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2016年07月21日
似非スロバキア語(七月十八日)
チェコ語とスロバキア語は似ている。語彙も共通のものが多いし、文法事項もほとんど同じと言えば同じだ。それでよく、チェコ語ができればスロバキア語も、問題なくわかるのだろうと思われるのだが、実はそんなことはない。
語彙に関しては、普段使いそうな言葉でチェコ語とは全く違うものをいくつか覚えてしまえば何とかならなくはない。ボールが、チェコ語の「ミーチ」ではなく、「ロプタ」になるとか、スロバキア語の「ピブニツェ」は、チェコ語の「ピブニツェ」とは意味が違うとか、長くチェコに暮らしていれば、スロバキア語に接する機会も多いので自然と覚えてしまう。「マチカ」のように最初に聞いたときには、えっと思ってしまうものもあるのだけど。この言葉、「オマーチカ(ソース)」だと思ったら、「コチカ(猫)」だった。うーん。
問題は、語彙よりも発音である。ポーランド語の影響を受けたオストラバ方言は、アクセントの位置が違うことで聞き取りずらくなってしまうのだが、スロバキア語の場合には発音そのものに問題がある。字面で見ると同じような言葉でも、妙に発音が軟らかくて耳に残らないのだ。
昔、通訳の仕事をしているときに、フランス人がいて、日本の人が英語で話そうとして話が通じず、通訳さんと呼ばれて行って英語はダメだと言ったら、スロバキア語で話し出されたことがある。スロバキア語なら多少は何とかなると思っていたのだけど、機関銃のように早口で言葉を投げかけられて、完全にお手上げだった。スロバキア語の柔らかい部分をチェコ語に置き換えるのに時間がかかって、何を言われているのかわからなくなったのだ。結局、近くにいたチェコ人の通訳を呼んで、代わりに通訳してもらった。
発音が軟らかいと言っても、わかりにくいかもしれない。日本語で言うと、先生の発音が、「せんせい」ではなく、「しぇんしぇい」、もしくは「しぇーしぇー」になるような感じと言えばわかってもらえるだろうか。日本語ならこのぐらいの変化には、問題なくついていけるのだけど、外国語では厳しいものがある。
スロバキアも東西に長い国で、東部の方言と西部の方言とではかなり違う。モラビア地方に接している西部スロバキアの人々の話し方は、比較的わかりやすいが、東部のウクライナの近くの人々のスロバキア語は、もちろん個人差はあるけれども、わかりにくいことが多い。
昔は、スロバキア人でも、チェコ語しか勉強していないのでスロバキア語はあまりわからないというと、チェコ語そのものではないにしても、ちぇごっぽい話し方をしてくれた人が多かったのだが、最近は情け容赦なくスロバキア語で話されることが多い。そんなとき、相手の言葉がわからないのは癪に障るので、こちらもでたらめなスロバキア語で話をすることがある。もちろん仕事の場などのまじめな場面ではなくて、お酒を飲んでいるときなどの場合だけだけど。
チェコ語がある程度できれば似非スロバキア語は簡単である。チェコ語の発音の原則として、アルファベットの上にハーチェクという記号「ˇ」を付けると発音が軟らかくなる。日本語風に言うと直音が拗音になる。「S」は「ス」で「Š」は「シュ」という具合である。だからこちらが理解できないスロバキア語で話す無礼者には、徹底的にハーチェクを付けて、もしくは拗音化したチェコ語で話してやる。「ヤー・シェミュ・ジュ・オリョミョウチャ」と言った具合である。
ただ、日本語が上手なスロバキア人の場合には、「わてゃしはでぃぇしゅにぇ」などとスロバキア語なまりの日本語で返してくることもあって、スロバキア人侮りがたしなのである。
7月20日18時。