2017年12月24日
会社法単純設例集1
設例1
Y会社の株主であるABCDXは、ABとCDXの間で内紛状態にあった。代表取締役Aは、新たに発行する株式を買い取るための資金として、自己の経営方針に賛同するEに対し、1億円を提供した。
回答指針
B会社がAに1億円を支払った行為は、株主に対する利益供与に当たり違法ではないか(120条1項)。Eは株主ではないから「株主の権利の行使に関し」された者とは言えないのではないかが問題となる。
そもそも株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体が株主の権利の行使とは言えないから、会社が特定の株主に対して株式取得費用を提供することは、原則として利益供与に当たらない。しかし、会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為に当たる。そのため、B会社の行為は120条1項に違反する。
設例2
Y会社の株主はA会社、代表取締役B、取締役C、監査役Xであり、BとCX間で内紛状態にあった。A会社は、Cにほのめかされ、Cの経営方針に賛成するDに対し、株式を譲渡し、Y会社に対して名義書換え請求を行った。しかしBは名義書き換えを行わず、株主総会の招集通知をAに発送した。
設例3
Y会社の株主Aは保有する株式をBに譲渡し、名義書換え請求を行ったが、Y会社の担当者のミスで名義書換えは行われず、Y会社の株主名簿には依然としてAが株主と記載されていた。Y会社の製造する製品の売行きが好調となり、Y会社は事業拡張のための新株発行を決議し、Aに対して新株割り当て通知を行った(202条4項)。Aは、自己に対する通知が来たことを怪訝に思ったものの、Y会社の株価は今後も上昇すると考えたため、何事もなかったかのように1000株の引受を申込んだ(203条2項)。その後、行われていなかった名義書き換えが行われ、申し込みをしていないBがY会社から割当てを受け(204条1項)、払込金額の全額を払い込み(208条1項)、株主となった。
Aは会社に対して自己が株主であることを主張できるか。
設例4
公開会社であるY会社の代表取締役Aは、取締役Bと経営方針をめぐって対立していたが、自己の経営方針に賛同するCに対し、特に有利な金額で募集株式を発行した。なお、当該募集株式の発行に際して取締役会決議は行われず、募集事項の公示もなかった。
Bは本件募集株式発行の無効を主張できるか。
回答指針
Bは新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。Bは株主であるから原告適格を満たす(828条2項2号)。
無効原因について明文はないが、重大な瑕疵のみ無効となると解する。新株発行が無効になると法律関係の安定や取引の安全が著しく害されるからである。
では本件で重大な瑕疵はあるか。まず、取締役会決議を経ていない点は重大な瑕疵とは言えない。なぜなら、授権資本制度(199条1項、2項、201条1項)のもと、新株発行は業務執行に準ずるものであり、取締役会決議を欠くことは内部的瑕疵に過ぎないからである。
次に、募集事項の公示がないことは、新株発行差止め請求をしたとしても差止の事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる(最判平成9年1月28日)。本件は、Cに対して特に有利な金額で発行されているため、新株発行差止め請求がなされれば差止事由がある(199条3項、201条1項)。したがって、本件で募集事項の公示がないことは重大な瑕疵であり、無効原因となる。
設例5
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。AはBCX全員が居合わせた席上で、株主総会を開催する旨宣言し、Bを取締役に選任する決議をした。この決議は有効か。
設例6
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。Y会社には株主総会の議決権を行使しうる代理人は株主に限る旨の定款の定めがある。AはBを取締役に選任するため、BCXに対し、取締役会決議を経ずに株主総会予定日の3日前に招集通知を発した。Cは所用により出席できないため、弁護士Lを自己の代理人として出席させた。Lは、適法に委任状を示して出席した(310条1項後段、3項)。株主総会の目的事項はBの取締役選任の件であることはABCXいずれも了知していた。しかし、Xは株主総会の席上でBのほかにEをも取締役に推挙したところ、B、L、Xの賛成を得て可決された。
Cは本件株主総会決議の無効を主張できるか。
回答指針
310条1項は合理的理由による相当程度の制限を禁止するものではないと解されるから、議決権を行使しうる代理人を株主に限る旨の定款の定めは同条に反するものではない(最判昭和43年11月1日)。
非公開会社では株主総会の招集通知は1週間前までに発しなければならないところ(299条1項)、本件では3日前に発せられているから、299条1項違反がある。しかし、同条の趣旨は株主に出席の機会と準備の機会を与えることにあるから、全員出席総会において株主総会の権限に属する事項につき決議がなされたときは、その決議は有効に成立する(300条本文)。本件においても、全員が出席しているから決議は有効とも思える。
しかし、代理人が出席することにより株主全員が出席したこととなる株主総会においては、代理人を選任する株主が会議の目的事項を了知して委任状を作成しており、かつ、当該決議がその会議の目的事項の範囲内のものである場合に限り、決議は有効と解すべきである(最判昭和60年12月20日)。
本件ではCはEが取締役に選任されることを了知していなかったから、決議は無効である。よって831条1項1号の違法がある。
これに対してYは831条2項による裁量棄却を主張するであろうが、決議方法に重大な瑕疵がある場合にはその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときであっても裁量棄却されないところ(最判昭和46年3月18日)、本件の瑕疵は重大だから、裁量棄却されない。
