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2017年03月21日

悪しきもの北より(三月十八日)



 モラビアの真ん中で国境からかなり離れているオロモウツ辺りだと、そんなに感じられないのだが、モラビアの北部、オロモウツ地方でもイェセニークの辺りだとか、旧シレジアにあたる地域だと、よくないものは、たいてい北から、つまりはポーランドからやってくると感じている人が多そうだ。歴史的に見れば、1938年のミュンヘン協定の際に、国境を越えて攻撃してきたのも、1968年のプラハの春のときにソ連軍と一緒に「解放」のために現れたのも、北のポーランドの軍隊であった。
 最近もサルモネラ菌に汚染された卵や賞味期限の切れた肉がポーランドから輸入されていたなんて話もあるし、雪が降ったときに雪を溶かすために道路に撒く工業用の塩を使って生産した加工食品が輸入されたなんてこともあった。それにストゥデーンカの鉄道事故を起こしたトラックの運転手もポーランド人だった。
 だから、ポーランドとの国境近くでメチルアルコール中毒で亡くなる人が出たときに、真っ先に疑われたのはポーランドから密輸された酒ではないかということだった。その後ポーランドでも犠牲者が出たことで決まりかと思われたのだが、実は犯人はズリーンの酒の密売組織だった。

 とまれ、サッカーの世界でも悪いものが北からやってくる。チェコ最悪のファンを誇るバニーク・オストラバだが、このチームがライバルチームと試合をするときには、ポーランドから援軍が押し寄せてくるのだ。カトビツェのチームとファン同士のあいだで同盟関係にあるらしく、ポーランドでサッカーの観戦を禁止されている連中が、スタジアムで暴れるために、バニークファンに扮してチェコにまでやってくるわけだ。逆もあるのかもしれないが、オストラバのファンがポーランドで暴れたという話は聞かない。多分、あっちの方が暴れたファンに対する処罰が厳しいのだろう。
 現在二部にいるバニーク・オストラバとオパバの試合が、今日の午後行なわれた。歴史のあるチェコ側のシレジアの首都であったオパバと、モラビアとの国境地帯に石炭の採掘のために建設された新しい工業都市オストラバのファンたちの間には、強烈なライバル意識があるらしい。ここ数年は所属するリーグが違ったのだが、バニークが二部に落ちたことで対戦が実現し、秋のオストラバでの試合でもあれこれ問題を起こしていた。

 今回は、オパバでの試合で、ラジオでは朝から、警察がオパバに特別の部隊を派遣して警戒態勢に当たっているとか、ファンが暴れる可能性が高いから、スタジアムには近づくなとか報じていた。試合自体は特に問題もなく終わったのだが、試合以外のところでさまざまな問題を残してオストラバに帰っていった。オパバの人にとっては災いは北からだけでなく東からも来るのか。
 オストラバのファンたちの多くはオストラバから鉄道でオパバに向かったらしい。鉄道の車両の被害については今更コメントするまでもあるまい。駅についてやつらが最初にやったのは、ホームから線路に向けての放尿だった。
 そして警察に包囲されてスタジアムに近づきオパバのファンの姿を認めると、発炎筒をたいたり爆竹を持ち出して投げ始めたりしたらしい。警察はこの連中をスタジアムに入れないことに決め、隣の公園に押し戻したのだけど、その際に押し合いになって、また火薬の存在もあって、警察側にもファン側にも多くのけが人が出たようだ。話によると、ズリーンから出動した馬の部隊のうちの一頭が、顔に爆竹を投げつけられ怪我をしたともいう。
(※このとき、オストラバのファンの多くは入場券を持っておらず、スタジアムに入れないことはわかった上で暴れるためにオパバまで出かけたらしい。騒ぎに加わらずにサッカーを観戦したオストラバのファンは30人ほどだったという。3月20日追記)
 結局、50人以上のファンが逮捕され、残りの連中は、スタジアムで試合を見ることなく、オパバからオストラバに向かう電車に押し込まれて帰宅の途についた。今回オパバに出向いたオストラバのファンの全員が全員、過激な暴力集団というわけでもないのだろうけど、こういうのを見た上でサッカーを見に行きたいと考える人はあまりいるまい。

 バニークはここ数年財政上の問題で存続の危機を言われているのだが、いっそのこと一度倒産させてしまった方がいいのではないだろうか。その上で、ボヘミアンズのように、本当のサッカー好きのファンの手で新しいクラブとして再建することができたら、ファンとは名ばかりの、暴れたいだけの連中を排除できそうな気がする。連中がクラブの再建に協力するとも思えないし、これまでのクラブとファン集団の関係を一度断ち切ることになるので、チケット販売の際に身分証明書の提示を求めるなんていう制度の導入も可能になると思うのだけど。

 公平を期すために、暴れたのがオストラバのファンだけではなかったことは記しておいたほうがよさそうだ。オストラバのファンがスタジアムに向かいそうな道で待ちうけ、住宅の塀を破壊するなどしていたようだ。シレジアダービーと言われるだけあって、ライバル意識が強すぎるのである。
 そして、オストラバ側にもオパバ側にもポーランドから出張してきた連中がかなりの数いて乱行の中心となっていたらしい。やはり災いは北からやってくるのである。
3月19日18時。

 日曜日の朝、ポーランドからやってきたファンが酔っ払って鉄道の線路を歩いていて、電車に轢かれて亡くなったらしい。オパバ側の応援できたらしいけれども、オパバのファンではなく、ファン同士が協定を結んでいるポーランドのチームのファンらしい。こういうファン同士の結びつきがあるのも、このポーランドとの国境地帯のサッカー界の宿痾である。



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