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2022年08月18日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』8 -最終回-

⇒ 『魔王の娘は解放された』7からの続き


ー目次ー
【PART10 ニンゲンからの解放 後編】
【PART11 幸せこそ最大の復讐】
【エピローグ】

【PART10 ニンゲンからの解放 後編】

<魔王城・謁見の間>

魔王
「単刀直入に言おう。」
「お前さえよければ我らの、魔族の仲間になる気はないか?」

勇者
「…私が…魔族の仲間に?!」

魔王
「我らとともに、魔族とニンゲンの復讐の連鎖を止める力になってほしい。」
「戦ったときも言ったが、お前は復讐に加担するようなタマではないからな。」

勇者
「しかし、私は国王に剣を…。」

魔王
「済んでのところで剣を収めたのだろう?」
「もし手を出していれば、復讐の連鎖は後世まで続く。」
「お前は無意識にそれを感じ、躊躇したのではないか?」

勇者
「あれは彼女が止めてくれたからだよ。私は狂っていた…。」

魔王
「確かにあの娘の尽力あってのこと。」
「だがお前を信頼し、お前を諌める者が隣にいるのは自らの人徳ゆえだ。」

勇者
「隣にいてくれる人、か…。」

魔王
「本音を言えば、復讐の連鎖を止めるというのは二の次だ。」
「私はお前という人物が気に入ったから勧誘している。」
「尊敬できる者とともに過ごしたいという、私のわがままだ。」

勇者
「尊敬だなんて。」

魔王
「それに、お前は私よりも強いからな。」
「お前がいれば、私の後継者候補も安泰だ。」

勇者
「あはは、側近がいるじゃないか。」

魔王
「側近は先代の頃から一向に魔王の座を狙ってこないのでな。」

側近
「私は魔王さまのお傍にいることが幸せですから。」

魔王
「ま、まぁともかくだ。」
「私のわがままに付き合ってくれるなら、あたたかく迎えたい。」
「肩書きが必要なら、魔王の後継者候補でも、私の娘でも、何でもいい。」

勇者
「はは、娘だなんて。」
「ありがとう。私は魔族の仲間として生きていきたい。」
「仲間にしてほしい。」

魔王
「こちらとしては嬉しいが、やけにあっさり承諾したな。」

勇者
「魔族のみんなは、私を1人のニンゲンとして受け入れてくれたから。」

魔王
「1人の…か。そういえば聞いたぞ。」
「お前の両親は『勇者』という条件付きの愛情しか与えなかったと。」

勇者
「うん。ここならもう、あんな思いはしなくていいって思えた。」
「それに、ニンゲンの復讐の原動力はきっと、私が味わったような悲しみだよ。」

魔王
「『親から愛されなかった悲しみ』か。」

勇者
「うん。」
「旅をしてきて思った。」
「ニンゲンは魔族だけじゃなく『親への復讐』もしてるんじゃないかって。」

魔王
「なるほどな…。続けてくれ。」

勇者
「親から愛されなかった子が、親への復讐心を魔族や自分の子どもにぶつける。」
「ぶつけられた子が親になったら、同じことを子どもにする。」
「孤児を受け入れる魔物ハンターが大きくなったのは、きっとそういう背景がある。」

魔王
「いわゆる『置き換え』か。」
「親へぶつけられなかった怒りの矛先を、より弱き者へ向けているのだな。」
「では、その流れを変えていければ魔物ハンターの弱体化につながるかもしれんな。」

勇者
「うん。甘い考えかもしれないけど、それがこの旅の結論。」

「私も復讐に走るところだったけど、魔族のみんなが気づかせてくれた。」
『本当の復讐は誰かに悲しみをぶつけることじゃない、自分が幸せに生きることだ』って。」

「私は魔族の仲間として、それを体現していきたい。」

魔王
「…さすが私の見込んだ勇者だ。改めて歓迎する。」

側近
「よかったですね魔王さま。後継者と娘がいっぺんにできましたよ。」
「ずっと欲しがってましたもんね。」

魔王
「こ、こら! バラすな側近よ!」照

魔族少女
「じゃあ私にとってはお姉ちゃんですね! やったぁ! 嬉しいです!」
「よろしく! お姉ちゃん!」

勇者
「お姉ちゃんだなんて。」照
「親、妹…なんだか嬉しいな。」

「…もしかして、この気持ちが『やすらぎ』…なのかなぁ。」

【PART11 幸せこそ最大の復讐】

<数年後、魔王城・執務室>

魔族少女
「お姉ちゃん! 戦闘部隊と医療部隊の準備できたよ!」

勇者
「ありがとう!」
「次に見つかった取引現場はここと、ここか。」
「Aチームと、Eチームに鎮圧に行ってもらおう。」

「いつも通り、魔封じの武具には気をつけて!」
「それと、職業紹介状も忘れずにね!」

魔族少女
「わかった! 行ってくるね!」

勇者
「うん! 行ってらっしゃい!」

魔王
「精が出るな。」

勇者
「お父さん!」

魔王
「調子はどうだ?」

勇者
「少しずつだけど、取引の件数も、出動の回数も減ってきたよ。」

魔王
「西の街と、東の王国の孤児院はどうだ?」

勇者
「順調! 街の治安も良くなってきてるって町長さんが言ってた!」
「それに、魔物ハンターを辞めて孤児院の職員になってくれる人も増えてきたよ。」

魔王
「それは何よりだ。」

勇者
「お父さんの医療部隊はどう?」

魔王
「あぁ、最近ようやく落ち着いたところだ。」
「最初は連日、お前たちが取引から助けた魔族が運び込まれて大変だったな。」
「治癒魔法を使える者がへとへとになっていた。」

勇者
「あはは、そうだったね。魔族みんなで治癒魔法の修練したよね。」
「おかげで、今ではほとんど全員が使えるようになって。」
「あのときの魔法合宿も楽しかったよね!」

魔王
「ああ。楽しかったな。」

コンコン、バタン!

側近
「魔王さま! 勇者さん! ついに王都から不戦協定の申出が!」

勇者
「お兄ちゃん! 『さん』付けはしなくていいって言ってるでしょ?!」

側近
「す、すまない。まだ慣れなくてな。」
「ともかく、ついに王都側が折れるかもしれません。」
「王国内でも魔族との融和政策を支持する声が大きくなってきています。」

勇者
「ついにここまで来たね…!」
「さすがお兄ちゃん!」

側近
「お、お兄ちゃん…。」照

勇者
「あと一歩だけど、あの国王だから、慎重に対応してね!」

魔王
「無理はするなよ。」

側近
「わかりました! では失礼します!」バタン

魔王
「相変わらず優秀な側近…。いや、良き兄だな。」

勇者
「お兄ちゃんって呼ぶたびに照れるんだから!」

魔王
「奴なりの喜び方なんだろう。もう少し時間をやってくれ。」

勇者
「もちろん! お兄ちゃんはお兄ちゃんだから!」

魔王
「お前もずいぶんと変わったな。」
「何というかな、目の輝きが増してきた。」

勇者
「えへへ、そうかな?」

魔王
「あぁ。私と戦った頃は、今にも潰れそうな…険しい顔をしていた。」

勇者
「ニンゲンだった頃はつらかったよ。」
「だけどお父さんと、魔族のみんなのおかげで、今すごく楽しいよ!」

魔王
「そうか。ならば私も嬉しいぞ。」
「これなら私はいつ引退しても安心だな。」

勇者
「もう! 引退なんて言わないでよお父さん!」
「私、魔法の訓練ではまだお父さんに負け越してるんだから!」

魔王
「ははは。娘に簡単にやられるわけにはいかないさ。」

勇者
「次の対戦までには新魔法を完成させて、勝ってやるんだからね!」

魔王
「あぁ、楽しみにしているぞ。」

魔王
「そういえば、お前がかつて西の洞窟で助けた親子から連絡があってな。」
「大きくなった息子がお前に礼がしたいそうで、近々こちらへ来るぞ。」

勇者
「本当?! 久しぶりだなぁ。元気にしてるって?」

魔王
「あぁ。王都の北の森で元気にやっている。」
「仲間も増えて、今のところ安全に暮らしているそうだ。」

勇者
「よかった! 早く会いたいなぁ!」

魔王
「…お前は紛れもなく…世界を救う勇者だな。」ボソッ

勇者
「なになに? なんか言った?」

魔王
「何でもない。」
「さぁ、仕事が一段落したら昼食にしよう。」

勇者
「うん! お兄ちゃんも呼んでくるね!」

バタン!

勇者
「…。」

勇者
「親から愛されなかったと悲しむニンゲンは私で最後にする。」
「私はニンゲンとしてではなく魔族として、幸せに生きていく。」

「それが私にできる、最大の復讐だから。」

【エピローグ】

魔王の娘
「わたし、『ゆうしゃ』だったの。」
「でもいまは、『まおうのむすめ』なんだよ。」

「まおうのむすめはしあわせになって、ふくしゅうをとめるの。」
「まおうのむすめだから、もう『ゆうしゃ』じゃないよ。」

「けど、お父さまも、お兄ちゃんも妹も、わたしを大切にしてくれるの。」
「そっきんさんはまだ『お兄ちゃん』に慣れてないみたい。」
「妹はわたしに甘えたり、わたしが甘えたりしてるの。」

「わたし、せかいを『へいわ』にするの。」
「まだできてないけど、おうちにいれてくれるんだよ。」
「だれもこわいかおしないし、『せけんさまにはずかしい』ともいわないの。」

