2016年01月17日
ソニーリーダーを讃えよ(一月十三日)
2010年の秋に、ソニーのリーダーが発売されたとき、すぐにほしいと思った。同時期に発売されたシャープのガラパゴスには、まったく食指が動かなかった。私が欲しかったのは、電子書籍の読めるミニPCではなく、紙の本の代わりだったのだ。
雑誌などの比較記事ではリーダーはモノクロで、通信機能も付いていないなどというまったく的外れな批判を見受けたが、おそらく本を読まない電子機器の専門家が書いたのだろう。真の活字中毒者であれば、カラーなど不要だし(マンガのカラーページがモノクロになったところで、ストーリーには変化はないし、表紙のカバー絵なんて本を選ぶときには重要でも読む際には不要だ)、本に通信機能なんか求めはしないのである。むしろ、音楽が聴ける機能が付いていたり、辞書が入っていたりするのに、無駄なことをという感想を持つはずである。大切なのは、快適に読めることで、それ以外の事は些末事にもならないのである。
ソニーの製品を、カタログスペックだけで購入するのは危険なので、すぐには飛びつかず、ネット上で購入者の体験記をあれこれ拾い読みした。最大の懸念はファイル管理のための転送ソフトだったのだが、実はそんなものは不要で、USB接続で充電する際に、普通のUSBメモリーと同じように認識されるので、所定のフォルダにコピーしてやればいいということだった。それまでチェコ語版ウィンドウズを使っているせいで、日本語のソフトがまともに機能しないという体験を何度もしていただけに、これはありがたかった。
また、いちように称賛されていたのが画面の見やすさ、文字の読みやすさだった。これはカタログでも強調されていたことではあるが、メーカーの宣伝文句ではなく、実際に使った人の実感として目に優しいというのは、仕事でもコンピューターを使うことが多く目に疲労を感じることの多い私には、非常に魅力的だった。
それでも、購入には踏み切れず、どうしようか悩んでいたところに、半年ほど日本に滞在していた知人が、たまたま発売されたばかりだったリーダーを購入して帰ってきたことがわかり、お願いして見せてもらった。PDFのファイルを楽に読むために購入したらしく、日本の電子書籍はサンプルしか入っていなかったが、二、三ページ見るだけで十分だった。その電子機器とは思えない画面に、買わないという選択肢は消滅した。ただ、外国にいる悲しさ、実際に手に入れるまでにはまたしばらくの時間が必要で、無理を言える友人が日本に行く七月まで待たなければならなかったのだった。
そして実際に手に入れたリーダーにXMDF形式の電子書籍を入れて読んだときの満足感は、もうPCで読むのはやめようと思わせるに十分だった。だから、その後の一年ほどの間に、ソニー製品はいつ生産中止になって新しいものが購入できなくなってもおかしくないので、日本に住んでいる友人にもお願いして、全部で四台確保したのである。一号機はすでに電源の調子がおかしくなっているので、湿気で寿命が短くなることは覚悟のうえで、風呂場で湯に浸かりながら読むのにも使っているし、メインで使っている二号機も、バッテリーの持ちが悪くなってきたので、そろそろ三号機を箱から出して投入しようかと考えているところである。一号機のもち具合を考えると、これで、少なくともあと十年ぐらいはリーダーを使い続けられるはずである。
リーダーを購入して、本体に対する不満はない。USBで充電中は読めないのが最初は不満だったが、これは専用の充電アダプターを購入しなかったこっちのミスだし、二号機投入後は、一台が充電中は、もう一台で読めるようになったので不満の持ちようもない。
許せなかったのは、広告には、一度充電すれば、二週間だったか、三週間だったか、とにかく長期間読み続けられると書いてあったのに、ひんぱんに充電しなければならないことだった。購入以来、一週間に一度も充電しなかった週なんて存在しない。これは本体の問題ではなくて、広告やカタログに載せる数値を出す際に、想定する読書量、読書時間が、話にならないぐらい少ないことによるのだ。ソニーには活字中毒者の心理がまったくわかっていないのである。
実感値としては、一度の充電で読めるのは、テキスト主体のPDFで五千ページは読めるけど一万ページは読めないぐらいだっただろうか。現在は使いすぎたせいか五千ページにも届かないかもしれない。ならば、ここは、一日中読み続けても大丈夫とか、徹夜で読んでもまだ読めるとか、読書時間を細切れにして、長期間読めるというのではなく、連続で何時間読めるのかに焦点を当てたほうが、本当の読書狂いを引きつけることができただろうに、もったいない話である。
もったいないといえば、ソニー独自で書籍の販売サイトを立ち上げて読者の囲い込みをはかったことも、無駄な努力だったのではなかろうか。以前、ある出版社がソニーに買収されて傘下に入ったときにも、話題になったことだが、ソニーは本の売り方がわかっていない。ソニーが囲い込むべきは、読者ではなく、電子書籍の販売サイトだったのである。リーダーを持つ人がみなソニーの本屋で購入するという状況ではなく、どの販売サイトで購入した電子書籍でもリーダーで読めるという状態を作り出すべきだったのだ。その上で、どうしても機器認証とか登録などのややこしい手続きが必要なのであれば、ソニーのサイトでユーザー登録する際に、同時に販売サイト用の機器登録もできるとか、手続きの簡略化ができるようなシステムを構築していれば、もう少しは戦えたと思うのだが。
2014年にリーダーが北米市場から撤退したというニュースが流れ、以降日本市場でも新製品の投入がないことを考えると、ソニーはリーダーを諦めたのかもしれない。キンドル如きに、負けたと思うと、リーダーユーザーとしては、泣きたくなるくらい悲しい。やはり、ハードで勝負するべきソニーが、ソフトの販売で儲けようというのが間違っているのだと、ソニーというブランドにいまだに特別の輝きを感じてしまう世代の私としては思うのである。今後、電子書籍リーダーからソニーが完全に撤退するとしても、将来四号機が寿命を迎えるころに、コンセプトを見直した上で再参入してもらいたいという誠に自分本位な希望を込めて、改めて断言しておく。ソニーのリーダーは素晴らしいと。
1月14日21時45分
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