様ラァアア!!マダアガクカァアアア!!』
 怒りの声を上げ、さつき達を叩き潰さんと前足を振り上げる。
 ゴウッッ
 風を切る音と共に、死の爪がさつき達の頭上に振り下ろされる。
 しかし―
 「届いた!!」
 それよりも一瞬早く、さつきの手が刀の柄をしっかりと掴んでいた。
 その瞬間―
 シャーン・・・
 「な・・何!?」
 澄んだ音が響き、さつきの体から金色の光が溢れ出す。
 『ギィッ!?』
 その光に、魔獣の動きが止まる。
 「・・・この光・・・!?」
 それを見たハジメが、驚きの声を上げる。
 ハジメはその光に見覚えがあった。
 それは以前、「旧校舎のダヴィンチ」という悪霊を追って絵の中に開かれたタイムホールを潜って過去の世界へと行った時、そこで出会ったさつきの亡き母、佳耶子がダヴィンチを霊眠させる際に放った輝きと全く同じもの。
 さつきの体から溢れ出た光は、今度は見る見るうちに、刀の刀身に向って凝縮していく。
 それはまるで、刀がさつきから力を吸収しているかの様に見える。
 「うまく・・いったのね・・。」
 その光景を見た桃子は、会心の表情を浮かべる。
 「確かにその刀は、それだけでは何の力もない・・。だけど、強い霊力を持った人間が手にすれば、その人の内に眠る力を引き出し、それを己の力に変換して魔を封じる霊剣として目覚める・・・。この娘の体を借りてしか、現世に干渉する術のない私には無理だけど、さつき・・あなたになら・・・!!」
 桃子がそう言った瞬間、今度は刀自身が、その刀身から青白い光を放ち始める。
 『ギ・・ギィイイイ!?』
 その光に怯える様に、魔獣がうめきながら後ずさる。
 光に照らされた子蜘蛛達も、潮が引いていく様に後ずさり。さつき達を縛る蜘蛛糸は、太陽に照らされた淡雪の様に溶けて蒸発していく。
 「・・・すげぇ・・・!!」
 その圧倒的な力に、ハジメが感嘆の声を上げる。
 やがて、光の中から現れた刀は、霊刀としてのかつての姿を完全に取り戻して
いた。
 折れていた切っ先も再生し、錆び付いていた刀身は今や青い光に包まれ、この世のものとも思えない異彩を放つ。
 そして―
 「・・・誰・・・?」
 柄を握る手を通し、何かがさつきの内に呼びかけてくる。
 (貸して・・・)
 頭の中に響くそれは、穏やかな、ひどく穏やかな少女の声だった。
 (貸して・・・あなたの“身体”を・・・あなたの、“力”を・・・)
 「あなたは・・・?」
 (貸して・・・この悲しみを・・・“あの女(ひと)”を・・・もう一度眠らせるために・・・)
 正体の知れない声。しかしそれは不知に対する不安も、未知に対する恐怖も抱かせない。ただただ、優しく、静やかな声。その声が、恐怖に逆立ち、波立っていたさつきの心を静めていく。
 (お願い・・・。)
 「・・・・・・。」
 その願いに、ゆっくりと頷くさつき。
 (・・・ありがとう・・・)
 そんな声とともに、さつきは“何か”が自分の中に入るのを感じる。
 やはり、恐怖はなかった。ただただ、温かく、慈しむ感覚だけがその身を満たす。
 そして、さつきの体が自然に動き出す。
 右足の傷はいつしか癒え、失血による脱力感もうその様に消えていた。
 さつきはゆっくりと立ち上がると、凛とした目で真正面に魔獣を見据える。
 刀の刀身に左手を添え、まるで差し出すかの様な形で横一文字に構える。
 青く光る刀身が魔獣の姿を映し、その輝きが一層強くなる。  
 『ギ・・ギィィイ・・オ・・オノレェエエエ!!』
 光の中でもがきながら、魔獣がさつきに襲いかかる。
 『ギィガァアアアアアアアアッ!!』
 怒りと憎しみの叫びを上げて、さつきを刀ごと噛み砕かんと牙をむく。
 「さつき!!」
 それを目の当たりにしたハジメが叫ぶ。
 しかし、その牙がさつきに届く寸前、さつきの口が“それ”を紡いだ。 
 
 ―♪春に華が香る夜は・・・♪―

 『ギッ!?』
 短い呻きを上げて、魔獣がその動きを止める。
 眼前で固まった魔獣を穏やかな目で見つめながら、さつきの身体を借りた“それ”は言葉を紡ぎ続ける。

 ―♪雲雀が恋歌歌うまで
 父の背に乗り眠りましょう・・・♪―

 それを耳にしたレオが、呆然と呟く。
 「・・・呪文?いえ、これは・・・」
 「・・・子守唄・・・。」
 桃子の姿を借りた“彼女”も、何かを察した様に呟いた。

 ―♪夏に蛍の灯火燃ゆる夜は・・・♪―

 それまで荒ぶっていた皆の心を静める様に、“唄”は紡がれ続ける。
 優しく、何処までも優しく、そして穏やかに―

 ―♪椎に空蝉止まるまで
 婆の歌にて眠りましょう・・・♪―

 そこにあった恐怖も、絶望も、怒りや憎しみ、狂気さえも―

 ―♪秋に雁が渡る夜は・・・♪―
  
 唄は抱き、包み、溶かしていく―

 ―♪サルナシの実が熟すまで
  爺の語りで眠りましょう・・・♪―

 ・・・いつしかその場にいる全ての者が、その唄に聞き入っていた。
 ハジメも、レオも、敬一郎も、桃子も、そして蜘蛛達も。 
 
 ―♪冬に雪虫舞う夜は♪―

 やがて、床を覆っていた子蜘蛛の群れが一匹、また一匹と光の粒子へと変わっていく。
 蜘蛛達が変わった光はそのまま、さつきが手にした刀の刀身へと吸い込まれていく。
 そして―  

 ―♪雪が星に変わるまで♪―
  
 最後まで抵抗を見せていた魔獣の姿も、まるで氷像が溶ける様に、光の中へと溶け始める。
 ・・・悲鳴はなかった。
 魔獣の姿は静かに光の中に霧散し、子蜘蛛達と同じ様に刀の中へと吸い込まれていく。

 ―♪母に抱かれて眠りましょう♪―

 巨大な姿が溶け消える寸前、その目に光るものが見えたのは、気のせいだろうか―


                                                         続く 
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