「わたしは、わたしのままでよかったの。」
「わたしのままでいるだけで、みんな笑ってくれるの。」


「…わたし、かぞくにいっぱい愛されて、とってもしあわせだよ。」



ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー【END】ーーーーー




<作者あとがき>

最後までお読みいただきありがとうございました。

人生初の、小説執筆への挑戦でした。
至らない点は多々ありますが、
いま持っている力は出し切れたと思います。

完成までの3ヶ月間、
続きが書けない苦しみに何度もぶち当たりました。
「もうここで完結でいいや」と思うこともありました。

それでも投げ出さなかったのは、
苦しみ以上に「物語を創ることが楽しかったから」でした。

 幸せを感じるのは
 「仕事だから」「義務だから」ではなく「楽しい」「やってみたい」である


改めて、そのことを学びました。

今後も「楽しい」「やってみたい」に忠実に生きて、
創作を楽しみたいと思います。



⇒ ファンタジー小説『魔王の娘は解放された』全8章

『魔王の娘は解放された』1

『魔王の娘は解放された』2

『魔王の娘は解放された』3

『魔王の娘は解放された』4

『魔王の娘は解放された』5

『魔王の娘は解放された』6

『魔王の娘は解放された』7

2022年08月16日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』7

⇒ 『魔王の娘は解放された』6からの続き


ー目次ー
【PART9 残酷すぎた真実】
【PART10 ニンゲンからの解放 前編】

【PART9 残酷すぎた真実】

<王城・城門前>

魔族少女
「本当に正面から行くんですか?」

勇者
「うん。できれば王さまから直接、真実を聞きたい。」

魔族少女
「さすがにハンター組織のことまでは…。」

勇者
「いざとなったら『真実の口』を使う。」

魔族少女
「自白の魔法!? ニンゲンの世界では習得も使用も禁忌のはずでは?!」
「どうして勇者さんが使えるんですか?」

勇者
「昔、お城の図書館で偶然、魔導書を見つけたんだ。」
「誰にも知られないよう修練して覚えた。」

魔族少女
「理由はやはり、ご両親のこと…でしょうか。」

勇者
「うん。子ども心に知りたかったんだ。」
「お父さまとお母さまは、本当に私を愛していたのかを。」
「結局、使う勇気は出なかったけどね。」

魔族少女
「…本当にいいんですか?」
「万が一、自白魔法を使ったとバレたら反逆罪になるかもしれませんよ?」

勇者
「構わない。 もう私には帰る場所がないから。」
「それに、私によくしてくれた魔族のみんなの力になりたい。」

魔族少女
「勇者さん…。」

勇者
「王さまのところには私1人で行くよ。」
「きみを敵陣の真ん中へ連れて行きたくないから、ここで待っていてほしい。」

魔族少女
「私も行きます! 勇者さんのお仲間として!」

勇者
「…ありがとう。それじゃあ一緒に行こう。」


ーーーーー


警備兵
「ゆ、勇者さま!」

勇者
「お久しぶりです。」

警備兵
「魔王に敗れたとの噂も聞いていましたが、よくぞご無事で!」

勇者
「旅の報告をしたいんですが、王さまに謁見できますか?」

警備兵
「もちろんです! すぐに城内へ話を通しましょう!」

勇者
「ありがとうございます。」

警備兵
「隣の方はお仲間ですか?」

勇者
「え、えぇ。」

魔族少女
「よ、よろしくお願いします。」

警備兵
「よかった! お1人で旅立たれ、とても心配しておりました!」

勇者
「あはは…兵士さんたちに鍛えてもらったおかげで生き残れましたよ。」

警備兵
「懐かしいですね。あの頃から勇者さまはお強くて…。」
「私などすぐに追い抜かれてしまいましたね。」
「それでは城内へお通しします。お入りください。」

勇者
「ありがとうございます。それでは。」

<王城・謁見の間>

国王
「よくぞ無事に戻った! 勇者よ!」

勇者
「王さま、謁見を許可していただき感謝します。」

国王
「よいよい。魔王に敗れたとの噂もあったが、さすがは勇者よ。」
「それに頼もしい仲間を引き連れて戻るとは恐れ入る。」
「して、魔王討伐の道のりはどうだ?」

勇者
「はい。魔王領のある東の大陸へ渡り、魔王城へ到達しました。」

国王
「ほう! では魔王を倒したのか?」

勇者
「…私は…魔王に敗れました。」

国王
「なんと! ではどうやって生きて戻ったのだ?」
「それとも、お主は亡霊の類か?」

勇者
「魔王は私を生かしました。」
「そして、私にこう言いました。」
「『魔物ハンターの調査に協力してほしい』と。」

国王
「…魔物ハンターだと?! なぜ魔王がお主にそのようなことを?」

勇者
「それは…わかりません。」
「ですが、魔王は彼らが身につけていた魔封じの武具に疑問を持っていました。」

国王
「魔封じの武具…!」

勇者
「私は東の王国で魔物ハンターの取引現場を目撃し、戦いました。」
「彼らが身につけていた武具には…この国の紋章が入っていました。」

国王
「な…何だと…?!」
「(まずい…! もしやバレて…?!)」

勇者
「私はこの国の兵士さんに訓練してもらいました。」
「東の国で戦ったハンターの動きは、この国の兵士さんとそっくりでした。」
「それは魔物ハンターたちも、この国で訓練を受けているからじゃないでしょうか。」

国王
「…そ、それは偶然だな。そやつらと我が国の兵士の流派が似ているとは…。」

勇者
「魔封じの武具に触れたとき、魔力が吸い取られました。」
「あのときに感じた魔力の流れは、この国の魔導士さんとそっくりでした。」

国王
「…ま、まぁ魔力の修練にはいくつか基本型があるからな。」
「同じ型で修練したのだろう。」

勇者
「…そうですか…。」

魔族少女
「(勇者さん…。 使ってしまうんですね…。)」

勇者は『禁忌・真実の口』を唱えた!

国王
「ワ、我が国が魔物ハンターを組織しタ。」
「ハンターの訓練モ、魔封じの武具の作成モ、我が国で行っていル。」

勇者
「どうしてそんなことをするんですか?」

国王
「人間が優勢な今、我が国が世界をリードするためダ。」
「魔族に追い打ちヲかけ、人間の復讐心を満たせば、多くの支持を得られル。」
「魔族の売買というビジネスで、雇用も増え、他国の経済も潤う。」

勇者
「…私が勇者候補者として引き取られた孤児というのは本当でしょうか?」

国王
「本当ダ。お主の家は勇者の家系であり、勇者育成の担当官ダ。」

勇者
「勇者育成の担当官?!」

国王
「魔族との軋轢は根深イ。」
「誰かを勇者として立てなければ国民が納得しないノダ。」
「国王である私の責任問題になっては政権の維持もままならぬ。」

勇者
「(…ギリッ!)」

魔族少女
「勇者さん…落ち着いて…!」

国王
「勇者として魔王を打ち倒せれバ、それでよシ。」
「たとえそれが果たせずとも私の面目は保てル。」
「気の毒だガ、これも我が国の名誉のためダ、悪く思うな。」

勇者
「…う…!」

勇者は腰に挿した剣に手をかけた!

魔族少女
「待って勇者さん!」 ガシッ

勇者
「…!?」

魔族少女
「つらいお気持ちはわかります。」
「ですが抑えてください!」
「ここで手を出したら彼らと同じになってしまいます!」

勇者
「…フー! フー! …ありがとう…止めてくれて。」

勇者は『禁忌・真実の口』を解除した!

国王
「ハッ! ゆ、勇者よ。私はいま何を…? 思い出せぬ。」
「と、とにかく魔王討伐の旅は順調と聞いて安心したぞ。」

魔族少女
「…。」

勇者
「…はい。世界平和のために力を尽くしてまいります。」

国王
「うむ。道中、気をつけて行くのだぞ。」

勇者
「(…ポロ…。ポロポロ…。)」


ーーーーー


その後、私は勇者さんの肩を抱きかかえ、王城をあとにしました。
彼女はお城を出るまでは気丈を装っていました。
が、間もなく彼女の顔は真っ蒼になっていました。

あまりにも残酷すぎた真実。
私には、勇者さんの心が砕け散る音が聴こえた気がしました。

私が止めたときの、憎しみに満ちた勇者さんの表情。
あれはきっと、彼女がニンゲンとして最後に見せた表情なのでしょう。

「運命に翻弄された少女」
そんな言葉ではとても表すことはできませんでした。

私は、ニンゲンであることに絶望した少女の心と身体を、
精一杯、抱きしめました。

【PART10 ニンゲンからの解放 前編】

<数日後、魔王城>

魔王
「勇者の様子はどうだ?」

魔族少女
「泣き疲れて…眠ったところです。」
「戻ってからお食事もほとんど取ってなくて…。」

魔王
「それだけショックが大きかったか。無理もない。」
「あの若さで大きな運命を背負わされた挙句、簡単に裏切られたのだからな。」

魔族少女
「はい…。あまりにもかわいそうで…見てられませんでした。」

魔王
「ニンゲンとは何と欲深く、利己的な生き物だろうか…。」
「血がつながっていないとはいえ、我が子として育てた者さえ捨てるとは。」

魔族少女
「勇者さんは『もう帰る場所がない』と言って、自白魔法を使いました。」

側近
「ニンゲン界では禁忌の魔法…。」
「それだけの覚悟を決めていたんでしょうね。」

魔族少女
「おそらく…。」

魔王
「お前もよく敵陣深くから帰ってきてくれたな。」
「お前の勇気ある行動のおかげで真実を知ることができた。感謝している。」

魔族少女
「魔王さま…ありがとうございます。」

魔王
「勇者が目覚めたら話したいことがある。」
「悪いが引き続き彼女を看てやってくれ。」

魔族少女
「もちろんです。」

魔王
「側近よ。」

側近
「はい。心得ております。魔王さまならそうなさるでしょう。」

魔王
「ははは、さすがだな。私の考えなどお見通しか。」

側近
「長くお傍におりますから。」

魔王
「賛成してくれるか?」

側近
「もちろんです。」
「魔族はもちろん、ニンゲンにとっても最良の結果になるでしょう。」

魔王
「感謝する。では勇者の目覚めを待とう。」

側近
「はい、魔王さま。」

<翌日、魔王城・謁見の間>

魔王
「あの娘から話を聞かせてもらった。つらかったな。よく帰ってきてくれた。」

勇者
「『帰って』って…。どういうこと?」

魔王
「お前は『帰る場所がない』と言った。」
「ならば、ここを新たな”帰る場所”にするのもよいだろう。」

勇者
「え?!」

魔王
「単刀直入に言おう。」
「お前さえよければ我らの、魔族の仲間になる気はないか?」



⇒ 『魔王の娘は解放された』8 -最終回- へ続く



【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』3

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』4

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』5

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』6

2022年08月14日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』6

⇒ 『魔王の娘は解放された』5からの続き


ー目次ー
【PART7 決戦・魔王城 後編】
【PART8 勇者・失意の帰郷】

【PART7 決戦・魔王城 後編】

<2日後、魔王城・客室>

魔族少女
「勇者さん、お食事です。」

勇者
「ありがとう。きみが手当てしてくれたんだね。」

魔族少女
「はい。私にできるのはこれくらいです。」

勇者
「何から何まで感謝してるよ。」

魔族少女
「ごめんなさい、こんなことになって。」

勇者
「私は魔王の敵だから。」
「むしろ私を殺さず、幽閉もしないなんて、魔王は何を考えて…。」

コツッ、コツッ

勇者
「足音?」

側近
「魔王さまがお呼びだ。執務室へ案内する。」

勇者
「側近…ここで私を殺せばいいだろう。」

側近
「まぁついて来い。詳しい話は魔王さまから聞いてもらう。」

<魔王城・執務室>

魔王
「傷は癒えたか? 勇者よ。」

勇者
「魔王…なぜ私を殺さない?!」

魔王
「お前を殺す気はない。」
「初めに言っただろう。話がしたいと。」

勇者
「…わかった。負けた私に選択の余地はない。聞かせてくれ。」

魔王
「結論から言おう。我らとともに、魔物ハンターの調査をしてほしい。」

勇者
「魔物ハンターを?」

魔王
「お前が東の王都で奴らと戦った話は聞いている。」
「そのときに見ただろう。どれだけの魔族が被害に遭っているかを。」

勇者
「ああ。あのときは助けられたけど、あんなに大勢…。」

魔王
「そうだ。あのような蛮行は世界中で起きている。」
「そして仲間が被害に遭うたび、魔族のニンゲンに対する憎しみは募っていく。」
「私はこれ以上の仲間の不幸と憎しみの増幅を止めたいのだ。」

勇者
「どうして人間の私にそれを?」

魔王
「お前は種族の分け隔てなく物事を考えられるからだ。」
「無用な殺生もせず、優越感や虚栄心に支配されてもいない。」

「西の街では魔族を救い、ニンゲンの孤児や街のために行動した。」
「東の王都では負かした相手の事情さえ慮(おもんばか)った。」

勇者
「私は彼らを救えてなんか…。」

魔王
「謙遜か。私はお前のそういうところも気に入っているのだ。」
「それに、断ってくれても構わない。」

勇者
「断ったら、ただでは済まさないんだろう?」

魔王
「何もしない。お前を解放するだけだ。故郷へ帰るもよかろう。」

勇者
「私を解放したら、また魔王を倒しに来るかもしれないぞ。」

魔王
「そうだな。」

勇者
「だったらどうして?」

魔王
「お前は復讐の連鎖に加担するようなマネはしないからだ。」
「私を殺そうとしなかったのも、同じ理由ではないか?」

勇者
「あれは私の個人的な…。」

魔王
「まぁいい。お前の生い立ちに起因するなら、詳しくは聞かん。」
「とにかく、協力してくれるなら、あの娘とともに調査隊に加わってほしい。」

勇者
「そこまで私を信じるなんて…。」
「…わかった。私にできることならさせてくれ。」

魔王
「協力、痛み入る。」
「では3日後、お前の出身国の王都へ向かってもらおう。」

勇者
「私の出身国へ?」

魔王
「魔物ハンターどもの武具に、王都の紋章が入っていたと聞いている。」
「魔法を無効化する武具は半端な魔力や組織力では作れない。」
「であれば黒幕はあの王国である可能性が高い。」

