2016年02月02日
民法 予備試験平成26年度
設問1
1 Aの請求は634条1項に基づく瑕疵修補請求である。この成否を検討する。
(1)ア 請負の担保責任の法的性質
634条は請負の担保責任を定めた規定である。請負の担保責任の法的性質について、560条以下と同じ法定責任とする説は、特定物の性状は契約内容にならないという特定物ドグマに依拠しているため妥当でない。請負の担保責任は、完成物の引渡後に請負人の給付危険を消滅させる債務不履行の特則と解すべきである。
イ 634条1項の瑕疵修補請求権の法的性質
そして、634条1項の瑕疵修補請求権は、債務不履行に基づき発生する追完請求権の一種と解する。
(2)では、Aの請求が634条1項の瑕疵修補請求権に基づくものと言えるか。
ア 請求原因
請求原因は@AC間の請負契約締結の事実とA仕事の目的物に「瑕疵」があることと解される(634条1項)。@は事実4から証明できる。
イ 「瑕疵」の有無
Aについて、請負の担保責任の法的性質は債務不履行責任であるから、「瑕疵」とは主観的に債務者が契約目的を実現していないことすなわち債務不履行のことと解すべきである。物が通常有すべき性質を有さないことというように客観的にとらえるのは妥当でない。そうすると瑕疵の有無を判断するためには契約内容を確定することが必要である。
そこでAC間の請負契約の内容を検討するに、AはB邸の外壁を気に入り、Cに対して実際にB邸の外壁を見せて同じ仕様にしてほしい旨を伝えており、Cはそうすることが可能である旨返事をして契約締結に至っているのだから、「A邸の外壁をB邸と同じ仕様に改修すること」が契約内容である。しかし、完成物はB邸と同じ商品名ではあるものの原料の違うタイルで改修されたというのであるから、仕事内容は債務の本旨に基づくものではない、すなわち瑕疵があると言える。
ウ 手段選択の適切性
請負の瑕疵修補請求権は追完請求権の一種であり、追完請求権は債務不履行を原因として債権者が債権を実現させるために認められる権利であるから、追完請求の内容は債権者が決めることができるというべきである。本件でAは特注品であるタイルの納入と改修工事のやり直しを求めている。外壁のタイルの材料が違ったという本件の事情の下では、Aの手段選択は追完請求としてありうるものである。
エ したがって、Aの請求は634条1項の瑕疵修補請求権に基づくものと言える。
2 予想されるCからの反論
これに対してCはまず、@修補不能の抗弁が出せる。履行不能であれば牽連性により修補義務も消滅すると解されるからである。また、A瑕疵が重要でなく、かつ修補に過分の費用を要することを主張立証することができる(修補困難、634条1項但書)。さらに、請負の担保責任が債務不履行責任の特則であることから、B帰責事由がないことを主張立証することもできると解する。
本件では@は明らかに認められない。
Aについては、「重要」か否かは主観的にではなく、契約した目的・目的物の性質等により客観的に判断すべきである。本件では、建物の外壁の改修工事において、外壁の見た目は客観的に重要と言える。過分の費用か否かは修補に必要な費用と修補によって生じる利益を比較して判断すべきところ、本件では必要な費用は特注するタイル費用、外壁を除去する費用および労力、新しく張りなおす費用および労力であり、少なくないと言える一方、得られる利益はAの主観的満足のみであり、少ないと言える(耐火性、防火性等の性能は同一である)。したがって、Cの抗弁が認められ、Aの請求は認められない。
Bについて、帰責事由は不可抗力及び債権者の圧倒的過失がある場合に求められると考えるところ、本件はCが遅くとも契約当日にAから指摘を受けた際(事実5)にE社に確認することができたと認められるから、不可抗力とは言えない。また、Aは契約当日に指摘をした際にCから光の具合で違って見える云々の説明に一応納得しているが、それはCが「E社に問い合わせて確認したから間違いない」という強引な虚言に対ししぶしぶ引き下がったに過ぎないから、圧倒的過失とは言えない。したがって、Bの抗弁は認められない。
3 結論
以上より、Aは634条1項の瑕疵修補請求をすることができるが、Cの修補困難の抗弁が認められるため、請求は認められない。
設問2
