2017年10月09日
憲法 平成17年度第1問
問題文
酒類が致酔性・依存性を有する飲料であり、飲酒者自身の健康面に与える影響が大きく、酩酊者の行動が周囲のものに迷惑を及ぼすことが多いほか、種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)も生じることにかんがみて、次の内容の法律が制定されたとする。
1 飲食店で客に酒類を提供するには、都道府県知事から酒類提供免許を取得することを要する。酩酊者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者)に酒類を提供することは当該免許の取消事由となる。
2 道路、公園、駅その他の公共の場所において管理者の許可なく飲酒することを禁止し、これに違反したものは拘留又は科料に処する。
この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
回答
設問1
1 飲食店に酒類提供免許の取得を義務付けることは、酒類の提供を許可制にすることを意味する。これは飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲ではないか。
2 憲法22条1項は職業選択の自由を保障しているが、職業は社会的機能分担の性質があり人格的価値があるから、同条項は職業遂行の自由も保障していると解する。
職業遂行の自由は「公共の福祉」(22条1項)によって制約されるところ、職業の内容は千差万別でそれに対する制約も各種各様のものがありうるから、どのような制約が「公共の福祉」に基づくものかを一般的に決めることはできず、具体的規制について規制の目的・必要性・内容、これにより制約される職業の自由の性質・内容・制限の程度を比較衡量して慎重に決めるべきである。しかし、一般に許可制は職業の自由に対する強い制約であるから、許可制が公共の福祉によるものと言えるためには重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものであることを要し、また、許可制の目的が消極的・警察的なものである場合には、職業活動の内容及び態様に対する制約では目的を達成できないと認められることを要する。
3 本件では許可制が採用されている。その目的として①酒類が飲酒者の健康面に及ぼす悪影響の排除、②酩酊者の行動が周囲の者に及ぼす迷惑の防止、③社会的費用の抑制が挙げられているところ、①は飲酒者の健康が害された結果医療費が増えるという因果関係にあるから、③が主目的であり、①は③の手段としての副次的目的に過ぎないと認められる。そうすると本件の規制目的は②及び③である。
そこで、②及び③が重要な公共の利益か否かを検討するに、②は単なる迷惑であって重要とは言えず、③も医療費削減が直ちに重要とは言えない。仮にそれらが重要な公共の利益であるとしてみても、消費者は飲食店ではなく小売店で酒類を購入して飲酒することが可能である以上、飲食店での酒類提供を規制してもそれらの目的を達することができるかは疑わしく、規制の合理性が認められない。
4 したがって、本件の許可制は飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲である。
設問2
1 公共の場所の管理者の許可なく飲酒することを禁止した法律は、個人の飲酒の自由を制約し、違憲ではないか。
2(1) 飲酒の自由は憲法に明文がないが、憲法13条に規定されている幸福追求権は憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる包括的権利であり、幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は裁判上の救済を受けることのできる具体的権利であると解する。もっとも、幸福追求権として認められる権利は個人の人格的生存に不可欠な利益に限られると解する。
(2) 飲酒は個人の嗜好の一つとしても、あらゆる時と場所で認められなければならないものとはいえないから、飲酒の自由は人格的生存に不可欠とまでは言えない。
(3) したがって、飲酒の自由は憲法13条によっては保障されていない。
3(1) もっとも、憲法13条は客観法として個人の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているから、幸福追求権に含まれない個人の一般的行為であっても、それを規制する法律は比例原則に照らして合理的なものでなければならないと解する。
(2) 本件法律の規制目的は設問1で検討した②及び③であるところ、③を達成するためには公共の場所以外での飲酒も規制する必要があり、公共の場所のみを制限するのは合理性がない。しかし②に限ると、周囲のものに迷惑を及ぼすことを防ぐために公共の場所の管理者の許可を要求するのは一定の合理性が認められる。
4 したがって、本件法律は憲法13条に反しておらず、合憲である。
