2021年05月22日
花咲く丘
『安全地帯VIII 太陽』三曲目「花咲く丘」です。
「はなー」といきなりボーカルが始まり、「なー」に併せて深めのシンセ、そしてベース、アルペジオのアコースティックギターが始まります。これは、サビでアコースティックギターがストロークになること、そしてピアノ的な鍵盤が加わり、間奏以後にはドラムが加わる以外には大きな変化なく曲が終わるまでこの構成で進みます。このほかには、わたしの耳がある程度たしかならの話ですが、ギターはだんだんアルペジオの音数を増やしていますし、音もだんだん大きくなるようにミックスされていると思います。
このように、あっさり書いてしまいますけども、これ、大型のスピーカー、そう、最低でも300Wとかですね、そういうコンサート用のやつで聴いてみたら驚くほど臨場感が感じられるんですけども、ゾクゾクゾクッとくるんですよ。だんだんギターが大きくなってくるところに、このストリングスのシンセ、ズシーン!バシャーン!というドラムが絡んでくるのですが、そこに玉置さんの残響音たっぷりのボーカルが思い切り前に出てくるようにミックスされているんですが、思わず失禁しそうになります(笑)。これはわたくし安全地帯のコンサートでこの曲を聴いたときに、なんだこの感覚は!と驚いたんですが、それを再現したくて機材をフル活用してやってみたわけです。そうそうそう、こんな感じだった(かも!)と、悦に入ってピクピクしているんですね。傍からみるとどうみても変態です。
志田歩さんは「どうしようもない寂しさを感じさせる」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)とこの曲を評しています。わたくし、ピクピクと寂しさに酔っていたことになるわけですが……
なにせ花咲く丘も、小さな鳥も、静かな森も、手を振る君も、みんな「My Dream」なのです。でも「夢じゃない」「わかってる」のですから、それらはあるといえばあるのです。ですが、「こんなに遠くにいる」のですから、簡単には手の届かないくらい距離やら時間やらが離れているわけです。
『安全地帯V』までノリノリだった安全地帯が(玉置さんは石原さんのことでそれどころじゃなかった時期がありますけども)、一旦休憩してソロ活動等を行い、リフレッシュしたところで再集結、元気いっぱいの『安全地帯VII 夢の都』をリリース、余勢をかってリリースしたこのアルバムですが、その頃にはバブル崩壊により世の中のムードが暗転、激減する仕事、設立したマネジメント事務所ミュージカル・ファーマーズも空転、玉置さんの嫌いな打ち込み音楽の時代が到来と、「とにかく変わり目だった」と玉置さんが述べるように(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)、音楽性を変える要素がありまくりの状況が安全地帯を襲います。「故郷に帰りたくなった」「本当のこと」(音楽)「をやっていきたくなった」等々といった玉置さんの願望は願望のまま、安全地帯は崩壊への階段を駆け上がらざるを得ない状況に追い込まれてゆきます。
この数年後にリリースされた玉置さんのソロアルバムに含まれていた「花咲く土手」「カリント工場」「ダンボール」「蜜柑箱」といったイメージは、きっと、遠くにあったMy Dreamなのでしょう。傷つき、倒れ、立ち直る過程でやっと形にしたMy Dreamはあれほどまでに素朴で寂しいものだったのだと何年も後に知って誰もが涙をこぼすという、結果的にそういうとんでもない仕掛けになったわけだったのでした……。そりゃ、これは安全地帯ではできない……少なくとも、「じれったい」からわずか三年とかの安全地帯にはムリだ……と、あれから三十年も経った現代でさえわかるのに、当時はだれも想像もできないことだったのです。ただ一人、玉置さんの心情を察し続けてきた松井さんを除いては。その松井さんだって、さすがにハッキリとは見えてなかったと思いますけども。
「あふれる涙」は頬をつたっていないため見えません。でも泣いているのです。「伝える声」は空気を振動させていないため伝わりません。でも発しているのです。まだ形にならないMy Dreamたちを思い、そして表現したくて、玉置さんの心は震えっぱなしだったのでしょう。そして残念ながら当然のように、安全地帯は徐々に機能不全を起こしていきます。
「何処まで行くの」……きっと崩壊まで……「どうして行くの」……わからない、でも行くしかないだろう?ほかに道なんてないんだ。「あきらめないで」……大丈夫だよ、きっと、なんとかなるさ……「生命を守りたい」……そうだね……すべてが終わったあときっと君は、花咲く丘で手を振るんだ。そしてぼくはそんな君をみて微笑むんだ、だから約束だよ、あきらめないで!
なんでしょう、わたくし、渾身のエモ文章を書いてネタにしようと企んでいたのですが、書いていて自分で少し泣けてきましたよ(笑)。
するとこのMy Dreamは、玉置さんのやりたい音楽という意味と、松井さんが思っていた安全地帯・玉置さんの将来像という意味の、二つの意味があったんじゃないかと思えてきました。松井さんにとっては、いったんバラバラになった安全地帯がまた復活し、こうしてまた一緒に活動をしていて、これは夢なんじゃないかと思えるくらいうれしいことなんだけども、何か違う、何かが遠い、ギリギリの綱渡りをしているような緊張感が現場を支配していて、これはいずれ破綻する……と暗い予感ばかりなわけです。だからこそ、玉置さんがほんとうにやりたかったけれどもできない音楽と、松井さんが焦がれるナイスな活動、それはどこにあるのかわからないくらい当時の安全地帯からは遠いものだったわけですが、それをMy Dreamと呼んだのではないかと思えるのです。
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「イマジン」ですか。わたくし後追いですから、ああこの感じ、「ストロベリーフィールズ」のジョンだな、とかいろいろわかるんですが、リリースされたとき当時の若者たちはどんな感想をもったのでしょうね。抑揚がそんなにない、ひたすら穏やかなのに妙に寂しい、似てますねえ……。
この曲の主題、マイドリーム。
アコースティックスペシャルナイト
最終日の神奈川県民での
シャウト!は壮絶。
ジョンレノンのイマジンのような、広い広大な宇宙から地球を見るかのような?遠い地球の反対側の人の幸せを心から祈るような世界観の歌だと、つくづく発売から32年が経過したいまも、改めて安全地帯が偉大なバンドだとそう思います。
ありがとうございます。