2018年10月26日
ショートショート(超短編)(1)ユアーズでの出来事
このタイトルで、短いお話を、世の中では短編と言いますが、お送りいたします。世に言うミニマリズムを目指したものです。お楽しみ頂けるかどうか? 材料は、殆どが日本になりますが、タイの材料も使いたいと思います。
第1話 ユアーズでの出来事
あぁ、もしかして、平田さんじゃない?久美子はユアーズで前に買い物をしていた時から、今度また会うのではないかと思っていた。そう思ってもう、3年近くが過ぎていた。それでも、前回偶然ユアーズで目が合った時、どこかで見たことがある人だという程度の気持ちが心の中に残っただけで、それ以上は深く考えなかった。それでも、久美子の心の深いところで、誰だったかなって、どこで出会ったんだろうという気持ちがうごめいていたことは確かである。それでも、それ以上考えようという気持ちにもならなかったし、久美子の意識の表面には出てこなかった。でも、気持ちの中ではどこか気になっているところがあり、3年前のその日の夜、夫の仁と一緒に夕食をとっているときに、ちょっと口にしようかと思って止めていた。今日ね、ユアーズでちょっと気になるって感じなんだけど、男の人が買い物していてね、どっかで見たことがある人なんだよね。それがどうも思い出せないのよね。そう言おうかと思ったのだが、口にしないで終わっていた。別に夫にその話をしても誰だか思い出してくれるわけも無かろうと思ったし、買い物中に何をしているんだって言われるのが関の山だと思ったからだ。でも、50を過ぎた年増女なんだから、などとも思ったが、それ以上のことには進まなかった。
えぇ?あぁ、そうですけど。どなたでしたっけ。平田は普段この店で買い物をすることは殆ど無かった。なのに、こともあろうに年増の女に声をかけられるとはどういったことだととっさに思った。若い美人の女ならともかく、いい加減にしてくれよ。それに平田は離婚してから、買い物恐怖症にかかっていた。今まで、沢山の人たちに、この前買い物をされていましたね。沢山買われるんですね。大変ですね。などといわれていて、ほっといてくれよって怒鳴り声を上げたくなるほど、買い物、中でも、食料品を買うのが億劫になっていた。先日は年増も年増のおばあさんに、おっと失礼、買い物をした後、ナイロン袋に買ったものを詰めていると、お上手に買い物をされるんですね、私なんかへたくそで、駄目だ駄目だっていっつも主人に言われるんですよ。どうしてそんなに上手に買い物されるんですか、なんか書いてくるの?なんて長々と喋られて、はあ、はあっというだけで、いい加減にしてくれよって心の中で思っていたのだった。それに俺はあんたが誰だか知らないんだよ、それに俺が上手に買い物しているってあんたには分からないでしょ、それに、それに、それに、・・・と思いつつ、はあ、はあを繰り返すうち、汗が出てきて、暑いですね、なんて言ってしまったものだから、その老婆はここぞとばかりに、長々とまた話をしだしてしまったのだ。 えぇ、あぁ、そうですけど、どなたでしたっけ、などといいながら、平田はしまったと思ったが、もう時は取り戻せなかった。
しかし、そう思いながら、平田の頭の中では以前、この人とは会ったことがあるという印象を直感的に持った。誰だったかな?どこで会ったんだろぅ?どこでお会いしましたかね?といいながら、この女、あぁ、あの高校時代の同級生の・・・と思ったが、すぐには名前が出てこなかった。久美子には確信がその時にはすでにあった。以前会った後、何も考えることはしなかったが、今度同じところであった時、全ての時間が一気に集約されるように、この男は高校時代の同級生の平田和夫だと頭の中で断言する声が聞こえたのだった。高校生時代、特別な感情が平田に対してあったわけではないのだが、2度目の再会で久美子の気持ちは一気に高まってしまった。確か、平田君でしょ。平田君という言葉を聴いて、和夫の中でも確信が持てた。しかし、名前が出てこない。平田自身もこの女性に、高校時代特別な感情を持ったことは無かった。うん、こいつだ。こいつ、こいつ。変わってない。ほくろの位置まで変わっていない。今も、デブだな。まぁ、髪型がおばさん型か。しょうがねぇよな、30年以上も時間が経ってんだからな。でも、よく俺だと分かったな。それでも、直ぐに、はいそうですなんてのも、こっ恥ずかしいって気がして、平田はすぐには自分を自分だと認めず、ちょっとじらしていた。どこでお会いしましたかね?どなたでしたっけ?しかし、そのような質問に時間が多く費やせるはずもなく、すぐに認めることになった。
