2019年03月27日
「もぐらとパンダ」放送禁止(三月廿五日)
七時のニュースを見ていたら、中国のテレビ局が制作したアニメ「もぐらとパンダ」が放送することができなくなったというニュースが流れた。子どものころにNHKで色鉛筆で描かれたようなアニメ「もぐらと自動車」「もぐらとズボン」を見て以来のクルテクファンとしては、このニュースは大歓迎で、思わず万歳してしまいたくなるほどなのだけど、一応説明しておくことにする。以前書いたことと重なる部分があるのは御寛恕いただきたい。
クルテクを生み出したズデニェク・ミレルは、数年前になくなったのだが、生前から著作権管理のための財団を設立して、あちこちに与えた使用権の管理を任せていて、没後もその財団が著作権の管理を続けていた。それが、孫娘に当たる人物が、祖父が亡くなる直前に自分に著作権を譲るという遺書、もしくは契約書を残したと主張して、新たに会社を設立してクルテクの使用権をねたにしたビジネスを始めたのがすべての発端だった。
もちろん、ミレル氏の設立した財団は、孫娘には著作権の使用許諾を出す権利はないとして、差し止めを求める裁判を起こして、クルテクが濫用されないようにしていたのだが、チェコの裁判は長くかかるもので、裁判で最高裁まで行って判決が確定するまでの間に、孫娘の会社は、自分が生み出したクルテクを大切にしていたミレル氏なら許可を出さないような企業にまであれこれ利用する許諾を出していたようなのである。
その最たるものが、ミロシュ・ゼマン大統領が、自ら遣共使となって中国を訪問したときの貢物の一つとして献上したクルテクのテレビアニメへの使用権で、このとき孫娘も大統領にどうこうして契約書にサインしたのかな。それをもとに中国のテレビ局が制作したのが、「もぐらとパンダ」というこれまでのクルテクに対する敬意も愛情も全く感じられない、クルテクを破壊したといってもいい番組だった。これが中国国内でだけ放送されるのであれば、百歩ゆずって目をつぶってもいいけれども、当然チェコでも放送されるわけで、あれをクルテクだと思うような子供が出てきかねないことを考えると犯罪的ですらある。
まず、絵柄からして許せない。ミレルのあの特徴的な絵をアニメにする力が中国になかったのか、技術力を誇示したかったのか、コンピューターを使って経費削減をしたかったのかは知らないが、あの絵を立体的に3Dアニメっぽくしたものだから、かわいいというよりグロテスクになってしまっている。
クルテクがトンネルを掘って未知の地に到達するのは許そう。ただ、それはあくまでどこだかわからない匿名の地に到達するべきなのに、パンダが出てきて中国のどこそこなんていう話になるのは、クルテクの魅力の一つである昔話性を破壊する愚行である。中国のためにどうしてもパンダを登場させる必要があったのなら、パンダがクルテクと仲間たちのテリトリーに迷い込むか、クルテクがどこかの動物園に迷い込んだらパンダがいたかして、みんなで一緒に故郷をさがしてやるというストーリーにするべきだったのだ。それでもパンダがいきなり登場する違和感は消せないだろうけど。
そして、最悪なのがクルテクに喋らせることである。ミレルのクルテクでは登場人物ならぬ動物たちは、ほとんどゼスチャーでやり取りをし、言葉が使われるにしてもほんの片言の言葉しか使わない。それが、チェコという小さな国の作品であるにもかかわらず、世界中で人気を博している理由である。それなのに、この「もぐらとパンダ」では、冒頭からクルテクが流暢に話して挨拶なんかしやがるんだから、この時点で見るのをやめてしまう人が多かったことは想像に難くない。
今回の「もぐらとパンダ」の放送禁止は、ミレル氏の設立した財団と孫娘の設立した会社の間で争われていた裁判が結審したからだとおもわれるが、正直どの裁判で何を争っていたのかはよくわからない。ムハの「スラブ叙事詩」をめぐる裁判もそうだけど、芸術家が残した作品をめぐる裁判は、あれやらこれやら訴えが起こされて何がどうなっているのか、第三者には理解しがたいことが多い。
その裁判の結果はともかく、中国のテレビにあの内容で「もぐらとパンダ」の制作を許可したという時点で、孫娘の著作権ビジネスは禁止されるべきだったと思う。あれは、クルテクに対する冒涜である。それを許可したのが身内だったというのが、何とも悲しい事実である。裏に中国に媚を売りたい政治家の存在があったにしても。
とまれかくまれ、「もぐらとパンダ」の放送が禁止されたことは万々歳である。ちなみに、「もぐらとパンダ」以外の、孫娘の会社が許諾を出したクルテク商品の販売も禁止され、すでに店頭に並んでいるものも撤去されることになっているようである。
2019年3月26日20時。
これは正規のライセンスもののようである。
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