1 Aは634条2項に基づく損害賠償請求をしていると考えられる。これが認められるか検討する。
(1)634条2項により請求できる損害賠償の内容
634条2項は、@修補に代える損害賠償(選択的損害賠償)およびA修補とともにする損害賠償(併存的損害賠償)を選択的に認めている。@として請求できるのは修補費用である。Aの内容は、減価分、逸失利益と解される。この他に、請負の担保責任が債務不履行責任の特則であることから契約関係における保護義務違反として瑕疵から生じた損害(瑕疵結果損害)の賠償も認められうる。
(2)本件でAは上記のうちいずれかを請求できるか
ア @について
まず、@選択的損害賠償は認められないと考えられる。なぜなら、Aは既にA邸を売却しており、新所有者がそれを「瑕疵」だと思わないかぎり修補請求権自体が消滅していると解されるからである。
これに対して、瑕疵担保責任は請負契約に基づいて発生しているものであるから、目的物を売却した後も契約者の下に存続しているという考え方もあり得る。客観的な瑕疵の場合はその通りだろうが、契約者の主観に依存した瑕疵は目的物の所有権に付着したいわば状態的瑕疵であり、契約者が目的物の所有権を失った後に存続させる理由はないから、消滅すると解すべきである。不動産賃貸借において貸す債務が目的物の所有権に付着した状態債務と解されているのだから、状態的瑕疵というのも突飛な解釈ではない。
イ Aについて
完成物の性能は異ならず、売却価格に影響はないのであるから、減価分は存在しない。
また、AはA邸の客観的価値である2500万円を手にしており、それにより新しい土地を買って同じ建物を建てることができるのであるから、逸失利益も存在しない。
ウ 瑕疵結果損害も存在しない。
2 以上より、Aの請求は認められない。 以上
A「あたしね、自分の常識力にそれほど自信があるわけじゃないけど、この問題でAの請求を認めるっていう結論は非常識だと思うわ。認める回答例が多いけど、マジで言ってるのかしら?」
B「こんなの認める裁判官はいないだろうね。」
1 Aの請求は634条1項に基づく瑕疵修補請求である。この成否を検討する。
(1)ア 請負の担保責任の法的性質
634条は請負の担保責任を定めた規定である。請負の担保責任の法的性質について、560条以下と同じ法定責任とする説は、特定物の性状は契約内容にならないという特定物ドグマに依拠しているため妥当でない。請負の担保責任は、完成物の引渡後に請負人の給付危険を消滅させる債務不履行の特則と解すべきである。
イ 634条1項の瑕疵修補請求権の法的性質
そして、634条1項の瑕疵修補請求権は、債務不履行に基づき発生する追完請求権の一種と解する。
(2)では、Aの請求が634条1項の瑕疵修補請求権に基づくものと言えるか。
ア 請求原因
請求原因は@AC間の請負契約締結の事実とA仕事の目的物に「瑕疵」があることと解される(634条1項)。@は事実4から証明できる。
イ 「瑕疵」の有無
Aについて、請負の担保責任の法的性質は債務不履行責任であるから、「瑕疵」とは主観的に債務者が契約目的を実現していないことすなわち債務不履行のことと解すべきである。物が通常有すべき性質を有さないことというように客観的にとらえるのは妥当でない。そうすると瑕疵の有無を判断するためには契約内容を確定することが必要である。
そこでAC間の請負契約の内容を検討するに、AはB邸の外壁を気に入り、Cに対して実際にB邸の外壁を見せて同じ仕様にしてほしい旨を伝えており、Cはそうすることが可能である旨返事をして契約締結に至っているのだから、「A邸の外壁をB邸と同じ仕様に改修すること」が契約内容である。しかし、完成物はB邸と同じ商品名ではあるものの原料の違うタイルで改修されたというのであるから、仕事内容は債務の本旨に基づくものではない、すなわち瑕疵があると言える。
ウ 手段選択の適切性
請負の瑕疵修補請求権は追完請求権の一種であり、追完請求権は債務不履行を原因として債権者が債権を実現させるために認められる権利であるから、追完請求の内容は債権者が決めることができるというべきである。本件でAは特注品であるタイルの納入と改修工事のやり直しを求めている。外壁のタイルの材料が違ったという本件の事情の下では、Aの手段選択は追完請求としてありうるものである。
