2016年03月02日
童話映画(二月廿八日)
最近、日本で子供向けの映画というと、アニメーション映画か、実写でも漫画が原作ということが多いが、チェコでは漫画の力が強くないこともあり事情が異なる。今でも、昔話、おとぎ話と言われるような子供向けの童話をモチーフにした映画が撮影され続けている。登場する俳優たちも、一部の子役を除けば、普通の映画と変わらず、主人公たる王子様、お姫様は、若手で実力を評価された俳優が演じることが多い。
毎年、クリスマスの時期になると、テレビはこの手の童話映画一色になる。チェコテレビでは毎年新作が一、二本放送されるが、それ以外は、一部を除くと毎年同じものを各テレビ局でローテーションしている感じである。特に定番とも言える作品は、クリスマスの時期だけではなく、夏休みや、最近ではイースターの時期に放送されることもあるので、年に三回は放送されているのではないだろうか。
ハードディスク付きのDVDレコーダーを買って十年ぐらいになるが、当初の目的は気に入った映画やドラマがテレビで放送されなくても見られるようにDVD化するというものだった。しかし、こんなに再放送が繰り返されるので、録画してDVDに落として以来一度も再生したことがない映画も山ほどあるのである。
古いところでは、「誇り高きお姫様」「金の星のお姫様」あたりを毎年テレビで見ることになる。最近は意識して見ないで、別なことをしながら時々テレビに意識を向けるという見方をしているので、両者のストーリーがごっちゃになっているのだが、前者はモノクロ映画で、プライドが高すぎて婿選びができないお姫様に、隣国の王子が庭師のふりをして近づいて親しくなり、花に二人で歌を教えたりしているうちに恋に落ち、駆け落ちしてしまうというストーリーだったかな。後者は、額に金色の星のついたお姫様が、持ち込まれた結婚話を嫌って、目立たないように鼠の皮で作ったフード付きのコートを身につけて、自分の城を出て行き、たどり着いた別のお城の厨房で働くうちに、その城の王子の嫁探しのパーティーが行われることになって、あとはお約束の結末が待っているというお話。
子供だましのご都合主義と言わば言え、子供の頃から繰り返し見続けているチェコの人にとっては、これがないとクリスマスが始まらない大切な作品で、放送されるとチャンネルを合わせてしまうという大人も多いのである。
他にも、ニェムツォバーの原作をもとにヤン・ベリフが、ブラスタ・ブリアンとともに出演している「塩は金よりも(=昔々あるところに王様が)」、アイドル歌手三人で結成したゴールデンキッズのうちのヴァーツラフ・ネツカーシュとヘレナ・ボンドラーチコバーが主役を務め、かなり前衛的な映像の出てくる実験作でもありそうな「狂おしき悲しみのお姫様」なども繰り返し放送されているが、チェコ人の間でもっとも人気のある童話映画となると「ポペルカ」以外には考えられない。
この作品はいわゆるシンデレラもので、グリム童話の「シンデレラ」とストーリーの大筋は同じである。昔、薀蓄たれの友人が「シンデレラ」というのは、ドイツ語では「灰かぶり」という名で呼ばれていて、日本にも「鉢かづき」なんて似た題名の似た話があるんだなどと言っていたが、チェコ語の題名もドイツ語と同じで灰と関係がある。チェコやドイツなどの、ヨーロッパのこの当たりには、「シンデレラ」の物語は、さまざまなバリエーションを伴って広がっていたのだろう。チェコ版の「ポペルカ」はニェムツォバーの原作がもとになっている。
70年代前半に、当時の東ドイツと共同で撮影されたこの映画には、チェコ人だけでなく、ドイツ人の俳優も出演しているらしい。もちろんドイツでも放映された、いや現在でも放映され続けているようで、撮影が行われたモリツブルクの城館には、その記念碑としてポペルカの靴の像が置かれているらしい。また、この映画は、「みつばちマーヤ」ドイツ語版の主題歌とともに、主題歌を歌ったカレル・ゴットがドイツ語圏でも不朽の人気を誇っている原因の一つとなっている。
このチェコ版シンデレラは、正式なタイトルを直訳すると「ポペルカのための三つの胡桃」(題名だということを考えると「ポペルカと三つの胡桃」と訳したほうがよさそうだけど)となるように、他の一般的なシンデレラ物語と違って、と書いて一般的なシンデレラを知らないことに気づいてしまった。それはともかく、ポペルカを見守るフクロウと、三つの胡桃の実が大切な役割を果たしている。母を亡くして継母にいじめられるポペルカをフクロウが励まし、肝心のときに胡桃の実を割ることで、ドレスや馬車などの必要なものが手に入るようになっているのだ。
監督の回想などを読むと、本来ポペルカ役に想定していたヤナ・プライソバーという女優が産休に入って、急遽別のニェムツォバー原作の映画「お祖母さん」で少女役を好演したリブシェ・シャフランコバーに白羽の矢を立てたり、当時の童話映画としては珍しく冬の撮影となったため、野外シーンで雪を求めてチェコやドイツをあちこちし、果てはスカンジナビアに出かけたりもしたと言う。コスチュームが夏の撮影を想定して作られていたので、野外での撮影中に俳優達は凍えていたと言う話もあったなあ。
とまれ、この作品で人気を不動のものにしたシャフランコバーは、以後さまざまな映画やテレビドラマに出演し、チェコ随一の人気女優になる。たしか、日本でも知られている「コーリャ」にも、どんな役だったかは覚えていないが出演しているはずである。そして、雪の中で撮影されたこの映画は、雪があるべきクリスマスの象徴として、毎年テレビで放送されるようになっていく。最近は放送回数が多すぎて、私は食傷気味ではあるけれども、チェコ人にとっては、ひょっとしたらドイツ人にとっても、クリスマス=ポペルカという等式は永遠のものなのだろう。
2月29日13時。
モリツブルクの城館のホームページは、英語版も、ドイツ語版も「ポペルカ」が取り上げられていた。チェコ語版によれば、冬の時期には「ポペルカ」を記念した展示が行われているようだ。
こんなのを発見してびっくりなのだが、商品名というか、商品の説明には大いに異がある。シャルル・ペローがどうこうとか、ゴスロリとかいうのは、不満はあるけれども、まあ解釈の問題だとして、監督名は、「ヴ」を使うなら、ヴァーツラフ・ヴォルリーチェクと書いてほしかった。それでもこんなのが日本で手に入るのは、時代だなあ。3月1日追記。
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