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2017年10月25日

2017年下院総選挙、結果の話をする前に(十月廿二日)



 チェコの下院の選挙がどのように行われるのかについては、地方ごとに集計する比例代表制だとか、全選挙区で候補者を立てていなくても、全国で5パーセントの得票率がないと、議席を確保できず、その党に投じられた票は死票になるとかいう話は、どこかに書いたはずである。今回の選挙の報道で、極右勢力の議席獲得を阻止するために設けられた5パーセント条項が、実は市民民主党と社会民主党の談合の中から生まれてきたものだということを知った。この二党以外の党が勢力を拡大するのを防ぐ目的があったらしい。こんなところも既存の大政党が有権者に愛想をつかされる理由になっているのだが、反省する様子はほとんど見られない。

 さて、チェコの選挙は、金曜日と土曜日に投票が行われる。金曜日は午後二時から十時まで、日曜日は午前八時から午後二時まで、というのが投票所が開いている時間で、金曜日に仕事帰りに投票に行ってもいいし、土曜日の朝に出かけてもいい。とにかく夜勤を含めて、いろいろな形で仕事をしている有権者が、投票に行きやすいように配慮されているのである。
 日本も投票率の低下を嘆く暇があったら、投票所に行きやすいように制度を変えて投票できる時間を延ばしたり、増やしたりするぐらいのことはするべきだろう。誰もが日曜日に選挙に行く時間を捻出できるわけではないのである。二日かけての選挙となると選挙管理委員を二日拘束することになるけれども、深夜どころか翌朝まで拘束されて開票と集計を行なわなければならないことを考えれば、それほど大きな違いがあるとも思えない。人件費が多少増えるのも、高校大学の無償化など、どぶに捨てる金があるのだったら、投票率の向上対策に使うほうがはるかにましである。
 開票作業は投票所が閉鎖される午後二時から始まり、その日の夕方には大勢が判明する。開票作業自体も投票されたものを開票所に集めるという無駄なことはしないで、各投票所で集計した上でそのデータを中央の統計局にネット経由で送る。投票所にいる選挙管理委員たちは、投票の管理だけでなく、投票後の集計までも担当しているのである。だから、選挙ができる状態であれば、開票が遅れるということもない。日本もそろそろ開票作業を効率化する時代に来ているのではなかろうか。開票作業のために投票日が早くなる地域があるとかいうのは、決して褒められたことではあるまい。

 それから、住所によって指定される投票所以外での選挙が楽にできるのも日本との違いである。確か選挙が行われることが確定した段階から、住所のある自治体の役所で指定外の場所で投票するための証明書を発行してもらうことができるはずなので、学生などでも何かの折に実家に帰ったときに、請求しておけば、選挙のためだけに実家に戻る必要もない。特に今回は七月の時点では選挙の期日が決まっていたので、夏休みを利用して手続きをした人もいたのではなかろうか。もちろん役所では証明書を発行した人は、投票所の選挙者リストから消すことで二重投票を防ぐのである。
 ニュースでは、生まれて初めての下院の選挙なので、特別な場所で投票したいと考えた大学生が、国会議事堂に設置された特別投票所に足を運ぶ様子が流された。また外国に出ている場合でも、この証明書さえあれば、大使館や領事館で投票することができるようになっていて、学校行事の研修旅行でイスラエルを訪れていた高校生達のうち選挙権を有する人たちが、この証明書を使ってチェコ大使館で投票する様子も報道された。
 日本でも行われている不在者投票とか、期日前投票というのは、候補者を選ぶのに、投票日までの時間をフルに使えないという点で不公平である。投票日ではない日に特別に選挙に出かけるというのは、可能であっても、わざわざそこまでしてまでという気持ちになりかねない。学生など現住所を移さないで生活している人には、実際に生活している場所で投票できるような制度の方がはるかに有権者にとってはありがたいはずである。学生には在学中ずっと使えるようなカードを発行してもいいわけだしさ。って最近の学生は田舎から上京した場合に住民票を移すのかねえ。昔は卒業までは移さないって人も結構いたんだけど。

 チェコ国内に住所のない外国在住の人たちであっても、大使館まで出向けば投票することができるようになっている。外国に移住した人でも、昔亡命した人でも、チェコ国籍さえ持っていれば、選挙権を行使することができるのである。チェコ国内に住所のない外国在住の人は、中央ボヘミア地方の選挙区で投票することになる。
 日本という国が、国民を海外移民と称して、実は棄民していたのは明治時代のことだが、現在でも国外在住の日本人に対する扱いはあまりいいとは言えない。日本に現住所を残していて、事前に何らかの登録をした人であれば、選挙権を行使できるようだが、それ以外の人が選挙権を行使する術はないはずである。ちゃんと調べたわけではないけど、チェコの在外国民のように簡単に投票できないのは確かである。正直な話、外国人参政権とか言う前に、国外にいる日本人の扱いを改善しろよと思ってしまう。今の我々は権利の面から言えば、完全な日本人ではないのである。
 まあ、銀行に残してある貯金の利子にかかるもの以外、税金払っていないから、文句も言えないんだけどさ。あ、銀行のサービスも国外在住の人間に対して優しくないので、それもどうにかしてほしいなあ。いつの間にか導入されていたマイナンバーとかいうのも外国にいたらもらえないみたいだし。ほしくはないけれども、将来必要になったらどうしてくれるんだという気持ちはある。チェコのこの手の番号は持っているけど、日本じゃ使えないだろうしさ。

 話を戻そう。老人ホームや病院など投票所に足を運べないような人たちのために出張選挙も行なわれる。事前に申請しておけば個人の家までも投票箱を持ってきてくれるんだったかな。とにかく、かつての共産党政権の時代には、民主主義という建前を保持するために、選挙の投票率をできるだけ高める必要があったのである。その時代の名残が現在でも機能していて、そのおかげである程度の投票率の高さが、今回は全国で61パーセントほどだったが、維持されているのである。EU議会のような有権者が存在意義を認めていないものに関しては極度に下がることもあるけれどもさ。

 チェコの選挙制度にも、大きな問題点がいくつもあるが、少なくとも投票率を高めるための努力に関しては、はるかに日本の先を行く。一票の格差がどうこう言う前に、平等に投票しやすい制度を作り上げるほうが先なんじゃないのかねえ。
2017年10月23日24時。






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