水曜日、隔週連載学校の怪談SSの日です。
今回の話は、時系列上は前作の後の話になります。
学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますの、そこの所でご承知ください。
よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
それではコメントレス
イラストを見る限りスパルタ教師には見えん。
いつもは優しい天然教師。だけど怒ると鬼より怖い。そんなキャラクターに、小生はしたい。
リリーとは仲良さそう。
お茶のみ友達であり、ボケと突っ込みの間柄でもある。そんな設定に、小s(ry
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―目覚め―
「おい。」
「きゃっ!?」
その夜、さつきが部屋で宿題をしていると突然背後から声がかけられた。
驚いて振り返ると、いつの間にか天邪鬼が床にチョコンと座り、こちらを見上げている。
「ちょっとぉ、入る時はノックくらいしろって言ってるでしょう!」
憤慨するさつきに構わず、天邪鬼は口を開ける。
「さつき、今日学校に来た物があるだろ・・・。」
「・・・あの刀の事・・・?」
「そうだ・・・。いいか、あれには絶対手をふれるなよ・・・。」
「・・・何?それってどういう事・・・?」
「いいから手をふれるな!!あれからは何だかわからねぇが、とてつもなく嫌な気配がしやがる・・・。もしあれが開放されでもしたらとんでもない事になっちまう
ぞ・・・。いいな!!ほかの奴らにもよく言っとけ!!」
「・・・!?・・・」
それまで見たことのない剣幕でまくし立てる天邪鬼に、さしものさつきも狼狽する。
それでも気を取り直し、もっと詳しく事情を聞こうとしたその瞬間、
オオオォ―――――――――ン
「きゃあっ!?」
「なっっ!?」
音とも大気の流動とも知れない感覚が二人(もとい一人と一匹)を貫いた。
「な・・・何・・・!?今の・・・!?が・・・学校の方から・・・」
その衝撃もさることながら、その中に潜んでいた得体の知れない禍々しさに中てられ身動きすらままならないさつきの横で、天邪鬼がうめく様に呟いた。
「くそったれ・・・誰かがやっちまいやがったな・・・!!」
それより一時間程前、人気の無くなった天の川小学校の校舎内に蠢く影があった。
「ちっ、しけた学校だぜ。ろくなもんがねぇ・・・。」
人相の悪い、中年の男。俗に言う学校荒らしである。
「ん?なんだ、こりゃあ・・・。」
彼の目に止まったのは、展示ケースに収められた一本の刀。
「こりゃまた、随分と年期のいった代物だな・・・。ま、こいつでも頂いとくか・・・。」
そう言うと、男は手にしていた金づちでアクリル製のケースを叩き割った。そしてそこから手を入れると刀の柄を掴み、引きずり出す。
「研ぎなおして骨董品屋にでも持ってきゃ、あぶく銭くらいにゃなるだろ・・・。」
その時、刀の切っ先が割れたアクリル板の縁に当たった。
カツン
軽い音が響き、それと共に限界まで錆果てていた刀の切っ先はあっさりと折れ落ちた。
その瞬間―
オオオォ―――――――――ン
折れた切っ先から、“それ”が溢れ出した・・・。
それからしばらく後、校舎の玄関の戸が、音もなく開いた。
ユラリ・・・
中から出てきたのは、学校荒らしの男。
ふわふわと力のない足取り。虚ろな視線は虚空を見つめている。ダラリと下げた右腕に握られているのは、切っ先を失った、あの刀。
やがて、おぼつかない足取りで校庭のフェンスにたどり着くと、それまでしっかりと握っていた刀をフェンスの向こうへと放り投げた。
刀はクルクルと回りながら、闇の向こうへと消えていく。
それを見届けると、男はくるりときびすを返し、再びふらふらと暗い校舎の中へと消えていった。
そしてそれっきり、男が出てくる事は二度となかった・・・。
その頃、宮ノ下家ではさつきと敬一郎の悲痛な声が響いていた。
「パパ!!パパ!!どうしたの!?しっかりしてっ!!」
「パパァー!!」
見れば二人の父親、宮ノ下礼一郎が床に倒れ伏し、苦しげにうめいている。意識はとうにないらしく、二人の声に反応しない。
目から涙を流しながら、上ずった声でさつきが天邪鬼に詰め寄る。
「ねぇ!!一体何が起こったの!?なんでパパがこうなったの!!??あんた何か知ってるんでしょう!!?言いなさいよ!!!」
半狂乱のさつきに対し、天邪鬼はあくまで冷静に答える。
「さっきからこの町一帯に広がってやがる、この胸糞悪い妖気のせいさ・・・。この妖気はあまりにもどぎつ過ぎる・・・。お前らの親父みたいにあまりお化けに馴染みのない人間にとっちゃ、毒ガスみてぇなもんだ・・・。」
「だって、わたしや敬一郎は・・・」
「わかんねぇ奴だな。お前らはこれまで、沢山のお化けに接触してきた。免疫が出来てんだよ!!」
「・・・・・・・。」
