2016年02月02日
民法 予備試験平成27年度
回答
設問1
1 FはBに対し、甲建物の所有権に基づく返還請求権を行使すると考えられるが、認められるか検討する。
要件は@Fが甲建物の所有権を有していること、ABが甲建物を占有していることである。Aは事実4の記載から認められる。@について、Fは@甲建物のA元所有、AA死亡、BC及びDはAの子であることを主張立証して、本件売買契約を権原として甲建物の所有権を取得したと主張したい。
これに対してBは、第一に、本件贈与契約を権原として元所有者であるAが所有権を喪失したことを抗弁として主張立証する。しかし、本件贈与契約は本件売買契約以前に対抗要件を具備していないというFの再抗弁が認められるため、この抗弁は認められない。
Bは、第二に、EがAの子であること及びEから甲建物について3分の1の持分の移転登記を受けたことを主張立証する。これは事実1及び事実5から認められる。
そうすると、FとBは、甲建物についてそれぞれ3分の2と3分の1の共有持分を有し、それぞれ登記を具備していることになる。共有とは一つの物を複数の者で共同して所有することであり、各共有者は物に対し持分権を有するにすぎない。持分権の法的性質は所有権であるが、同様の権利を持つものがいることによる制約を受ける。その制約の一つとして、共有者相互ではどちらも所有権に基づく返還請求はできないから、FはBに対し、甲建物の所有権に基づく返還請求権を行使することはできない。
2 FはBに対し、甲建物の持分権に基づく明渡請求ができるか検討する。
(1)まず、Fが共有状態を維持したままで甲建物の全部の使用をBに求めることは、持分権は共有物の全体に及んでいるためできる(249条参照)。しかし、この方法はBが任意に協力しなければ実現できない。
(2)そこで、FはBに対し、256条1項本文に基づき、Fを単独所有とする共有物の分割請求ができる。そして、FはBとの協議の上、持分権の過半数の賛成による決定として、Bに甲建物の明渡しを請求できると解する。Bが協議に参加しない場合にも、B不参加のまま持分権の過半数の賛成による決定で同様にできると解する。なぜなら、協議に参加の機会を与えられたうえでの不参加は、持分権の行使の放棄と見得るからである。
(3)Bが協議に応じない場合は裁判所に分割を請求することができる(258条)が、任意の協議により目的を達成できるから、現実に使うまでもない。
設問2
BはEに対し、本件贈与契約に基づく登記移転義務の不履行を理由に損害賠償請求できるか検討する(415条)。
BはAとの間で本件贈与契約を締結し、EはAの包括承継人であるから、BはEに対し、本件売買契約に基づき、甲建物の全部の移転登記請求権を有している。しかし、Eは3分の1の持分権の移転登記しかしていない。これは本旨不履行(不完全履行)に当たる。その本旨不履行により、Bは伝統工芸品を製作していた甲建物を明け渡さざるを得なくなり、営業上の損害が発生した。
これに対し、Eは帰責事由がないことを抗弁として主張立証すると考えられる。すなわち、本件で本旨不履行が発生したのは、C及びDが甲建物を譲渡してそれぞれの持分権の範囲で移転登記をしてしまったからであり、Eとしては、C及びDの上記行為を阻止する義務までは有していない。そのため、BがC及びDに対して損害賠償請求するならともかく、自分に損害賠償請求するのは筋違いであるという主張である。
この抗弁は認められるか。たしかに、共有者各人はそれぞれ持分権を有し、持分権の処分は自由に行うことができる。しかし、それは共有者の内部関係でそのように言えるのであり、外部の者との契約関係においては、共有者各人は、契約に基づく全部の移転登記義務を不可分債務として負っているのである。そのため、共有者各人は、他の共有者が持分権を処分したことを債権者との関係では主張できず、そのような事情は共有者内部の求償問題になるに過ぎないと解する。
したがって、Eの帰責事由がないことの抗弁は認められず、BのEに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は認められる。 以上
設問1
