2019年05月20日
EU議会選挙@(五月十八日)
先日テレビをつけたら、みょうちくりんな番組をやっていた。素人が作った出来損ないの短いビデオクリップを延々と流す番組かと思ったら、来週末に迫ったEU議会選挙に候補者を立てた政党が、自党の選挙公約を有権者に伝えるために使える番組だった。日本の政見放送みたいなもので、政党によっては権利を使用しないこともあり、その場合「この時間は何々党に与えられた時間です」という表示だけが出ているのも日本の政見放送と同じだった。
違うのは、日本の政見放送が、大抵は党首が出てきて、みんな同じスタジオで選挙の公役を説明するのに対して、チェコは各政党が独自の予算で製作したビデオを放映するところだ。そのビデオが、程度の差はあれ、どこの政党のものもできの悪いビデオクリップみたいな代物で、チェコの選挙が真面目な議論よりも、人気取り合戦に傾いていることを証明している。どこかの党なんか、お金があるのか、ボランティアなのか有名俳優まで出演していた。それでも悲しくなるぐらいチープだったけど。
今回のEU議会の選挙は、チェコのEU加盟以来、四回目の選挙ということになる。回を追うたびに徐々に定数が減らされて今回は21議席を争う。チェコ全体が一つの選挙区となる比例代表式で行なわれる。定数が少ないため、議席の獲得が難しいと思われる小党のなかには野合して合同で候補者名簿を作成しているところもある。それでも今回はあわせて40の政党、政治団体が候補者を立てているから、チェコ人ってやはり、政治好きで選挙好きなのである。
EU議会の選挙は、大政党にとっては、国内の上院下院の選挙、地方議会の選挙と比べると重要度は低く、候補者の中にも誰でも知っているというような知名度の高い人はほとんどいない。しかし、選挙時点の有権者の動向を確認でき、場合によってはそれに影響を及ぼせるので、資金のある大政党はそれなりのお金をつぎ込んでいるようだ。公営選挙って何? の世界である。
それでは、今年の選挙の結果が出る前に過去 の選挙のおさらいをしておこう。
チェコで最初にEU議会の選挙が行なわれたのは、2004年の6月のことだった。5月1日付けで、チェコなどの旧共産圏諸国がEUに正式加盟を果たしているから、この選挙に合わせる形で加盟の日程が調整されたと考えてよさそうだ。加盟直後にEUの将来を決める(可能性のある)選挙に参加できるというのは、新たな加盟国の国民にたいするEUの求心力を高めるのに役に立ちそうである。議席数も現在より三議席多い24議席が与えられていた。とはいえ、その期待を裏切るかのように、投票率は28パーセント強に終わってしまうのだが。
選挙の結果は以下の通り。( )内は得票率。
市民民主党 9(30)
共産党 6(20)
SNK – ED 3(11)
キリスト教民主同盟 2(9.5)
社会民主党 2(8.8)
無所属 2(8.2)
候補者を立てた32の団体のうち議席を獲得できたのは、以上の6つのみ。
なじみのないところから行くと、三番目のSNKは政党に所属しない人たちが作った政治団体で、最後の無所属は無所属の人たちが共同で候補者名簿を作成したもののようだ。チェコではこの手の無所属、政党に属していないことを団体名にする例が非常に多く、正直言ってわけがわからない。無所属と訳すより独立系候補なんて訳したほうがいいのかもしれない。とまれ、SNKと組んだEDは、ヨーロッパ民主党とでも訳せるような政党で、後にこの二つの政党は合併している。
このときの選挙結果を一言で言えば、社会民主党の惨敗ということになる。当時は2002年の下院選挙で第一党になった社会民主党党首のシュピドラ氏が、前任のゼマン氏の後をついで首相を勤めていたのだが、党内の状況は最悪と言ってもよかった。ゼマン氏が首相と党首の座を退いた理由は、2003年のハベル大統領退任後最初の大統領選挙に勝つためだったと考えられるのだが、この選挙、国会議員の投票によって行なわれた選挙で、ゼマン氏は決選投票にも進めないという惨敗を喫してしまう。
社会民主党内は、ゼマン派と反ゼマン派だけではなく、さまざまな形で分裂しており、それぞれのグループがそれぞれの思惑で動いた結果、自党の候補者を、所属する議員の数からするとありえないレベルでの惨敗に追い込んでしまったのである。その影響がこのEU議会選挙まで続いており、支持者を失った、もしくは支持者の多くが投票に行かなかった結果、社会民主党は惨敗を喫してしまったのである。
2003年の大統領選挙以降、党内の求心力を失い、団結を訴えるも全く成果を上げられなかったシュピドラ首相は、EU議会選挙の惨敗を受けて党首を辞任し、その結果として首相の座も退くことになる。この頃のシュピドラ氏はテレビのニュースで見かけるたびに、顔色が悪化し、最後はこのままでは命にかかわるんじゃないかと思えるぐらいだったから、健康のためにも辞任は必至だったのだろう。先日久しぶりに見かけた氏は別人のように生き生きとしていた。
とまれ、EU議会の選挙で、社会民主党が惨敗した結果、30代半ばという若さで首相に就任したことだけで日本でもニュースになったグロス首相が誕生する。この、政治家としての能力よりも党内の調整能力だけで首相にまで上り詰めたといわれるグロス氏の存在も、金銭スキャンダルで辞職に追い込まれたことも含めてなかなか謎である。
共産党が第二位に入ったのは、数は少なくても毎回選挙に行く熱心な支持者がいることの証明であろう。投票率が低い選挙では固定票を持っている政党が強いのは日本もチェコも変わらない。
最後に勝者の市民民主党に関しては、前年の大統領選挙に次ぐ勝利で、創設者のクラウス氏のあと、二代目の党首となったトポラーネク氏の党内での地位が固まることになった。市民民主党自体は反EUではないが、チェコを代表するEU懐疑論者であるクラウス氏の影響力の強い市民民主党が最初の選挙で勝ったことは、その後の、EUとチェコの理想的とはいいがたい、チェコ側からすると期待はずれなEUとチェコの関係を示唆していたのかもしれない。
このころはEU万歳的な論調が多かったと記憶しているんだけどね。
2019年5月19日19時。
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