勇者
「まさか…あの王さまが…?」
「いや、今となっては『やっぱり』かな…。」

魔王
「王国ぐるみで強力な魔術師やハンターを育成しているかもしれない。」
「それを調べてほしい。お前なら土地勘もあるだろう。」

勇者
「…私も真実を知りたい。行くよ。」

魔王
「助かる。」
「それまでは身体を休ませるがよかろう。」

【PART8 勇者・失意の帰郷】

<勇者の出身国・王都>

勇者
「変わってないな。何もなさそうでよかった。」
「にしても、こんな形で帰ってくるなんて。」

魔族少女
「この街には勇者さんのご両親がいるんですか?」

勇者
「うん。お父さまから『魔王を倒すまで帰ってくるな』って言われてるけどね。」

魔族少女
「お会いすることはできないんですか?」

勇者
「魔王に敗れた身ではちょっとね。」

魔族少女
「おつらい立場ですね…。」
「せめて、ご両親のお姿だけでも見られればいいですね。」

勇者
「うん…。」

<王都・繫華街>

魔族少女
「賑やかなところですね。」

勇者
「うん。王都で1番活気がある繫華街だよ。」
「ここにはお母さまがよく来てたけど…。」

ヒソヒソ

勇者
「ご婦人の噂話? あれは近所の奥さん…。」

婦人A
「ねぇねぇ聞いた? 勇者さまの話。」

婦人B
「聞いたわ。勇者一家の実の子じゃないらしいって話でしょう?」

勇者
「…え…?!」

婦人A
「そうらしいのよ。」
「勇者を育てると国から報奨金が出るから、孤児のあの子を引き取ったそうよ。」

婦人B
「やだ、かわいそうねぇ…。素直でいい子だったんだけどね。」

婦人A
「いくら強くても、少女1人で魔王討伐だなんてね。」
「王国は仲間も用意しなかったらしいし、どういうつもりかしら。」

婦人B
「勇者は魔王に負けたんじゃないかって噂もあるし…世知辛いわね。」

婦人A
「本当にねぇ…。」

勇者
「…私が…実の子じゃない…?」

魔族少女
「ゆ、勇者さん…。大丈夫ですか?」

勇者
「…大丈夫! 噂なんて尾ひれがつくものだから…!」
「さ、行こう。」

婦人A
「あら、勇者のお母さま。」

勇者
「お母さま…?!」

魔族少女
「あの方が?!」

勇者
「少し離れよう!」

勇者の母
「ごきげんよう。何のお話ですの?」

婦人B
「勇者様のお話ですよ。いまごろ魔王を討伐したんじゃないかって。」

勇者の母
「ああ、あの子ね。強くていい子でしょう? 私が育てたのよ。」

婦人A
「さ、さすがですわね。」
「それにしても愛する我が子を魔王討伐へ送り出すなんて、すごい覚悟ですわ。」

勇者の母
「ああ、いいんですよ。あの子は勇者候補として引き取った子だから。」

婦人A
「?! …そ、そうでしたの…。」

勇者の母
「ええ。最初は魔法はさっぱりでしたのよ。」
「私の特訓のおかげで魔法学院でトップの成績を上げましたの。」

婦人B
「わ、私の息子も娘も、学院では勇者様に敵いませんでしたわ。」

勇者の母
「私が教えたんですから当然ですわ。」

婦人A
「あ、あははは…な、何度聞いてもすごいですね…。」

勇者
「(…ポロ…。)」 ゴシゴシ

魔族少女
「…勇者さん…。その…涙が…。」

勇者
「…な、泣いてなんかないよ! ほら!」 ニコッ

魔族少女
「そんなにひきつった笑顔を作って…。」
「…勇者さん、人がいないところへ行きましょう。」

<王都・繫華街の外れ>

勇者
「こんなところへ連れて来て、どうしたの?」

ギュッ

勇者
「な、何を?」

魔族少女
「ここなら人目もありません。我慢しなくていいんです。」

勇者
「我慢なんて…。」

魔族少女
「あんなことを聞いてしまって…おつらかったでしょう?」
「思いきり…泣いてください。」

勇者
「…お母さま…お母さま…! う…うぅ…。」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ーーーーー


私は実の子ではなかった。
それは大きなショックだった。
ただ、それだけならまだ受け入れられた。

私にとって何より悲しかったのは、
母親が私を愛していないと知ってしまったことだった。

母親は自らの虚栄心を満たすために私を引き取ったのか?
自らの価値を上げるために私の成績を自慢してきたのか?
私は『勇者』でなければ愛されず、必要とされない人間なのか?

私は全身をかけめぐる無価値観に耐えられずに崩れ落ちた。
どれくらい泣いたか見当もつかなかった。

魔族少女は何も聞かず、優しく抱きしめてくれた。
ずっと、私の頭を撫でてくれた。

私を『勇者』ではなく、1人のニンゲンとして受け入れてくれた。
私は、決して両親からは感じられなかった温もりに触れた。
初めての感覚に、戸惑いと、心地よさを覚えた。

私は…救われた。



⇒ 『魔王の娘は解放された』7へ続く



【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』3

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』4

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』5

2022年08月12日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』5

⇒ 『魔王の娘は解放された』4からの続き


ー目次ー
【PART6 再戦・東の王都 後編】
【PART7 決戦・魔王城 前編】

【PART6 再戦・東の王都 後編】

<夜、東の王都・街外れ>

ーー<魔物ハンター・仲買人 VS 勇者・魔族少女>ーー

魔物ハンター
「そろそろ限界だな!」

勇者
「う…。」

魔物ハンター
「できればそんな迷いのないあんたと組んでみたかったな!」
「恨みはねぇが、黙ってもらうぜ!」

勇者
「私には誰も…守れない…?」
「勇者なのに…世界を救えない…?!
「いや…!」


ー勇者の回想ー

 魔族母
 「あなたのようなニンゲンに会えたこと、忘れません!」

 魔族少年
 「おねえちゃん、ありがとう!」

 魔族少女
 「あなたは命の恩人です。」

ー勇者の回想終わりー


勇者
「私には世界を救えないかもしれない。」
「けど…目の前で命が危ない者を助ける!」
「はぁぁ!」

魔物ハンター
「なんだ…?! この気迫は…?!」

ギィン!

魔物ハンター
「うわぁ!」 ドサッ

仲買人
「おい! 大丈夫か?!」 ダダッ

魔族少女
「ゆ、勇者さんが勝った…?!」

勇者
「はぁ…はぁ…大丈夫ですか?!」 ダダッ

仲買人
「とどめを刺さないだと?!」

魔物ハンター
「く…! 何だよ、敵に肩を貸すなんて、ずいぶん甘いな…。」

勇者
「あなたの言う通り、私にはあなたたちを救えないかもしれません。」
「私にできるのは、目の前の誰かを助けることだけです。」
「勇者失格ですね…。」

魔族少女
「勇者さん…。」

仲買人
「…?!」

魔物ハンター
「まったくだ。だが、あんたの強さはその甘さあってなんだろうな。」
「だからずっと剣を逆刃(さかば)にしてたんだろ? 俺を殺さないために。」

勇者
「…ごめんなさい。あなたを侮ったわけでは…。」

魔物ハンター
「ハハッ、気を使わなくていいぜ。」
「今回は降参だ。勇者さまが現れたんじゃあしょうがねぇ。」

勇者
「私、あなたたちの生活も救える勇者になります!」

魔物ハンター
「ああ、頼むぜ勇者さま。」

勇者
「はい!」
「…最後に1つだけ、お聞きしてもいいですか?」

魔物ハンター
「何だよ。」

勇者
「さっき肩を貸した時に、魔力を吸い取られる感覚がしました。」
「あなたが身につけてる、王都の紋章が入った武具から。」

魔族少女
「魔封じの武具に、王都の紋章?!」

仲買人
「おい! それ以上の詮索はやめろ!」

魔物ハンター
「気づいたか…さすがだな。まぁそういうことさ。」

勇者
「まさか、王国が自ら魔物ハンターを組織して…?」

魔物ハンター
「あとはご想像にお任せだ。」
「勇者さまは世界を救ってくれるんだろ? 俺らも含めて。」

仲買人
「く…! 今日は引くが、変に足を突っ込んでくれるなよ!」


ーーーーー


魔族少女
「勇者さん、ありがとうございました!」
「おかげで仲間を助けることができました!」

勇者
「きみも加勢してくれてありがとう。」

魔族少女
「あの…どうしても魔王さまのもとへ向かうんですか?」

勇者
「うん…。私は勇者、世界を救う使命があるから。」

魔族少女
「そうですよね…。」
「魔物ハンターを倒してくれたことには感謝してます。」
「でも私は魔族です。魔王さまを狙う者がいることを報告しないわけにはいきません。」

勇者
「それでいいよ。きみはきみが正しいと思うことして。」

魔族少女
「あなたは命の恩人です。」
「できれば死んでほしくありません。」

勇者
「ありがとう。」

魔族少女
「魔族も守りたい…。勇者さんも守りたい…。」
「どっちも叶えたいと思ってしまう私は甘いんでしょうか?!」
「私はどうすれば…。」

勇者
「気にしないで。」
「きみは魔族として、仲間を守るために行動すればいい。」
「私も勇者として、人間を守るために行動する。」

魔族少女
「勇者さん…。わかりました。」
「こんなことを言うのも変ですが、どうかご無事で!」

【PART7 決戦・魔王城 前編】

<魔王城・道中>

勇者
「いよいよ、この山を越えた先が魔王城か。」
「私が魔王を倒し、世界に平和を…。」

勇者
「…私はこの旅で何を見てきたんだろう…?」
「人間の欲望と、それに怯える魔族。」
「親の愛情を知らず、魔族の売買に手を染める人たち。」
「なのにその人たちも、魔族も救えない私…。」

