2019年05月08日
チェコ土産、もしくは記念に〈続〉(五月六日)
二つ目はこれもモラビアの、ノビー・イチーンにある帽子の製造会社TONAKである。家具のTONと似ているから、しょっちゅう混同してしまうのだけど、末尾の「K」はチェコ語の帽子「klobouk」の「K」だと覚えておくと間違えないかもしれない。何度言い聞かせても忘れてしまうんだけどね。
日本には帽子をかぶるという文化がないので、せいぜい夏の暑い時期に子供たちが麦わら帽子をかぶったり、野球帽をかぶったりするぐらいだけど、チェコでも普段はスーツを着て帽子をかぶっているというスタイルの人を見かけることは少ない。もちろん、冬の寒い時期には毛糸の帽子をかぶって防寒に努めているけど、TONAKで扱っているような帽子とは用途が違う。
ただ、古い、チェコスロバキア第一共和国の時代の映画なんかを見ると、スーツを着て、つまり正装で外出する場合に帽子をかぶっている男性がしばしば登場する。ああいうのを見ると自分もかぶってみたいと思わなくもないのだが、スーツを着る機会が皆無になっているので、ラフなスタイルに「帽子」が合うものかどうか心もとない。コートを羽織っていれば何とかなるかなあ。でも、コートが必要な時期には耳も隠れる毛糸の帽子をかぶってしまうか。
チェコのレストランなんかの壁にある上着をかける金具が、上下二本ずつのセットになっているのも、本来は下に服をかけて、その上に帽子をかけるという形で使われていたものなのだろう。もしかしたら今でも昔のように、正装して帽子をかぶってレストランに通う人もいるのかもしれない。だからと言って、そのためだけにスーツ着るのもなあ。
歴史的な話をすると、ノビー・イチーン地方では、歴史的に帽子の生産が行われてきたようであるが、このTonakの前身となる工場が設立されたのは、18世紀末の1799年のことだった。創設者はJan Nepomuk Hückelというのだが、前半二つはチェコっぽく、最後はドイツっぽい名前である。「ネポムク」というのはチェコのカトリックの聖人ヤン・ネポムツキーの姓の由来となった町の名前である。それがドイツ系の人の名前に使われているのは、チェコ人とドイツ人の民族的な違いよりも、カトリックとプロテスタントという宗教的な違いのほうが重視されていた表れであろうか。
チェコ語のウィキペディアによると、もともと創設者の名前が付けられていたこの会社は第二次世界大戦後に国有化された後、チェコ語の「帽子工場」の頭文字をとった名前Tonakに改称され、1975年に一度消滅したようだ。その後、どのような経緯で復活して、生産と販売を再開したのかはわからない。チェコの企業の中には、HPに社史を公開しているところも多いのだが、残念ながらTonakのHPには歴史については全く記されていない。また、ウィキペディアには同業の「Fezko」という会社によって買収されたともあるのだが、この会社についてもよくわからない。
Eショップで製品を見ると、冬用の帽子やいまや懐かしいベレー帽、麦藁帽子なんかも取り扱っているようだ。でも、どうせ買うなら、エレガントなフェルト帽とか、東京という名前の帽子、もしくは色が緑に決まっている狩猟用の帽子のほうがいいと思う。ちょっと高いのと、自分に似合いそうにないというのが難点だけど。
工場のあるノビー・イチーンの町は、オロモウツから鉄道を使うと乗り換えの関係で一時間以上かかるようだが、レギオジェットのバスを使うと直通で45分ぐらいで着くようである。以前から行ってみたいと思っていたところなので、今年の夏には話のネタに足を運ぶかもしれない。Tonakの工場の近くには創業者のHückel一族のものと思われる邸宅がいくつか残っているみたいだし、中に入れなかったとしても、近代建築のファンとしては外から見るだけで充分である。中については恐らく「シュムナー・ムニェスタ」で90年代の姿を見ることができるし。
街の中心には城館が残っていて、ジェロティーン一族の名がかつけられてジェロティーン城と呼ばれている。ということは、宗教戦争がたけなわだった頃のモラビアでフス派の諸侯の中心だったこの家の歴史についても知ることができそうだ。どうせノビー・イチーンまで行くのなら隣のスタリー・イチーンにも行って、丘の上の城跡にも登りたいところである。
かくて今年の夏の計画だけが増えていく。実際に行けるかどうかはわからないけど。あまり暑くならなかったら行けると思うけど、熱くなったらまたオロモウツで引きこもることになりそうだし。
2019年5月7日23時。
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