2019年12月16日
コウノトリの巣事件終わらず(十二月十三日)
イギリスの臨時総選挙で、ブレグジットを実行することを主張する保守党が大勝した。その理由として、イギリス人たちのブレグジット疲れと言うものを挙げている記事があったが、わかる気がする。EUの反対側のチェコに住んでいても、いい加減どっちかに決めてくれという雰囲気がEU側にもあるのを感じる。これで現在のEUにおける最大の問題の一つが片付くことを期待しよう。イギリスの国会で議論が紛糾する可能性はまだ残っているのだろうけど、今回の有権者が示したとっととけりをつけろという意志は無視できまい。
ブレグジット問題で夏時間の問題が先送りされたことに対する不満はすでにぶちまけたわけだけれども、チェコでもそろそろどっちでもいいからけりをつけてほしいと思われている問題がある。それが、バビシュ首相がEUの助成金を詐取したとされるコウノトリの巣事件である。バビシュ首相も、EUの助成金のルールである5年を過ぎたところで、急いでアグロフェルト社のものにしないで、コウノトリの巣社を維持しておけばここまで問題にされることもなかったのだろうけど、俺のものだと自慢する自己顕示欲にか勝てなかったのかねえ。
それはともかく、この問題は検察の担当者が、関係する書類を精査した上で起訴手続きを停止するという、予想外の決定をしたことで、少なくともチェコの法律上は一件落着になったものと思っていた。その後、検察の長官が再度チェックした上で最終的な決定なるという話は聞いていたが、部下の決定を簡単にはひっくり返すまいと予想していたのだ。
しかし、予想に反して、もしくは野党やマスコミの予想通りゼマン長官は、部下の決定を分析が不十分だとして差し戻す決定をした。これでバビシュ氏が起訴されるということではなく、コウノトリの巣事件が起訴に値するかどうかを再度検討することになるようだ。つまりこれからまたしばらくは、この問題でああでもないこうでもないと言う議論というか、喚き合いが続くことになる。正直、起訴でも不起訴でもどっちでもいいからとっとと決めてくれと思っているチェコ人は多いはずだ。
今のバビシュ首相の支持者が、起訴されたからと言って支持をやめるとは思えないから、起訴となっても、デモの数や辞任を求める声は高まるかもしれないけど、選挙の結果にはあまり影響はなさそうである。今年の夏辺りから、ビロード革命以来30年ぶりという規模で反政府デモが繰り返されているけれども、そのデモの高まりが、バビシュ氏のANOの支持率の低下にはほとんどつながっていないというのが現実である。
日本も有権者が、野党とマスコミが延々と繰り広げる安部批判劇場にうんざりしているようだけど、チェコの場合にも同じような傾向が見える。この手の疑惑というのは、表面にでたときが一番のたたき時なのだから、そこで辞任に追い込めなかった以上、同じ疑惑を執拗に追及しても、よほどの真実でも出てこない限り、目的を達成するのはなかなか難しいだろう。むしろ有権者に瑣末なことにこだわりすぎているという印象を与えかねない。
ところで、チェコの検察の組織というのは、いまいちよくわからない。ゼマン氏が検察の長、いわば検察庁長官なのは間違いないのだが、それとは別に、プラハとオロモウツに高等検察のようなものがあって、その長である二人も重要な役割を果たしているようで、しばしばニュースに登場するような決定を下している。検察に三人の長がいて、それぞれがバラバラに仕事をしているような印象を与える。
これまで何度か繰り返されてきた反政府デモの理由のひとつが、政府による検察人事への介入を防ぐというもので、バビシュ首相が法務大臣を通じてゼマン氏を解任するのを防ごうとしているようだ。ベネショバー氏を法務大臣に任命したこと自体も批判の対象になっているのだが、現時点ではバビシュ政権は、検察の人事への介入はしていない。むしろ現在のゼマン長官が就任したときに、政治的な理由による長官の交代だと批判されていたはずだ。あれは誰が首相のときだったか。
ベネショバー氏は、政治家による検察の長の首のすげ替えができないように、長官たちの任期を決めてその期間は原則として解任できないという法律を準備しているようだ。それによってゼマン氏を解任する気はないことを証明しようとしているのだろうが、反対派を説得することはできていない。こういうのは、坊主憎けりゃ袈裟までにくいになりやすいからなあ。
検察だけの話ではないのだが、チェコの最大の問題の一つは、政と官が密接に結びつきすぎていることにある。日本の場合には官僚が結びつくのは原則として自民党で、出世争いに負けたりスキャンダルで解任されたりした連中が野党につくというのが基本的な構図だけど、チェコの場合には、各政党が党員を官僚として省庁に送り込んだり、官僚が政党に入党したりしている。特に社会民主党や市民民主党の既存の政党に多い話だが、公務員の不党不偏なんてのは存在しないのである。
警察や検察でも、いくつかの政党と結びつく勢力があって、それぞれに手柄争いをしているのが、チェコで政治家の汚職がひんぱんに摘発される理由のひとつになっているらしい。火のないところに煙は立たずで、でっちあげでの摘発はないようだが、味方の問題は見逃して敵対勢力の汚職は機を見て摘発しているのだとか。警察組織の改組がしばしば行なわれるのも、政党との結びつきを断ち切ることを目的にしているという話もある。
それはともかく、この件についてもとっととけりをつけて、刑事裁判の被告兼首相という前代未聞の存在を作り出してほしいと思う。今の状態には心底うんざりなので、せめて笑い話になる結末を求めたい。EUの議長国の首相が刑事裁判の被告、もしくは檻の中というのも乙な話じゃないかい?
2019年12月14日21時。
タグ:バビシュ首相
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