エ したがって、Aの請求は634条1項の瑕疵修補請求権に基づくものと言える。
2 予想されるCからの反論
これに対してCはまず、@修補不能の抗弁が出せる。履行不能であれば牽連性により修補義務も消滅すると解されるからである。また、A瑕疵が重要でなく、かつ修補に過分の費用を要することを主張立証することができる(修補困難、634条1項但書)。さらに、請負の担保責任が債務不履行責任の特則であることから、B帰責事由がないことを主張立証することもできると解する。
本件では@は明らかに認められない。
Aについては、「重要」か否かは主観的にではなく、契約した目的・目的物の性質等により客観的に判断すべきである。本件では、建物の外壁の改修工事において、外壁の見た目は客観的に重要と言える。過分の費用か否かは修補に必要な費用と修補によって生じる利益を比較して判断すべきところ、本件では必要な費用は特注するタイル費用、外壁を除去する費用および労力、新しく張りなおす費用および労力であり、少なくないと言える一方、得られる利益はAの主観的満足のみであり、少ないと言える(耐火性、防火性等の性能は同一である)。したがって、Cの抗弁が認められ、Aの請求は認められない。
Bについて、帰責事由は不可抗力及び債権者の圧倒的過失がある場合に求められると考えるところ、本件はCが遅くとも契約当日にAから指摘を受けた際(事実5)にE社に確認することができたと認められるから、不可抗力とは言えない。また、Aは契約当日に指摘をした際にCから光の具合で違って見える云々の説明に一応納得しているが、それはCが「E社に問い合わせて確認したから間違いない」という強引な虚言に対ししぶしぶ引き下がったに過ぎないから、圧倒的過失とは言えない。したがって、Bの抗弁は認められない。
3 結論
以上より、Aは634条1項の瑕疵修補請求をすることができるが、Cの修補困難の抗弁が認められるため、請求は認められない。
設問2
1 Aは634条2項に基づく損害賠償請求をしていると考えられる。これが認められるか検討する。
(1)634条2項により請求できる損害賠償の内容
634条2項は、@修補に代える損害賠償(選択的損害賠償)およびA修補とともにする損害賠償(併存的損害賠償)を選択的に認めている。@として請求できるのは修補費用である。Aの内容は、減価分、逸失利益と解される。この他に、請負の担保責任が債務不履行責任の特則であることから契約関係における保護義務違反として瑕疵から生じた損害(瑕疵結果損害)の賠償も認められうる。
(2)本件でAは上記のうちいずれかを請求できるか
ア @について
まず、@選択的損害賠償は認められないと考えられる。なぜなら、Aは既にA邸を売却しており、新所有者がそれを「瑕疵」だと思わないかぎり修補請求権自体が消滅していると解されるからである。
これに対して、瑕疵担保責任は請負契約に基づいて発生しているものであるから、目的物を売却した後も契約者の下に存続しているという考え方もあり得る。客観的な瑕疵の場合はその通りだろうが、契約者の主観に依存した瑕疵は目的物の所有権に付着したいわば状態的瑕疵であり、契約者が目的物の所有権を失った後に存続させる理由はないから、消滅すると解すべきである。不動産賃貸借において貸す債務が目的物の所有権に付着した状態債務と解されているのだから、状態的瑕疵というのも突飛な解釈ではない。
イ Aについて
完成物の性能は異ならず、売却価格に影響はないのであるから、減価分は存在しない。
また、AはA邸の客観的価値である2500万円を手にしており、それにより新しい土地を買って同じ建物を建てることができるのであるから、逸失利益も存在しない。
ウ 瑕疵結果損害も存在しない。
2 以上より、Aの請求は認められない。 以上
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A「あたしね、自分の常識力にそれほど自信があるわけじゃないけど、この問題でAの請求を認めるっていう結論は非常識だと思うわ。認める回答例が多いけど、マジで言ってるのかしら?」
B「こんなの認める裁判官はいないだろうね。」
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