アフィリエイト広告を利用しています

広告

この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
posted by fanblog

2016年02月02日

商法 平成20年度第1問

問題文
 X株式会社は、公開会社でない取締役設置会社であり、その保有する建物および用地(以下「本件不動産」という。)において「リストランテL」の名称でレストランを営んでいる。X社の貸借対照表の資産の部に計上されている金額は、そのほとんどすべてが本件不動産の帳簿価格で占められている。なお、X社の代表取締役はAであり、また、X社においては特別取締役制度は採用されていない。
 これらを前提として、次のそれぞれの場合について、問いに答えよ。
1 Aは、Y株式会社に対し、本件不動産を5000万円で譲渡し、その所有権移転登記手続きを了した。Y社は、取得した本件不動産の建物を改装して、電化製品の販売店を営むことを予定している。Aはこの取引に先立ち、X社の取締役会の承認も株主総会の承認も得ていない。その後、Aに替わってX社の代表取締役に就任したBは、Y社に対して本件不動産の所有権移転登記の抹消を求めることができるか。
2 Aは、Y社に対し、本件不動産を厨房設備とともに7000万円で譲渡した。Aは、この取引に先立ち、X社の株主総会の承認を得ている。Y社は、「リストランテL」の名称を引き続き利用し、X社が行っていた従来のレストラン事業を営んでいる。この取引の結果、X社は事実上すべての活動を停止したが、Aが売却代金7000万円を持ち逃げして行方不明となってしまったため、X社には見るべき資産がなくなった。X社に対してレストランの運転資金を融資していたCは、Y社に対してその返済を求めることができるか。

回答
設問1
1 BがY社に対して問題の所有権の抹消を求めるためには、T株主総会決議を欠く事業譲渡(467条)に当たるとする主張と、U取締役会決議を欠く重要な財産の処分(362条4項1号)に当たるとする主張が考えられる。以下、それぞれについて論じる。
2 Tについて
Bの主張が認められるためには、本件不動産の譲渡が株主総会の特別決議を要する事業譲渡(467条、309条2項11号)に当たり、株主総会決議を欠く事業譲渡の効果が無効であり、その無効を譲渡会社が主張できることが必要である。
 467条の事業譲渡に株主総会の特別決議が必要とされるのは、会社法が事業譲渡を会社の基礎的変更と位置付けており、株主に与える影響が大きいからである。どのような事業の売買契約(民法555条)に株主総会決議が必要とされるかは明文がないが、解釈の統一のため21条の事業譲渡と同一意義と解する。そして、21条の事業譲渡とは、@有機的一体として機能する財産の譲渡であり、A事業の承継を伴い、B法律上当然に競業避止義務を負うものをいうとするのが判例である。@だけで足り、工場などの譲渡も事業譲渡に当たるとする見解もあるが、静的安全を重視し過ぎているきらいがあるため採用しない。
 本件不動産は@レストランを営むのに使われているから有機的一体として機能しているから、@だけで足りるという見解ならば事業譲渡に当たる。しかし、Y社は本件不動産で電化製品の販売店を営むことを予定しているから、A事業の承継がない。
 したがって、本件不動産の売買契約は事業譲渡に当たらず、株主総会決議は不要である。そのため、株主総会決議を欠くことを無効事由としてX社が主張することはできない。
3 Uについて
 Bの主張が認められるためには、本件不動産の売買契約が「重要な財産の処分」に当たり、取締役会決議を欠くことの効果が無効であり、その無効を譲渡会社の側から主張できることが必要である。
 法が重要な財産の処分の決定権限を取締役会与えたのは、取締役の軽率な判断を防ぎ、合議により経営を慎重に行わせるためだと考えられる。そのように静的安全を図るべき重要な財産の処分に該当するか否かは、財産の価額、その価額が会社の総資産に占める割合、保有目的、処分の態様、会社における従来の取扱い等を総合考慮して決めるのが判例である。
 本件不動産は5000万円と多額であり、それはX社の貸借対照表上の資産の部に計上されている金額のほとんどすべてであり、保有目的はレストランの営業であり、処分態様は通常の売買契約であり、会社において従来このような大規模な取引はなかったと考えられる。以上を総合考量すると、本件は「重要な財産の処分」に当たる。
 しかし、その効果が無効と解するのは疑問である。代表取締役は会社の代表であり、包括代理権を有する(349条1項、4項)。また、取締役会決議があったかどうかは相手方からはわからないことが多く、不審事由がない場合に取引の相手方にいちいち調査義務を課すとなると、営利を目的とする株式会社の取引の迅速性が著しく害され妥当でない。そのため、代表取締役が会社を代表して行った取引は、内部的意思決定を欠くものであっても原則として有効と解する。ただ、相手方が悪意有過失の場合には相手方を保護する必要がないから、例外的に無効と解する。この点、普段取締役会を開かない小規模会社が機会主義的に無効主張することの予防から軽過失の相手方を保護する見解もあるが、権利濫用等の一般条項で対処できるため採用しない。
 本件でY社に過失があるか検討するに、本件不動産は帳簿価格からしてX社の財産のほぼすべてであるという事情は不審事由と評価でき、この場合にはY社にAの行為がX社の取締役会決議を経たものなのか調査する義務が発生すると解する。そうすると、Y社には調査義務を果たさなかった過失があるから、本件不動産の売買契約は無効である。
 では、その無効を決議を欠いた会社自身が主張できるか。禁反言の法理に触れるようにも思えるが、代表者の暴走から株主を保護する必要性があるし、無効は本来誰でも主張できるものだから、できると解する。
 したがって、BはY社に対して本件不動産の所有権移転登記の抹消を求めることができる。
設問2
1 Cが22条1項に基づきY社に対して弁済する責任を負うか検討する。
 まず、本件不動産の売買契約が21条の事業譲渡に当たる必要がある。設問1で述べた要件に当てはめると、本件は@前述のように有機的一体として機能する財産の譲渡であり、AY社はX社が従来営んでいたレストラン事業を行うので事業の承継があり、BX社は21条に基づく競業避止義務を負担するから、事業譲渡に当たる。
 そして、事業を譲り受けたY社が譲渡会社の商号を続用する必要があるところ、Y社は「X社」という商号は続用していないが、「リストランテL」という屋号を続用している。屋号の続用に22条1項が類推適用されるか検討するに、22条1項の趣旨は、事業譲渡は第三者からはわかりにくく、債権者からすると、商号が続用されている場合には、事業の承継がないか、あったとしても譲受人において債務を承継したものと信頼するのが通常であるから、その信頼を保護することである。そうすると、その趣旨は、屋号が営業主体を表わすものとしてもちいられている場合において、屋号を譲受人が続用しているときに妥当する。したがって、屋号が営業主体を表わすものとしてもちいられている場合で、屋号を譲受人が続用しているときは、22条1項の類推適用により、譲受人も譲渡人の債権者に対して弁済する責任を負うと解する。
 本件は、「リストランテL」は営業主体を表わすものとしてもちいられており、Y社はそれを続用している。そして、X社がCに対して負っていた債務はレストランの運転資金であるから、「事業によって生じた債務」に当たる。
 したがって、Cは、22条1項類推適用に基づき、Y社に対して返済を求めることができる。 
 なお、仮に「リストランテL」が営業主体を表わすものとしてもちいられていなかった場合であっても、事業譲渡が詐害的であった場合には、Cは23条の2第1項に基づき、一定期間内(同2項)に、Y社に対して弁済を請求できる。23条の2の規定は、事業譲渡が詐害的に行われることを防止するため、平成26年改正で新設された。 以上


