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2019年04月21日
法務大臣も交替(四月十九日)
運輸大臣、産業大臣に続いて法務大臣も交替することになるようだ。これまでの法務大臣はバビシュ党ANOのクニェジーネク氏、新しく大臣になるとうわさされているのがベネショバー氏である。実現すればまたまた国会議員ではない民間大臣の誕生ということになる。ただ、このベネショバー氏が、かつて市民民主党のネチャス氏が、無責任に政権を投げ出したときに、ゼマン大統領がごり押しで任命した暫定内閣の法務大臣を勤めた人物で、大統領に近いと思われていることから、あれこれ批判が巻き起こっている。
曰く、「コウノトリの巣」事件でバビシュ氏が起訴されるのを防ぐために、検察の長官を解任するためじゃないかというのだけど、その論理がいまひとつ理解できない。仮に、検察の長官の任免が、法務大臣の専権事項だというのなら、その解任のためだけに法務大臣を交替させる必要はあるまい。現職はバビシュ党の国会議員なのだから、民間人の新大臣よりも強制しやすいはずである。だから、この大臣の交替に、単なる交替以上の意味があるとすれば、検察の長官の解任以外の目的があると見る。バビシュ氏は起訴されても辞任する気はないと言っているし。
バビシュ首相自身は、現職のクニェジーネク氏は、そもそも暫定的に選出したものだから、適任者が見つかった以上、交替するのは当然だと説明している。これに対しては、特に司法界から、司法の軽視だとして反発の声が上がっているけれども、自らの業界を特別視するような言動はどうかと思う。バビシュ政権では、外務大臣も一時期暫定的にハマーチェク氏が勤めていたわけで、暫定的な任命が、その役職を軽視しているというのは、短絡的にすぎる。
法務大臣に関して、少し長期的なスパンでながめると、社会民主党のソボトカ氏が首相を務めていた時代も法務大臣はANOに属していた。記憶に間違いがなければ、当時はペリカーン氏が民間人大臣として登用され、その後の総選挙でANOから立候補し、下院議員になったこともあって、来るべきバビシュ内閣でも継続すると考えられていた。それが、内閣を成立させるための交渉の中で、バビシュ氏のやり口に愛想をつかして辞任してしまった。
それでバビシュ氏が起用したのが、女性のマラー氏なのだが、学位をとった論文の盗作疑惑で辞任を余儀なくされた。バビシュ氏に倣って頑張れば特に辞任するほどの疑惑でもなかったような気もするのだけど、ANOのイメージを落とさないようにとか言って辞任してしまった。この人の疑惑でANOを見限るような支持者は、バビシュ氏の疑惑が表に出た時点で見限っているはずだから、大きな影響はなかったと思うのだけどねえ。
とまれ、このマラー氏の辞任という緊急事態に際して、暫定で選ばれたのがクニェジーネク氏だというのである。法務大臣の地位にあって一年ほどなのだが、ほとんど目立つことはなかった。実質的な前任者のペリカーン氏が、司法関係であれこれ問題が起こるたびに、適宜コメントを出したり、テレビ局の取材に応えたりしていたのに対して、クニェジーネク氏はほとんど表に出てこなかった印象がある。だから、暫定的な任命だったといわれると納得してしまいそうになる。
不思議なのは、これまで沈黙をまもることが多かったせいで、批判の対象になることが多かったクニェジーネク氏を高く評価する声が、突然司法の世界から上がり始めたことである。坊主にくけりゃ袈裟まで憎い的に、ありとあらゆることがバビシュ批判のためなら許されるという印象を与える。バビシュ氏がオウムのように、これは政治化された事件だと繰り返すのも見苦しいし、目くそ鼻くその争いにどちらが勝ってもろくなことになるまいという感想しかもてない。
チェコの司法の最大の問題は、誰が大臣になるか云々にはなく、警察、検察という事件捜査に当たる組織も、裁判かんたちも、内部抗争に熱心でライバルを追い落とすためなら政治家やマスコミと組んで恥じないという点にある。もちろん政治家やマスコミの側も、その内部抗争を利用して情報をリークさせたり、事件の鎮静化を図ったりしている。そこを何とかしないと、法務大臣が誰であれ、首相が交代しようがしまいが、チェコの司法界が現状よりよくなることはあるまい。
バビシュ批判は正しい。バビシュ氏が辞任すべきだという意見にも同調する。ただ、バビシュ氏が辞任したからといって、状況がマシになるとはいえないのが、残念なチェコの現状なのである。その点、日本の政情と似ているよなあ。
2019年4月20日18時30分。