2016年04月07日
バビシュ危うし(四月四日)
最近は日本でもそういう傾向があるみたいだが、チェコでは選挙の前に誕生したようなぽっと出の政党が意外に大量の票を獲得してしまって国会に議席を得、連立内閣にまで参加してしまう事例が最近いくつかある。そして、与党時代の失政が原因で次の選挙では議席を失ってしまうのである。
この手の泡沫政党でありながら、権力を握ってしまい舞い上がって勘違いして転落するという政党の嚆矢は、緑の党であろうか。この病めるヨーロッパを象徴する政党は、チェコでも90年代の初めから活動を開始したようであるが、下院に議席を得たのは2006年の選挙が唯一のことである。既存の政党が分裂したものや、連合したものではない新しい政党が議席を得たのは、ちょっとした驚きだったが、そのまま連立政権に参加したのには更に驚かされた。政治家がいいというわけではないが、この党から任命された素人大臣たちの業績は、内閣が倒れた後に行われた選挙で、大幅に得票を減らし議席を失ったことからどんなものだったのかは理解できるだろう。頻発した内紛も原因だったのだろうけど。
政権参加時の党首、副党首が別組織を作って追ん出てしまった緑の党は、最近また勢力を盛り返しているようで、上院には議席を持っているかもしれない。プラハの市議会にも議席を確保して、連立与党の一角を担っているが、わけのわからないことをして市政に混乱を巻き起こしている。こんな迷惑政党はとっととつぶれてくれたほうがいいのだが、エコロジーといううたい文句にだまされる人はまだまだ多いのだ。日本にこのヨーロッパの病が浸透していないのは喜ぶべきことである。
緑の党が自業自得で国会から去った後、2010年の選挙で、下院に大きな勢力を得たのが、VVと略されることの多いビェツ・ベジェイネーである。「公共の物事党」と訳すと政党名っぽくないので、「公共の福祉党」とでも訳してみようか。この党は、警備会社を経営するビート・バールタという人物が、ラデク・ヨーンというテレビ関係者を擁して下院選挙に参戦し、緑の党を見限った人々を含む、既存の政党に飽き足らない層の支持を得て国会に議席を獲得した。そしてそのまま政権に参加したのだが、連立している政党ODS(市民民主党)の仕掛で、一部の所属議員が造反しODSに合流して、バールタ氏の金を使った政党運営を暴露したり、バールタ氏が経営していた警備会社を使ってODSの政治家を監視していたという疑惑がマスコミにし報じられたりして、求心力を失っていった。
結局、交通大臣を務めていたバールタ氏も、内務大臣を務めていたヨーン氏も辞任し、連立を解消し野党へと転じる。このあたりの経緯で、二人とも政治に対するやる気を、少なくとも資産を投じてまで政治の世界にしがみつく気を失っていたようで、VVは2015年には解党されてしまうのである。
次にチェコの政界に登場するのが、VVの凋落のきっかけの一つとなったバールタ氏の疑惑を報じた新聞「ムラダー・フロンタ」(青年戦線?)を所有する会社の経営者アンドレイ・バビシュ氏が組織したANOである。バビシュ氏が所有する会社は、チェコでは最も大きい企業連合体の一つであるアグロフェルトで、本来は農業関係の会社なのだが、前記の「ムラダー・フロンタ」と、「リドベー・ノビニ」という二大紙も傘下におさめている。
バビシュ氏は2013年の選挙で、財界での経験を政界にもたらすことで、国の財政を健全化することができるというようなことを主張して、ANOを成功に導いた。同時に財政の専門家を自任する政党TOP09の当主カロウセク氏のプライドを刺激したのか、以後犬猿の仲というか、目くそ鼻くその批判し合いを繰り返している。ANOは、選挙に勝ったČSSD(チェコ社会民主党)の主導する連立政権にキリスト教民主同盟とともに参加することになり、いくつかの大臣のポストを得た。バビシュ氏が財務大臣に就任し、交通大臣には最初は党員でなりたがった人が就任したが、すぐに経済界から党員ではないスチューデント・エージェンシーというバスと鉄道の会社を経営していたテョク氏を招聘して就任させるなど、経済界の実力者の経験を政界に生かすという方向性は、公約どおりに見せている。