いや、偶然ですね。何年ぶりですかね?今、どこにお住まいなんですか?そうね、もう30年、いやもっと前でしょ。貴方今54歳でしょ。いやだ、貴方54歳でしょなんて言っちゃって、私だってそうなのよね。これから17年を引けばいいのよね。だから37年も昔の話よ。そうですね。37年も前ですね。貴方、全然違う人みたいな感じね。考えてみると、そうじゃなくて、こうしてよく見ていると、全然変わった。どうして私分かったのかしら。そうでしょ。普通の人にはわかりにくいと思いますね。ちょっと病気しましてね、顔が少し変わったんですね。少しじゃないわよ。いや、ごめんなさい。私馴れ馴れしくって。でも、・・・。ほんと、全然違う人みたいな気がするわ。ちょっとニヒルになったのね。ニヒルね。もう54にもなってニヒルもないけどね。君は変わらないね。相変わらずデブしょ。いや、そういう意味ではなく、・・・。いいのよ、デブはデブなんだから。そういった屈託のないのが良いね。昔と変わらないね。
「この曲はね、女房が好きだった曲なんだ。陽水が大好きでね。お陰で俺も聞いているうちに好きになってしまって、車に乗るときは大概この曲を聴くんだね。この時代なんだね。こういった時代に青春していたってことなんだね。いろんなことがあったけど、いい時代だったね。」
「平田君って、結構ロマンチストだったんだ。わたしってこんながさつな女でしょ。昔から。だから、いつも友達にも言われていたんだけど、悩みなんて貴方にはないんでしょ、ってね。私だって人間だから悩みはあるんだけど、表に出すのが下手なんでしょうね。別に夫とうまくいっていないってわけでもないけど、でも、今日、平田君に会えてほんとによかった。」
「結構、君もロマンチックだったよ。また、今度会う?」
「いいえ、これっきりにしましょう。青春ってやっぱりいい思い出。青春。」
第1話 ユアーズでの出来事
あぁ、もしかして、平田さんじゃない?久美子はユアーズで前に買い物をしていた時から、今度また会うのではないかと思っていた。そう思ってもう、3年近くが過ぎていた。それでも、前回偶然ユアーズで目が合った時、どこかで見たことがある人だという程度の気持ちが心の中に残っただけで、それ以上は深く考えなかった。それでも、久美子の心の深いところで、誰だったかなって、どこで出会ったんだろうという気持ちがうごめいていたことは確かである。それでも、それ以上考えようという気持ちにもならなかったし、久美子の意識の表面には出てこなかった。でも、気持ちの中ではどこか気になっているところがあり、3年前のその日の夜、夫の仁と一緒に夕食をとっているときに、ちょっと口にしようかと思って止めていた。今日ね、ユアーズでちょっと気になるって感じなんだけど、男の人が買い物していてね、どっかで見たことがある人なんだよね。それがどうも思い出せないのよね。そう言おうかと思ったのだが、口にしないで終わっていた。別に夫にその話をしても誰だか思い出してくれるわけも無かろうと思ったし、買い物中に何をしているんだって言われるのが関の山だと思ったからだ。でも、50を過ぎた年増女なんだから、などとも思ったが、それ以上のことには進まなかった。
えぇ?あぁ、そうですけど。どなたでしたっけ。平田は普段この店で買い物をすることは殆ど無かった。なのに、こともあろうに年増の女に声をかけられるとはどういったことだととっさに思った。若い美人の女ならともかく、いい加減にしてくれよ。それに平田は離婚してから、買い物恐怖症にかかっていた。今まで、沢山の人たちに、この前買い物をされていましたね。沢山買われるんですね。大変ですね。などといわれていて、ほっといてくれよって怒鳴り声を上げたくなるほど、買い物、中でも、食料品を買うのが億劫になっていた。先日は年増も年増のおばあさんに、おっと失礼、買い物をした後、ナイロン袋に買ったものを詰めていると、お上手に買い物をされるんですね、私なんかへたくそで、駄目だ駄目だっていっつも主人に言われるんですよ。