posted by izanagi0420new at 17:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 平成19年度第1問

問題文
 甲株式会社は、ホテル業を営む取締役会設置会社であり、代表取締役会長A及び代表取締役社長Bのほか、Bの配偶者C、弟D及びAの知人Eが取締役に就任している。
 乙株式会社は、不動産業を営む取締役会設置会社であり、代表取締役Cのほか、B及びDが取締役に就任している。
 Bは、大量の不稼働不動産を抱えて業績が悪化した乙社を救済するため、同社の所有する土地(以下「本件土地」という。)を甲社に5億円で売却しようと考え、その承認のための甲社取締役会が開催され、当該取締役会において、Bが本件土地の売買についての重要な事実を開示してその承認を求めたところ、Eから5億円の価格に難色が示されたものの、Bからバブル時代の土地価格を考えれば5億円の価格は決して高くないとの発言があっただけで、価格の相当性について議論がされることはなく、Cを議決に加えずに採決が行われた結果、Eは棄権したが、B及びDの賛成により本件土地を5億円で買い受ける売買契約を締結し、所有権移転登記手続きと引き換えに代金5億円を支払い、さらに、遅滞なく、本件土地の売買についての重要な事実を甲社の取締役全員が出席する取締役会で報告した。
 その後、上記売買契約当時の本件土地の価格は、高く見積もっても3億円を超えないことが判明した。
 甲社は、A,B、C、D及びEに対し、それぞれどのような責任を追及することができるか。

回答
1 総論
(1)任務懈怠責任(423条)の法理
会社と取締役は任用契約関係にあるので、取締役は職務執行に際し会社に対して善管注意義務・忠実義務を負い(330条、民644条1項、355条)その義務に違反して会社に損害を与えた場合には会社に対して損害賠償責任を負うはずである(415条1項)。しかし、会社法は上記民法上の責任だけでは不十分と考え、423条の規定を置いている。その法的性質は、取締役の会社に対する債務不履行責任である。
 会社が取締役に対して423条の責任を追及するためには、@任務懈怠、A損害、B因果関係を主張立証すれば足りるが、同条が債務不履行責任の特則であることから、取締役は無過失を主張立証すれば責任を免れる。ただし、任務懈怠の内容が善管注意義務違反である場合には、任務懈怠と過失の評価根拠事実は共通である。
(2)利益相反取引の規制(356条1項2号3号)
 取締役がその地位を利用して会社の利益の犠牲の上に自己の利益を図り、よって会社に損害を生じさせた場合には、前述@の任務懈怠が推定される(423条3項本文、356条1項2号3号)。利益相反取引により会社に損害を与えることは善管注意義務・忠実義務違反にほかならないが、その行われやすさから法が特に規定したものである。
 本件で甲社の取締役Cは乙社の代表取締役であるから、甲社が業績の悪化した乙社を救済するために乙社から本件土地を買うことは、後者とCとの利益相反取引(356条1項3号)に当たる。そして、このような利益相反取引が取締役会の承認を経て行われたが、実際には本件土地の価格は3億円であり、対価として5億円を支払った甲社には2億円の損害が発生している。そのため、総じていえば甲社は本件土地の売買を決定した取締役会決議を任務懈怠として各取締役に対して423条に基づく損害賠償請求が可能である。以下、それぞれの取締役について要件充足性を検討する。
2 Aの責任
 Aは入院中であり取締役会に出席していないから、任務懈怠又は過失がない。そのため、Aは損害賠償責任を負わない。この点、Aが代表取締役であり対内的に取締役の業務執行を監督する地位にあったことから、監視義務違反を任務懈怠と構成できないかが問題となるも、代表取締役には取締役会の決議内容自体を監視する義務はないから、そのような構成はできない。
3 Bの責任
 Bは取締役会決議において本件土地の売買についての重要な事実を開示してその承認を求めたから、「当該取引をすることを決定した取締役」(423条3項2号)として任務懈怠が推定される。損害と因果関係の要件も充足する。無過失を根拠づける事実もない。
 したがって、甲社はBに対して423条に基づく損害賠償請求ができる。
4 Cの責任
 Cは乙社の代表取締役であるから、「356条第1項の取締役」(423条3項1号)として任務懈怠が推定される。そのほかはBと同様である。
 したがって、甲社はCに対して423条に基づく損害賠償請求ができる。
5 Dの責任
 Dは取締役会決議で賛成しているから、「賛成した取締役」(423条3項3号)として任務懈怠が推定される。そのほかはBと同様である。
 したがって、甲社はDに対して423条に基づく損害賠償請求ができる。
6 Eの責任
 Eは取締役会において価格に難色を示し、決議を棄権したため、任務懈怠が否定されないか問題となる。まず、棄権した者も「賛成した取締役」に当たるという解釈がありうるが、文言に反するため採用しない。次に、Eの上記行為が任務懈怠に当たるかどうかである。思うに、5億円は多額であるからその支出を伴う取引においては価格の相当性を吟味すべきである。そうすると、5億円の支出を伴う議題の審議に参加した取締役には、その価格の相当性を吟味すべき義務が善管注意義務として課されていると解する。本件ではEは価格に難色を示しただけで価格の相当性を議論していないのだから、上記義務違反があると言える。
 したがって、甲社はEに対し、423条に基づく損害賠償請求ができる。  以上
posted by izanagi0420new at 16:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 平成16年度第1問

