2017年04月26日
民法 平成22年度第2問
設問1(1)
1 DはCに対し、本件パイプの所有権に基づく本件パイプの返還請求はできない。なぜなら、本件パイプは建物に付合し、本件パイプの所有権はCに移ったからである(242条本文)。
2 DはCに対し、本件パイプの譲渡担保権に基づく物上代位により300万円を支払わせることができるか。
譲渡担保権につき明文はないが、動産の占有を設定者にとどめたままその交換価値を把握する担保権として判例上認められている(非典型契約)。また、不動産の交換価値を把握する権利である抵当権に物上代位が認められているから(372条、304条)、譲渡担保権に基づく物上代位も認められると解する。要件は、@譲渡担保権設定契約、A売却等による交換価値の現実化(304条参照)、B弁済期の到来と解する。Bについて、仮に譲渡担保権の清算方法を帰属清算と解すれば弁済期到来後にも清算金が支払われるまでは受戻権を行使できるようにも思えるが、判例は弁済期到来後に譲渡されたらもはや受戻権を行使できないとしているから、要件と解するのが正しいと考える。
本件につき見るに、@DB間で本件パイプについて譲渡担保権設定契約が締結されている。Aについて、請負は「売却」(304条)等には当たらないから請負代金債権には原則として物上代位できないが、例外的に売却と同視できる特段の事情がある場合には物上代位できると解するところ、本件パイプの価格はBがCから受け取った金額の8割以上を占めるから、特段の事情があると言え、物上代位できると考える。Bについては、Bは請負の仕事を完成しているから、弁済期は到来している(633条但書、624条)。
したがって、DはCに対し、300万円を支払わせることができる。
設問1(2)
Cに対して請負代金を支払わせることができるのはDかEか。
Dが請求できる根拠は物上代位だから、Dは「払渡し」(304条但書)の前に差押えをしなければならない。Dは差押えをしていないから、債権譲渡が「払渡し」に当たるならばEが優先することになる。では、債権譲渡が「払渡し」に当たるか。
そもそも法が「払渡し」の前に差押えを要求した趣旨は、債権の特定性を維持することでも担保権者の優先弁済権を確保することでもなく、第三債務者を二重弁済の危険から保護することである。そして、譲渡担保の場合は抵当権と異なり、ある金銭債権が物上代位の対象となることが登記によって公示されていないから、差押えは第三債務者に対する公示機能を果たす。したがって、譲渡担保権の対象物権の価値が金銭債権に転化した場合、その金銭債権の譲渡は「払渡し」に当たると解する。
本件では、Dは「払渡し」たる債権譲渡の前に差押えをしていない。
したがって、Cに対して請負代金を支払わせることができるのはEである。
設問2
1 CF間
(1) FはCに対し、所有権に基づく返還請求として本件パイプの引渡しを求めることはできない。前述のように、Cは付合により本件パイプの所有権を取得しているからである。
(2)占有回収の訴え(200条1項)をすることもできない。Cは特定承継人(200条2項本文)に当たるからである。FはCの悪意を証明することによって占有回収の訴えを提起できるが(200条2項但書)、Cは、Bが専門の建築業者であることを評価障害事実として悪意を否定できるから、結論は異ならない。
(3)FはCに対し、本件パイプから得ている利益を不当利得(703条)として返還請求することはできない。CB間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
2 BF間
(1) FはBに対し、本件パイプの所有権に基づく返還請求をすることはできない。Bは本件パイプを占有していないからである。
(2) Fは占有回収の訴え(200条1項)をすることができるか。
BはAからの特定承継人(200条2項本文)に当たるが、Aは400万円の本件鋼材を4分の3の300万円という安値で慌てて売却していることから、Bの悪意(200条2項但書)を証明したい。しかし、占有回収の訴えは所持の外観に反し取引安全を害する可能性があるから「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」の要件は厳格に解すべきである。そこで、「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」とは承継人が何らかの形で侵奪があったことの認識を有していたことが必要であり、占有の侵奪の可能性についての認識にとどまる限りはこれに当たらないと解する。
本件につき見ると、4分の3程度の値引きは通常の売買でも行われうるから、上記のような事情からはBに侵奪の可能性の認識があったことを認定できるが、侵奪があったことの認識までは認定できない。
したがって、Fは占有回収の訴えを提起することはできない。
(3)FはBがAから本件鋼材を買ったことを不法行為(709条)として損害賠償請求することはできない。Bが前述のように侵奪の可能性の認識をもってAと取引したことは、709条の過失とまでは言い切れないからである。
(4)FはBに対し、不当利得に基づく返還請求(703条)もできない。Bは本件パイプの加工と取付けにより300万円の利益を得ているが、AB間の売買契約及びBC間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
3 以上のように解しても、FはAに対して不法行為に基づく損害賠償請求ができるから酷ではない。 以上