勇者
「私には魔王が悪の権化だなんて、とても思えない。」
「人間が善で、魔族が悪だなんて、とても…。」

「私は勇者なのに、こんなことを考えるなんて。」
「こんな気持ちで魔王討伐なんて、私にできるだろうか…?」

<魔王城・城門前>

門番
「よう。姉ちゃんが勇者か。」

勇者
「そうだ。魔王を倒しに来た。」
「あなたに恨みはないが、邪魔するなら倒させてもらう。」

門番
「さすがの気迫だな。まぁ焦りなさんな。」
「魔王さまから言われてんだ。あんたが来たら通せってな。」

勇者
「?! どうして?」

門番
「あんた、俺らの仲間を助けたんだろ?」
「魔王さまはそんなあんたに興味があってな。」
「できれば話がしてみたいってよ。」

勇者
「魔王と話を…?!」
「そう言って私を誘いこむ罠か?!」

門番
「どう捉えても構わねぇ。」
「だが俺らだって受けた恩は返したいのさ。」

勇者
「恩…?」

門番
「それに、俺じゃあんたにはとても敵わねぇしな。」
「門は開けてやるから、あとはあんた次第だ。」

勇者
「…では入らせてもらう。」
「ありがとう。」

門番
「…へッ、『ありがとう』なんてな。悪い気はしねぇ。」
「さすがは魔王さまが見込んだニンゲンだ。」


ーーーーー


側近
「魔王さま、門番から『勇者を通した』との報告がありました。」

魔王
「ついに来たか。側近よ、お前は手出し無用だ。いいな?」

側近
「わかっております。ですが魔王さま…。」

魔王
「勇者の実力は私より上だ。ムダな犠牲は出したくない。」

側近
「魔王さまのお心遣い、痛み入ります。」

魔王
「案ずるな。お前なら気づいているだろう。今の勇者に私は倒せないと。」

側近
「はい…。」
「危なくなったらお助けします。どうかご無理はなさらないでください。」

魔王
「わかっている。お前たちの忠義には感謝している。」

<魔王城・謁見の間>

勇者
「この扉の向こうに魔王が…。」
「このために私はここまで来た…のか。」
「魔王を倒し、世界に平和を…平和…。」


ー勇者の回想ー

 「お父さまはすごくこわいかおをしてる。」
 「だけど、うまく『けんじゅつ』ができたら、ほめてくれるの。」

 「お母さまはよく『せけんさまにはずかしい』って言ってる。」
 「だけど、うまく『まほう』ができたら、笑ってくれるの。」

 「わたし、お父さまとお母さまのために『ゆうしゃ』になる。」

ー勇者の回想終わりー


「…ここまで来て何を迷ってるんだ私は! 行くぞ!」

ギィィィ

魔王
「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ。」

勇者
「魔王…! それに側近と、あの子は!」

魔族少女
「勇者さん…来てしまったんですね。」
「ごめんなさい、あなたと敵対したくはありませんでした。」

魔王
「我らの仲間を救ったことには感謝している。」
「できればお前と話がしたいが、それでは済まないという顔をしているな。」

勇者
「ああ。私はお前を倒し、世界を救うためにここまで来た。」

魔族少女
「勇者さん…。」

魔王
「戦うか。それでいい。」
「勇者は魔を滅する者。お前はその使命を果たすのだ。」

勇者
「そうさせてもらう! いくぞ魔王!」

ギィン! 

魔王
「さすがだ。勇者の力は本物だな。」

勇者
「それは光栄だ。このまま押し切らせてもらう!」

魔王
「ほう、それならなぜお前は剣を逆刃(さかば)に持っている?」
「私を倒し、世界を平和にするのではなかったのか?」

勇者
「う、うるさい!」

ギィン! ギィン!
ザッ

勇者
「…くッ…!」

魔王
「なぜそこまで迷う?!」
「手加減した剣で私は倒せんぞ!」

勇者
「どうして…?! 手が震える…。剣が…振れない…!」
「…ならば魔法で…!」
「吹雪よ!」

ゴォォォ!

魔王
「最上位の冷気魔法か。」
「魔の法衣よ、我を包め!」

フワッ

冷気魔法は魔力の衣にかき消された!

勇者
「くッ…! 雷よ!」

バリバリバリ!

魔王
「魔力の壁よ、我を守護せよ!」

キィン!

雷魔法は魔力の壁に跳ね返された!

勇者
「魔法も通じないか!?」

魔王
「お前が無意識に魔力を抑えたからだ。」

勇者
「?!…そんなつもりは…!」

魔王
「はっきり言おう。お前の力は私より上だ。」

勇者
「なぜそんなことを?! 魔王としてのプライドはないのか?!」

魔王
「つまらんプライドなど、見栄のための虚勢に過ぎん。」

勇者
「見栄…虚勢…?!」


ー勇者の回想ー

 母親
 「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」
 「これでまた、おとなりの奥さんに自慢できるわ。」

ー勇者の回想終わりー


勇者
「お母さま…やっぱりあの言葉は…。」

魔王
「私は魔族の長だ。個人的な欲望に固執し、部下を危険にさらすことはできん。」
「必要ならば強者へ従属してでも、民を守る覚悟はできている。」

勇者
「…これが魔王の器…!」
「それにひきかえ私は、私は…!」

魔王
「お前は旅の道中で誰も殺さなかった。」
「本当は誰も殺したくないのだろう? 魔王である私でさえも。」

勇者
「う、うるさい! 騙されないぞ!」

魔王
「お前は勇者としての使命を背負い、ここまで来た。」
「だがそれは本当にお前が望んだことなのか?」

勇者
「…そうだ! 私が望んでここまで来た…!」

魔王
「お前がどんな思いで強くなったのかはわからん。」
「だが、お前の志は本当にお前の意思なのか?」

勇者
「私の本当の意志…!」

魔王
「お前は何のために戦う? 何のために私を討つ?」

勇者
「魔王…私は…。」


ー勇者の回想ー

 勇者の父
 「今日も城の兵士に1度も勝てなかったそうだな。」
 「強くないお前に与える寝床などない!」
 「兵士から1本取るまで家に入れてやらん!」

 勇者
 「お父さま…ごめんなさい…。」

 勇者の母
 「この前の魔法試験、隣の子に負けたわね?」
 「これじゃあ、また隣の奥さんから自慢されるじゃないの!」
 「あー悔しい! 次の試験で学院トップを取らないとご飯抜きよ!」

 勇者
 「お母さま…。ごめんなさい…ごめんなさい…。」
 「どうして…? わたしがよわいから…? まほうがへただから…?」
 「グスッ…わたしはいらない子なの?」

ー勇者の回想終わりー


勇者
「そうだ私は…世界を救うためじゃなく…。」
「お父さまとお母さまに愛してもらいたくて…。」

魔王
「…崩れたか…!」

勇者
「うぅ…! うわあぁぁぁぁぁ!」

勇者は魔王へ突っ込んだ!

魔王
「冷静さを失っては終わりだ!」

ガンッ!

勇者は魔王に返り討ちにされた!

勇者
「あ…あ…。」 ガクッ

魔族少女
「勇者さん!」

魔王
「安心しろ、殺してはいない。意識を失っただけだ。」

側近
「魔王さま! よくご無事で!」

魔王
「ああ、お前にはいつも気苦労をかけるな。」

側近
「とんでもない。」

魔王
「勇者の手当てを。」
「終わったら客室で休ませておけ。これで話ができるだろう。」

側近
「はい!」

魔族少女
「私が手当てします!」



⇒ 『魔王の娘は解放された』6へ続く



【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』3

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』4

2022年08月10日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』4

⇒ 『魔王の娘は解放された』3からの続き


ー目次ー
【PART5 東の大陸への航海 後編】
【PART6 再戦・東の王都 前編】

【PART4 魔物退治の真相・後編】

勇者
「強い…!」
「きれいな連携…! かなり戦い慣れてる!」

商人?たちは魔法陣を展開した!

勇者
「あれは捕縛の魔法陣と……体力を吸い取る魔法……!」
「とどめを刺さずに捕獲するつもり?!」
「もしかして………あの商人たちが魔物ハンター?!」

<東の大陸への航海・海上>

商人?
「ふぅ。今日の獲物は一段とでかいな。」

勇者
「あ、あの!」
「助けてくれてありがとうございました!」

商人?
「なに。俺らも商売がはかどったしな。」
「ケガはないかい?」

勇者
「は、はい。」
「あの、魔物を捕らえてましたが、どうするんですか?」

商人?
「あぁ、売るんだよ。それが俺らの商売さ。」

勇者
「どちらへ売るんですか?」

商人?
「あんたは同業じゃないみたいだが、それは言えねぇなぁ。」

勇者
「冷気魔法を受けてましたが、大丈夫ですか?」

商人?
「大丈夫さ。俺らの装備に魔法は効かねぇ。」

勇者
「装備…?」

商人?
「あぁ。仕組みはよくわからねぇが、
とにかく相手の魔法を無効化するんだとよ。」

勇者
「あの強力な冷気魔法も無効化するなんてすごいですね…。」

商人?
「見てたのか。まぁな、コイツのおかげで商売繫盛さ。」

勇者
(……魔物を捕まえて……商売………!!)

商人?
「とにかく安心しな。」
「また魔物が出たら俺らが捕まえてやるよ。」

勇者
「は、はい…ありがとうございます!」

<魔王城>

魔族少女
「東の国ですか?」

魔王
「あぁ。先遣隊はすでに到着している。」
「お前も合流してほしい。」

魔族少女
「もちろんです!」
「しかしどうして東の国へ調査部隊を?」

側近
「例の魔物ハンター組織の支部があるらしいのです。」
「調査する価値はあります。」

魔王
「まさか同じ大陸にあるとは盲点だったな。」

側近
「勇者も最近、海を渡ったとの報告があります。」

魔王
「来たか。勇者の動向も無視できないな。」

魔族少女
「では、私はさっそく東の国へ向かいます。」

魔王
「くれぐれも無理はするな。」
「先遣隊にも伝えたが、危なくなったら撤退しろ。」

魔族少女
「わかりました!」

【PART6 再戦・東の王都 前編】

<東の国・王都>

商人?
「じゃあな姉ちゃん! 気をつけて行けよ!」

勇者
「はい、道中ありがとうございました!」

勇者
「ふぅ………。」
「ここが東の国……魔王の領地がある大陸か。」
「魔物との最前線だけあって、強そうな人たちが大勢いる。」
「船に乗ってた魔物ハンターたちも、この街を拠点にしてるのかな?」

勇者
「魔物ハンター…か。」
「確かに海の安全を守ってる。それを生業に生きる人がいる。」
「そして孤児にとっての……唯一の居場所……。」
「だけど、こんなやり方でいいんだろうか…?」


