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2019年04月29日

地名と形容詞の関係(四月廿七日)



 S先生の著書だったか、ブログだったかを読んでいたら、コメンスキーという名字は、出身地とされるコムニャという地名から作り出された名字だということが書かれていて、あれっと思った。

 チェコ人の名字の中には、形容詞形のものがかなりあって、地名からできた形容詞を名字にしている人も少なくない。日本でも知られている人名だと、未だに年配の方々にとってはチェコの象徴であり続けている「チャスラフスカ」氏の名前が挙げられる。この東京オリンピックで活躍した体操選手の名前は、当時は英語を経由して日本語表記がなされていたからか、長音を無視した形で表記されているが、実際のチェコ語の発音に近いのは「チャースラフスカー」である。
 この名字は、中央ボヘミアの空軍の基地があることで有名なチャースラフという地名にちなんでいる。地名「Čáslav」に接尾語をつけて作られた形容詞「Čáslavský」の女性形が「Čáslavská」で、チャスラフという地名が存在せず、形容詞の女性形であることを考えると、「チャスラフスカ」という表記は定着してしまっているけど、言いにくいし正しいとは言いがたいのである。

 だから、コメンスキーも地名からできた形容詞を名字にしたものだという指摘には、なるほどと納得することはできた。それでもあれっと思ったのは、コメンスキーよりもコムニャに似ているコムニャツキーという名字が存在することを知っていたからである。チェコ語の特徴に基づいて、よく考えれば、コムニャからコメンスキーというのもありうることはわかる(後述)のだけど、どちらの形が、コムニャから作られる形容詞としては、一般的なのだろうか。
 ということで、地名から作られる形容詞についてちょっと考えて見る。チェコ語の文法書なんかには結論が書かれているのだろうけど、それをそのまま書いても面白くないので、経験に基づいて説明する。

 まず、一番簡単なのは、チャースラフのように、子音「V」で終わる地名である。そのまま形容詞の語尾である「ský」をつけてやればいい。「Přerov → přerovský」「Břeclav → břeclavský」がその例である。「V」意外でも子音で終わる地名の多くはこのグループに属する。例えば、「Plzeň → plzeňský」「Tábor → táborský」の類である。ターボルスキーって、サッカーの解説者とか俳優の名前に見かけた記憶がある。末尾の子音によっては、例の子音交代が起こる可能性もあるけど、そんな地名が思いつかないので、保留にしておく。
 それに対して、オロモウツのように「C」で終わる地名の場合には、「ký」だけをつける。オロモウツスキーなんて言いにくいし、オロモウツキーで十分なのである。他にも「Liberec → liberecký」なんてのがある。似ているのが、子音二つの「st」で終わるもので、「ecký」をつけて、「Most → mostecký」となる。「mostcký」なんて発音しづらいしね。また同じ子音が二つでも「RK」で終わる地名の場合には、「K」を取り去って、「ský」をつける。「Šumperk → šumperský」とかね。

 次は、母音で終わる地名の場合だが、これは母音を取り去ったあとの末尾の子音によって決まる。ルールは子音で終わる地名の場合と同様である。つまり「Ostrava → ostrav → ostravský」「Svitvy → svitav → sviavský」「Veselí → vesel → veselský」「Pardubice → pardubic → parudubický」「Ústí → úst → ústecký」などなど。
 注意する必要があるのは、「Praha → prah →pražský」のように、形容詞化する際に子音交代を起こす地名と、母音を取り去った後に、子音が二つ残る地名の場合である。前者はそれこそプラハぐらいしか存在しないし、特に気にすることもないのだが、後者は懸案のコムニャとも関係してくるので、ちゃんと考えなければならない。

 母音を取り去って子音が二つ残る名詞で、思いつくのはブルノ、クラドノ、ズノイモと中性名詞ばかりなのだが、形容詞化すると、「Brno → brněnský」「Kladno → kladenský」「Znojmo → znojemský」と発音をしやすくするためか、子音二つの間に「e」が出てくるのである。「a」で終わる女性名詞は思いつかなかったのだが、形容詞型の地名レトナーがあった。これも長母音の「á」を取り去って「e」を入れた結果、「Letná → letenský」となるのである。
 ということは、コメンスキーの出身地とされる「Komňa」もこのグループに入ると考えてよさそうである。ただし一つだけ疑問があって、普通に考えれば「Komňa → komeňský」となりそうなのに、ハーチェクが消えて「komenský」になってしまったのはなぜなのだろう。「eňský」という文字の並びには、「plzeňský」という例があるわけだから、特に忌避される理由もなさそうである。

 最後にもう一度冒頭の疑問に戻っておけば、母音で終わる地名にそのまま接尾辞をつけて形容詞化する事例は見つからないので、コムニャツキーというのは、コムニャから作られた形容詞であるのは間違いないにしても、チェコ語の正しいとされる文法からは外れた方言形か何かなのだろう。とはいえ、コメンスキーのほうも、微妙に音が変わっているからなあ。ブルノの形容詞も方向が逆だとは言え、音が変わっているから、コムニャからできる形容詞はコメンスキーでいいのだということにしておこう。
2019年4月27日22時。










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