その後、小さなごたごたはあったが、大きな問題は起こらなかったので、ANOは、これまでの緑の党や、VVとは違って、比較的平穏に次の選挙を迎え、議席を維持するのかなと思い始めていたら、大きなスキャンダルが発覚した。その名も「コウノトリの巣」事件である。
コウノトリの巣というのは、宿泊施設もついた小さな農場ということになっている。現在はバビシュ氏の所有するアグロフェルト社の保有する施設になっており、実質的にはバビシュ氏一家の住居として使われているらしい。
それだけなら何の問題もないのだが、問題は、この施設がEUの助成金を使って建てられたことである。本来、中小企業が農場とそれに付随する施設を建設するプロジェクトを対象にした助成金を、バビシュ氏は家族名義で設立した会社に申請させて受領し、施設の建設が終わって助成金の会計処理も済んだ時点で、名義を自分の会社であるアグロフェルトに書き換えたのだという。つまり、アグロフェルトは大企業でこの助成金の対象とはならないので、あまり大きな声では言えない抜け道を使って助成金を獲得したということになる。さらにその会社の資産を個人的に使っているのだから、批判されても仕方がない。
EU評議会でも問題にする声が上がったことで、チェコ国内のマスコミが飛びつき大きな問題だとして批判のキャンペーンを始めた。更に強く批判されたのが、バビシュ氏のアグロフェルトの子会社である二つの新聞社が、これまで他の政治家のスキャンダルに関しては積極的に報道して批判してきたのに、このバビシュ氏の件に関しては、まったく取り上げないことだった。この批判が出た後で、「ムラダー・フロンタ」では記事にしていたが、他のメディアほどの鋭い記事ではなかった。
国会においてもバビシュ氏に対する批判の声が高まり、国会での説明を求める動きや、また大臣が経営に関与、もしくは株主として決定権を持つ会社が国の発注する仕事に入札できないようにする法律や、政治家がマスコミ関係の会社を経営るることを制定しようという動きが出ている。企業の経営者が大臣となって自分の会社に便宜を図るのを防ぐということだが、実質的には反バビシュ法とでもいうべきものである。
バビシュ氏は自らのEUの助成金の獲得と活用に関して規則に反したことはしていないと弁明している。その上、同じような抜け道を使って助成金を悪用しているのは自分だけではないと言って、反撃に出たらしいけれども、どうなのかね。仮に皆やっているからといって、それが自分もやる理由にはならないし、規則に反していなくてもモラルに反しているものもある。いずれにしても、こんな形で助成金を得るなんてのはチェコ有数の企業の経営者がやるべきことでないのは確かである。
バビシュ氏とANOがこのスキャンダルを乗り越えて、次の選挙でも議席を確保して国政政党であり続けるのか、それともこれまでのポッと出政党と同じで、一期だけのあだ花に終わるのかは、このコウノトリの巣をどう解決するかにかかっている。
政権に参加しなかった政党でも、オカムラ氏のポッと出政党ウースビットも分裂して次はなさそうだし、ゼマン支持者が設立したいわゆるゼマン党も内紛などの問題があって一期だけで議席を失ったし、ANOもそうなりそうな気がする。とまれ、これだけ国会に議席を得る泡沫政党が出てくるのは、有権者の既存の政党への絶望を示しているのだろう。どこが政権をとっても同じ、同じなら新しいところに任せてみたほうがましだと考えるのは自然なことである。
ANOの次に国会に議席を得て与党になりかねない政党は、地方議会ではすでに与党になっているところもある海賊党かな。
4月5日23時。
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