・最後の設問では法律構成が複数考えられることが多い。
1 DはCに対し、本件パイプの所有権に基づく本件パイプの返還請求はできない。なぜなら、本件パイプは建物に付合し、本件パイプの所有権はCに移ったからである(242条本文)。
2 DはCに対し、本件パイプの譲渡担保権に基づく物上代位により300万円を支払わせることができるか。
譲渡担保権につき明文はないが、動産の占有を設定者にとどめたままその交換価値を把握する担保権として判例上認められている(非典型契約)。また、不動産の交換価値を把握する権利である抵当権に物上代位が認められているから(372条、304条)、譲渡担保権に基づく物上代位も認められると解する。要件は、@譲渡担保権設定契約、A売却等による交換価値の現実化(304条参照)、B弁済期の到来と解する。Bについて、仮に譲渡担保権の清算方法を帰属清算と解すれば弁済期到来後にも清算金が支払われるまでは受戻権を行使できるようにも思えるが、判例は弁済期到来後に譲渡されたらもはや受戻権を行使できないとしているから、要件と解するのが正しいと考える。
本件につき見るに、@DB間で本件パイプについて譲渡担保権設定契約が締結されている。Aについて、請負は「売却」(304条)等には当たらないから請負代金債権には原則として物上代位できないが、例外的に売却と同視できる特段の事情がある場合には物上代位できると解するところ、本件パイプの価格はBがCから受け取った金額の8割以上を占めるから、特段の事情があると言え、物上代位できると考える。Bについては、Bは請負の仕事を完成しているから、弁済期は到来している(633条但書、624条)。
したがって、DはCに対し、300万円を支払わせることができる。
設問1(2)
Cに対して請負代金を支払わせることができるのはDかEか。
Dが請求できる根拠は物上代位だから、Dは「払渡し」(304条但書)の前に差押えをしなければならない。Dは差押えをしていないから、債権譲渡が「払渡し」に当たるならばEが優先することになる。では、債権譲渡が「払渡し」に当たるか。
そもそも法が「払渡し」の前に差押えを要求した趣旨は、債権の特定性を維持することでも担保権者の優先弁済権を確保することでもなく、第三債務者を二重弁済の危険から保護することである。そして、譲渡担保の場合は抵当権と異なり、ある金銭債権が物上代位の対象となることが登記によって公示されていないから、差押えは第三債務者に対する公示機能を果たす。したがって、譲渡担保権の対象物権の価値が金銭債権に転化した場合、その金銭債権の譲渡は「払渡し」に当たると解する。
本件では、Dは「払渡し」たる債権譲渡の前に差押えをしていない。
したがって、Cに対して請負代金を支払わせることができるのはEである。
設問2
1 CF間
(1) FはCに対し、所有権に基づく返還請求として本件パイプの引渡しを求めることはできない。前述のように、Cは付合により本件パイプの所有権を取得しているからである。
(2)占有回収の訴え(200条1項)をすることもできない。Cは特定承継人(200条2項本文)に当たるからである。FはCの悪意を証明することによって占有回収の訴えを提起できるが(200条2項但書)、Cは、Bが専門の建築業者であることを評価障害事実として悪意を否定できるから、結論は異ならない。
(3)FはCに対し、本件パイプから得ている利益を不当利得(703条)として返還請求することはできない。CB間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
2 BF間
(1) FはBに対し、本件パイプの所有権に基づく返還請求をすることはできない。Bは本件パイプを占有していないからである。
(2) Fは占有回収の訴え(200条1項)をすることができるか。
BはAからの特定承継人(200条2項本文)に当たるが、Aは400万円の本件鋼材を4分の3の300万円という安値で慌てて売却していることから、Bの悪意(200条2項但書)を証明したい。しかし、占有回収の訴えは所持の外観に反し取引安全を害する可能性があるから「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」の要件は厳格に解すべきである。そこで、「承継人が侵奪の事実を知っていたとき」とは承継人が何らかの形で侵奪があったことの認識を有していたことが必要であり、占有の侵奪の可能性についての認識にとどまる限りはこれに当たらないと解する。
本件につき見ると、4分の3程度の値引きは通常の売買でも行われうるから、上記のような事情からはBに侵奪の可能性の認識があったことを認定できるが、侵奪があったことの認識までは認定できない。
したがって、Fは占有回収の訴えを提起することはできない。
(3)FはBがAから本件鋼材を買ったことを不法行為(709条)として損害賠償請求することはできない。Bが前述のように侵奪の可能性の認識をもってAと取引したことは、709条の過失とまでは言い切れないからである。
(4)FはBに対し、不当利得に基づく返還請求(703条)もできない。Bは本件パイプの加工と取付けにより300万円の利益を得ているが、AB間の売買契約及びBC間の請負契約という「法律上の原因」(703条)があるからである。
3 以上のように解しても、FはAに対して不法行為に基づく損害賠償請求ができるから酷ではない。 以上
・最後の設問では法律構成が複数考えられることが多い。
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