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2019年03月06日

ビデオ審判?(三月四日)



 判定の公平性を高めることが期待されて導入が進んでいるスポーツにおけるビデオ判定だが、実際に導入してみると、それだけで問題がすべて解決というわけにはいかないことが明らかになりつつある。人によっては、ビデオによって審判の間違いが減り、公平性が高まることは認めつつも、ビデオ判定の弊害で、そのスポーツが破壊されると主張している人もいる。

 昨年のハンドボールのヨーロッパ選手権では、ハンドボールの試合にビデオ判定を導入したこと自体に驚いたわけだが、その使用のされ方も決して関心できるようなものではなく、試合終了後にビデオ判定の結果、負けにつながるペナルティを取られたチームが抗議文を提出していた。ハンドボールみたいな反則かどうかの見分けが難しいスポーツにビデオを導入すること自体は悪いことではないが、どんな場面で使用するのか、限定しないと際限なくプレーがとまることになって、スポーツとしての魅力が失われることになる。
 ヨーロッパ選手権で抗議が出たのも、どんな場面で使用するのかはっきりしていなかったこと、ビデオで見直しても反則かどうか微妙だったこと、開催国ドイツを利するような使用方法だったこと、などいくつかの理由が組み合わさってのことだった。ハンドボール連盟のことだから、サッカーでも始めるみたいだし、という理由でろくな準備もしないまま導入してしまったのではないかと疑っている。ビデオを導入するより、中東の笛、バルカンの笛を撲滅するほうが先だと思うけどね。ビデオがあってもビデオで判断する人間が中東の笛、バルカンの笛だったら何の意味もない。

 ひるがえって、サッカーのほうは、よその国は知らず、チェコの一部リーグでも本格的な運用が今シーズンから始まった。問題の一つは、当初の予定とは違って、全試合ではなく、各節いくつかの試合でしかビデオ判定がなされていないところにある。これに関しては専門家たちがリーグが始まる時点で強く批判していたのだが、人員的な問題で準備が整っておらず、各節8会場にビデオ審判を配置することは不可能だという。
 その結果、ビデオがあれば試合結果は全く違ったものになっただろうと言われる試合と、ビデオがあったせいで違う結果になったと言われる試合が混在することになった。優勝を争うスラビアやプルゼニュの試合を中心にビデオ審判が置かれるから、優勝争いには直接影響はないのだろうけど、そのしたのヨーロッパリーグの出場権を争うチームや、残留を目指すチームにとっては、ビデオのあるなして結果が変わってくるのは、公平とは言い切れまい。専門家もそこを批判していて、現時点では判定の公平さを保証するはずのビデオが別の不公平さを生み出していると言っている。

 この週末の試合で、ビデオがなかったことで損をしたのは3位を争うバニーク・オストラバである。毎年春になると調子も成績も落ちるズリーンをホームに迎えた試合で、1−2で負けてしまったのだが、ビデオがあればバニークが勝っていた可能性は小さくない。1−1の同点で迎えた前半の35分過ぎのこと、ズリーンのゴール前でのプレーで、ズリーンのポズナルがバニークのフルビーを顔に肘打ち一発打ち倒したのである。
 会場で見ていた解説者の話では、この場面で反則があったことには、ビデオを見るまで気づかなかったし、会場のオストラバファンですら騒ぎ声を上げなかったという。だから主審も線審も気づけなかったのは、仕方がないのだけど、こういうシーンを公正に判定するためにビデオを導入しようとしているのではないかと付け加えていた。ポズナル本人は、ハーフタイムのインタビューであんなの反則じゃねえよと悪びれていなかったけど、ビデオで見ると一発退場で追加で何試合か出場停止を食らってもおかしくないレベルの肘打ちだった。
 ここで、ポズナルの反則が正しく判定されていれば、退場で、バニークにPKが与えられたはずである。絶対にPKが決まるとは言い切れないにしても、後半に入ってズリーンの決勝点を決めたのがポズナルであることを考えると、ビデオがあればバニークの勝利はありえても、負けはありえなかった試合だということになる。

 逆にビデオのせいで劣勢に追い込まれた(負けたとは言いにくい)のはボヘミアンズである。スラビアとの試合で、スラビアのコーナーキックでボヘミアンズのゴール前で発生した混乱から、ボヘミアンズが見事なカウンターを決めて1−0でリードしたと思ったら、ビデオ審判の介入で、得点は認められず、スラビアにPKが与えられた。
 ボヘミアンズのゴール前の混戦で、ボヘミアンズの選手がスラビアの選手を引き倒す反則を犯していたのを審判が見逃していたため、それ以後のプレーが無効になり、スラビアにPKが与えられたということらしい。ボヘミアンズの選手たちにしてみれば、1−0になったと思ったら、実は0−1だったということで、ショックは大きかったに違いない。
 解説のゼレンカの話では、ゴール前の混戦の時点でPKを取られていればまだそれほどショックは大ききなかっただろうけど、決めたと思ったゴールを取り消された上でPKを取られたショックは大きく、ここで試合がこわれたと言っていいという。ビデオ判定を担当している部署の人の話では、プレーが切れていない以上はビデオ審判が介入できないのでビデオ審判の対応は正しいもので、結果としてボヘミアンズに不利なったのは制度上仕方ないということだった。

 こうしてみると、ビデオ判定はまだまだ運用に問題を抱えているというしかない。恐らく最大の問題は導入前に、ビデオを導入すればすべてが解決する的なばら色の未来を描き出してしまったことにある。実際に導入してみたら期待したほどではなかったというのが、ビデオ判定批判につながるのだろう。先駆者であるラグビーのような効果的な運用ができるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうである。
2019年3月5日23時。

















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