ー勇者の回想ー

 (勇者の父)
 「魔王を倒すまで、逃げ帰ることは許さんからな!」

 (勇者の母)
 「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」

ー勇者の回想終わりー


勇者
「勇者は本当に世界を救う者?」
「私には誰を救えるの?」
「お父さま、お母さま、私は……。」
「私は何のために勇者を……?」

<夜、東の王都・街外れ>

魔族少女
「ここで魔族売買の取引が?」

調査隊員
「間違いなさそうです。」
「曜日も時間も決まってるみたいですね。」

魔族少女
「取引現場を押さえますか?」

調査隊員
「えぇ。できれば奴らを弱らせて、ボスや売買のルートを吐かせたいですね。」

魔族少女
「私も加勢します!」
「目の前で仲間が売られていくのを見たくないですから。」

調査隊員
「無理しないでくださいね。」
「あなたはケガ明けなんですから。」

魔族少女
「わかってます。あ………!」
「人影が…。ついに来ましたか?!」

調査隊員
「いえ……あれは…。」

勇者
「わわッ!!」

魔族少女
「ゆ、勇者さん?!」

勇者
「きみはあのとき人間に追われていた…。」
「よかった! 無事だったんだね!」

魔族少女
「はい! 助けていただきありがとうございました!」

勇者
「こちらこそ、あのときは手当てしてくれてありがとう!」
「どうしてこんなところに?」

魔族少女
「ここで魔族の売買取引があるらしいんです。」
「私たちはその調査に来ました。」

調査隊員
「勇者さん初めまして。」
「私たちは魔王さま直属の魔物ハンター組織の調査隊員です。」

勇者
「初めまして!」
「魔族の売買とは…やはりきみを追ってた奴らの仲間?」

魔族少女
「おそらく。」

勇者
「私もここへ来る途中の船で彼らに会ったよ。」
「確かに船は救われたけど、こんなやり方なんて……。」

調査隊員
「奴らが来ました!」

勇者
「あ、あの人は……!」
「船で助けてくれた商人…?!」

魔物ハンター
「今回の商品リストだ。」
「大物もいる、いつもより大きめの馬車を頼むぜ。」

仲買人
「へぇ、今回はずいぶん豊作だな。」

魔物ハンター
「まぁな。」

仲買人
「これだけの大物なら王さまもご満足だろう。」
「報酬だ、受け取りな。」

魔物ハンター
「へへ、いつも稼がせてもらってるぜ。」

魔族少女
「や、やめてください!!」

仲買人
「誰だお前ら?!」

魔物ハンター
「魔族か?!」

勇者
「魔物をどこへ売る気なの?!」

魔物ハンター
「船で会った姉ちゃんか。また会うとはな。」
「あのときも言ったが、それは教えられねぇ。」

調査隊員
「『王さまも喜ぶ』とはどういうことだ?!」

仲買人
「おっと、聞かれてたか。」

調査隊員
「あなたたちの組織のバックに王国がついてるの?」

仲買人
「こりゃ口を滑らせちまったなぁ。」
「だが、それ以上は詮索しない方が身のためだ。」

魔物ハンター
「それに俺たちは海の安全を守ってるんだぜ?」
「何の因果であんたが俺たちを止める?」

勇者
「こんなやり方は違う!」

魔物ハンター
「悪いが、あんたらが口出しできる問題じゃねぇんだ。」
「邪魔するならちょっとばかし痛い目を見るぜ?」

勇者
「望むところだ!」

魔族少女
「仲間の売買なんてさせません!」

魔物ハンター
「戦うか…。姉ちゃん、悪く思うなよ!」



ーー<魔物ハンター VS 勇者>ーー



勇者は神速の剣技を繰り出した!

勇者
「はぁぁぁぁぁ!」

ギィン!

勇者
「はぁ……はぁ……。」
「魔物をどこへ売ろうとしてるのか、しゃべってもらうよ!」

魔物ハンター
「くッ……!! 予想通り、姉ちゃん強えな。」
「これなら俺らと組んで戦えそうだ。」

勇者
「魔物を売る片棒はかつげないな!」

魔物ハンター
「フン……!! そうかい。」
「きれいごとだけじゃあ、世渡りできねぇと教えてやるぜ!!」



ーー<仲買人 VS 魔族少女・調査隊員>ーー



調査隊員は魔法バリア無効化の魔法陣を展開した!

調査隊員
「対魔法結界・解除!」

仲買人
「フン…攻撃魔法を通す気だな…!」

魔族少女は風刃魔法を放った!

魔族少女
「風よ………!!」
「刃となれ!!!」

ゴォォォ!

調査隊員
「対魔法結界を解いてもダメ……?!」
「いったいどういうこと?!」

仲買人
「魔法はムダだ。何度やっても効かねぇよ。」

魔族少女
「くッ……!! そのようですね…!」

仲買人
「人型の魔物、おまけにあんたらみたいな美人は貴重だ。」
「ぜひともおいで願いたいな。」

魔族少女
「お断りします!」

調査隊員
「デートの誘いにしてはロマンティックじゃありませんよ?」

仲買人
「ははは、ずいぶんガードが固いじゃねぇか。」

魔族少女
「仲間たちをどこへ閉じ込めたんですか?!」

仲買人
「言えねぇなぁ。」
「色恋には秘密があった方が燃えるだろ?」

魔族少女
「ならば……あなたを倒して聞き出します!」

調査隊員
「嫌がる女性を連れ込もうとするのは見過ごせませんね。」

仲買人
「強気な姉ちゃんだ。」
「どうしても仲間を助けたきゃ、あんたらの得意な魔法で俺を倒すことだな!」



ーー<魔物ハンター VS 勇者>ーー



魔物ハンター
「俺らにだって、船乗りや商人の連中にだって生活がある。」
「何の犠牲もなく守れるものがあると思うか?」

勇者
「思ってないさ!」
「だけど、誰かを不幸にするやり方は見過ごせない!」

魔物ハンター
「まるで本物の勇者だな。魔王でも倒そうってのか?」

勇者
「そうだ、私は魔王を倒すためにここまで来た!」

魔物ハンター
「ほう………。」
「その勇者さまが魔族の味方をするのか?」

勇者
「何…?!」

ギィン! ドサッ! 

勇者
「…くッ…!」

魔物ハンター
「剣が鈍ったな。迷ってんのか?」

勇者
「迷ってなんか…!!!」

魔物ハンター
「世界を救う勇者さまが人間を救えないなんて悲しいもんなぁ。」

勇者
「だ、黙れ!!!」

魔物ハンター
「俺ら全員が好き好んでこの商売をしてると思ってんなら教えてやる。」
「俺らの中には、生きるために仕方なく入ってきた奴らも多い。」
「何の力もないガキが、親に捨てられて生きていけると思うか?」

勇者
「それは…。」

魔物ハンター
「そんな奴らの悲しみはどこへ向かえばいい?」
「自分を捨てた親への怒りを、親を奪った魔物への恨みをどこへぶつければいい?!」

勇者
「そういえば……西の街の町長さんが言って……。」


ー勇者の回想ー

 町長
 「親の命を魔物に奪われた子や、親に捨てられた子、
  この街で差別や格差に苦しんだ子が組織に拾われています。」
 「そして、彼らはその復讐心を魔物の捕獲に向けているんです。」

ー勇者の回想終わりー


魔物ハンター
「あんたには俺らのやり方は理解できねぇだろう。」
「だが俺らには他に居場所も、生きる術もなかった。」

勇者
「居場所……。」
「私の居場所は…どこに……?」

魔物ハンター
「あんたが本当に勇者なら、
 すべてを救おうなんて甘い考えは捨てることだな!」



ーー<仲買人 VS 魔族少女・調査隊員>ーー



調査隊員は身体能力強化の魔法を唱えた!

調査隊員
「身体能力・強化!!」

魔族少女
「やぁぁぁぁぁ!!」

魔族少女の連続攻撃!

仲買人
「ぐッ……!!!」
「おらぁ!!」

バシッ!!

魔族少女
「きゃあ!!」

調査隊員
「あぐッ!!」

仲買人
「はぁ……はぁ……。」
「なかなかしぶといじゃねぇか…!」
「どうしても同胞を見捨てられねぇってか?」

魔族少女
「当然です!」

調査隊員
「おとなしく仲間を返してください!」

仲買人
「仲間……か。」
「その大切なお仲間を奪った人間が憎いか?」

魔族少女
「え…?! ち、違います!」
「私は仲間を助けるために…!」

仲買人
「あんたらは『魔族を売るなんて許せない』と言う。」
「そこに人間への復讐心がないと言い切れるか?」

魔族少女
「う…………!」

調査隊員
「落ち着いてください!」
「そいつの言葉に耳を貸さないで!」

仲買人
「魔族の手にかけられた人間の家族はどう思う?」
「そいつらの無念はどこへ行く?」

魔族少女
「家族………仲間の無念………!」


ー魔族少女の回想ー

 側近
 「ニンゲンとの戦いで家族を失った魔族も多くいます。」
 「彼らに『ニンゲンを恨むな』と言っても難しいでしょう…。」

 魔王
 「何千年もの復讐合戦………。」
 「憎しみの連鎖を断ち切るには歴史を重ね過ぎたな…。」

ー魔族少女の回想終わりー


仲買人
「あんたらの覚悟も立派だがなぁ!」
「魔族に復讐してやりたいって奴にも覚悟はあるんだぜ?」
「こんな商売してる俺にだってなァ!」

魔族少女
「くッ……!!」
「私は…………!」

勇者
「私は…………!」

勇者・魔族少女
「どうすれば………?!」



⇒ 『魔王の娘は解放された』5へ続く

⇒PART4動画版はこちら


【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』3

2022年08月08日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』3

⇒ 『魔王の娘は解放された』2からの続き


ー目次ー
【PART4 魔物退治の真相・後編】
【PART5 東の大陸への航海・前編】

【PART4 魔物退治の真相・後編】

魔族少年
「おねえちゃんお願い!」
「お母さんを連れて行かないで!」

魔族母
「私は退治されても、売られても構いません!」
「お願いです! この子だけは助けてください…!」

勇者
「……………。」
「……私は………。」
「……私は一体、何のために…?………」

(私は勇者として、誰を救えばいいんだろう……………?)

<北の洞窟>

勇者
「ねぇ…少し遠いんだけどさ。」

魔族母
「え…?」

勇者
「ここから東、王都よりも北へ行くと大きな森がある。」
「そこならきっと仲間もいるし、食べ物にも困らないと思う。」
「移住してみてはどうかな?」

魔族母
「わ、私たちを退治しないんですか…?」

勇者
「私にそんな資格はないよ。」
「確かに街の物資に被害はあったけど、
 元はと言えばあなたたちを追いやった人間に責任があるから。」

魔族母
「…他のニンゲンは私たちを欲望の目で見てきたのに、あなたはまったく違いますね。」
「とても……きれいな目をしています。」

勇者
「ありがとう…。」
「仲間のことは本当にごめんね。」
「人間をそういう生き物と思っても無理ない。」
「でも、悪い人間ばかりじゃないってことも知ってほしいんだ。」

魔族母
「あなたが謝ることなんて…。」
「お顔を上げてください。」

勇者
「…うん……。」
「この洞窟にもきっと人間の手が伸びる。」
「だから、どうか逃げ延びて。」

魔族母
「あ、ありがとうございます。」
「あなたのようなニンゲンに会えたこと、忘れません!」

魔族少年
「おねえちゃんありがとう!」
「またね!」

勇者
「うん、またね!」

勇者
「これで………良かったのかな…?」
「人間が魔物を捕らえて売るなんて。」
「あのとき戦った賊どもと同じ…。」

「悪いのはどっちなの…?」
「人間は、魔物は………どうして争ってるの…?」

<翌朝、町長の家>

町長
「そうですか…。」
「魔物は退治せず、逃がしたのですね?」

勇者
「はい、ごめんなさい町長さん…。」

町長
「とんでもない。」
「あなたは魔物の脅威を取り除いてくれました。」
「それだけでも感謝しています。」

勇者
「ありがとうございます…。」
「彼らには人間を襲う気はありませんでした。」
「むしろ人間に襲われ、住処を追われ、仕方なくやっていました。」

町長
「なんと…!」

勇者
「彼らが洞窟にいたのは、住処の森を人間が襲ったからでした。」
「それは魔物を捕らえて売りさばくため…ではありませんか?」

町長
「…どうやらあなたに隠し事はできないようですね。」
「実は…魔物退治というのは建前だったんです。」

勇者
「魔物退治は、建前…?」

町長
「本当はあなたの言う通り、魔物を捕らえるためです。」
「魔物ハンター組織からの指示で…。」

勇者
「詳しく聞かせてくれませんか?」

町長
「わかりました。」
「その前に、あなたはこの街へ来るのは初めてですか?」

勇者
「はい。活気にあふれたすばらしい街だと思います。」

町長
「そうですか…。」
「この街は表向きには栄えているように見えるでしょう。」
「ですが実態は隣国同士の取り合いに巻き込まれる、非常に不安定な土地です。」

勇者
「領土問題ですか?」

町長
「はい、立地的に中継貿易の要所ですから、街は常に利権争いの渦中にあります。」
「各国の文化が融合と言えば聞こえはいいですが、実際には差別も格差も大きい。」

勇者
「あの美味しい料理のウラに、差別や格差が…。」

町長
「その上、この街には他に大した産業も資源もありません。」
「だから少しでも魔物の脅威が増せば、この街はたちまち孤立し、貧困が蔓延します。」

勇者
「常に争いや貧困と隣り合わせなんですね…。」

町長
「ええ…。」
「だから住人の生活を守るためには、魔物の売買を手放すわけにはいかないんです。」

勇者
「…そんな事情が…。」

町長
「それに、魔物ハンターの多くがこの街の出身者です。」
「ほとんどが孤児です。」

勇者
「魔物ハンターの多くが孤児…?」

町長
「親の命を魔物に奪われた子や、親に捨てられた子、
 この街で差別や格差に苦しんだ子が組織に拾われています。」
「そして、彼らはその復讐心を魔物の捕獲に向けているんです。」

