2019年06月21日
大統領の話(六月十九日)
先週の土曜日に、スロバキアで初の女性大統領が就任した。40代で就任式に臨んだチャプトバー氏は女性であるだけでなく、世界中で最も若い大統領でもあるらしい。就任演説は当然スロバキア語で、いまいちよくわからなかったのだけど、なかなか立派な演説だったらしい。就任して最初の演説から物議を醸すようでは先が思いやられるし、何かと批判されるチェコのゼマン大統領でさえ、一期目の就任演説は、二期目のに比べたらはるかに穏当なものだったと記憶する。
就任式の会場となったのは、スロバキア・フィルハーモニー管弦楽団が本拠地としている建物で、三権に関わる国会議員や大臣(同時に議員でもある場合が多いけど)、最高裁判所長官などが参列していた。もちろん、それ以外にも、退任する大統領のキスカ氏や、招待された人たちがいたわけだが、その中にはスロバキアのキリスト教における重鎮たちもいた。
そして、就任式が終わり、軍の閲兵式が行われた後は、キリスト教の教会で、新大統領の就任を寿ぐミサが行われ、就任式に参列した人の多くが参加したのである。日本と違って、これに政教分離の原則に違反すると言っていちゃもんを付けた人はいなかった。少なくともチェコのニュースで取り上げられるレベルで批判する人はいなかった。
この教会での儀式が宗教儀式であることは、誰にも否定できないことだが、この程度のことは政教分離の原則からは外れないと考えられているわけである。この事実に日本の政教分離にうるさい人たちはどんな感想を持つのだろうか。先月初めの今上陛下の即位の儀式に関しても、チェコで政教分離云々という批判は聞こえてこなかった。仮に政教分離の問題が、話題になるとすれば、それは日本で問題にしている人がいるという文脈でしかありえない。
ところで、スロバキアで新しい大統領が就任すると、直後に最初の外国訪問としてチェコを訪れるのが慣例となっている。もちろん、チェコの大統領も就任式典を終えると、再任の場合でも最初にスロバキアを訪れるのだが、チャプトバー氏も今週チェコに来て、ゼマン大統領をはじめとする政治家達と会談することになっている。
そのチャプトバー大統領を迎える側のチェコの大統領府が、またまた問題を起こした。チェコの大統領の就任式が行われるのは、プラハ城内のスペインの間と呼ばれる大きな部屋で、この部屋は、毎年秋に勲章の授与式も行われるなど、チェコの国家にとって最も重要な儀式が行なわれる場所だといっていい。そのスペインの間を含むプラハ城の一角を、私企業に貸し出すことにしたというのだ。
借りる会社は、ルイ・ビトン社で、これまでにもプラハのカレル橋を貸切にしようと、プラハ市と交渉して断られたことがあるらしい。この会社ならプラハ城を貶めるようなことはしないだろうというコメントを出している人もいたけれども、国家の最も重要な儀式を行なう場を、一私営企業に時間を限ってとはいえ売り渡すとはどういうことだと強く批判している人たちもいる。チェコの国の権威を傷つけているというのである。
ルイ・ビトン社が何をする気なのかは知らないが、5日間の貸しきり期間は観光客も観光ルートの一部からは締め出されることになるようだ。貸切にする料金としてどのぐらい取ったのか気になることころだが、小さな金額ではあるまい。大統領府ではそれをどうするつもりなのだろうか。考えられるのは、ゼマン大統領が以前鳴り物入りで開いた、チェコの国の謝金を返すために寄付を募るための口座に入金することである。この計画も当初は大々的に宣伝されて、寄付した人も痛みたいだけど、最近はトンと話を聞かなくなった。この機会に、貸出料金の何億コルナ(せめてそれぐらいは取っていてほしい)を、チェコの借金返済のために寄付するなんてニュースを流せば、寄付が増えるかもしれないし、批判も多少は減ると思うんだけど。
ルイ・ビトン社にプラハ城の一角を貸し出したことは、チャプトバー氏のチェコ訪問にも影響があったらしい。スロバキアの大統領の就任式の日程は以前から決まっていて、そこからチェコを訪問する時期もある程度予測できていたはすなのだから、貸し出すなら貸し出すで日程を考えろよと思ってしまった。とはいえ、このニュースを最初に聞いたときに思ったのは、わざとスロバキアの大統領のチェコ訪問の日程に被せたんじゃないかということだった。
でも、ゼマン大統領とチャプトバー大統領、会談でどんな話をするのだろうか。話が全くかみ合わなさそうな気がする。
2019年6月20日24時。
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