問題文
 P株式会社の代表取締役Aは、第三者割り当ての方法で、取引先Q株式会社に対し、発行価額50円で大量に新株を発行した。P社株式の株価は、過去1年間1000円前後で推移していたが、この新株発行により、大幅に下落するに至った。ところで、この新株発行は、取締役会の決議を経てはいたが、株主総会の決議を経ないままされたものであった。
 P社の株主Bは、商法上どのような手段をとることができるか。新株発行事項の公示(商法280条ノ3ノ2)がされていなかった場合はどうか。

回答
1 新株発行事項の公示があった場合
(1)新株発行無効の訴えを提起し認容判決を得ることができるか検討する(828条1項2号)。会社法は法律関係の安定などの要請から無効の訴えという方法でのみ新株発行の無効を認めている(828条1項本文)。
 BはP社の株主だから、原告適格がある(828条2項2号)。提訴期間を経過していないことは必要である(同1項2号)。
 無効事由については法定されていないから解釈となる。考え方としては、違法な新株発行を無効にすることで新株発行の適法性を担保する要請及び既存の株主を保護する要請が一方にあり、他方に新株を譲り受けた者の取引の安全がある。前者を重視する要請が後者よりも大きい場合に無効とすべきであると言える。しかし、そのような場合は判例では少ない。
 本件の新株発行は時価が1000円前後の株式をその20分の1の50円という極めて低い価額で発行しているから「特に有利な金額」(199条3項)であることは明らかであり(一般的には有利発行かどうかは既存株主の利益と会社の資金調達の利益との比較で決める)、したがって、取締役会設置会社であってもその決定は株主総会の特別決議によらなければならない(201条1項、309条2項5号)。しかし本件は株主総会特別決議を欠いており、違法である。
 株主総会決議を欠く有利発行の効果について、判例は有効とする。ただ、本件は20分の1の価額での発行というはなはだしい違法であるから、このような違法行為を統制する要請や既存株主保護の重要性が大きい。よって本件株式発行は無効と解する。
 以上より、Bは新株発行無効の訴えを提起し認容判決を得ることができる。
(2)また、このような著しい不公正は新株発行の不存在自由になると解されるから、Bは新株発行の不存在確認の訴え(829条)をすることもできる。不存在は誰でも訴訟外で主張できるものであるが、会社法は特に規定を置いている。
2 新株発行事項の公示がなかった場合
 新株発行事項の公示がないことは、公示をしても差止事由(210条)がないと認められるような特段の事情がない限り、株主が210条の訴えを提起する機会を奪っているから、無効事由になると解される。
 では、本件が210条2号の「著しく不公正な方法」に当たるか。これに当たるかどうかはいわゆる主要目的ルールで決められてきた。これは、株式発行は多かれ少なかれ資金調達の目的があるから、株式発行の主要な目的が支配権維持のような不当な目的にあるのか、資金調達という正当な目的にあるのかを判断し、前者であれば「著しく不公正な方法」にあたるとするルールであった。
 しかし、敵対的買収防止目的での株式発行の事例でこの主要目的ルールは変化してきている。このような事例では次のように考えるべきである。取締役にとって不都合な者を株主とすることを防ぐために株式を発行することは、取締役が株主により選任解任される機関だから(329条1項、339条1項)、権限分配法理に反する。そのため、現に支配権争いが生じている場面で支配権維持目的で株式発行がされた場合には原則として不公正発行に当たるというべきである。もっとも、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらすことを会社が疎明した場合には、不公正発行に当たらない。
 したがって、本件の回答は次のように場合分けされる。
 @現に支配権争いが生じている場合でないならば、20分の1という安すぎる発行価額を無効事由(「著しく不公正な方法」)として差止めが認められると考えられるので、無効の訴えを提起して認容判決を得ることができる。
 A現に支配権争いが生じている場合であって、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらさない場合には、支配権維持目的の株式発行が「著しく不公正な方法」として差止事由となるので、無効の訴えを提起して認容判決を得ることができる。
 B現に支配権争いを生じている場合であって、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらす場合には、株式発行が「著しく不公正な方法」に当たらず差止事由とならないため、無効の訴えを提起しても認容されない。 以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村






posted by izanagi0420new at 15:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 平成15年度第1問