勇者
「復讐…。」

町長
「間違っているのかもしれません…。」
「ですが、現実にはそういう子たちの居場所であり、生きる糧にもなっているんです。」

勇者
「魔物ハンター組織が……唯一の居場所…。」

町長
「私はこの街の長でありながら、彼らに何もしてあげられなかった。」
「相手が魔物とはいえ、誰かが不幸になる選択でしか、街を守れなかったんです。」

勇者
「………町長さん…。」

町長
「何でしょう?」

勇者
「この街に孤児院はありますか?」

町長
「孤児院ですか?」
「ありますが、現状では数が少ないです。」

勇者
「この街に孤児院を増やしていくのはどうでしょう?」
「居場所を失ってしまった子のために。」

町長
「ほう、孤児院の増設ですか。」

勇者
「はい。」
「この街を恵まれない子たちを受け入れる場所にするんです。」
「そうすればきっと雇用も増えて、治安も格差も改善できると思います。」

町長
「すばらしいお考えですね。」

勇者
「あ…ご、ごめんなさい!」
「差し出がましいことを言ってしまって。」

町長
「とんでもない。」
「私は今まで問題を見て見ぬふりをしていました。」
「これからはあの子たちの居場所を作る手助けをしていこうと思います。」

勇者
「よろしくお願いします、町長さん!」

町長
「…あなたはとても、優しい目をしていますね。」
「まるで世界を救う勇者さまのような、慈愛に満ちた目を。」

勇者
「わ、私が?!」
「そそそそんな…私はただの旅の者です…!」

町長
「ふふふッ、そういうことにしておきましょう。」

勇者
「な、何かおっしゃいましたか?!」

町長
「何でもありません。」
「旅のお方、どうぞ心ゆくまでこの街を楽しんでください。」
「美味しい料理店をご紹介しましょう。」

勇者
「あ、あり、ありがとうございます!」

<魔王城>

魔族少女
「魔王さま、ただいま戻りました。」

魔王
「よく無事に戻ってきてくれた。」
「今回の任務では大変な目に遭ったと聞いたぞ。」
「例の女勇者に助けられたそうだな。」

魔族少女
「はい、彼女は種族の分け隔てなく私を助けてくれました。」

魔王
「ニンゲンも千差万別か。」
「他罰的で、自己顕示欲の亡者、ばかりでもないな。」

魔族少女
「ええ、彼女はそんなニンゲンには見えませんでした。」

魔王
「お前が言うのなら信用できるな。」
「我らとて、これ以上の争いなど望んでおらん。」
「何千年も続く復讐合戦に疲れ切っている。」

魔族少女
「私も…できればニンゲンと争いたくはありません…。」

魔王
「まったくだな…。とはいえ今はニンゲンが優勢だ。」
「何度も和平交渉をしてきたが、奴らは一向に聞き入れぬ。」

側近
「それに、魔族の中にも復讐を叫ぶ者たちがいます。」
「ニンゲンとの戦いで家族を失った者もいます。」
「彼らに『ニンゲンを恨むな』と言っても難しいでしょう。」

魔族少女
「もしニンゲンに捕まっていたら……。」
「きっと私も彼らを恨んだと思います…。」

魔王
「無理もないな。」
「互いの復讐心を断ち切るには歴史を重ね過ぎた。」
「…とにかく、今回は危険な任務をよくやってくれた。」
「今は養生してくれ。」

魔族少女
「魔王さま、1つ気になることがあります。」

魔王
「何だ?」

魔族少女
「私を追ってきた魔物ハンターたちには魔法が通じませんでした。」
「4人とも魔法の素養がなかったのに。」
「魔法を無効にする武具か装飾品を身につけていたのかもしれません。」

魔王
「魔封じの武具か。」
「あれを作れるニンゲンは大魔導士レベルの使い手に限られる。」
「となると、奴らがどこから魔法具を手に入れているかも調べる必要があるな。」

魔族少女
「それに、彼らはまるで訓練されたような動きでした。」
「私もあっという間に追い詰められました…。」
「いくら数が多くても、ニンゲンが魔族を簡単に捕らえられるでしょうか?」

魔王
「賊どもの集まりにしては統率が取れすぎている、ということか。」

魔族少女
「はい、もしかしたら彼らのバックにはもっと大きな組織があるかもしれません。」
「その組織がニンゲンを集め、訓練しているのでしょう。」

魔王
「やはり、ただの野盗ではないようだな。」
「…側近よ。」

側近
「はい。」

魔王
「私はこれから魔法具についての文献を当たる。」
「魔法具への対抗策も練っておこう。」
「情報が出揃い次第、お前には新たな調査部隊の編成を頼みたい。」

側近
「かしこまりました。準備いたします。」
「魔術に長けた者たちにも協力を仰ぎましょう。」

魔族少女
「魔王さま! 側近さま!」
「私もその部隊に加えてください!」

魔王
「…わかった。」
「だが無理はするな、まずはそのケガを治せ。」
「その後で合流してもらおう。」

魔族少女
「魔王さま、ありがとうございます!」

魔王
「やれやれ…側近といい、こやつといい…。」
「休めと言っても聞かぬ者ばかりだ…。」

側近
「それだけ魔王さまをお慕いしている者が多いのですよ。」

魔王
「ああ………。」
「実に…嬉しい悲鳴だ…。」

【PART5 東の大陸への航海・前編】

<港町>

勇者
「着いた。潮風が気持ちいいなぁ。」
「それに、大きくて立派な船があんなに並んでる。」
「私、剣と魔法の修行ばかりで、世界のことを何も知らないな…。」

「また酒場へ行ってみよう。」
「船乗りや商人さんから話が聞けるかもしれない。」

<港町・酒場>

マスター
「魔王の情報ですか?」

勇者
「はい。船乗りや商人さんから、何か聞きませんか?」

マスター
「そうですねぇ。」
「少し昔の話ですが、かつては海を渡った東の大陸に魔王の領地があったそうです。」

勇者
「東の大陸に魔王の領地が?」

マスター
「えぇ。今もそうかはわかりませんがね。」
「昔の船乗りは東の大陸への航路をもっとも恐れてましたよ。」
「魔王の本拠地へ乗り込むようなものですからね。」

勇者
「確かに危険な航路ですね…。」
「今は東の大陸への船は出てるんですか?」

マスター
「出てますよ。1週間ほどの航海で着きます。」

勇者
「貴重な情報ありがとうございます!」

マスター
「行くなら気をつけてくださいね。海上にも魔物は出ますから。」
「まぁ、あなたは強そうですし大丈夫でしょう。」
「最近は船が沈められたって話も聞きませんしね。」

勇者
「商船が魔物に襲われることがあるんですか?」

マスター
「ええ。昔はしょっちゅうでしたよ。」
「今は船が襲われても撃退したという話がほとんどですね。」

勇者
「よ、よかった…。」

船乗り
「よう、姉ちゃん。」

勇者
「わわッ! は、はい!」

船乗り
「話は聞いてたぜ、魔王を倒してぇのか?」

勇者
「そ、そうです!」

船乗り
「へぇ、まるで勇者さまじゃねぇか。」
「せっかくだがな、今となっちゃ魔王なんて大したことねぇ。」
「魔物の残党だってハンターの手にかかりゃあ楽勝だ。」

勇者
「魔物ハンター…ですか?」
(西の街の町長さんが言ってたあいつらだ。)

船乗り
「あぁ。まだ街の外にも海にも魔物は出やがる。」
「だが魔物ハンターの奴らが捕まえてくれる。」
「おまけにそいつらを売りさばいて街を潤してくれる。」

勇者
「魔物ハンターが船を守ってるんですか?」

船乗り
「まぁ、『Win-Winの関係』ってやつだな。」
「俺らは航海の安全を守ってもらえる、あいつらは商売がはかどる。」
「特に東の大陸行きは1番おいしい航路だろうな。」

勇者
「東の大陸行きが…。」
「次に船が出るのは何日後ですか?」

船乗り
「次の出港は3日後だ。」
「行きたいなら港へ行って頼んでみな。」
「マスターの言う通りあんたは強そうだ、乗せてくれるだろ。」

勇者
「ありがとう、船乗りさん!」

<3日後、海上>

勇者
「…キョロキョロ…。」
「うーん…乗客はほとんど商人かな?」
「西の街で戦ったような人はいないみたい。」

船員
「へぇ、こりゃ珍しいお客さんだな。」
「あんた、商人じゃないみたいだが、東の大陸へ何しに行くんだい?」

勇者
「魔王を倒すためです。」

船員
「魔王を倒すのかい、ご立派なもんだ。」

勇者
「かつて魔王の拠点が東の大陸にあったと聞きましたが、本当ですか?」

船員
「あぁ。今もあるみたいだぜ。」
「最近はすっかりおとなしくなっちまったがな。」

勇者
「今でも船が魔物に襲われることがあるんですか?」

船員
「あるぜ。昔よりましになったがな。」
「まぁ、もし魔物が現れても大丈夫だ。」
「なんたってこの船には…。」

甲板員
「魔物だぁ! 魔物が出たぞぉ!」

船員
「おっと、出やがったな。」
「危険だからあんたは船室へ入ってな!」
「まぁ加勢してもいいが、出る幕はねぇぜ!」

勇者
「大きい………あれが海上の魔物…!」
「私も加勢に!」

ダダダッ

勇者
「…近くで見ると山のようだ…!」
「命を奪いたくはないけど、船を沈める気なら仕方ない!」
「はぁぁぁぁぁ!」

シュッ!

勇者
「…え…?!」
「あれは……乗客の商人?!」

ズバッ! ザシュッ!

勇者
「強い! あんなに大きな魔物を簡単に…。」
「それに戦い慣れてる。」
「まるで王都の兵士さんみたいな、きれいな連携…!」
「……ハッ!」

フワッ

勇者
「この空気は……!」
「魔力が動く!」
「危ない! 冷気魔法が来る!」

ビュオォォォ!

「遅かった…!!」
「……え?! 効いてない?!」

商人?は魔法陣を展開した!

