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2017年10月26日

2017年下院総選挙総括(十月廿三日)



 改めて、今回の選挙の結果を挙げておくと、以下のようになる。ここに現れていない政党は5パーセントの壁を越えることができず議席を獲得できなかったのだが、最高でも自由市民同盟が1.5パーセントをちょっとだけ越えて、獲得票数に応じて国庫から支援を受けるための要件を満たしたが、ほかは、緑の党以外は1パーセントの票も獲得できなかった。結果としては死票も少なかったし、現在のチェコの有権者の民意を反映した結果だと言ってよさそうだ。

 ANO  78議席 29.64% バビシュ党
 ODS  25議席 11.32% 市民民主党(旧クラウス党)
 Piráti  22議席 10.79% 海賊党
 SPD   22議席 10.64% オカムラ党
 KSČM 15議席  7.76% 共産党
 ČSSD  15議席  7.27% 社会民主党(旧ゼマン党)
 KDU   10議席  5.80% キリスト教民主同盟人民党
 TOP09  7議席  5.31% カロウセク党
 STAN  6議席  5.18% 市長無所属連合

 九つもの政党、政治団体が下院に議席を獲得したのは、チェコの歴史の中で始めてのことである。それから、2010年の選挙までは市民民主党と社会民主党がつねに一位争いをし、どちらも30パーセント近い票と50以上の議席を獲得し、どちらかが連立与党の中心となって新政府が誕生していた。前回の2013年の選挙で、直前に政権を投げ出した市民民主党が凋落して、代わりにバビシュ氏のANOが第二党の座を手にしたのだが、今回は社会民主党も惨敗した結果、ANOの一人勝ちになってしまった。これまでこれだけ第一党と第二党の差がついたことはないらしい。ANOの議席数が中途半端なことになっているので、連立交渉に失敗して再選挙になる可能性もあることを指摘しておこう。

 結果を一目見てわかるのは、ANO、海賊党、オカムラ党という旧来の政党とは毛色の違う政党が大きく支持を伸ばしていることである。ANOとオカムラ党(別の名前だったけど)は前回の選挙でも議席を獲得したが、今回その数を大きく増やした。海賊党は前回の選挙では2.5パーセントぐらいの得票で議席は獲得できていなかったから、大躍進という意味では一番である。
 旧来の政党は、前回の大惨敗から立ち直りつつある市民民主党を除いて、みな議席を減らしている。市長連合は今回単独では始めての議席獲得だが、これまではTOP09の候補者名簿に入って議員を輩出してきたから旧来の政治家として扱っていいだろう。それでもこの党も議席を増やしたとは言ってもいいのか。

 選挙後の負けた既存政党側のコメントを見ていると、今回の結果を「民主主義の危機」という言葉で説明しようとしている党が多かったのが気になる。こういう発言をするのはチェコだけに限らず、ヨーロッパでもドイツあたりの自称良識派がポーランドやハンガリーなどの民族主義的な傾向をこの手の言葉で攻撃することがあるし、日本の野党やマスコミなんかも同じようなレトリックを使うことがある。昨年のアメリカの大統領選挙の際のいろいろな人の発言にも、トランプ大統領のことを「民主主義の敵」と呼んだり、大統領に選ばれたことを「民主主義の終わり」とかいうのがあったけれども、自分たちが選挙で勝てば「民主主義の勝利」で、負けたら「民主主義の終わり/敗北」なんて言うのは、ちょっと自分たちに都合が良すぎる言い訳ではないだろうか。
 民主主義というものにとって、最も重要なものは選挙であろう。その結果をまともに反省することなく、民主主義の危機だとかいう言葉でごまかすようでは、次の選挙も相手の自滅がない限り、勝つことはなかろう。相手をポピュリズムなどと言って批判して正義は自らの側にあると、負けたにもかかわらず強がるのは醜悪ですらある。チェコについて言えば、恐らく他の国でも、どの党もポピュリズム的な政策は主張しているわけだし、相手をポピュリズムだと批判するのは天に唾する行為である。

 90年代以降のチェコの政治文化というのは、クライアント主義とよく言われる。これは、自分の支援者に都合のいい法律や政策を制定して、支援者は国庫から金を得、政治家はそれに対する謝礼を受け取るというものである。これまで、さまざまなメディアで様々な形で批判されてきたわけだが、それがなくなったわけではないし、旧来の政党がそれに対して策を講じたという話は、ごく一部の例外を除いて聞いたことがない。
 政党が、各省庁の高官として自党員を送り込み、もしくは高官を党員として取り込むことで、省庁を操縦しようとすることも多い。そして、党の要請を受けた官僚が、党には党の支持者には利益をもたらすが、国には損害を与えるような決定をすることもある。当然ながら党員官僚も政治家もその責任を取ったり、取らされたりすることはない。
 それに、大臣や国会議員を務めた人物が、辞任したり落選したりした後に、省庁の相談役や国営企業の給料のいい地位につくことも多い。チェコでは官僚だけではなく、政治家も天下りをするのだ。そして次の選挙にはまたのうのうとして立候補する。地方議会の議員や知事、市長などでありながら国家議員に立候補して、当選したら兼任して両方の職の給料と歳費をがめるのだ。二人分の仕事をしているなどと嘯く政治家もいるけど、信じる人はいるのだろうか。この件に関しては、地方知事と国会議員の兼任を禁止する党も出てきて多少はマシになっているけれども。

 バビシュ氏が政界に進出する前に、企業の経営者として法律や制度の穴をつつくようなやり方で、資金を獲得して税金を節税したり、EUの助成金を騙し取ったと言われるようなことをしたのは、確かに批判されるべきことである。ただ、ソボトカ首相が政治活動に使うべき議員の歳費をマンション購入に当てたのと比べて、どちらが政治家として批判されるべきかというと、ソボトカ首相であろう。賄賂を受け取って特定の業者に便宜を図ったという嫌疑を受けるのも、政治家としてはバビシュ氏のやったことよりも非難されるべきである。それなのにチェコの既成政党の政治家たちは、政治家として謝礼をもらって便宜を図るのは大した罪ではないと考えているようなのだ。
 このあたりの、旧来の政治家の銭ゲバぶり、給料のいい地位への妄執などが、既存の大政党が有権者に見放されつつある最大の理由である。それに対する反省も何もない以上、バビシュ氏の過去を批判したところで、お前らも同じだろうとか、お前らよりはましだと思われておしまいである。日本では野党が自分のことは棚に挙げて与党を強く批判して、顰蹙を買っていたが、チェコでは既存の政治家が同じようなことをやって支持を落としているのである。バビシュ氏側の対応にもたいした違いはないのだけど、これまでの腐敗した政界に染まっていないというイメージだけで、支持を集められているのである。

 今後、負けた既存政党の抵抗で、連立政権が成立せずに、再選挙という可能性もあるのだが、そうなると有権者の怒りはさらに既存政党に向かい、ANOが単独で過半数を獲得して内閣を組織するということにもなりかねない。そうなるとゼマン大統領の再選も今まで以上に現実味を帯びてくるんだよなあ。

 というのが、今回の選挙の概観で、次からは個別の政党の話である。
2017年10月24日23時。







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