「しかし何てこった。並の奴じゃねぇとは思ってたが、まさかこれほどとは・・・。この調子じゃこの町の人間どもは軒並み中てられちまってるぞ!!」
「・・・・・・・。」
さつきはしばらくの間、何か考え込んでいたが、やがて強い決意の意思をその瞳に宿らせ、立ち上がった。
「お姉ちゃん・・・?」
「敬一郎、パパをお願い・・・。」
そう言いながら、玄関に向かって走り出す。
「おいさつき、お前まさか!?」
「学校に行って、この妖気を出してる奴を霊眠させてくる!!」
「馬鹿か、お前!!今度の奴は今までの奴らなんかとはものがちがうんだぞ!!お前なんぞで・・・いや!!そもそも、人間の手でどうにか出来るのかどうかすら、怪しいんだぞ!!」
「でもこのままじゃ、パパが死んじゃう!!」
「ぬ・・・。」
さつきのその言葉に、天邪鬼が声を詰まらせる。
「いやなの・・・もういやなの!!誰かが・・大切な人がいなくなるのはっっ!!」
そう叫ぶと玄関の鍵を開け、外に飛び出す。
「おい!!待てっ!!」
その声も、もはやさつきの耳には届かない。
さつきの姿は、あっという間に夜の闇へと消えていった。
―嵐の前―
夜の闇の中をさつきは学校に向って走っていた。耳を澄ますと、暗い町のあちらこちらから苦しげなうめきが聞こえてくる。天邪鬼の言う通り、ほぼ町中の人々がこの妖気に中てられてしまっているらしい。
人間の手でどうにか出来るのか・・・
天邪鬼の言葉が胸をよぎる。しかし、今のさつきにはその得体の知れない怪異に対する恐怖はなかった。かわりにその胸にあるのは、大切なものを失う事に対する恐怖。母を失った時の、全てが闇に落ちていく様な喪失感。天邪鬼が消えてしまった時の、どうしようもない程の空虚感。それらが三度自分に訪れることへの恐怖が、今のさつきを突き動かしていた。
「早く・・・早くしないと・・・。」
その恐怖を振り払う様に、さつきはただひたすら闇のなかを走った。
程なく、さつきは天の川小学校の校門前に立っていた。
学校は何の音も無く、しんと静まり返っている。
さつきもここに来て、さすがに今まで押さえ込んでいた恐怖心が頭をもたげてくる。
しばしの躊躇の後、意を決したかの様に足を踏み出す。
「おい!!」
「きゃぁっ!!??」
唐突にかけられた声に驚いたさつきが振り返ると、そこに一人の少年が立っ
ていた。
「は・・ハジメ・・・?どうして・・・?」
「敬一郎から聞いたんだよ・・・。ったく、なんでそう無茶をするかね。一人でどうにか出来ると思ってんのか?」
「な・・何よ・・・。そういうあんたこそ、おじさん達の事ほっぽって来たりして・・・。大丈夫なの・・・?」
非難がましいさつきの問いに、ハジメはへんと鼻をならす。
「言ってなかったか?おれんちの親、今夜は用事で出かけてて帰ってこねーんだよ。ま・・・運がよかったってとこかな・・・?」
「そっか・・・良かった・・・。」
さつきの顔に少しだが、安堵の色が浮かぶ。
その様子を見ていたハジメが、さつきの肩をポンポンとたたきながら話しかける。
「・・・さ、ちゃっちゃと終わらせて帰ろーぜ。おまえ、明日も早いんだろ?」
「うん・・・。」
そう言ってさつきがハジメの前に出たその瞬間―
ハジメの目が怪しい光を放った。
「隙ありっ!!」
「え?」
ハジメの手が目にも止まらぬ速さで動き、さつきのスカートをめくり上げていた。
「な・・・!!??」
突然の事に声を失うさつきに向って、ハジメが軽口をたたく。
「ほほぅー。今日は水色のストライプか。今まで見たことないやつだな。どうやら、卸したてと見た・・・」
ぐしゃっ
「ぐぇ・・・・・・」
その軽口が終わるかどうかのうちに、捻り込む様に打ち出されたさつきの右ストレートがハジメの顔面を真正面から貫いていた。しりもちをつく様に崩れ落ちるハジメ。
「あんた・・・この非常時に、一体何考えてんのよ!!」
憤怒の形相で自分を見下ろすさつきを見ると、ハジメは顔を押さえながら二ッと笑う。
「やっと、いつものさつきに戻ったな・・・。」
「・・・え・・・?」
ハジメのその言葉に、さつきは怒りを忘れてきょとんとする。
「さっきまでのおまえ、やたらと頭に血が上ってるみたいだったからな・・・。そんなんじゃ、肝心なところでヘマしちまうんじゃねぇかと思ってよ。」
「ハジメ・・・。」
「気楽にいこうぜ。今までだって、やばい時はあってもなんとかなってきたんだ。今度もきっと、なんとかなるさ。」
「・・・うん。」
ハジメの言葉に、さつきは心が軽くなるのを感じていた。
「よし!!じゃ、行こうぜ。なーに、二人で行きゃいつもどうり、何とかなるってもんよ!!」
「うん。でも、天邪鬼が今回は人間の手じゃどうにもならないって言ってたけど・・・。」
「げ・・・!!マジ・・・!?・・・やっぱ、帰ろうかな・・・?」
「・・・何でそこで弱気になるかなぁ・・・?」
そんな会話を交わしながら、二人は学校の敷地内へと入っていった。
続く