勇者
「あれは捕縛の魔法陣と……体力を吸い取る魔法……!」
「とどめを刺さずに捕獲するつもり?!」
「もしかして………あの商人たちが魔物ハンター?!」



⇒ 『魔王の娘は解放された』4へ続く

⇒PART3動画版はこちら


【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

2022年08月05日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

⇒ 『魔王の娘は解放された』1からの続き


ー目次ー
【PART2 魔物ハンターとの交戦・後編】
【PART3 交易都市・西の街】
【PART4 魔物退治の真相・前編】

【PART2 魔物ハンターとの交戦・後編】

<フィールド>

賊リーダー
「はぁ…はぁ…。」
「このガキ…強えじゃねぇか。」

勇者
「うぅ…。」

賊リーダー
「こんなガキがどうして…?」

「その剣の紋章は…。」
「そうかお前、例の勇者か。どうりで…。」
「おいお前ら、のびてねぇで起きろ。ひとまず撤退だ。」

賊C
「は、はいリーダー!」

勇者
「何とか…追い払った…。」 ガクッ

魔族少女
「あ、あの…!」
「助けてくれてありがとうございました!」

勇者
「よかった…無事で…。」

魔族少女
「あの…あなたはニンゲンですよね?!」
「どうして私を助けたんですか?」
「4人を相手に…そんなに傷ついてまで…。」

勇者
「人間も魔族も関係ないよ。」
「命が危ない者がいたら助けたいんだ。」

魔族少女
「え…!!!」

魔族少女
「あなたは魔族を敵視しないんですか?」
「ニンゲンは魔族を売買の対象くらいにしか見ないのに。」

勇者
「人間にも悪いやつはいるよ。」
「それに、魔族にも優しい者がいると思うから。」

魔族少女
「そう、ですか…。」

魔族少女は治癒魔法を唱えた!

パァァ

勇者の傷が回復した!

魔族少女
「あいにく魔力が残ってなくて…。」
「全快はできませんでしたが、少しは楽になるはずです。」
「あと、少しですが薬草です。持っていってください。」

勇者
「ありがとう、助かったよ。」
「きみだってケガしてるのに。」

魔族少女
「私は大丈夫です。まだ動けますから。」

「あなたは命の恩人です。」
「もしまた会えたらぜひお礼をさせてください。」

勇者
「きみも人間に捕まらないよう気をつけてね。」

魔族少女
「はい、気をつけます。それではまた。」

勇者
「うん。またね。」

<魔王城>

側近
「魔王さま!」
「王都西部方面の偵察部隊から緊急連絡です!」

魔王
「なに?! 聞かせてくれ!」

偵察部隊
「報告します!」
「西の街付近にて、調査隊員が4名の魔物ハンターに襲われました!」

魔王
「なんだと?!」
「西の街方面にいる隊員は…あの娘か!」
「どうなった?! 奴らに捕まったのか?!」

偵察部隊
「それが…。」
「捕まる寸前で勇者が現れ、ハンターどもを撃退しました!」

魔王
「そ…そうか。ひとまず助かったのだな。」

偵察部隊
「はい。」
「その後、彼女は勇者と接触しましたが、危害を加える様子はありませんでした。」

魔王
「…わかった。遠方からの伝令に感謝する。」

偵察部隊
「もったいなきお言葉。」

魔王
「今日はゆっくり休んでくれ。」
「その後、あの娘に帰還の伝達を頼む。」

偵察部隊
「かしこまりました。では失礼します。」

魔王
「ふぅ…。」

側近
「魔王さま…心中お察しします。」

魔王
「ああ…。ともかく無事でなによりだ。」
「にしても、まさか勇者に助けられるとはな。」
「4人を退けるとは、やはり相当な実力者か。」

側近
「はい。4人の剣をほぼすべて受け止め、相手に致命傷を与えず撤退させたそうです。」
「しかもその姿は屈強な男ではなく、小柄な少女だったそうです。」

魔王
「小柄な少女か…。」
「ニンゲン同士とはいえ殺生をせず、魔族をも守るとは興味深い。」
「勇者がここへたどり着いた折には、ぜひとも話をしてみたいな。」

側近
「魔王さま。今日はお休みになられてはいかがですか?」
「心労はお身体に障ります。」

魔王
「そうするか。」
「側近よ、お前もあまり無理をするでないぞ。」

側近
「私は彼女の帰還の準備が終わり次第、休ませていただきます。」

魔王
「…勤勉すぎるのも考えものだな。」
「ともかく、同胞が無事でよかった。」

【PART3 交易都市・西の街】

<西の街>

勇者
「着いた、西の街。賑わってるなぁ。」
「王都の隣なのに、街並みはぜんぜんちがう。」
「お店にも見慣れないものがたくさん並んでる。」

「ここは国境に近いし、交通の要所だから、いろんな国の文化が入ってくるんだなぁ。」
「ひとまず宿を探して、酒場で情報収集しよう。」

<西の街・酒場>

勇者
「これは南の国のフルーツ、こっちは東の国の料理。」
「すごいなぁ。本当に世界中の料理がある。」

「いただきます!」 モグモグ
「おいしい!初めての食感!」

マスター
「喜んでもらえて何よりです。」
「それにしても魔王の情報がほしいなんて、今日び珍しいですね。」

勇者
「お客さんから何か聞いていませんか?」

マスター
「うーん…最近は魔族の勢力が衰えてますからね。」
「旅人が街の外で魔物と戦ったって話がちらほらあるくらいで。」
「あ、そういえば…。」

勇者
「何か気になることが?」

マスター
「この街の町長がぼやいてましたね。」
「街の倉庫が荒らされ、食料が盗まれて困ってるって。」

勇者
「食料が…。犯人の手がかりは見つかったんですか?」」

マスター
「ええ。どうも犯人は街の外からやってきてるみたいです。」
「もしかしたら魔物の仕業なんじゃないかって。」

勇者
「魔物…。ケガ人は出てるんですか?」

マスター
「人の被害はないそうです。」
「それと不思議なことに、金品には手をつけられないそうですよ。」

勇者
「確かに、金品が盗まれないのは不思議ですね…。」

マスター
「町長の家は大通りの突き当りにあります。」
「話を聞きに行ってみてはいかがですか?」

勇者
「ありがとうございます、マスターさん。」
「今日は遅いので明日、町長さんを訪ねてみます。」

<翌朝、町長の家>

町長
「ようこそ西の街へ。」

勇者
「初めまして。」
「突然の訪問なのに、会っていただきありがとうございます。」

町長
「いえいえ。今日はどんなご用件でしょう?」

勇者
「酒場のマスターから街の倉庫が荒らされる話を聞いたんです。」
「それで、私にできることならお手伝いしたいんです。」

町長
「それはありがたい。」
「しかし、見ず知らずの旅の方に頼んでよいものか…。」

勇者
「よかったら、お話だけでも聞かせていただけませんか?」

町長
「わかりました。」
「あなたは強そうですし、誠実なお方と見込んでお話します。」
「単刀直入に言います、街の倉庫を荒らす魔物を倒してください。」

勇者
「やはり魔物の仕業でしょうか。」

町長
「はい。」
「荒らされた倉庫には爪でひっかいたような傷跡があります。」
「人間のものではない足跡も残ってますし、まず間違いないでしょう。」

勇者
「マスターのお話では金品の被害はないそうですが、本当ですか?」

町長
「はい、人間が犯人なら間違いなく金品の被害が出るでしょう。」
「それがないということは、やはり魔物の仕業と考えるのが自然です。」

勇者
「わかりました!」
「ケガ人が出ないうちに調べてみます!」

町長
「どうかよろしくお願いします。」
「倉庫を荒らす者たちは街の北にある洞窟の方へ逃げていくそうです。」
「洞窟は途中の森を抜けてすぐです。」

勇者
「ではさっそく向かってみます!」

【PART4 魔物退治の真相・前編】

<北の森>

勇者
「大きな森だけど、道は整ってる。それも割と新しい。」
「最近、交易で使われるようになったのかな。」

「そういえば、王都の北にも大きな森があったっけ。」
「あそこはもっと未開の地って感じだったなぁ。」

勇者
「ん…?道に何か落ちてる。これは確か…。」
「あの街の倉庫に備蓄されてた作物と同じ。」
「よし、これをたどっていけば何か手がかりがあるかもしれない。」

<北の洞窟>

勇者
「ここか…。落ちてる作物の切れ端も多いし、人間のものじゃない足跡もある。」
「魔物が襲ってくるかもしれない、気をつけて進もう。」

勇者
「奥の広間から気配がする…。」
「いつでも剣を抜けるよう、慎重に…。」

ザッ!

魔族少年
「わぁぁぁ!」

勇者
「…魔物の…子ども?!」

魔族少年
「ニンゲンが来た!」
「お母さん助けて!」 ダダダッ

魔族母
「ニンゲンですって?!」
「ついにここまで…! 坊や、こっちへ!」

勇者
「え…? え…?!」

魔族少年
「お母さん怖いよ…うぅ…。」 ブルブル

魔族母
「私はどこへ売っていただいても構いません!」
「だからお願いです!」
「どうか…どうかこの子だけは見逃してください!」

勇者
「待って! 落ち着いて!」
「危害を加えるつもりはないよ! ほら!」

勇者は剣を手放した!

魔族母
「ほ…本当…ですか…?!」
「剣を…捨てるなんて…。」

勇者
「あなたたちは武器を持ってない。」
「それに、直感だけど人を襲うようには見えない。」

魔族母
「そんな…。」

勇者
「よかったら事情を聞かせてくれないかな。」

魔族少年
「お母さん…このおねえちゃん、いいニンゲン?」

魔族母
「…わからない…。」
「お願いします、この子には手を出さないでくださいね。」

勇者
「さっき『売ってもらって構わない』と言ってたのは、どういうこと?」

魔族母
「ニンゲンは私たち魔族を捕らえて、見世物として売るんです。」
「ここへ来る途中に森を通ったでしょう?」

勇者
「うん。人の手が入ったのは最近みたいだった。」

魔族母
「もともと私たちはその森に住んでいました。」
「だけどある日、突然ニンゲンたちが襲ってきて…。」

勇者
「未開だった森に突然…人間が?」

魔族母
「ほとんどの仲間がニンゲンたちに連れ去られました…。」
「口々に『高く売れる』と言って…。」
「ニンゲンと似た姿の魔物は特に高値が付くとか…。」

勇者
勇者
「魔物の売買組織…こんなところにまで…。」
「もしかして、あの森の道が新しいのは、人型の魔物が住んでいることがわかったから?」

魔族母
「おそらく…。」
「私たちは何とかこの洞窟まで逃げてきましたが、食べ物がなくて…。」

勇者
「それで深夜に街の倉庫から食糧を…?」

魔族母
「はい…。」
「ご迷惑をおかけしたことは謝ります!」
「ですが生き延びるには、こうするしかなかったんです…。」

勇者
「住処の森を追われて…。」

魔族母
「私は退治されても、売られても構いません!」
「お願いです! この子だけは助けてください…!」

魔族少年
「おねえちゃんお願い!」
「お母さんを連れて行かないで!」

勇者
「そんな…。」
「私は悪い魔王を倒すために旅立ったはずなのに…。」
「これじゃあ、悪い魔王は人間の方じゃないか。」
「私は一体、何のために…?」

魔族少年
「うぅ…。」 ガクガク

魔族母
「…。」 ポロポロ

勇者
(お父さまも、お母さまも言ってた。)
(『魔族は敵だ、悪い奴らだ、勇者であるお前が倒すのだ』って。)

(でも………。)
(私が見た現実は…!)