1 FはBに対し、甲建物の所有権に基づく返還請求権を行使すると考えられるが、認められるか検討する。
要件は@Fが甲建物の所有権を有していること、ABが甲建物を占有していることである。Aは事実4の記載から認められる。@について、Fは@甲建物のA元所有、AA死亡、BC及びDはAの子であることを主張立証して、本件売買契約を権原として甲建物の所有権を取得したと主張したい。
これに対してBは、第一に、本件贈与契約を権原として元所有者であるAが所有権を喪失したことを抗弁として主張立証する。しかし、本件贈与契約は本件売買契約以前に対抗要件を具備していないというFの再抗弁が認められるため、この抗弁は認められない。
Bは、第二に、EがAの子であること及びEから甲建物について3分の1の持分の移転登記を受けたことを主張立証する。これは事実1及び事実5から認められる。
そうすると、FとBは、甲建物についてそれぞれ3分の2と3分の1の共有持分を有し、それぞれ登記を具備していることになる。共有とは一つの物を複数の者で共同して所有することであり、各共有者は物に対し持分権を有するにすぎない。持分権の法的性質は所有権であるが、同様の権利を持つものがいることによる制約を受ける。その制約の一つとして、共有者相互ではどちらも所有権に基づく返還請求はできないから、FはBに対し、甲建物の所有権に基づく返還請求権を行使することはできない。
2 FはBに対し、甲建物の持分権に基づく明渡請求ができるか検討する。
(1)まず、Fが共有状態を維持したままで甲建物の全部の使用をBに求めることは、持分権は共有物の全体に及んでいるためできる(249条参照)。しかし、この方法はBが任意に協力しなければ実現できない。
(2)そこで、FはBに対し、256条1項本文に基づき、Fを単独所有とする共有物の分割請求ができる。そして、FはBとの協議の上、持分権の過半数の賛成による決定として、Bに甲建物の明渡しを請求できると解する。Bが協議に参加しない場合にも、B不参加のまま持分権の過半数の賛成による決定で同様にできると解する。なぜなら、協議に参加の機会を与えられたうえでの不参加は、持分権の行使の放棄と見得るからである。
(3)Bが協議に応じない場合は裁判所に分割を請求することができる(258条)が、任意の協議により目的を達成できるから、現実に使うまでもない。
設問2
BはEに対し、本件贈与契約に基づく登記移転義務の不履行を理由に損害賠償請求できるか検討する(415条)。
BはAとの間で本件贈与契約を締結し、EはAの包括承継人であるから、BはEに対し、本件売買契約に基づき、甲建物の全部の移転登記請求権を有している。しかし、Eは3分の1の持分権の移転登記しかしていない。これは本旨不履行(不完全履行)に当たる。その本旨不履行により、Bは伝統工芸品を製作していた甲建物を明け渡さざるを得なくなり、営業上の損害が発生した。
これに対し、Eは帰責事由がないことを抗弁として主張立証すると考えられる。すなわち、本件で本旨不履行が発生したのは、C及びDが甲建物を譲渡してそれぞれの持分権の範囲で移転登記をしてしまったからであり、Eとしては、C及びDの上記行為を阻止する義務までは有していない。そのため、BがC及びDに対して損害賠償請求するならともかく、自分に損害賠償請求するのは筋違いであるという主張である。
この抗弁は認められるか。たしかに、共有者各人はそれぞれ持分権を有し、持分権の処分は自由に行うことができる。しかし、それは共有者の内部関係でそのように言えるのであり、外部の者との契約関係においては、共有者各人は、契約に基づく全部の移転登記義務を不可分債務として負っているのである。そのため、共有者各人は、他の共有者が持分権を処分したことを債権者との関係では主張できず、そのような事情は共有者内部の求償問題になるに過ぎないと解する。
したがって、Eの帰責事由がないことの抗弁は認められず、BのEに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は認められる。 以上
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