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2016年12月11日
チェコの銀行2(十二月八日)
十二月の初めに書いた記事が、予定に反して、ČSOBの話だけで終わってしまったので、チェコの他の銀行についても、簡単に記しておく。間が空いたのは、それぞれの日にかかわりのある記事を優先してしまった結果である。
チェコで一番大きな、つまり口座を持つ顧客の多い銀行は、チェスカー・スポジテルナ(チェコ貯蓄銀行)、略してČSである。この銀行は、19世紀の前半にヨーロッパで流行した貯蓄銀行の一つとして、1825年にプラハで活動を始めたものを起源に持つというから、チェコで一番歴史のある銀行と言ってもいいのかもしれない。
その後、プラハだけではなく、各地の町に貯蓄銀行が設立されたが、第二次世界大戦中のドイツ占領期、戦後初期を通じて、集約化と国有化が進められ、各地に独立して存在した貯蓄銀行は、最終的には、一つのチェコスロバキア国立貯蓄銀行に集約された。その後、チェコスロバキアの連邦化に伴って、チェコ貯蓄銀行と、スロバキア貯蓄銀行に分かれ現在に至っている。この点、ビロード革命後もチェコスロバキアであり続けたČSOBとは対照的である。
その後、ビロード革命後のクーポン式民営化の一環で、国立銀行から株式会社へと改組された。このときは、国と地方公共団体とで合わせて60パーセントの株式を保有していたようだが、その後、ČSOBに続いて完全民営化され、株式を取得したのはオーストリアのエルステ銀行だった。興味深いのは、この銀行もかつての貯蓄銀行に起源をもっていることで、その縁でなのかなんなのか、チェコ貯蓄銀行だけでなく、スロバキアの貯蓄銀行も傘下に収めているのである。つまり、チェコスロバキア貯蓄銀行の運命は、一度分離した後、EUの下に集ったチェコとスロバキアの国家と同じようなものなのである。国と同じで合併することはないだろうけれども。
エルステ銀行の傘下の銀行は、どこもSの上に点を打ったようなマークをロゴとして使っているけれども、これはエルステ銀行が、貯蓄銀行だったことの名残なのだろうか。貯蓄銀行はドイツ語でもSで始まるみたいだし。
オロモウツでは、かつてホルニー広場とドルニー広場がぶつかるところの角にあったのだけど、現在は、ホルニー広場から見てモラビア劇場の裏にある機能主義っぽい建物に入っている。もともとここにあったのが、建物の改修工事の時期だけ広場のほうに移転していたようだ。この建物も好きな人は好きだろうなあ。
チェコの三大銀行の三つ目は、KBと略されるコメルチニーバンカである。実は、ドイツにコメルツバンクという銀行が存在することを知ったときに、てっきりその銀行の子会社になっているのだと思っていたのだが、そんなことはなかった。実はこの会社フランスの金融機関ソシエテ・ジェネラルの傘下なのである。
もともとは、ビロード革命後に、共産主義の時代には、国の中央銀行と一般の銀行を兼ねていたチェコスロバキア国立銀行のうち、一般の銀行業務部門を分離して国営銀行として設立された。この銀行も、クーポン式民営化の一環で、国の保有する株式の割合が下がったが、最終的にその株式を国が売却して完全に民営化したのは、2001年のことだったらしい。その時に親会社となったのが、スランスのソシエテ・ジェネラルだったのである。正直な話、KBよりも、ČSとČSOBのほうがフランス資本の印象が強かったのだが、全くそんなことはなかった。思い込みというのは恐ろしいものである。
オロモウツではかつては共和国広場の美術館の建物の片隅に入っていたのだが、その支店は廃止され、現在中心に一番近い支店は、本当の旧市街の外側、裁判所の隣の建物になる。このあたりは、要塞都市の指定を外れるまでは建物を建てることのできなかったところで、比較的新しい建物が並んでいる。それでも100年以上の時を経たものが多いのだけど。正直この建物にはあまり魅かれないので、KBを選ばなくてよかったと思う。
これまでに挙げた三つの銀行以外は、一般の人を相手にしている銀行は、基本的に外資で、チェコの銀行を買収したものではなく、外国の銀行がチェコに進出して子会社を設立して活動しているものばかりである。ドイツのライフファイゼン銀行とか、ロシアのズビェル銀行とか、イタリアのユニクレジット銀行とか。フォルクス銀行とか、かつては見かけたのになくなってしまったものもある。
現在ではかつてとはちがって、銀行が倒産したら預金が一コルナも戻ってこないということはないはずだから、どの銀行を選んでもかまわないはずである。それでも、銀行や保険会社の場合には寄らば大樹の陰で、ついつい大きいところを選んでしまう。日本の銀行も三菱だし。
最後になるが、チェコの銀行の問題点としては、近年チェコ政府が頑張って交渉した結果、だいぶ変わってきてはいるようだが、チェコの銀行の顧客は外資系の銀行の本国では求められないような手数料を課されているというものがある。以前は、銀行があって機能しているだけでありがたかったので、特に文句をつける人もいなかったようだが、最近になって、同じ銀行の同じ顧客なのに、どうしてチェコ人は、フランス人や、ドイツ人以上に手数料を払わされるのかということで、抗議の声が高まっているようだ。政府もそれに押される形で交渉をしているのである。
同じ事は、これも外資に支配されたスーパーマーケットのチェーン店でもあり、同じ製品がチェコで買うよりも、ドイツで買ったほうが安いというのは、まだ許せるにしても、チェコで売られているもののほうが、品質が明らかに低い場合が多く、これも政府の交渉対象となっている。
この手の批判に対して、企業側、そしてその言い分を認めるEUの主張は、現地の商習慣、現地の人の要求に対応しただけだというものである。それなのに、国策で、チェコ国内の事情に合わせて決めていいはずの電気料金に関しては、EU内の電気市場の価格に合わせろなどと強要してくるのが、EUの、いやドイツの言う平等なのである。
何か最後のほうは、テーマからそれてしまったけど、考えてみればいつものことか。
12月8日23時。