2016年02月02日
商法 平成16年度第1問
問題文
P株式会社の代表取締役Aは、第三者割り当ての方法で、取引先Q株式会社に対し、発行価額50円で大量に新株を発行した。P社株式の株価は、過去1年間1000円前後で推移していたが、この新株発行により、大幅に下落するに至った。ところで、この新株発行は、取締役会の決議を経てはいたが、株主総会の決議を経ないままされたものであった。
P社の株主Bは、商法上どのような手段をとることができるか。新株発行事項の公示(商法280条ノ3ノ2)がされていなかった場合はどうか。
回答
1 新株発行事項の公示があった場合
(1)新株発行無効の訴えを提起し認容判決を得ることができるか検討する(828条1項2号)。会社法は法律関係の安定などの要請から無効の訴えという方法でのみ新株発行の無効を認めている(828条1項本文)。
BはP社の株主だから、原告適格がある(828条2項2号)。提訴期間を経過していないことは必要である(同1項2号)。
無効事由については法定されていないから解釈となる。考え方としては、違法な新株発行を無効にすることで新株発行の適法性を担保する要請及び既存の株主を保護する要請が一方にあり、他方に新株を譲り受けた者の取引の安全がある。前者を重視する要請が後者よりも大きい場合に無効とすべきであると言える。しかし、そのような場合は判例では少ない。
本件の新株発行は時価が1000円前後の株式をその20分の1の50円という極めて低い価額で発行しているから「特に有利な金額」(199条3項)であることは明らかであり(一般的には有利発行かどうかは既存株主の利益と会社の資金調達の利益との比較で決める)、したがって、取締役会設置会社であってもその決定は株主総会の特別決議によらなければならない(201条1項、309条2項5号)。しかし本件は株主総会特別決議を欠いており、違法である。
株主総会決議を欠く有利発行の効果について、判例は有効とする。ただ、本件は20分の1の価額での発行というはなはだしい違法であるから、このような違法行為を統制する要請や既存株主保護の重要性が大きい。よって本件株式発行は無効と解する。
以上より、Bは新株発行無効の訴えを提起し認容判決を得ることができる。
(2)また、このような著しい不公正は新株発行の不存在自由になると解されるから、Bは新株発行の不存在確認の訴え(829条)をすることもできる。不存在は誰でも訴訟外で主張できるものであるが、会社法は特に規定を置いている。
2 新株発行事項の公示がなかった場合
新株発行事項の公示がないことは、公示をしても差止事由(210条)がないと認められるような特段の事情がない限り、株主が210条の訴えを提起する機会を奪っているから、無効事由になると解される。
では、本件が210条2号の「著しく不公正な方法」に当たるか。これに当たるかどうかはいわゆる主要目的ルールで決められてきた。これは、株式発行は多かれ少なかれ資金調達の目的があるから、株式発行の主要な目的が支配権維持のような不当な目的にあるのか、資金調達という正当な目的にあるのかを判断し、前者であれば「著しく不公正な方法」にあたるとするルールであった。
しかし、敵対的買収防止目的での株式発行の事例でこの主要目的ルールは変化してきている。このような事例では次のように考えるべきである。取締役にとって不都合な者を株主とすることを防ぐために株式を発行することは、取締役が株主により選任解任される機関だから(329条1項、339条1項)、権限分配法理に反する。そのため、現に支配権争いが生じている場面で支配権維持目的で株式発行がされた場合には原則として不公正発行に当たるというべきである。もっとも、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらすことを会社が疎明した場合には、不公正発行に当たらない。
したがって、本件の回答は次のように場合分けされる。
@現に支配権争いが生じている場合でないならば、20分の1という安すぎる発行価額を無効事由(「著しく不公正な方法」)として差止めが認められると考えられるので、無効の訴えを提起して認容判決を得ることができる。
A現に支配権争いが生じている場合であって、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらさない場合には、支配権維持目的の株式発行が「著しく不公正な方法」として差止事由となるので、無効の訴えを提起して認容判決を得ることができる。
B現に支配権争いを生じている場合であって、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらす場合には、株式発行が「著しく不公正な方法」に当たらず差止事由とならないため、無効の訴えを提起しても認容されない。 以上
