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2016年07月07日

きゅうりの季節(七月四日)



 きゅうりの季節、チェコ語で「オクルコバー・セゾーナ」というのは、七月、八月、つまり夏休みの時期のテレビの退屈さを指す言葉である。

 この時期は、国会も休会し、政治家も休暇を取るため、チェコのニュースのかなりの部分を占める政治ニュースが一気に減る。今年はイギリスのEU脱退のおかげで、EU首脳たちのヒステリックとしか言いようのない反応がニュースをにぎわしているが、例年のこの時期のニュースは、政治好きのチェコ人たちにとっては、退屈極まりないものとなるようだ。それに、毎週日曜日に放送されている政治家の討論番組もこの時期は中断するし。
 六月の終わりから七月の初めにかけてのニュースの目玉は、いかにしてチェコから、チェコ人に一番人気のバカンス地であるクロアチアの海岸まで車で行くかである。通過する国の高速道路の料金や、料金徴収のシステム、罰金のあり方など、こんなの公共放送のニュースでやることなのかと、初めて見たときには思ったが、最近は夏の風物詩だと思えるようになった。ただ、プラハからクロアチアの海岸まで、実際に車に乗って行ってみせる必要はないんじゃなかろうか。それに、どっちのルートで行ったほうが早いかなんてのは、BBCのトップギアをまねた自動車番組でやるべきだろう。

 きゅうりなのは、ニュースだけではない。この時期になるとテレビ番組は、新作の放送がなくなり、軒並み再放送となる。チェコのテレビは一体に再放送が多いのだが、この時期には終わらない連続ドラマも新作の放送を一時中断して、再放送ばかりになる。外国ドラマや映画のチェコ語吹き替え版も、新しいものではなくかつて自局で放送したものか、よその局で放送したものが放送されるばかりである。もっとも、民放のテレビ局ノバが数年前に鳴り物入りでゴールデンタイムに放送を始めたものの、最初の数週間であまりの人気のなさに見切りをつけて放送時間を変更することになったトルコのテレノベラ「千夜一夜物語」だけは、再放送でも見かけないような気はするけど。いや、そもそもこの番組最後まで放送されたのだろうか。

 共産主義時代のテレビドラマが再放送されることも多く、今年の目玉は、チェコテレビが週に二回再放送している「サニトカ」である。題名は日本語に訳すと救急車なのだけど、それではドラマの題名にはなりそうにないので、チェコ語のままにしておく。題名の通りにプラハで救急医療に携わる人たちの活躍を描いたドラマである。主人公はどこかの病院で上ともめて辞職して、救急隊に配属になった救急車に乗る医者だったかな。
 何年か前に確か三十年ぶりに続編が製作されたときにも、再放送があってちらちら診た記憶はあるのだけど、正直な話、主題歌が無駄にかっこよかったことしか覚えていない。今回ちょっとだけちゃんと見たら、主役のヤンデラ医師を含めて、有名な俳優が結構出ていて驚いてしまった。

 ノバでも、「クリミナルカ・アンデル」の初期の作品が再放送されているし、このきゅうりの季節も悪いことばかりではない。一度見逃してもどうせまた再放送があると思えば、ビデオなんて必要ないし、かつて日本ではやった昔の番組の一場面を探し出して見せるなんて番組も、一場面どころか番組全体が再放送されるのだから需要があるとも思えない。
 ただ、毎年大晦日に放送される長時間のバラエティ番組を夏の暑いさなかに延々再放送するのは、季節感の面からもうんざりしてしまうのでやめてほしい。とはいえ、本来クリスマスに放送されていた「ポペルカ」などの童話映画が、夏休みだけでなくイースターの時期にも放送されるようになって久しいし、チャンネルが増えすぎてコンテンツの奪い合いが起こった結果、放送する物が足りなくなったということだろうか。そう考えると、二ヶ月というきゅうりの季節は長すぎる。

 ちなみに、共産主義時代のドラマで意外な人気を誇り、最近しばしば放送されているのを見かけるのが「マヨル・ゼマン30の事件」である。秘密警察の将校の活躍を描いたこのドラマは、共産党政権のプロパガンダに満ち溢れているから見てもしょうがないという思想教育を受けたので、自分では見る気になれないのだけど、共産党に嫌悪感を隠さない人たちの中にもゼマンのファンはいるようである。ドラマとしての出来と、プロパガンダはまた別物だということなのだろう。そこはかとないプロパガンダ臭を振りまきながらも、人気のある共産主義時代の映画もいくつかあることだし。
7月6日10時。


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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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