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2016年07月20日

いじめられるチェコ人、もしくはふざけるなUCI(七月十七日)



 昨年の自転車競技の世界選手権で、出場権を獲得したと思われていた、スピード・スケートのマルティナ・サーブリーコバーのリオ・オリンピック出場が危ぶまれている。いや、現状ではほぼ不可能というか、出場選手を決める国際自転車競技連合UCIには、サーブリーコバーを出場させる気はなさそうである。サーブリーコバー側は、スポーツ仲裁裁判所CASに提訴するようだが、判決が出る頃には、オリンピックはとっくに終わっているはずだ。

 オリンピックの自転車競技の出場権は、UCIの定める国別のランキングによって、各国に割り当てられる。それとは別に、世界選手権で国別の上位十位以内に入った国には追加で出場権が与えられるということになっていた。
 サーブリーコバーはタイムトライアルに出場して、12位に入り、国別の順位では十位以内を達成したため、この時点ではオリンピックの出場権を得たものと考えられていた。それが、UCIが、国別銃以内で出場権が与えられるのはロードレースだけだと言い出してサーブリーコバーの出場を認めなかったことで、話がややこしくなった。
 チェコのオリンピック委員会や自転車協会でもあれこれ交渉したらしいがUCIはかたくなに決定を覆そうとはしない。しまいには、オリンピック界の伝説である体操のビェラ・チャースラフスカーが、個人的に親交のある国際オリンピック委員会の会長に手紙を出したり、ミロシュ・ゼマン大統領が交渉に乗り出そうとしたり、チェコ側では手を尽くしているけれども、UCIは自転車を本職としないサーブリーコバーの出場を歓迎していないようだ。

 その後、タイムトライアルの出場権を獲得した国の中に、出場枠をすべて使わない国が出たため、サーブリーコバー側は、その枠を回すように交渉したらしいが、あっさりと却下されてしまった。そんな目標としてきたオリンピック出場が絶望的となった状況の中でも、チェコの国内選手権ではロードレースでもタイムトライアルでも優勝したのだから、その精神力には頭が下がる。
 クロイツィグルのように自転車が本職で、オリンピックよりも重要なレースがある場合には、オリンピックがすべてではないと言えるのだろうが、オリンピックに出るためだけに二足のわらじを履いて自転車競技にまで手を出したサーブリーコバーは、諦めるに諦められないのだろう。

 クロイツィグルも、UCIの対応に悩まされた一人である。UCIもしくは世界ドーピング機関に、あらぬドーピングの嫌疑をか
けられて、二年ほどはこの問題の対応でレースどころではなかったのではなかろうか。
 確か2014年の夏だったと記憶する。2011年だったか12年だったかのバイロジカルパスポートにおかしなところがあるとの嫌疑を受けて出場予定だったツール・ド・フランスに出場できなくなり、それ以前から続いていたUCIとの交渉が表面化し、その後CASやチェコのオリンピック委員会を巻き込んで騒動が大きくなる。
 問題は、バイロジカルパスポートに表れている血液関係の数値自体は、基準値内に収まっていたのに、その変動のあり方がおかしいといちゃもんを付けてきたことにある。クロイツィグル側が、専門の医師などの意見をまとめて提出しても、UCIとWADA側は、何の根拠があるのか(恐らくはないままに)、信用できないとしてドーピングを認めさせようとあらゆる手段で圧力をかけて来ていた。基準値内に収まっている以上は、ドーピングをしたことを証明するのが嫌疑をかけた側の義務であるはずだが、UCIがドーピングをしなかったことの証明をクロイツィグル側に求めたのも納得がいかない。こんなことをやっていたら基準値なんて設定する意味がなくなる。

 ドーピングを撲滅しようとする意欲と努力は買う。しかし、それが恣意的に思い込みに基づいて運用されているのが問題である。クロイツィグルは、恐らく旧共産圏の選手だからという理由で疑われたのだ。この手の思い込みで選手を有罪扱いする組織が、警察然として選手たちの人権を侵害するような手法でドーピング検査を行っている現状は、とてもいいとは思えない。傲慢極まりないWADAの職員のドーピング検査に不満たらたらな選手は枚挙にいとまがない。
 だから、ロシアが国ぐるみでドーピングをやっていたのは確かかも知れないが、WADAの主張をそのまま信じる気にもなれないのだ。組織ぐるみでドーピングをでっちあげている可能性もあるのだから。宗教であれ、主義主張であれ、狂信者の言葉には説得力はない。

 そもそも、チェコでは、旧体制の時代に国主導で選手にドーピングを強要していた、もしくは選手をだましてドーピングをさせていたことに対する反省から、ドーピングに対する嫌悪感は非常に強いのだ。アメリカやヨーロッパで一般的に見られる、ばれなければいいという考え方よりも、日本のドーピングは犯罪であるという考え方に近いような気がする。そのためチェコ選手がドーピングの検査に引っかかることは滅多になく、引っかかっても風邪薬を飲んでしまったとか、大麻に手を出してしまったとかの能力向上にはつながらない違反であることが多い。
 自転車競技なら、ドーピングの本場はイタリアとスペインだろうに、チェコに根拠のない嫌疑をかけてくるんじゃない。
7月19日12時。


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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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