P株式会社の代表取締役Aは、第三者割り当ての方法で、取引先Q株式会社に対し、発行価額50円で大量に新株を発行した。P社株式の株価は、過去1年間1000円前後で推移していたが、この新株発行により、大幅に下落するに至った。ところで、この新株発行は、取締役会の決議を経てはいたが、株主総会の決議を経ないままされたものであった。
P社の株主Bは、商法上どのような手段をとることができるか。新株発行事項の公示(商法280条ノ3ノ2)がされていなかった場合はどうか。
回答
1 新株発行事項の公示があった場合
(1)新株発行無効の訴えを提起し認容判決を得ることができるか検討する(828条1項2号)。会社法は法律関係の安定などの要請から無効の訴えという方法でのみ新株発行の無効を認めている(828条1項本文)。
BはP社の株主だから、原告適格がある(828条2項2号)。提訴期間を経過していないことは必要である(同1項2号)。
無効事由については法定されていないから解釈となる。考え方としては、違法な新株発行を無効にすることで新株発行の適法性を担保する要請及び既存の株主を保護する要請が一方にあり、他方に新株を譲り受けた者の取引の安全がある。前者を重視する要請が後者よりも大きい場合に無効とすべきであると言える。しかし、そのような場合は判例では少ない。
本件の新株発行は時価が1000円前後の株式をその20分の1の50円という極めて低い価額で発行しているから「特に有利な金額」(199条3項)であることは明らかであり(一般的には有利発行かどうかは既存株主の利益と会社の資金調達の利益との比較で決める)、したがって、取締役会設置会社であってもその決定は株主総会の特別決議によらなければならない(201条1項、309条2項5号)。しかし本件は株主総会特別決議を欠いており、違法である。
株主総会決議を欠く有利発行の効果について、判例は有効とする。ただ、本件は20分の1の価額での発行というはなはだしい違法であるから、このような違法行為を統制する要請や既存株主保護の重要性が大きい。よって本件株式発行は無効と解する。
以上より、Bは新株発行無効の訴えを提起し認容判決を得ることができる。
(2)また、このような著しい不公正は新株発行の不存在自由になると解されるから、Bは新株発行の不存在確認の訴え(829条)をすることもできる。不存在は誰でも訴訟外で主張できるものであるが、会社法は特に規定を置いている。
2 新株発行事項の公示がなかった場合
新株発行事項の公示がないことは、公示をしても差止事由(210条)がないと認められるような特段の事情がない限り、株主が210条の訴えを提起する機会を奪っているから、無効事由になると解される。
では、本件が210条2号の「著しく不公正な方法」に当たるか。これに当たるかどうかはいわゆる主要目的ルールで決められてきた。これは、株式発行は多かれ少なかれ資金調達の目的があるから、株式発行の主要な目的が支配権維持のような不当な目的にあるのか、資金調達という正当な目的にあるのかを判断し、前者であれば「著しく不公正な方法」にあたるとするルールであった。
しかし、敵対的買収防止目的での株式発行の事例でこの主要目的ルールは変化してきている。このような事例では次のように考えるべきである。取締役にとって不都合な者を株主とすることを防ぐために株式を発行することは、取締役が株主により選任解任される機関だから(329条1項、339条1項)、権限分配法理に反する。そのため、現に支配権争いが生じている場面で支配権維持目的で株式発行がされた場合には原則として不公正発行に当たるというべきである。もっとも、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらすことを会社が疎明した場合には、不公正発行に当たらない。
したがって、本件の回答は次のように場合分けされる。
@現に支配権争いが生じている場合でないならば、20分の1という安すぎる発行価額を無効事由(「著しく不公正な方法」)として差止めが認められると考えられるので、無効の訴えを提起して認容判決を得ることができる。
A現に支配権争いが生じている場合であって、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらさない場合には、支配権維持目的の株式発行が「著しく不公正な方法」として差止事由となるので、無効の訴えを提起して認容判決を得ることができる。
B現に支配権争いを生じている場合であって、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらす場合には、株式発行が「著しく不公正な方法」に当たらず差止事由とならないため、無効の訴えを提起しても認容されない。 以上
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