2017年04月06日
憲法 予備試験平成28年度
回答
1 Xからの主張としては、助成の要件として本件誓約書を提出させることの憲法19条違反が考えられる。
(1) 19条は、日本が明治憲法下で治安維持法の運用に見られるように特定の思想そのものを弾圧したことから、諸外国の憲法に内心の自由そのものを規定した条文がないのに、あえて規定されたものである。「思想」(「良心」も同義と解する。)とは、世界観・人生観・主義・主張など個人の人格的な内面的精神作用を広く含むと解する。Xが法律婚のみならず事実婚も支援しているのは、結婚に関する価値観は多様であるというXの世界観に基づくものであり、これは「思想」に該当する。
(2) 「犯してはならない」とは、保持強制の禁止・表明強制の禁止・不利益取扱いの禁止を意味すると解する。
Xとしては、本件誓約書の内容が、法律婚のみを評価し、法律婚のみを推進する内容であることが、前述のXの「思想」に反する思想の表明強制であり、また、補助を打ち切ることが、特定の思想に対する不利益取扱いに当たると主張したい。
これに対してAは、誓約書に事実婚を否定する文言がないことから表明強制にあたらず、また、補助金を受ける地位という有利な法的地位を否定するだけであるから不利益取扱いに当たらないと主張したい。
(3) 私見は以下の通りである。
ア 表明強制の点
たしかに「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するにとどまる程度」であれば、思想表明の強制に当たらないとした判例があるが、本件誓約書は陳謝の意を表することさえなく、ただ法律婚の評価を述べているに過ぎないのであって、事実婚を評価するXの思想と両立しうるものとも思える。
しかし、本件誓約書は「法律婚が、経済的安定をもたらし、子どもを生みやすく、育てやすい環境の形成に資する」という法律婚の評価のみならず、「自らの活動を通じ、法律婚を積極的に推進し、成婚数を上げるよう力を尽くします。」という宣誓も含んでおり、この宣誓部分は、事実婚をも尊重するというXの活動方針とは非両立である。そのため、単に形式的に陳謝の意を表明させることを合憲とした先の判例を前提としても 本件誓約書を提出させることは、Xの思想と異なる外部的行為を求めることになるため、その限りで、Xの思想に対する間接的制約となる。
イ 不利益取扱いの点
Aの言う通り、補助金を打ち切ることそれ自体は一般人よりも有利な法的地位の否定に過ぎず、制約に当たらない。
しかし、助成の申請に対し本件誓約書を提出させるという運用は、助成を手段として上記Xの思想と異なる外部的行為を求めるものと評価できるから、その限りで、やはりXの思想に対する間接的制約となる。
(4)ア もっとも、間接的制約であっても政策との関係で必要かつ合理的なものである場合には許されるべきところ、政策目的や制限の程度は様々だから、政策の目的及び内容並びに制約態様を総合的に較量して、当該政策に当該制約を許容しうる程度の必要性及び合理性があるかを判断すべきである。
イ これを本件についてみるに、A市は10年前に本件条例を制定して少子化対策を進め、その一つとして結婚支援事業があり、Xは本件条例の制定当初から結婚支援事業の事業者として助成を受けていた。しかし、A市では少子化が急速に進行したため、本件条例が未婚化等の克服を目指す内容に改正され、女性についても成婚数を上げることを重視する方向転換がなされた。本件誓約書は、この方針転換に伴い、要項によって義務付けられたものだから、本件誓約書は、少子化克服が主たる目的をなし、未婚化等の克服は、あくまで少子化克服の手段にすぎないから、副次的補充的目的と解される。この政策目的自体は、人口がGDPに比例するという顕著な事実にかんがみ、合理性が認められる。
しかしながら、少子化克服を達成するための手段として未婚化克服をすることは、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法の規定が違憲とされた現在では、合理性が認められない。また、未婚化克服を目的として、誓約書を提出させるという手段も、たとえば従来の成婚数に応じて補助金の額を変えるという、より制約的でない方法をもって必要十分と考えられるから、必要性が認められない。
これを要するに、本件誓約書を提出させることはXの思想の自由に対する間接的制約になるに過ぎないが、政策内容にかかる間接的制約を許容しうる程度の必要性・合理性が認められない。
2 したがって、Xに本件誓約書を提出させることは、Xの思想の自由を侵害し、憲法19条に違反する。 以上