問題文
 次の各事例において、商法上、A株式会社の取締役会の決議が必要か。ただし、A会社は、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律上の大会社又はみなし大会社ではないものとする。
1 A会社の代表取締役BがC株式会社の監査役を兼任する場合において、A会社がC会社のD銀行に対する10億円の借入金債務について、D銀行との間で保証契約を締結するとき。
2 A会社の取締役EがF株式会社の発行済株式総数の70%を保有している場合において、A会社が、F会社のG銀行に対する1000万円の借入金債務について、G銀行との間で保証契約を締結するとき。
3 ホテルを経営するA会社の取締役Hが、ホテルの経営と不動産事業とを行うI株式会社の代表取締役に就任して、その不動産事業部門の取引のみを担当する場合。
回答
設問1
 会社法は、取締役会設置会社の取締役の利益相反取引に取締役会の承認を必要としている(356条1項2号、同3号、365条)。そもそも、会社と任用契約関係にある取締役は職務執行につき会社に対して善管注意義務・忠実義務を負うが(330条、民法644条、355条)、利益相反取引は取締役がその地位を利用して会社ひいては株主の利益を犠牲にして自己の利益を図る行為であり、典型的な善管注意義務・忠実義務違反である。しかし、利益相反取引は魅惑的であり行われやすいため、特に取締役会決議が要求されている。
 本件のA会社がD銀行との間で締結した保証契約が、A会社とその代表取締役であるBとの間接取引(356条1項3号)に当たるか否かが問題となる。同条は「取締役の債務を保証すること」を明文で禁じているが、本件のように取締役が監査役である会社の債務を保証することは明文で禁じていないからである。そもそも、「取締役の債務を保証すること」を禁止した趣旨は、保証契約(民法466条)は債務者が弁済しない場合に代わって弁済する責任を負う契約であり保証人自身の利益はないから、債務者のためにしたものと推定されることである。そうすると、債務者以外の者の債務についての保証契約を締結する場合にそれが「取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引」に当たるか否かは、債務者以外の者が取締役と同視しうる程度の強さによって決めるべきである。
 本件でBは、C会社の監査役である。監査役は「役員」(329条1項)として会社と任用契約の関係にあるが(330条)、取締役の業務執行の適法性及び妥当性を監査する機関であり(381条1項)自らは業務執行を行わない。そのため、監査役と任用契約を結んでいる会社と監査役本人とを同視しうる程度は小さい。したがって、取締役が監査役として認容契約を結んでいる会社のために第三者との間で締結する保証契約は、取締役と会社との間の間接取引に当たらないと解する。
 したがって、利益相反行為に当たることを理由としては、A会社の取締役会決議は不要である。
2 法は、「多額の借財」を取締役会の決議事項としている(362条4項2号)。この趣旨は、業務執行を行う取締役への権限の集中を防止し、重要な意思決定を慎重に行うことと解される。そのため、「多額の借財」に当たるか否かは狭く解すべきでなく、保証契約も「借財」に当たると解する。そして、それが「多額」か否かは、当該財産の価額、その価額の会社の総資産に占める割合、保有の目的、会社における従来の取扱いを総合的に考慮して判断するのが判例である。
 本件を見ると、10億円はそれ自体多額であり、会社の総資産に占める割合や従来の取扱いは不明だが、その目的はBのためと思われる。これらを総合的に考慮すると、「多額」に当たると言える。
 したがって、取締役会決議が必要である。
設問2
 本件も間接取引(356条1項3号)該当性の問題であり、ある会社の株式の70%を保有する株主である取締役がその会社と同視しうる程度の強さが問題となる。株式とは株式会社における社員の地位である。公開会社は伝統的に所有と経営の分離(331条2項本文参照)が行われ、会社の経営は取締役が行い、株主は剰余金の配当を受けることを予定して制度設計されているが、株主は取締役の任免権を持ち(329条、339条)、会社の重要な意思決定の議決権を持つ(295条1項、同2項参照)。そして会社の3分の2の株式を保有していれば、たいていのことはその株主の意のままになる(309条1項、同2項)。そのため、問題の株主が議決権の3分の2を保有する会社は、利益相反取引において当該株主と同視しうると解する。
 したがって、A会社の取締役会決議が必要である。
設問3
 競業取引をするには取締役会の承認を受けなければならない(356条1項1号)。この規定の法的性質について、忠実義務(355条)を善管注意義務(330条、民法644条)とは別の義務と解したうえで、競業避止義務は忠実義務から派生する義務と解する見解もあるが、判例上、忠実義務は善管注意義務を敷衍し、いっそう明確にしたものであるから、採用しない。競業取引をして会社の取引の機会を奪いつつ自己の利益を図ることは会社に対する善管注意義務・忠実義務違反であるが、それが魅惑的であるため、特に取締役会の承認を要求したと解される。そうすると、そのような会社の機会の奪取が起こる可能性のあるものに対して取締役会決議が要求されていると解されるから、自己または第三者の「ために」とは、「計算で」の意味であり、「事業」とは、現実に営んでいる事業のほか、開業準備に着手している事業も含まれると解する。
 では、本件のように競業する事業を営む会社の代表取締役に就任したが、担当する取引は別の場合には「取引をしようとするとき」に当たるのか。これも会社の機会の奪取防止という趣旨、及び代表取締役は対外的に会社を代表し、対内的に一切の業務執行権限を有している(349条4項)ことからすると、「取引しようとするとき」の典型は代表取締役に就任することと解され、代表取締役として実際に担当する業務の内容は関係ないと解する。
 したがって、A会社の取締役会決議が必要である。 以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村







posted by izanagi0420new at 15:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

民法 予備試験平成27年度

回答
設問1
1 FはBに対し、甲建物の所有権に基づく返還請求権を行使すると考えられるが、認められるか検討する。
 要件は@Fが甲建物の所有権を有していること、ABが甲建物を占有していることである。Aは事実4の記載から認められる。@について、Fは@甲建物のA元所有、AA死亡、BC及びDはAの子であることを主張立証して、本件売買契約を権原として甲建物の所有権を取得したと主張したい。
 これに対してBは、第一に、本件贈与契約を権原として元所有者であるAが所有権を喪失したことを抗弁として主張立証する。しかし、本件贈与契約は本件売買契約以前に対抗要件を具備していないというFの再抗弁が認められるため、この抗弁は認められない。
 Bは、第二に、EがAの子であること及びEから甲建物について3分の1の持分の移転登記を受けたことを主張立証する。これは事実1及び事実5から認められる。
 そうすると、FとBは、甲建物についてそれぞれ3分の2と3分の1の共有持分を有し、それぞれ登記を具備していることになる。共有とは一つの物を複数の者で共同して所有することであり、各共有者は物に対し持分権を有するにすぎない。持分権の法的性質は所有権であるが、同様の権利を持つものがいることによる制約を受ける。その制約の一つとして、共有者相互ではどちらも所有権に基づく返還請求はできないから、FはBに対し、甲建物の所有権に基づく返還請求権を行使することはできない。
2 FはBに対し、甲建物の持分権に基づく明渡請求ができるか検討する。
(1)まず、Fが共有状態を維持したままで甲建物の全部の使用をBに求めることは、持分権は共有物の全体に及んでいるためできる(249条参照)。しかし、この方法はBが任意に協力しなければ実現できない。
(2)そこで、FはBに対し、256条1項本文に基づき、Fを単独所有とする共有物の分割請求ができる。そして、FはBとの協議の上、持分権の過半数の賛成による決定として、Bに甲建物の明渡しを請求できると解する。Bが協議に参加しない場合にも、B不参加のまま持分権の過半数の賛成による決定で同様にできると解する。なぜなら、協議に参加の機会を与えられたうえでの不参加は、持分権の行使の放棄と見得るからである。
(3)Bが協議に応じない場合は裁判所に分割を請求することができる(258条)が、任意の協議により目的を達成できるから、現実に使うまでもない。
設問2
 BはEに対し、本件贈与契約に基づく登記移転義務の不履行を理由に損害賠償請求できるか検討する(415条)。
 BはAとの間で本件贈与契約を締結し、EはAの包括承継人であるから、BはEに対し、本件売買契約に基づき、甲建物の全部の移転登記請求権を有している。しかし、Eは3分の1の持分権の移転登記しかしていない。これは本旨不履行(不完全履行)に当たる。その本旨不履行により、Bは伝統工芸品を製作していた甲建物を明け渡さざるを得なくなり、営業上の損害が発生した。
 これに対し、Eは帰責事由がないことを抗弁として主張立証すると考えられる。すなわち、本件で本旨不履行が発生したのは、C及びDが甲建物を譲渡してそれぞれの持分権の範囲で移転登記をしてしまったからであり、Eとしては、C及びDの上記行為を阻止する義務までは有していない。そのため、BがC及びDに対して損害賠償請求するならともかく、自分に損害賠償請求するのは筋違いであるという主張である。
 この抗弁は認められるか。たしかに、共有者各人はそれぞれ持分権を有し、持分権の処分は自由に行うことができる。しかし、それは共有者の内部関係でそのように言えるのであり、外部の者との契約関係においては、共有者各人は、契約に基づく全部の移転登記義務を不可分債務として負っているのである。そのため、共有者各人は、他の共有者が持分権を処分したことを債権者との関係では主張できず、そのような事情は共有者内部の求償問題になるに過ぎないと解する。
 したがって、Eの帰責事由がないことの抗弁は認められず、BのEに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は認められる。  以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村






posted by izanagi0420new at 15:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法

民法 予備試験平成26年度

設問1
1 Aの請求は634条1項に基づく瑕疵修補請求である。この成否を検討する。
(1)ア 請負の担保責任の法的性質
 634条は請負の担保責任を定めた規定である。請負の担保責任の法的性質について、560条以下と同じ法定責任とする説は、特定物の性状は契約内容にならないという特定物ドグマに依拠しているため妥当でない。請負の担保責任は、完成物の引渡後に請負人の給付危険を消滅させる債務不履行の特則と解すべきである。
イ 634条1項の瑕疵修補請求権の法的性質
 そして、634条1項の瑕疵修補請求権は、債務不履行に基づき発生する追完請求権の一種と解する。
(2)では、Aの請求が634条1項の瑕疵修補請求権に基づくものと言えるか。
ア 請求原因
 請求原因は@AC間の請負契約締結の事実とA仕事の目的物に「瑕疵」があることと解される(634条1項)。@は事実4から証明できる。
イ 「瑕疵」の有無
 Aについて、請負の担保責任の法的性質は債務不履行責任であるから、「瑕疵」とは主観的に債務者が契約目的を実現していないことすなわち債務不履行のことと解すべきである。物が通常有すべき性質を有さないことというように客観的にとらえるのは妥当でない。そうすると瑕疵の有無を判断するためには契約内容を確定することが必要である。
 そこでAC間の請負契約の内容を検討するに、AはB邸の外壁を気に入り、Cに対して実際にB邸の外壁を見せて同じ仕様にしてほしい旨を伝えており、Cはそうすることが可能である旨返事をして契約締結に至っているのだから、「A邸の外壁をB邸と同じ仕様に改修すること」が契約内容である。しかし、完成物はB邸と同じ商品名ではあるものの原料の違うタイルで改修されたというのであるから、仕事内容は債務の本旨に基づくものではない、すなわち瑕疵があると言える。
ウ 手段選択の適切性
 請負の瑕疵修補請求権は追完請求権の一種であり、追完請求権は債務不履行を原因として債権者が債権を実現させるために認められる権利であるから、追完請求の内容は債権者が決めることができるというべきである。本件でAは特注品であるタイルの納入と改修工事のやり直しを求めている。外壁のタイルの材料が違ったという本件の事情の下では、Aの手段選択は追完請求としてありうるものである。
エ したがって、Aの請求は634条1項の瑕疵修補請求権に基づくものと言える。
2 予想されるCからの反論
 これに対してCはまず、@修補不能の抗弁が出せる。履行不能であれば牽連性により修補義務も消滅すると解されるからである。また、A瑕疵が重要でなく、かつ修補に過分の費用を要することを主張立証することができる(修補困難、634条1項但書)。さらに、請負の担保責任が債務不履行責任の特則であることから、B帰責事由がないことを主張立証することもできると解する。
 本件では@は明らかに認められない。
 Aについては、「重要」か否かは主観的にではなく、契約した目的・目的物の性質等により客観的に判断すべきである。本件では、建物の外壁の改修工事において、外壁の見た目は客観的に重要と言える。過分の費用か否かは修補に必要な費用と修補によって生じる利益を比較して判断すべきところ、本件では必要な費用は特注するタイル費用、外壁を除去する費用および労力、新しく張りなおす費用および労力であり、少なくないと言える一方、得られる利益はAの主観的満足のみであり、少ないと言える(耐火性、防火性等の性能は同一である)。したがって、Cの抗弁が認められ、Aの請求は認められない。
 Bについて、帰責事由は不可抗力及び債権者の圧倒的過失がある場合に求められると考えるところ、本件はCが遅くとも契約当日にAから指摘を受けた際(事実5)にE社に確認することができたと認められるから、不可抗力とは言えない。また、Aは契約当日に指摘をした際にCから光の具合で違って見える云々の説明に一応納得しているが、それはCが「E社に問い合わせて確認したから間違いない」という強引な虚言に対ししぶしぶ引き下がったに過ぎないから、圧倒的過失とは言えない。したがって、Bの抗弁は認められない。
3 結論
 以上より、Aは634条1項の瑕疵修補請求をすることができるが、Cの修補困難の抗弁が認められるため、請求は認められない。
設問2
1 Aは634条2項に基づく損害賠償請求をしていると考えられる。これが認められるか検討する。
(1)634条2項により請求できる損害賠償の内容
 634条2項は、@修補に代える損害賠償(選択的損害賠償)およびA修補とともにする損害賠償(併存的損害賠償)を選択的に認めている。@として請求できるのは修補費用である。Aの内容は、減価分、逸失利益と解される。この他に、請負の担保責任が債務不履行責任の特則であることから契約関係における保護義務違反として瑕疵から生じた損害(瑕疵結果損害)の賠償も認められうる。
(2)本件でAは上記のうちいずれかを請求できるか
ア @について
 まず、@選択的損害賠償は認められないと考えられる。なぜなら、Aは既にA邸を売却しており、新所有者がそれを「瑕疵」だと思わないかぎり修補請求権自体が消滅していると解されるからである。
 これに対して、瑕疵担保責任は請負契約に基づいて発生しているものであるから、目的物を売却した後も契約者の下に存続しているという考え方もあり得る。客観的な瑕疵の場合はその通りだろうが、契約者の主観に依存した瑕疵は目的物の所有権に付着したいわば状態的瑕疵であり、契約者が目的物の所有権を失った後に存続させる理由はないから、消滅すると解すべきである。不動産賃貸借において貸す債務が目的物の所有権に付着した状態債務と解されているのだから、状態的瑕疵というのも突飛な解釈ではない。
イ Aについて
 完成物の性能は異ならず、売却価格に影響はないのであるから、減価分は存在しない。
 また、AはA邸の客観的価値である2500万円を手にしており、それにより新しい土地を買って同じ建物を建てることができるのであるから、逸失利益も存在しない。
ウ 瑕疵結果損害も存在しない。
2 以上より、Aの請求は認められない。  以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村







A「あたしね、自分の常識力にそれほど自信があるわけじゃないけど、この問題でAの請求を認めるっていう結論は非常識だと思うわ。認める回答例が多いけど、マジで言ってるのかしら?」
B「こんなの認める裁判官はいないだろうね。」
posted by izanagi0420new at 14:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法

民法 予備試験平成25年度

設問1(1)
1 下線部の契約は非典型契約の、いわば将来債権譲渡担保契約というべきものである。その契約が有効か。有効要件が明文なく問題となる。
 まず、まだ発生していない債権の譲渡であることから、債権の発生可能性が要件となるとも思える。しかし、債権が発生しないリスクは契約時に当然に考慮されるべき性質のリスクであるから、譲渡の代金に反映させるなどして、譲渡当事者間でリスク分担をすべき問題であるし、法解釈としては、譲渡当事者間でリスク分担がされているものと解すべきである。したがって、債権の発生可能性は要件とならない。
 次に、債権債務の確定のため、譲渡債権の特定性が要件となると解すべきであるが、その程度としては債権の種類と期間が示されていれば足りると解する。本件ではパネルの製造および販売に関する代金債権として債権の種類が特定され、現在有しているもの及び今後1年間に有することになるものとして期間が示されているから、特定性の要件を満たす。
 最後に、契約が債務者の自由を過度に拘束するものは公序良俗に違反し無効というべきであるが、本件ではそのような事情はない。
 したがって、下線部の契約は有効である。
2 では、甲債権はいつの時点で譲渡されたか。@AC間の譲渡契約時、A甲債権発生時、BAからDに対する債権譲渡の通知時という3つの可能性が考えられる。
 このうち、Bは譲渡担保のいわゆる担保的構成を徹底した考え方の応用であるが、債権を「譲渡」したという債権譲渡契約当事者間の通常の意思に反する解釈であり採用できない。
 発生していない債権を譲渡することはありえないからAが正当とも思える。しかし、Aと解すると甲債権が未発生のまま二重譲渡された場合に、対抗要件によって優劣を決することができなくなり(存在しない債権についての対抗要件は無効であるため)、妥当でない。したがって、@と解釈すべきである。発生していない債権を譲渡することはないという理論的問題点は、債権者となり得る地位が移転したと解釈すれば解決できる。判例も同じ結論である。
設問1(2)
 CがFからの支払請求を拒絶する論拠として、AD間で締結された、DがCの債務を免責的に引受ける契約の効力を援用することが考えられる。この契約も非典型契約であるから、その有効性が明文なく問題となる。
 免責的債務引受契約は一般的に債権者、債務者、引受人の三者間の合意で締結される場合には有効と考えられている一方、債務者と引受人との間で締結される場合には、債権者にとって責任財産の変更を伴い債権者の利益に大きく影響するため、債権者の同意が要件と解されている。
 では、本件のように債権者と引受人との間で締結される場合には、債務者の同意が要件となるだろうか。利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない(474条2項)から、債務者の同意が要件となるとも思える。しかし、債務者は、債権者と引受人との契約で債務を免除されるという利益を受けることはあっても、不利益を受けることはない。474条2項は、自己の債務を他人に処理されたくないという、それ自体さほど重要でない債務者の気骨ある意思を推定して明文化したものに過ぎないから、免責的債務引受の場面にその趣旨を及ぼす必要はない。したがって、債務者の同意は要件とならないと解する。
 また、AD間の契約が公序良俗(90条)に反するような事情もない。
 したがって、AD間で締結されたCの債務をDが免責的に引受ける契約は有効であり、Cはその契約の効果を援用できる。
設問2
1 Eは譲渡禁止特約を対抗できるか。
2 譲渡禁止特約の意義
 譲渡禁止特約(466条2項本文)は、債権が財貨として自由に譲渡できると解されている今日、過酷な取立をする債権者に譲渡されることを防ぐという債務者保護の趣旨で設けられたと解されている規定である。しかし、実際には銀行などの強い債権者が事務処理手続の複雑化防止のために利用している。このように譲渡禁止特約は本来の制度趣旨から外れた使われ方をしていることに加え、債権の譲受人が譲渡禁止特約の存在に悪意重過失であれば債権譲渡の効力を否定されてしまうことから、将来債権譲渡担保という便利な金融手段が阻害されてしまってさえいる。したがって、譲渡禁止特約の有効性は厳格に解すべきである。
3 Bが債権を取得した時期
 設問1(1)で検討したように、将来債権譲渡担保契約において債権の譲受人が債権者となるべき地位を取得するのは債権譲渡契約時であるから、Bは債権譲渡契約時に乙債権(正確には甲債権を取得すべき地位)を取得している。
4 結論
 そうすると、Eが譲渡禁止特約を締結すべき主体はBだったのであり、EがAと締結した譲渡禁止特約は、Aが債権者ではなく、譲渡禁止特約を締結する主体ではない以上、無効である。このように解しても、前述のように今日では譲渡禁止特約が債権者の利益のために締結されていることから、不当ではない。
 したがって、Eは譲渡禁止特約をBに対抗できない。  以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村






posted by izanagi0420new at 14:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法