どうしてそんなに上手に買い物されるんですか、なんか書いてくるの?なんて長々と喋られて、はあ、はあっというだけで、いい加減にしてくれよって心の中で思っていたのだった。それに俺はあんたが誰だか知らないんだよ、それに俺が上手に買い物しているってあんたには分からないでしょ、それに、それに、それに、・・・と思いつつ、はあ、はあを繰り返すうち、汗が出てきて、暑いですね、なんて言ってしまったものだから、その老婆はここぞとばかりに、長々とまた話をしだしてしまったのだ。 えぇ、あぁ、そうですけど、どなたでしたっけ、などといいながら、平田はしまったと思ったが、もう時は取り戻せなかった。
しかし、そう思いながら、平田の頭の中では以前、この人とは会ったことがあるという印象を直感的に持った。誰だったかな?どこで会ったんだろぅ?どこでお会いしましたかね?といいながら、この女、あぁ、あの高校時代の同級生の・・・と思ったが、すぐには名前が出てこなかった。久美子には確信がその時にはすでにあった。以前会った後、何も考えることはしなかったが、今度同じところであった時、全ての時間が一気に集約されるように、この男は高校時代の同級生の平田和夫だと頭の中で断言する声が聞こえたのだった。高校生時代、特別な感情が平田に対してあったわけではないのだが、2度目の再会で久美子の気持ちは一気に高まってしまった。確か、平田君でしょ。平田君という言葉を聴いて、和夫の中でも確信が持てた。しかし、名前が出てこない。平田自身もこの女性に、高校時代特別な感情を持ったことは無かった。うん、こいつだ。こいつ、こいつ。変わってない。ほくろの位置まで変わっていない。今も、デブだな。まぁ、髪型がおばさん型か。しょうがねぇよな、30年以上も時間が経ってんだからな。でも、よく俺だと分かったな。それでも、直ぐに、はいそうですなんてのも、こっ恥ずかしいって気がして、平田はすぐには自分を自分だと認めず、ちょっとじらしていた。どこでお会いしましたかね?どなたでしたっけ?しかし、そのような質問に時間が多く費やせるはずもなく、すぐに認めることになった。
いや、偶然ですね。何年ぶりですかね?今、どこにお住まいなんですか?そうね、もう30年、いやもっと前でしょ。貴方今54歳でしょ。いやだ、貴方54歳でしょなんて言っちゃって、私だってそうなのよね。これから17年を引けばいいのよね。だから37年も昔の話よ。そうですね。37年も前ですね。貴方、全然違う人みたいな感じね。考えてみると、そうじゃなくて、こうしてよく見ていると、全然変わった。どうして私分かったのかしら。そうでしょ。普通の人にはわかりにくいと思いますね。ちょっと病気しましてね、顔が少し変わったんですね。少しじゃないわよ。いや、ごめんなさい。私馴れ馴れしくって。でも、・・・。ほんと、全然違う人みたいな気がするわ。ちょっとニヒルになったのね。ニヒルね。もう54にもなってニヒルもないけどね。君は変わらないね。相変わらずデブしょ。いや、そういう意味ではなく、・・・。いいのよ、デブはデブなんだから。そういった屈託のないのが良いね。昔と変わらないね。
「この曲はね、女房が好きだった曲なんだ。陽水が大好きでね。お陰で俺も聞いているうちに好きになってしまって、車に乗るときは大概この曲を聴くんだね。この時代なんだね。こういった時代に青春していたってことなんだね。いろんなことがあったけど、いい時代だったね。」
「平田君って、結構ロマンチストだったんだ。わたしってこんながさつな女でしょ。昔から。だから、いつも友達にも言われていたんだけど、悩みなんて貴方にはないんでしょ、ってね。私だって人間だから悩みはあるんだけど、表に出すのが下手なんでしょうね。別に夫とうまくいっていないってわけでもないけど、でも、今日、平田君に会えてほんとによかった。」
「結構、君もロマンチックだったよ。また、今度会う?」
「いいえ、これっきりにしましょう。青春ってやっぱりいい思い出。青春。」
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8237773
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック