2018年10月22日
拓馬篇後記−11
呼鈴が響いた。犬の吠える声もした。拓馬は目を開け、なにが起きたのか確かめる。周りは明るい。時計を見れば十五時台。まだ昼間だ。そしてこの場は実家である。
(客? だれか出て──)
他力をねがったが、それは無意味だと思い出した。現在、家には拓馬と飼い犬のみがいる。居間の戸は開け放たれている。犬が客の出迎えにいったようだ。この積極性をかんがみるに、来訪者は大畑でないことが予想できた。
(起きよう……)
犬が間をもたせているのを好機とし、拓馬は身を起こした。廊下を出て、玄関先にいる人物を正視する。来訪者はヤマダだ。道場ではお団子頭だった髪をいつものポニーテールに直してある。彼女はトーマの首元をなでていた。
「ん? トーマをさわりにきたのか」
「あ、それだけじゃないよ」
ヤマダは玄関に設置された下足の棚を指差した。棚の上には大小二つのプラスチック容器が重なって置いてある。下は教科書を入れられそうなサイズ、上は炊いた米一膳分を入れるのにちょうどよさそうなサイズ。どちらも本体部分が透明だ。中身はクッキーのようである。
「クッキー焼いてきた。小さいほうがトーマ用ね。砂糖を使ってないの」
「ありがとうな。でも、なんでいまつくろうとしたんだ?」
拓馬はひそかに、自身が大畑の手伝いをこなしたことへのねぎらいかと思った。ヤマダは「ためしたいことがあって」とべつの動機をほのめかす。
「それとタッちゃんに教えておきたいことも」
「俺に?」
「ねえ、いまはお家の人、いないの?」
ヤマダは訪問時の応対に犬と人との時間差があったことから、察しがついたようだ。なおかつ、その状況を好機と思ったらしい。顔には微笑ができている。
「ああ、上がってくか?」
拓馬は彼女の主目的が他言無用な情報の共有だと気付いた。ヤマダをすずしい居間へ案内する。拓馬はソファにすわるが、ヤマダはトーマに抱きつきたいために床へすわった。同時にクッキーの入った容器は座卓に置いた。
「父さんたちがいつもどってくるか、わからない。人に言えないことは早めに言ってくれよ」
「そうだね。じゃあクッキーはあとで食べてもらうとして……」
ヤマダは片手でトーマをさわりながらもう片方の手でメモを取りだした。折りたたんだ紙を広げる。
「シド先生が金髪くんに会いに行ってきた。本人は復学のために先生が協力するのをオーケーしてるって」
「あいつがよく了解したな」
「オーケーといっても後ろ向きなほうだね。金髪くんの先生たちがシド先生を追い出したら、それでこの話はナシという約束」
「いまは確定してないってことだな」
「うん、金髪くんのことは明日からも先生ががんばらなきゃね」
ヤマダが拓馬に同意を求めるように見つめる。以降もこういった状況連絡が入ってきそうだ、と拓馬は感じた。それは不必要な気遣いだと思うので断りを入れる。
「そのへんは逐一俺に伝えなくていいぞ。知っててもなにもできねえし」
「そう? 気になってるかと思ったけど」
「そいつは先生とシズカさんがいりゃ、どうにかなるだろうよ。俺にたのむことがあるときにまた教えてくれ」
「じゃあそうする」
「それよか道場にきたやつだ。あいつのことを先生はなんか言ってなかったか?」
「あれ、シズカさんに聞いたんじゃないの?」
たしかに拓馬は不審者についてシズカにたずねると宣言した。知った情報に不足があることを、知れた情報をまじえて説明する。
「聞きはした。そいつもシズカさんみたいな呼出し主がいて、そのおかげでこっちの世界で活動してるらしい。シズカさんはまえから知ってた相手みたいだ」
「知り合いなんだ?」
「ああ、俺らには害のないやつだろうけど、合ってるか断定できないってさ。あとで先生に確認するそうだ。だから先生の判断がほしい」
ヤマダはメモにあらためて視線を落とす。
「先生も似たようなことを言ってたよ。わたしたちは気にしなくていいって」
「俺らはよくても、先生はどうなんだ?」
「……だましだましやってくって」
「どういうこった?」
「あんまりいいふうに思われてないんだって」
「敵だと思われてるのか?」
ヤマダはメモを見たまま、顔をしかめる。
「極端に言ったら、そうなんだろうね」
「なんでそいつは先生をねらう?」
「覆面忍者さんを従えてる人は、悪者退治をやってるって。その仕事のうち」
「それならシズカさんの同業者なんじゃないか? 協力してもらえばいいのに」
同じこころざしをもつ者同士、理解し合えるのではないかと拓馬は考えた。しかしヤマダの表情は変わらない。
「そうもいかないみたい。考え方がちがうのかな」
「なんでだ? シズカさんからそいつに事情を話せないのか」
「話しても引き下がってくれそうにないって。その人もその人でやり方があるとか」
話し合いでは合意をえられない。拓馬は忍者の使役主の頑迷さを不快に感じる。
「やろうとしてることが同じなのに、ケンカするはめになるのか」
「まだわかり合えてないからだよ。わたしたちはよく知らないけど、先生はあっちの世界じゃハデにわるさしてたらしい。その前科のせいで警戒されてる」
犯してきた罪の重さゆえにうたがわれる──それは罪人が生身の人間であろうと湧いてしまう不信だ。拓馬たちはさきにシドの人となりを見てきたので、真実を知っても彼を信用できた。だがその逆、つまりシドの罪を知っているが彼の性情を知らない者ではどうか。周囲の人間をだまし、また次の犯行の機会をうかがっている──と考えたとしても、致し方ない面はある。
「そいつは先生をただの悪人としか思ってないわけだ」
「そういうこと。先生に危険がないことが伝わったら、ほっといてくれると思う」
ヤマダはメモをポケットへしまった。これで報告はおわりだ。空いた手で放置していた小さな容器をさわる。
「トーマにおやつあげてもいい?」
「ああ、ちなみに材料はなんだ?」
「片栗粉と、豆乳と、カボチャ!」
ヤマダは容器の蓋を開けた。オレンジ色がかったクッキーをひとつ指でつまみ、となりにすわる犬へ向けた。犬は四角いクッキーに鼻を近づけて、すんすんと嗅ぐ。やさしくクッキーをくわえ、パリポリと食べだした。その口元の下にヤマダが手のひらを添える。食べかすを手で受けているのだ。クッキーを飲みこんだ犬はヤマダの手をぺろぺろなめた。落ちた食べかすをのこさず回収している。そこそこにおいしかったらしい。ヤマダがもうひとつつまむと、それもさくっと食べた。
「よし、合格っぽいね」
「まあまあイケるっていう食いつきだな」
「やっぱりお肉のガッつきには負けるね」
「トーマの好みの研究なんてしなくていいんだぞ。大抵のもんは食うバカ舌なんだから」
「今日のはねえ、トーマがメインじゃないの。先生たちが元気出るものをつくりたくて、これはそのおすそわけ」
シドとその仲間のエリーは活力の補給方法が特殊だ。普通の飲食ではあまり栄養にならず、かわりに生き物が所有する活力を吸い取る。しかしその方法だと吸い取られた側が疲労する。そしてヤマダはもっぱらその吸われ役を担当する。本人はその行為を了承済みだが、ほかに良い手段があるならそちらに切り替えたいとは考えているようだ。
「わたしの体から出る力が先生のご飯になるっていうでしょ。わたしの手でつくった料理にも栄養がうつるんじゃないかなーっと思って」
「それが『ためしたいこと』か?」
「うん。そうそう、この容器はどうしようか? 置いていってもいいんだけど」
クッキーを入れた容器をどうするか、とは、拓馬が容器ごと借りてクッキーをもらうか、根岸宅にある容器にクッキーをうつしてから小山田家の容器を返却するかの二択をえらんでほしいという意味だ。拓馬はこれらのクッキーをおさめるのにちょうどよい器が思いつけず、借りておく方向に決める。
「あとで洗って返す。あしたか明後日になるかわかんねえけど、いいか?」
「うん、洗うのがめんどーだったら空になったのを返してくれてもいいよ」
「俺はそんなズボラじゃない」
中身がクッキーならば容器のよごれは大してつかないが、それを放置したまま持ち主に返すという行動は拓馬の生活信条に反した。ヤマダはにっこり笑う。
「マジメだね。そういや、先生にも焼き菓子をあげたことがあるんだけど、そのときに貸した容器はやっぱりきれいになってたよ」
「そりゃ先生だもんな」
シドの誠実さは二人に十二分に伝わっている。礼には礼を、恩には恩をもって返す。彼はそういった礼儀をわきまえているのだ。それらの行ないが拓馬たちの信用を得た要因である。
ヤマダは菓子の容器の蓋を閉めた。その表情は笑顔から一変して、沈みがちだ。
「先生をうたがってる忍者さんたちも、先生と一緒にすごしてみればいいんだよ。先生んちに泊まりこんでさ、一週間もすれば見方が変わると思う」
「うたがってるうちはムリだろうな。『不意打ちをつかれる』とか思って、普通の行動にも難癖つけてきそうだ」
「むずかしいね、最初にサイアクな印象をもたれたあとの挽回って」
ヤマダは犬をなでた。トーマは会話の内容なぞそしらぬ顔で、自分が食べていたクッキーがのこる容器に鼻を近づけている。まだ食べたい、という意志表示のようだ。
「んじゃ、あとはタッちゃんがトーマにあげてね」
「ああ、わかった」
ヤマダは帰っていった。帰り際、トーマは彼女の見送りをした。お菓子以上にヤマダのことが気になるのだ。普段は食い意地が張っているようでいて、こういうところではきちんと愛想をふりまく。これも犬なりの誠実さだ、と拓馬は内心、愛犬を評した。
(客? だれか出て──)
他力をねがったが、それは無意味だと思い出した。現在、家には拓馬と飼い犬のみがいる。居間の戸は開け放たれている。犬が客の出迎えにいったようだ。この積極性をかんがみるに、来訪者は大畑でないことが予想できた。
(起きよう……)
犬が間をもたせているのを好機とし、拓馬は身を起こした。廊下を出て、玄関先にいる人物を正視する。来訪者はヤマダだ。道場ではお団子頭だった髪をいつものポニーテールに直してある。彼女はトーマの首元をなでていた。
「ん? トーマをさわりにきたのか」
「あ、それだけじゃないよ」
ヤマダは玄関に設置された下足の棚を指差した。棚の上には大小二つのプラスチック容器が重なって置いてある。下は教科書を入れられそうなサイズ、上は炊いた米一膳分を入れるのにちょうどよさそうなサイズ。どちらも本体部分が透明だ。中身はクッキーのようである。
「クッキー焼いてきた。小さいほうがトーマ用ね。砂糖を使ってないの」
「ありがとうな。でも、なんでいまつくろうとしたんだ?」
拓馬はひそかに、自身が大畑の手伝いをこなしたことへのねぎらいかと思った。ヤマダは「ためしたいことがあって」とべつの動機をほのめかす。
「それとタッちゃんに教えておきたいことも」
「俺に?」
「ねえ、いまはお家の人、いないの?」
ヤマダは訪問時の応対に犬と人との時間差があったことから、察しがついたようだ。なおかつ、その状況を好機と思ったらしい。顔には微笑ができている。
「ああ、上がってくか?」
拓馬は彼女の主目的が他言無用な情報の共有だと気付いた。ヤマダをすずしい居間へ案内する。拓馬はソファにすわるが、ヤマダはトーマに抱きつきたいために床へすわった。同時にクッキーの入った容器は座卓に置いた。
「父さんたちがいつもどってくるか、わからない。人に言えないことは早めに言ってくれよ」
「そうだね。じゃあクッキーはあとで食べてもらうとして……」
ヤマダは片手でトーマをさわりながらもう片方の手でメモを取りだした。折りたたんだ紙を広げる。
「シド先生が金髪くんに会いに行ってきた。本人は復学のために先生が協力するのをオーケーしてるって」
「あいつがよく了解したな」
「オーケーといっても後ろ向きなほうだね。金髪くんの先生たちがシド先生を追い出したら、それでこの話はナシという約束」
「いまは確定してないってことだな」
「うん、金髪くんのことは明日からも先生ががんばらなきゃね」
ヤマダが拓馬に同意を求めるように見つめる。以降もこういった状況連絡が入ってきそうだ、と拓馬は感じた。それは不必要な気遣いだと思うので断りを入れる。
「そのへんは逐一俺に伝えなくていいぞ。知っててもなにもできねえし」
「そう? 気になってるかと思ったけど」
「そいつは先生とシズカさんがいりゃ、どうにかなるだろうよ。俺にたのむことがあるときにまた教えてくれ」
「じゃあそうする」
「それよか道場にきたやつだ。あいつのことを先生はなんか言ってなかったか?」
「あれ、シズカさんに聞いたんじゃないの?」
たしかに拓馬は不審者についてシズカにたずねると宣言した。知った情報に不足があることを、知れた情報をまじえて説明する。
「聞きはした。そいつもシズカさんみたいな呼出し主がいて、そのおかげでこっちの世界で活動してるらしい。シズカさんはまえから知ってた相手みたいだ」
「知り合いなんだ?」
「ああ、俺らには害のないやつだろうけど、合ってるか断定できないってさ。あとで先生に確認するそうだ。だから先生の判断がほしい」
ヤマダはメモにあらためて視線を落とす。
「先生も似たようなことを言ってたよ。わたしたちは気にしなくていいって」
「俺らはよくても、先生はどうなんだ?」
「……だましだましやってくって」
「どういうこった?」
「あんまりいいふうに思われてないんだって」
「敵だと思われてるのか?」
ヤマダはメモを見たまま、顔をしかめる。
「極端に言ったら、そうなんだろうね」
「なんでそいつは先生をねらう?」
「覆面忍者さんを従えてる人は、悪者退治をやってるって。その仕事のうち」
「それならシズカさんの同業者なんじゃないか? 協力してもらえばいいのに」
同じこころざしをもつ者同士、理解し合えるのではないかと拓馬は考えた。しかしヤマダの表情は変わらない。
「そうもいかないみたい。考え方がちがうのかな」
「なんでだ? シズカさんからそいつに事情を話せないのか」
「話しても引き下がってくれそうにないって。その人もその人でやり方があるとか」
話し合いでは合意をえられない。拓馬は忍者の使役主の頑迷さを不快に感じる。
「やろうとしてることが同じなのに、ケンカするはめになるのか」
「まだわかり合えてないからだよ。わたしたちはよく知らないけど、先生はあっちの世界じゃハデにわるさしてたらしい。その前科のせいで警戒されてる」
犯してきた罪の重さゆえにうたがわれる──それは罪人が生身の人間であろうと湧いてしまう不信だ。拓馬たちはさきにシドの人となりを見てきたので、真実を知っても彼を信用できた。だがその逆、つまりシドの罪を知っているが彼の性情を知らない者ではどうか。周囲の人間をだまし、また次の犯行の機会をうかがっている──と考えたとしても、致し方ない面はある。
「そいつは先生をただの悪人としか思ってないわけだ」
「そういうこと。先生に危険がないことが伝わったら、ほっといてくれると思う」
ヤマダはメモをポケットへしまった。これで報告はおわりだ。空いた手で放置していた小さな容器をさわる。
「トーマにおやつあげてもいい?」
「ああ、ちなみに材料はなんだ?」
「片栗粉と、豆乳と、カボチャ!」
ヤマダは容器の蓋を開けた。オレンジ色がかったクッキーをひとつ指でつまみ、となりにすわる犬へ向けた。犬は四角いクッキーに鼻を近づけて、すんすんと嗅ぐ。やさしくクッキーをくわえ、パリポリと食べだした。その口元の下にヤマダが手のひらを添える。食べかすを手で受けているのだ。クッキーを飲みこんだ犬はヤマダの手をぺろぺろなめた。落ちた食べかすをのこさず回収している。そこそこにおいしかったらしい。ヤマダがもうひとつつまむと、それもさくっと食べた。
「よし、合格っぽいね」
「まあまあイケるっていう食いつきだな」
「やっぱりお肉のガッつきには負けるね」
「トーマの好みの研究なんてしなくていいんだぞ。大抵のもんは食うバカ舌なんだから」
「今日のはねえ、トーマがメインじゃないの。先生たちが元気出るものをつくりたくて、これはそのおすそわけ」
シドとその仲間のエリーは活力の補給方法が特殊だ。普通の飲食ではあまり栄養にならず、かわりに生き物が所有する活力を吸い取る。しかしその方法だと吸い取られた側が疲労する。そしてヤマダはもっぱらその吸われ役を担当する。本人はその行為を了承済みだが、ほかに良い手段があるならそちらに切り替えたいとは考えているようだ。
「わたしの体から出る力が先生のご飯になるっていうでしょ。わたしの手でつくった料理にも栄養がうつるんじゃないかなーっと思って」
「それが『ためしたいこと』か?」
「うん。そうそう、この容器はどうしようか? 置いていってもいいんだけど」
クッキーを入れた容器をどうするか、とは、拓馬が容器ごと借りてクッキーをもらうか、根岸宅にある容器にクッキーをうつしてから小山田家の容器を返却するかの二択をえらんでほしいという意味だ。拓馬はこれらのクッキーをおさめるのにちょうどよい器が思いつけず、借りておく方向に決める。
「あとで洗って返す。あしたか明後日になるかわかんねえけど、いいか?」
「うん、洗うのがめんどーだったら空になったのを返してくれてもいいよ」
「俺はそんなズボラじゃない」
中身がクッキーならば容器のよごれは大してつかないが、それを放置したまま持ち主に返すという行動は拓馬の生活信条に反した。ヤマダはにっこり笑う。
「マジメだね。そういや、先生にも焼き菓子をあげたことがあるんだけど、そのときに貸した容器はやっぱりきれいになってたよ」
「そりゃ先生だもんな」
シドの誠実さは二人に十二分に伝わっている。礼には礼を、恩には恩をもって返す。彼はそういった礼儀をわきまえているのだ。それらの行ないが拓馬たちの信用を得た要因である。
ヤマダは菓子の容器の蓋を閉めた。その表情は笑顔から一変して、沈みがちだ。
「先生をうたがってる忍者さんたちも、先生と一緒にすごしてみればいいんだよ。先生んちに泊まりこんでさ、一週間もすれば見方が変わると思う」
「うたがってるうちはムリだろうな。『不意打ちをつかれる』とか思って、普通の行動にも難癖つけてきそうだ」
「むずかしいね、最初にサイアクな印象をもたれたあとの挽回って」
ヤマダは犬をなでた。トーマは会話の内容なぞそしらぬ顔で、自分が食べていたクッキーがのこる容器に鼻を近づけている。まだ食べたい、という意志表示のようだ。
「んじゃ、あとはタッちゃんがトーマにあげてね」
「ああ、わかった」
ヤマダは帰っていった。帰り際、トーマは彼女の見送りをした。お菓子以上にヤマダのことが気になるのだ。普段は食い意地が張っているようでいて、こういうところではきちんと愛想をふりまく。これも犬なりの誠実さだ、と拓馬は内心、愛犬を評した。
タグ:拓馬
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