民法 予備試験平成24年度

設問1(1)
 主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明して、まず主たる債務者の財産についての執行を要求するのは検索の抗弁(453条)である。453条は保証債務についての規定であるが、物上保証人にも適用されるかが問題となる。
 保証人に検索の抗弁が認められるのは、保証人の責任が二次的なものだからである。すなわち、保証とは主たる債務者の弁済を担保する行為であり、保証債務とは保証のために保証人が債権者と締結する契約に基づく債務である。保障のおかげで債権者は債務者のみならず保証人の一般財産も責任財産として把握でき、金融が円滑化する。保証債務は主たる債務とは別の債務であるが、保証があくまで主たる債務の担保であることから、保証人は主債務者が弁済しない場合のみ保証債務を履行する責任を負う(保証債務の補充性)。そのため、債権者が主債務者の資力を過小評価して保証人に弁済を求めてきた場合には、保証人に催告の抗弁が認められる。
 以上の趣旨は、物上保証人にも妥当する。すなわち、物上保障とは物上保証人が自らの一般財産ではなく、その所有する特定物を責任財産として提供する保証形態であり、債権者は、債務者が債務を履行しない場合に、提供された特定物を換価して債権回収する仕組みである。ここからわかるように、物上保証人は債権者に対して何ら行為責任を負わないから、物上保証人は債務者に対して何か債務を負っているわけではない(ここが通常の保証と異なる)。しかし、先にみたように、保証人に検索の抗弁が認められる理由は、保証人が債務を負っているからではなく、二次的責任を負っているからである。そして、物上保証人も、債務者が履行しない場合に担保に供した特定物を競売されてしまうという点で二次的な責任を負っている。したがって、物上保証人にも453条が適用されると解する。
 したがって、Bは設問の主張をすることができる。
設問1(2)
1 Cが抵当権を実行した場合
 この場合は351条に基づき、BはAに求償することができる。
 そもそも委託を受けた保証人は、主債務者との間に、主債務者が弁済できない場合に代わって弁済することを内容とする委任契約が成立していると解すべきであり、そうすると、保証人は、弁済した場合には主債務者に対して費用償還請求権(650条)を有する。そのため、委託を受けた保証人の事後求償権(459条)の法的性質は、受任者の費用償還請求権である。 
 そう考えると、債権者に対して何ら債務を負っていない物上保証人は、なすべき委任事務がない以上、債務者に対して費用償還請求権は発生しないとも思える。しかし、保証というのは債務者に代わって自己の一般財産を減少させる責任である以上、自己の一般財産の減少があれば、債務の有無にかかわらず、債務者に対して減少した一般財産を補てんする請求権を認めるべきである。351条はそういう趣旨の規定と解する。
2 Cが抵当権を実行する以前の場合
 この場合は、BはAに求償することができない。
 そもそも、委託を受けた保証人は主債務者との間に委任契約が成立しているという前述の解釈からすると、保証人の事前求償権(460条)の法的性質は、受任者の費用前払請求権(649条)である。そして、保証債務の内容が債務者の代わりに自己の一般財産を減少させることという前述の考察からすると、事後と事前で異なる扱いをする理由がないとも思える。
 しかし、物上保証人が事前に求償しようと思っても、競売を申し立てるのは債権者であり、債権者が競売を申し立てるか否かは物上保証人には判断できないのであるから、「事前」の求償は不可能である(通常の保証で「事前の求償」という概念が成立するのは、その後に自ら保証債務を履行することが同一人物により予定されているからと言える)。また、物上保証人は自己の一般財産ではなく、特定物を担保に供している。その特定物を換価した結果、債務者の債務が消滅するに足りるか否かは、競売を実行するまで不明である。そのため、仮に求償を許しても換価の結果と求償額との間に齟齬が生じるのは確実であり、その場合に齟齬の清算をめぐって債務者と物上保証人との間に無用の債権債務関係を生じさせることになる。したがって、物上保証の性質上、事前求償は認められないというべきである。
設問2
1 EはBに対し遺留分減殺請求(1031条)ができるか検討する。
 そもそも戦後の遺留分制度は、遺贈や生前贈与によって特定の者に財産を集中させようとする被相続人の意思を制限し、兄弟姉妹以外の法定相続人に相続権を確保させる制度である。要件は@行使者が「遺留分権利者及びその承継人」であること、A減殺の対象が遺贈及び1030条の贈与であることである。
 本件では、BはAの子であり、「兄弟姉妹以外の相続人」(1028条、887条1項)であるから、「遺留分権利者」(1031条)である。また、AのBに対する生前贈与がなされたのは平成24年1月18日であり、相続開始は同年3月25日であるから(882条参照)、本件生前贈与は1030条の贈与に当たる。
 したがって、EはBに対し、遺留分減殺請求ができる。
 この点、Bは高齢(昭和27年生)であってその生活利益を確保する必要性がある一方、Eは就労可能年齢にあるから(昭和62年生)、Eの遺留分減殺請求権を制限的に解釈すべきではないかという議論がありうるが、明文や前述の遺留分制度の趣旨に反するから採用しない。
2 Eが遺留分減殺請求権を行使した結果、甲土地をめぐるBEの権利関係はどうなるか。遺留分減殺請求権は形成権であり、行使と同時に物権的効力を生じると解されている。また、裁判外でも行使できる。
 1028条2号は2分の1の割合に相当する額を受けると定めているが、これは相互句財産が金銭であることを予定した規定であり、本件のような不動産のみが相続財産である場合にはそのままでは適用できない。しかし、1028条の趣旨は2分の1に相当する財産を遺留分として減殺の対象にする点にあり、また、不動産を競売するか否かは遺産分割協議で定めるのが適当である。そうすると、不動産のみが相続財産である場合に遺留分減殺請求権が行使されたときは、不動産の共有(898条)関係になると解する。
 したがって、BEは甲土地を2分の1ずつ共有する。  以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村








posted by izanagi0420new at 13:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法