以上
酒類が致酔性・依存性を有する飲料であり、飲酒者自身の健康面に与える影響が大きく、酩酊者の行動が周囲のものに迷惑を及ぼすことが多いほか、種々の社会的費用(医療費の増大による公的医療保険制度への影響等)も生じることにかんがみて、次の内容の法律が制定されたとする。
1 飲食店で客に酒類を提供するには、都道府県知事から酒類提供免許を取得することを要する。酩酊者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者)に酒類を提供することは当該免許の取消事由となる。
2 道路、公園、駅その他の公共の場所において管理者の許可なく飲酒することを禁止し、これに違反したものは拘留又は科料に処する。
この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
回答
設問1
1 飲食店に酒類提供免許の取得を義務付けることは、酒類の提供を許可制にすることを意味する。これは飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲ではないか。
2 憲法22条1項は職業選択の自由を保障しているが、職業は社会的機能分担の性質があり人格的価値があるから、同条項は職業遂行の自由も保障していると解する。
職業遂行の自由は「公共の福祉」(22条1項)によって制約されるところ、職業の内容は千差万別でそれに対する制約も各種各様のものがありうるから、どのような制約が「公共の福祉」に基づくものかを一般的に決めることはできず、具体的規制について規制の目的・必要性・内容、これにより制約される職業の自由の性質・内容・制限の程度を比較衡量して慎重に決めるべきである。しかし、一般に許可制は職業の自由に対する強い制約であるから、許可制が公共の福祉によるものと言えるためには重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものであることを要し、また、許可制の目的が消極的・警察的なものである場合には、職業活動の内容及び態様に対する制約では目的を達成できないと認められることを要する。
3 本件では許可制が採用されている。その目的として①酒類が飲酒者の健康面に及ぼす悪影響の排除、②酩酊者の行動が周囲の者に及ぼす迷惑の防止、③社会的費用の抑制が挙げられているところ、①は飲酒者の健康が害された結果医療費が増えるという因果関係にあるから、③が主目的であり、①は③の手段としての副次的目的に過ぎないと認められる。そうすると本件の規制目的は②及び③である。
そこで、②及び③が重要な公共の利益か否かを検討するに、②は単なる迷惑であって重要とは言えず、③も医療費削減が直ちに重要とは言えない。仮にそれらが重要な公共の利益であるとしてみても、消費者は飲食店ではなく小売店で酒類を購入して飲酒することが可能である以上、飲食店での酒類提供を規制してもそれらの目的を達することができるかは疑わしく、規制の合理性が認められない。
4 したがって、本件の許可制は飲食店の職業遂行の自由を侵害し、違憲である。
設問2
1 公共の場所の管理者の許可なく飲酒することを禁止した法律は、個人の飲酒の自由を制約し、違憲ではないか。
2(1) 飲酒の自由は憲法に明文がないが、憲法13条に規定されている幸福追求権は憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる包括的権利であり、幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は裁判上の救済を受けることのできる具体的権利であると解する。もっとも、幸福追求権として認められる権利は個人の人格的生存に不可欠な利益に限られると解する。
(2) 飲酒は個人の嗜好の一つとしても、あらゆる時と場所で認められなければならないものとはいえないから、飲酒の自由は人格的生存に不可欠とまでは言えない。
(3) したがって、飲酒の自由は憲法13条によっては保障されていない。
3(1) もっとも、憲法13条は客観法として個人の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているから、幸福追求権に含まれない個人の一般的行為であっても、それを規制する法律は比例原則に照らして合理的なものでなければならないと解する。
(2) 本件法律の規制目的は設問1で検討した②及び③であるところ、③を達成するためには公共の場所以外での飲酒も規制する必要があり、公共の場所のみを制限するのは合理性がない。しかし②に限ると、周囲のものに迷惑を及ぼすことを防ぐために公共の場所の管理者の許可を要求するのは一定の合理性が認められる。
4 したがって、本件法律は憲法13条に反しておらず、合憲である。
以上
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