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2020年07月30日

ツィムルマンの夏1(七月廿七日)



 このチェコの誇る偉人については、こんなことを書いたことがある。「ヤーラ・ツィムルマンは、チェコの偉大な発明家であり、思想家であり、作家であり、画家であり、一言で言えばあらゆることに才能を持った万能の人であった」(「最も偉大なチェコ人」)。その偉大さについて語られたのが、チェコ映画史上最高の傑作のひとつ(だと思う)「ヤーラ・ツィムルマン、横たわりて眠りし者」である。
 そして、この映画でツィムルマンを演じる、日本でも「コリャ」の主役で知られる俳優ズデニェク・スビェラークは、盟友のラディスラフ・スモリャク(残念ながら亡くなってしまったが)などとともに、「ヤーラ・ツィムルマン劇場」で活動を続けている。この劇場はツィムルマンの劇作家としての側面に光を当てており、すべての演目はツィムルマン本人と発見された戯曲についての研究発表とその戯曲の上演という形で行われている。さらにこの劇場の活動を題材にした映画「不安定な季節」が制作されている。

 このツィムルマン劇場については、これまでも何度か書こうと考えたことがあるのだが、踏み切れずにいた。映画以上に我がチェコ語では歯が立たないのである。たまにテレビで放送される演劇を見ていると観客達は頻繁に大声で笑っているのだけど、自分もいっしょに笑える部分は少ないし、頭で考えて何がおかしいか理解できる(ような気がする)ものまで含めても、半分にも届かない。そもそもストーリーがよくわからないというものもある。
 ただ、七月に入ってチェコテレビが、武漢風邪騒ぎで劇場なんかにいけなくなってしまった演劇好きのチェコ人のために、これまで放送してきたツィムルマン劇場の演目をまとめて放映してくれている。集中して見てはいないけど、録画はしているし、せっかくの機会なのでどんな作品が存在するのかだけでも簡単に紹介しよう。

1. Vyšetřování ztráty třídní knihy
 直訳すると「失われた学習記録の捜索」とでもなろうか。「třídní knihy」というのは、学校で使われる(もしくは使われた)もので、クラスの出席簿とそれぞれの科目の授業の進捗状況を記すことになっている日誌のようなものらしい。正確には覚えていないけれども、とある学級のその日誌が何年も前に失われて云々という話だったと思う。
 チェコテレビの番組紹介ページに拠れば、この演劇はツィムルマンを、チェコの誇る教育者であるコメンスキーの後継者に位置づけたというのだけどね。この夏最初の作品だし頑張って最後まで見ようと思っていたのだが、すでに前半の研究発表の部分で挫折した。以後は部分部分見ただけである。思わず笑ってしまったところや、にやっとさせられたところはあったのだけど、全体としてはやっぱりよくわからなかった。冗談言う前から笑っている観客がいるのは、常連で何を言うかもう覚えてしまっているのだろうなあ。


2.Záskok
 題名は「代理」とか「代役」とか訳せるだろうか。ツィムルマンの戯曲「Vlasta」の初演の失敗についてというのだけど、後半の上演の部分では、その失敗した初演の様子を再現していたのかな。これも想像の入った解釈だけど、誰かの代役として呼んだ高名な俳優が、実は全く使えない奴で舞台に混乱を引き起こす様子が描かれているのだと思う。ツィムルマンのことなので、その混乱自体が戯曲に描かれていたとも解釈できそうだけど、実際のところはよくわからない。
 研究発表の部分では、ツィムルマンが主宰していた劇団のあまりに馬鹿らしい終焉の迎え方だけは理解できた。冬休みの前に解散する時に、次に集まる日時も場所も発表されなかったので、そのまま二度と集まることがなかったのだとか。文字で読むとあれだけど、演劇の中では語り方のうまさもあって、外国人でも思わず噴出してしまう場面になっている。
 翻訳されて英語でも上演されているというのだけど、チェコ語の冗談が英語でどこまで伝わるのか疑問である。そもそも、誰が翻訳してどこの劇団が公演しているのだろう。奇特な人もいたものである。


3. Blaník

 簡単に言えばツィムルマンの伝説、歴史を題材にした戯曲の話である。ブラニークの騎士たちの伝説と、モラフスケー・ポレやビーラー・ホラなどの実際に起こり、チェコの軍隊が手痛い敗戦を喫した三つの戦いを結びつけて極めてツィムルマン的に解釈されている。
 研究発表の部分では、ツィムルマンの考えによるブラニーク山の構造というのがあって、山の中には騎士たちのいる空洞が開いていることになっていた。それは三つの階層に分かれていて、一番上には、騎士たちを率いる聖バーツラフの部屋、二番目には指揮官たちの部屋、三番目は三つの部屋に分かれていてそれそれの戦いで敗れた騎士たちが待機している。騎士たちの中にはろくでなしもいたので二番目の階層には営倉も準備されているのだとか。

 演劇のほうは、入り口を発見して中に入ってきた歴史の先生だか、歴史学者だかが登場したのは覚えているが、後はブラニークの騎士たちの、チェコを守るという意志のなさそうな投げやりな様子が印象に残っているだけである。だから、今までチェコ民族が苦難に陥ってもブラニークの騎士たちが救いに現れなかったんだなんていわれたら納得してしまいそうだった。

 最初の三つで、予定の分量を越えたので、残りは次回回しにしよう。部分的にでも見てから書いたほうがいいかな?
2020年7月28日10時。




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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



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