1 Xからの主張としては、助成の要件として本件誓約書を提出させることの憲法19条違反が考えられる。
(1) 19条は、日本が明治憲法下で治安維持法の運用に見られるように特定の思想そのものを弾圧したことから、諸外国の憲法に内心の自由そのものを規定した条文がないのに、あえて規定されたものである。「思想」(「良心」も同義と解する。)とは、世界観・人生観・主義・主張など個人の人格的な内面的精神作用を広く含むと解する。Xが法律婚のみならず事実婚も支援しているのは、結婚に関する価値観は多様であるというXの世界観に基づくものであり、これは「思想」に該当する。
(2) 「犯してはならない」とは、保持強制の禁止・表明強制の禁止・不利益取扱いの禁止を意味すると解する。
Xとしては、本件誓約書の内容が、法律婚のみを評価し、法律婚のみを推進する内容であることが、前述のXの「思想」に反する思想の表明強制であり、また、補助を打ち切ることが、特定の思想に対する不利益取扱いに当たると主張したい。
これに対してAは、誓約書に事実婚を否定する文言がないことから表明強制にあたらず、また、補助金を受ける地位という有利な法的地位を否定するだけであるから不利益取扱いに当たらないと主張したい。
(3) 私見は以下の通りである。
ア 表明強制の点
たしかに「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表するにとどまる程度」であれば、思想表明の強制に当たらないとした判例があるが、本件誓約書は陳謝の意を表することさえなく、ただ法律婚の評価を述べているに過ぎないのであって、事実婚を評価するXの思想と両立しうるものとも思える。
しかし、本件誓約書は「法律婚が、経済的安定をもたらし、子どもを生みやすく、育てやすい環境の形成に資する」という法律婚の評価のみならず、「自らの活動を通じ、法律婚を積極的に推進し、成婚数を上げるよう力を尽くします。」という宣誓も含んでおり、この宣誓部分は、事実婚をも尊重するというXの活動方針とは非両立である。そのため、単に形式的に陳謝の意を表明させることを合憲とした先の判例を前提としても 本件誓約書を提出させることは、Xの思想と異なる外部的行為を求めることになるため、その限りで、Xの思想に対する間接的制約となる。
イ 不利益取扱いの点
Aの言う通り、補助金を打ち切ることそれ自体は一般人よりも有利な法的地位の否定に過ぎず、制約に当たらない。
しかし、助成の申請に対し本件誓約書を提出させるという運用は、助成を手段として上記Xの思想と異なる外部的行為を求めるものと評価できるから、その限りで、やはりXの思想に対する間接的制約となる。
(4)ア もっとも、間接的制約であっても政策との関係で必要かつ合理的なものである場合には許されるべきところ、政策目的や制限の程度は様々だから、政策の目的及び内容並びに制約態様を総合的に較量して、当該政策に当該制約を許容しうる程度の必要性及び合理性があるかを判断すべきである。
イ これを本件についてみるに、A市は10年前に本件条例を制定して少子化対策を進め、その一つとして結婚支援事業があり、Xは本件条例の制定当初から結婚支援事業の事業者として助成を受けていた。しかし、A市では少子化が急速に進行したため、本件条例が未婚化等の克服を目指す内容に改正され、女性についても成婚数を上げることを重視する方向転換がなされた。本件誓約書は、この方針転換に伴い、要項によって義務付けられたものだから、本件誓約書は、少子化克服が主たる目的をなし、未婚化等の克服は、あくまで少子化克服の手段にすぎないから、副次的補充的目的と解される。この政策目的自体は、人口がGDPに比例するという顕著な事実にかんがみ、合理性が認められる。
しかしながら、少子化克服を達成するための手段として未婚化克服をすることは、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法の規定が違憲とされた現在では、合理性が認められない。また、未婚化克服を目的として、誓約書を提出させるという手段も、たとえば従来の成婚数に応じて補助金の額を変えるという、より制約的でない方法をもって必要十分と考えられるから、必要性が認められない。
これを要するに、本件誓約書を提出させることはXの思想の自由に対する間接的制約になるに過ぎないが、政策内容にかかる間接的制約を許容しうる程度の必要性・合理性が認められない。
2 したがって、Xに本件誓約書を提出させることは、Xの思想の自由を侵害し、憲法19条に違反する。 以上
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