Y会社の株主であるABCDXは、ABとCDXの間で内紛状態にあった。代表取締役Aは、新たに発行する株式を買い取るための資金として、自己の経営方針に賛同するEに対し、1億円を提供した。
回答指針
B会社がAに1億円を支払った行為は、株主に対する利益供与に当たり違法ではないか(120条1項)。Eは株主ではないから「株主の権利の行使に関し」された者とは言えないのではないかが問題となる。
そもそも株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体が株主の権利の行使とは言えないから、会社が特定の株主に対して株式取得費用を提供することは、原則として利益供与に当たらない。しかし、会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為に当たる。そのため、B会社の行為は120条1項に違反する。
設例2
Y会社の株主はA会社、代表取締役B、取締役C、監査役Xであり、BとCX間で内紛状態にあった。A会社は、Cにほのめかされ、Cの経営方針に賛成するDに対し、株式を譲渡し、Y会社に対して名義書換え請求を行った。しかしBは名義書き換えを行わず、株主総会の招集通知をAに発送した。
設例3
Y会社の株主Aは保有する株式をBに譲渡し、名義書換え請求を行ったが、Y会社の担当者のミスで名義書換えは行われず、Y会社の株主名簿には依然としてAが株主と記載されていた。Y会社の製造する製品の売行きが好調となり、Y会社は事業拡張のための新株発行を決議し、Aに対して新株割り当て通知を行った(202条4項)。Aは、自己に対する通知が来たことを怪訝に思ったものの、Y会社の株価は今後も上昇すると考えたため、何事もなかったかのように1000株の引受を申込んだ(203条2項)。その後、行われていなかった名義書き換えが行われ、申し込みをしていないBがY会社から割当てを受け(204条1項)、払込金額の全額を払い込み(208条1項)、株主となった。
Aは会社に対して自己が株主であることを主張できるか。
設例4
公開会社であるY会社の代表取締役Aは、取締役Bと経営方針をめぐって対立していたが、自己の経営方針に賛同するCに対し、特に有利な金額で募集株式を発行した。なお、当該募集株式の発行に際して取締役会決議は行われず、募集事項の公示もなかった。
Bは本件募集株式発行の無効を主張できるか。
回答指針
Bは新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。Bは株主であるから原告適格を満たす(828条2項2号)。
無効原因について明文はないが、重大な瑕疵のみ無効となると解する。新株発行が無効になると法律関係の安定や取引の安全が著しく害されるからである。
では本件で重大な瑕疵はあるか。まず、取締役会決議を経ていない点は重大な瑕疵とは言えない。なぜなら、授権資本制度(199条1項、2項、201条1項)のもと、新株発行は業務執行に準ずるものであり、取締役会決議を欠くことは内部的瑕疵に過ぎないからである。
次に、募集事項の公示がないことは、新株発行差止め請求をしたとしても差止の事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる(最判平成9年1月28日)。本件は、Cに対して特に有利な金額で発行されているため、新株発行差止め請求がなされれば差止事由がある(199条3項、201条1項)。したがって、本件で募集事項の公示がないことは重大な瑕疵であり、無効原因となる。
設例5
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。AはBCX全員が居合わせた席上で、株主総会を開催する旨宣言し、Bを取締役に選任する決議をした。この決議は有効か。
設例6
非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。Y会社には株主総会の議決権を行使しうる代理人は株主に限る旨の定款の定めがある。AはBを取締役に選任するため、BCXに対し、取締役会決議を経ずに株主総会予定日の3日前に招集通知を発した。Cは所用により出席できないため、弁護士Lを自己の代理人として出席させた。Lは、適法に委任状を示して出席した(310条1項後段、3項)。株主総会の目的事項はBの取締役選任の件であることはABCXいずれも了知していた。しかし、Xは株主総会の席上でBのほかにEをも取締役に推挙したところ、B、L、Xの賛成を得て可決された。
Cは本件株主総会決議の無効を主張できるか。
回答指針
310条1項は合理的理由による相当程度の制限を禁止するものではないと解されるから、議決権を行使しうる代理人を株主に限る旨の定款の定めは同条に反するものではない(最判昭和43年11月1日)。
非公開会社では株主総会の招集通知は1週間前までに発しなければならないところ(299条1項)、本件では3日前に発せられているから、299条1項違反がある。しかし、同条の趣旨は株主に出席の機会と準備の機会を与えることにあるから、全員出席総会において株主総会の権限に属する事項につき決議がなされたときは、その決議は有効に成立する(300条本文)。本件においても、全員が出席しているから決議は有効とも思える。
しかし、代理人が出席することにより株主全員が出席したこととなる株主総会においては、代理人を選任する株主が会議の目的事項を了知して委任状を作成しており、かつ、当該決議がその会議の目的事項の範囲内のものである場合に限り、決議は有効と解すべきである(最判昭和60年12月20日)。
本件ではCはEが取締役に選任されることを了知していなかったから、決議は無効である。よって831条1項1号の違法がある。
これに対してYは831条2項による裁量棄却を主張するであろうが、決議方法に重大な瑕疵がある場合にはその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときであっても裁量棄却されないところ(最判昭和46年3月18日)、本件の瑕疵は重大だから、裁量棄却されない。
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