2018年02月07日
ヤロミール・ヤーグル(二月四日)
チェコで最も知られている日本の地名の一つが長野である。チェコでは高校生の社会科の授業で日本の四つの島は習うらしく、本州、北海道、九州、四国は知っている人が多い。それに首都の東京を知っているのは当然として、その次ぐらいにくるのが長野なのである。それはもちろん、1998年にオリンピックが開かれたからであり、アイスホッケーのチェコ代表チームが金メダルを獲得したからに他ならない。ただしチェコの人の発音は、「ナガーノ」と聞こえるかもしれない。
うちのの話では、長野オリンピックで優勝したアイスホッケーの選手たちは政府の派遣した特別機で帰国したらしいのだが、機内で喜びのあまりへべれけになるまで飲んだくれプラハの空港で飛行機から降りてきたときにはみな泥酔状態だったという。その時に、歓迎に出向いたファン達の間から、自然発生的に出てきた掛け声が、「ハシェク・ナ・フラット」、直訳すれば「ハシェクは城に」だったらしい。城は大統領官邸になっているプラハ城のことなので、ハシェクに大統領になってほしいということである。
ハシェクがアメリカのNHLで長年活躍したゴールキーパーのドミニク・ハシェクであることは、アイスホッケー、もしくはチェコのファンの方ならご存知であろうが、長野オリンピックでの活躍に半ば冗談でそんな掛け声をかける人たちがいたというのである。この前の大統領選挙のていたらくを見ていたら、一部の国ではすでに存在しているスポーツ界出身の大統領というのも悪くないのではないかという気がしてきた。問題は候補になりそうなサッカー界のネドビェットもアイスホッケー界のハシェクも政治にはあまり興味がなさそうな点である。
とまれ、20年前に行われた長野オリンピックのチェコ代表の選手たちの中で、今でもただ一人現役を続けているのがヤロミール・ヤーグルなのである。NHLが選手たちのストライキで開催されていなかった時機にチェコリーグでプレーし、数年前に一時期ロシアのKHLでプレーした以外は、ずっとNHLのチームでプレーしてきた。今年は確か、開幕ぎりぎりでカナダのカルガリーのチームに移籍したのだが、シーズン初めは好調で、ゴールだか、ゴールとアシストの合計のポイントだかで、歴代何位に並んだとかいう喜ばしいニュースが入ってきていた。
それがしばらく話を聞かないなと思っていたら、怪我で試合に出場できなくなり、チームはヤーグルの放出を決めたもののNHLには獲得に手を挙げるチームはなく、ヤーグルはチェコに帰ってくることになった。チェコでは一部リーグのチームでプレーする可能性もあったようだが、最終的に選んだのは出身地のチームで、自らがオーナーを務めるクラドノのチームだった。クラドノは長らく一部リーグでがんばっていたのだが、スラビア・プラハ同様、数年前に二部に落ちて以来、一部に復帰できていない。ヤーグルとしては自身の移籍で一部復帰を後押ししようという考えもあったのだろう。
ヤーグルのクラドノ復帰後の初戦が、ヤーグル帰国後一週間もたたない昨日の土曜日に行なわれた。対戦相手はベナートキ・ナット・イゼロウというリベレツの近くの町のチームで、観客が大挙して押し寄せることが予想されたため急遽リベレツで行なわれることになった。ちなみにベナートキはベネツィアのチェコ名なので、イゼラ側沿いのベネツィアである。
その試合では、もう一つの驚きが提供された。2014年までリベレツでプレーして引退したペトル・ネドビェットが、この試合のためだけに4年ぶりに現役復帰してヤーグルと対戦するというのである。このネドビェットは、ビロード革命前の1989年にカナダに亡命し、カナダ代表として1994年のリレハンメルオリンピックで銀メダルを獲得した後、2012年には、今度はチェコ代表として世界選手権で銅メダルを獲得したというチェコにとっては伝説的な選手の一人である。もちろんNHLでも長きにわたってあちこちのチームで活躍している。
そんなヤーグルとネドビェットの対決は、観客を呼び寄せ満員御礼状態だったようだ。前日にはチケットが発売された際には長蛇の行列ができ、遅れてきた人の中には並んだけれども売り切れで買えなかったという人たちもいたようだ。ニュースではプラハからリベレツまでチケットを買いに来たという人が、まだあると思ったんだけどと残念そうに語っていた。
試合のほうは、ネドビェッとが一得点、ヤーグルが三アシストと、二人の対決ではヤーグルに軍配が上がり、試合のほうもクラドノが3-2と一点差で勝利した。カルガリーから放出される原因となった怪我の具合が心配されたヤーグルだけど、大きな問題なくプレーできたようだ。ということはこれからシーズン終了までクラドノの試合ではヤーグルの雄姿が見られるということである。特にファンダというわけではないのだけど、あのヤーグルだからなあ。
残念なことにオロモウツは現在一部リーグで活躍中のためヤーグルがオロモウツにくることはない。どこか近くに二部のチームがないかと思って探したら、プシェロフとプロスチェヨフのチームが二部にいるらしい。アイスホッケーファンだったら迷わずチームの対戦相手を調べて、出かけるところなのだろうけど、ハンドボールファンにはちょっと敷居が高すぎる。これがイーハだったら迷わず行くけどなあ。
ということで、チェコにこられる予定のアイスホッケーファンは、一部リーグ(チェコではエクストラリーガとよばれる)よりも、二部リーグ(今の名称はWSMリーガ)のクラドノの日程を調べて来たほうがいいかもしれない。スラビアホームのクラドノとの試合だったら、プラハの大きなアレーナで開催されるはずだからチケットも入手しやすいはずである。
2018年2月5日24時。
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