2016年02月01日

民法 予備試験平成23年度

1 請求原因は@D所有、AC占有である。
(1) @について、AB間の甲土地売買契約の意思表示は通謀虚偽表示により無効(94条1項)だから、Bは甲土地所有権を承継せず、したがってBD間の売買契約によってDは甲土地所有権を取得しないのが原則である。
 しかし、Dは94条2項の第三者(当事者及びその包括承継人以外の者で、虚偽表示により作出された外観につき新たに独立した利害関係を有するに至った者)に当たるため、Aは無効をDに「対抗できない」。その結果、甲土地所有権はAからDに法定承継される。
 したがって、@は認められる。
(2)Cは甲土地上に乙建物を建てて居住しているから、Aは認められる。
2 Cは占有権限の抗弁として賃借権を主張したい。具体的には@平成21年10月9日BD甲土地売買契約、A@に先立つ同年5月23日BC甲土地賃貸借契約、BBの甲土地所有権または所有者Aによる甲土地賃貸借の同意、C5月23日乙建物所有権移転登記による対抗要件具備(借地借家法10条1項)を主張立証することにより、CはBから甲土地賃借権を取得し、Dが甲土地所有権を取得したのに伴って賃貸人たる地位がBからDへ法定承継されたため、CD間に甲土地賃貸借契約が存在するという主張である。
 問題はBの要件の立証である。他人物賃貸借契約も有効だが(559条、560条、601条)、他人物賃借人は所有者に賃借権を対抗できないと解されるから、この要件が立証できないかぎり、Cは所有者Dに対して賃借権を対抗できない。以下検討する。
(1)Bの甲土地所有権の立証の可否
 前述のようにAB間の売買契約は無効なので、@のうちBの甲土地所有権を証明することができない。CはAB間の虚偽表示について悪意だから、94条2項の第三者にも当たらない。したがって、Bの甲土地所有権は立証できない。
(2)所有者Aによる甲土地賃貸借契約の同意の立証の可否
 平成21年12月16日にA死亡によりBがAを単独で包括承継した(882条、896条)ことから、他人物賃貸借のAによる追認(116条本文)が擬制され、その結果遡及的に所有者の同意を受けた他人物賃貸借契約が行われたと主張することができる。そうすると、DはCの賃借権付の甲土地所有権を94条2項によりAから承継取得したことになる。
 したがって、Cの上記抗弁は成立する。
3(1)Aの再抗弁
 Aは再抗弁として、116条但書の第三者該当性を主張立証しうる。同条但書の趣旨は追認の遡及効により害される者を保護することと解されるから、「第三者」とは追認前に追認がない状態を前提として新たな法的利害関係を有するに至った者を言うと解する。DはA死亡による追認擬制前に、所有者による同意のない他人物賃貸借契約付の甲土地を前提として甲土地を買ったのであるから、「第三者」に該当する。
(2)Cの再抗弁に対する否認
 Cとしては、以下のように反論したい。94条2項の第三者には法文上善意が要求されており、学説では無過失も要求することが有力であることとの均衡から、本件のDを116条但書の第三者として保護するためには善意無過失要件を要求すべきである。Dが甲土地を買い受けた時点で甲土地にはC名義の登記のある乙建物が存在し、Cが甲土地の引渡しを受けているのである。このような外観の甲土地を買い受けるDには甲土地に賃借権が設定されていないか調査する義務があったと解すべきであり、Dにはその調査義務違反の過失が認められる。したがって、Dは「第三者」に当たらない。
(3)私見
 法文にない善意無過失要件を要求する解釈に無理があるため、Dは第三者に当たり、再抗弁は認められると考える。このように解しても、CはBに対してAから賃貸借契約に基づき所有権を取得する義務(559条、560条)違反の債務不履行による損害賠償請求(415条)ができるので、不当ではない。
4 以上より、Dは、Cに対し、甲土地の所有権に基づいて、甲土地の明渡しを求めることができる。  以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村






posted by izanagi0420new at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法

民法 平成22年度第1問

設問1(1)
1 Aは以下のように主張して甲絵画をBに戻して500万円の返還を請求することができる。
(1)意思能力(自己の行為の利害損得を把握する能力)のない状態で行われた意思表示は無効である。なぜなら、表示に対応する内心的効果意思が不存在だからである。錯誤に関する規定はこのことを前提にしている。つまり、錯誤があると表示に対応する内心的効果意思を欠くため、そのような意思表示は無効なのである。
 Aは甲絵画の売買契約を締結した際、意思能力を欠いていた。したがって、甲絵画の購入を申し込む意思表示が無効であり、そうすると意思表示の合致が起こらないため契約は不存在ゆえに無効である。
(2)無効な法律行為に基づき履行された給付に対しては不当利得返還請求権(703条)が発生する。既履行の給付同士の返還は同時履行(533条)となる。
 したがって、Aは甲絵画をBに戻して500万円の返還を請求することができる。
2 Bは以下の理由でAに対して甲絵画の返還を請求できない。
 法律行為の無効は誰からでも主張できるとも思える。しかし、意思無能力を理由とした無効は表意者保護のための法的擬制であるから、主張権者は表意者及びその法定代理人に限ると解すべきである。
 Bは表意者ではないから、無効主張は認められない。
設問1(2)
1 Aの請求に対し、Bは反対給付である甲絵画の返還請求権の履行不能による消滅を理由に、500万円の返還を拒絶することが考えられる。法的根拠は536条1項である。
2 これに対してAは、@536条は双方の債務が未履行の段階での対価危険や給付危険の分配を定めたルールであり、債権の巻き戻しの場面には適用できないこと、A債権の巻き戻しの場面では契約がなかった段階に戻すことが最優先され、その時に適用可能なルールは548条であること、B548条の趣旨から、甲絵画の滅失がAの責めに帰すものでない本件では、Aが反対給付を受ける権利は失われていないことを主張できる。これらは認められる。
設問2
1 成年後見人の行為は取消すことができる(9条)。成年後見人は被後見人の代理権を有する(859条1項)から、取消権者(120条1項)である。
 しかし、取消すことができるのは「成年被後見人の法律行為」(9条)である。制限行為能力者制度の趣旨は@残存能力の活用に加え、A取引の相手方の保護でもある。制限行為能力者を予め登録しておくことにより、取引の相手方に当該取引が取消されうるものであることを示すものである。そうすると、取消しうるのは取引当時の成年後見人の行為であって、後に成年後見人になったからといって行為能力制限前の行為が取消されうるものに変わるわけではない。
 したがって、Cは取消すことはできない。
2 意思無能力を理由とする無効主張は、前述のとおり表意者保護のためのものであるから、表意者の代理人である成年被後見人がすることもできる。
 したがって、Cは無効の主張ができる。
3 追認とは、取消し得る行為が当初から有効だったことを認める意思表示である。したがって、本件のような無効の行為は追認によっても有効とはならない(119女本文)。追認時に新たな行為をしたものとみなされる(119条但書)。
 もっとも、119条但書は追認権者の通常の意思を推定した規定であるから、任意規定であり、追認権者が法律行為を当初から有効なものとすることは差支えないと解する。
 そして、成年後見人は、成年被後見人の行為の追認権者である(859条1項)。
 したがって、Cは追認することができる。  以上

にほんブログ村 資格ブログ 司法試験へ
にほんブログ村
にほんブログ村 資格ブログ 司法試験予備試験へ
にほんブログ村








posted by izanagi0420new at 16:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 民法
ファン
検索
<< 2018年04月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
最新記事
写真ギャラリー
最新コメント
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
プロフィール
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。