⇒ 『魔王の娘は解放された』3へ続く

⇒動画版はこちら


【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

2022年08月03日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

ー目次ー
【プロローグ】
【PART1 勇者の旅立ち】
【PART2 魔物ハンターとの交戦・前編】

【プロローグ】

勇者
「わたし、『ゆうしゃ』なんだって。」
「お父さま、お母さまがそう言ってた。」

「ゆうしゃはつよくなって、わるい『まおう』をやっつけるんだって。」
「まちのそとにいる『わるいまもの』も。」
「そして、せかいを『へいわ』にするんだって。」

「お父さまは毎日、わたしに『けんじゅつ』をおしえるの。」
「そのとき、お父さまはすごくこわいかおをしてる。」
「だけど、うまく『けんじゅつ』ができたら、ほめてくれるの。」

「お母さまは毎日、わたしに『まほう』をおしえるの。」
「そのとき、お母さまはよく『せけんさまにはずかしい』って言ってる。」
「だけど、うまく『まほう』ができたら、笑ってくれるの。」

「わたし、お父さまとお母さまのために『ゆうしゃ』になる。」
「そしたらきっと、お父さまがほめてくれる。」
「きっと、お母さまが笑ってくれる。」

「だから、お願い…こわいかおしないで…おうちへ入れて…。」
「お父さま…お母さま…。」


ーーーーー


この世界では、人間と魔族の復讐合戦が続いていた。

力を得た方が侵略し、支配し、虐げた。
ときには人間が力を持ち、魔族を支配した。
虐げられた魔族は恨みを募らせ、再び力を得るや人間に復讐した。

もはや何千年続いたかもわからない、復讐の連鎖。

「もう争いはまっぴらだ」
互いにそんな思いがありながら、
脈々と受け継がれた憎悪だけが生き続けていた。

歩み寄りと嫌悪感の綱引きには、終幕など見えなかった。
違いへの怯えから共存を選べぬまま、引くに引けない傷つけ合いは続く。

【PART1 勇者の旅立ち】

<某国王都・勇者の家>

勇者の父
「勇者よ、お前も16歳になった。」
「今こそ魔王討伐の旅に出るのだ。」

勇者
「は、はいお父さま。」

勇者の父
「私はこの日のためにお前を鍛えてきた。」
「剣術も魔法も、勇者として恥ずかしくない実力を付けさせた。」

勇者の母
「お父さんはあなたが世界を救ってくれると信じていたから、
 心を鬼にしてあなたに厳しくしてきたの。」

勇者
「はいお母さま、お父さまのお気持ちは心得ています。」

勇者の父
「よく言った! 勇者を鍛えた父として誇らしいぞ!」
「では行って来い! 魔王を倒すまで、逃げ帰ることは許さんからな!」

勇者の母
「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」
「これでまた、おとなりの奥さんに自慢できるわ。」

勇者
「(お父さま…お母さま…。)」

<王城・謁見の間>

国王
「よくぞ来た、勇者よ!」
「話は聞いておるぞ。勇者の血を引くあの家で鍛えられたとな。」

勇者
「はい、魔王討伐の任を仰せつかり光栄です。」

国王
「先の魔族との大戦の話は知っているだろう。」

勇者
「はい、お父さまから聞いております。」

国王
「うむ、お主も知っての通り確かに我々が勝利した。」
「だが魔物の脅威がなくなったわけではない。」
「魔物に襲撃される街や村も後を絶たない。」

「そなたなら必ず魔王を打ち倒し、世界に真の平和をもたらしてくれると信じておる。」

兵士長
「(…王様…勇者様…。)」

勇者
「はい、魔王を討ち倒し、世界を平和にしてみせます。」

国王
「うむ、何とも頼もしい。」
「まずは西の街へ向かい、情報を集めるのがよかろう。」
「では行ってこい、勇者よ!」

勇者
「…。」

兵士長
「(…王様は何をお考えなのだろうか?)」
「(勇者の一族とはいえ、少女1人で魔王討伐に向かわせるとは。)」

「(仲間の1人でも用意してあげればいいのに。)」
「(あぁ…勇者様…どうかご武運を…。)」

<魔王城>

魔王
「ついに勇者が旅立ったか。」
「先代勇者を輩出した王国だな。」

側近
「はい。あの国には伝説の勇者直系の一族が住んでいます。」
「先代魔王さまもあの一族の勇者に討たれています。」

魔王
「目的はもちろん私の討伐だろう。」
「先の大戦で父上が討たれて以来、魔族は劣勢だ。」
「勇者に追い打ちをかけさせ、我らを一気に叩こうという腹だな。」

側近
「おそらくは。」
「各地の魔族もニンゲンの脅威に怯えています。」
「最近では魔族を捕らえて見世物にする輩までいると聞きます。」

魔王
「おのれニンゲンどもめ。同胞にひどい仕打ちを。」

側近
「各地に調査部隊を派遣していますが、我々は数で圧倒的に不利です。」
「尻尾はつかめておりません。」

魔王
「そやつらといい、新たな勇者といい、厄介だな。」
「勇者の力は早めに見極めておきたい。」
「側近よ、引き続き勇者の動向を調べてくれ。」

側近
「お任せください、魔王さま。」

【PART2 魔物ハンターとの交戦・前編】

<フィールド>

勇者
「まずは西の街、か。」
「とりあえず魔物に気をつけながら目指そう。」
「…いい天気だなぁ。魔物の脅威なんてウソみたいだ…。」

「そういえば私、実際に魔物と戦ったことないなぁ。」

「剣術はお父さまや、王国の兵士さんが稽古をつけてくれた。」
「魔法はお母さまと、宮廷魔術師さんが教えてくれた。」

「お父さまもお母さまも、魔族は敵だと言ってたけど、本当だろうか。」

「それに、私にできるだろうか…。」
「世界を救うためとはいえ、命を奪うなんて…。」

???
「キャー!!」

勇者
「悲鳴?!」
「誰かが魔物に襲われているのか?!」

「声は…あの岩山の向こうだ。」
「待ってて、いま助ける!」

ダダダッ

勇者
「あれは…女の子が追われてる。」
「追いかけてるのは…人間か?!」
「どうして人間が? とにかく向かおう。」

ザッ

魔族少女
「ひッ…! ニンゲン?!」

勇者
「こっち! そこの岩陰に隠れて!」

魔族少女
「は、はい! ありがとうございます!」

賊リーダー
「よう、姉ちゃん。」
「ここいらで女の子を1人見かけなかったかい?」

勇者
「知らないな。」

賊リーダー
「そいつは残念だ。」
「それじゃあ、お前の後ろに隠れてるそいつは俺の見間違いか?」

勇者
「(くッ…! 隠し切れないか…!)」
「どうしてこの子を追いかける?」

賊リーダー
「捕まえて売るんだよ。」
「人型の魔物は特に高値で売れるからな。」

勇者
「魔物を捕まえ…そういえばあの子…。」
「(王国で聞いたことがある。魔物を狩る人間の組織があるらしいと。)」

勇者
「お前らが噂に聞く魔物ハンターか?」

賊リーダー
「フン、だったらどうする?」

勇者
「この子がお前らに何をした?!」
「そんなことをしてお前らは心が痛まないのか?!」

賊リーダー
「あぁ?! ごちゃごちゃうるせぇな! 商売の邪魔すんじゃねぇ!」

勇者
「なんて非道な…! そんなことはさせない!」

賊A
「こっちは4人だぞ! お前1人で俺らに勝てると思ってんのか?!」

賊B
「リーダー! やっちまおうぜ!」

ギィン! ギィン! ザシュッ!

賊C
「くっ…リーダー!このガキ強えです!」
「攻撃が当たらねぇ!」

勇者
「はぁ!」 ズバッ!

賊B
「うわぁ!」 ドサッ

賊リーダー
「確かに強いな。」
「4人相手にうまく受け流すじゃねぇか。」

「だが、殺気がまるで感じられねぇなぁ。」
「そんな峰打ちじゃ俺には勝てねぇぜ!」

勇者
「はぁ…はぁ…。(気づかれたか…。)」
「(敵は弱ってるけど、さすがにジリ貧だ…。)」

「(仕方ない、魔法で一気にカタをつける!)」
「(殺さないよう、威力を加減して、敵全体に!)」

勇者
「出でよ炎!」 ゴォォォ!

賊A
「攻撃魔法だと!?」

賊B
「うわぁぁ!」

勇者
「よし…これでかなり弱ったはず。」

賊リーダー
「なーんてな!」

勇者
「なに?! 効いてない?!」

賊リーダー
「俺らに魔法は効かねぇぜ!」
「そんな手加減した魔法ならなおさらなァ!」

勇者
「なぜだ…?! 防壁魔法?」
「いや、そんな素振りも、詠唱もなかった。」

賊リーダー
「お前ら! 一気にやっちまえ!」

賊A
「オォォォォ!!」

勇者
「くッ…仕方ない、全部受けきってやる!」
「はぁぁぁぁ!」

⇒ 『魔王の娘は解放された』2へ続く

⇒動画版はこちら

2022年07月29日

【家族のマスク警察化】権威や不安に流されず、自分の頭で考える大切さ。

ー目次ー
  1. 家族の”マスク警察化”で受けたショック
  2. 判断基準は”世間様からの同調圧力”
  3. 現代版”宗教弾圧”の痛み
  4. 自分で考えて出した結論を大切に

1.家族の”マスク警察化”で受けたショック

絶縁していた父が亡くなった。
僕は葬儀のため、数年ぶりに母と弟に会った。

そこで僕はショックを受けた。
母と弟が「コロナ脳」に洗脳されていたからだ。



僕はノーマスク生活に慣れて久しいが、
幸いマスク警察に出会ったことはなかった。

「自粛警察もマスク警察も、モニターの向こう側の出来事」
僕はどこかでそう思っていた。

だから余計にショックだった。
「初めて出会うマスク警察が、まさか自分の家族だなんて」
と、愕然とした。



弟の洗脳は深刻だった。

僕のことを、まるでバイキンのように扱った。
周囲の親戚に「兄がマスクをしない、不潔だ」と触れ回っていた。

ここが父の葬儀の場であることが
どうでもよくなるほどにつらい体験だった。



「TVで偉い人が言ってるから」
「みんなしてるから」
「不安だから」


人間とは、それらをちらつかせるだけで、
簡単に洗脳できる生き物なのだと痛感した。

権威や不安に流されず、自分で考える大切さを学んだ。


2.判断基準は”世間様からの同調圧力”

「マスクをしなさい」

僕はその言葉にショックを受けながらも、
母と弟にそれぞれ質問してみた。

「なぜマスクをするの?」

母「他人にうつさない気づかいのため」
弟「コロナ渦だから」

僕はさらに聞いてみた。

「マスク1枚で防げるの?」
「PCR検査で何がわかるか調べたことはある?」


母「そんな議論はいいから、とにかくマスクをしなさい」
弟は黙った。



彼らを突き動かしているものは、
根拠でも疑問でもなく「感情」だった。


その感情とはおそらく、

「とにかく私を安心させなさい」
「私は我慢してるのにお前だけ我慢しないなんて許せない」


彼らはマスクを着ける、着けないの判断を、
自分ではなく「世間様からの同調圧力」に委ねていた。

【同調圧力】外でもマスクをする理由は”みんなしているから”か。

3.現代版”宗教弾圧”の痛み

「他人にうつさない気づかいのため」
「コロナ渦だから」

どちらも、メディアや街中でしきりに流れる
”判を押したような答え”だった。

僕は疑問に思った。

「彼らは流れてくる情報に疑問を持ったことはないんだろうか?」



同時に、僕は自信がなくなった。

 すぐに「なぜ?」と思ってしまう自分は素直じゃないのか?
 おかしいのは自分なのか?


僕はその後、居たたまれなさに揺らぎながら、
ノーマスクを貫いて葬儀を過ごした。

同調圧力は、とても痛かった。



「権威ある者からのお達し」
「不安に煽られる多数派」

その威力は絶大だ。


始めは異を唱えていた者から自信を奪う。
考えを変えさせ、多数派へ引き込んでいく。

僕はたった2日間で、これだけの痛みと自信喪失を味わった。

ならば何ヶ月も、何年も、
「コロナ怖い」「マスクをしろ」という
大号令を浴び続けた者はどうなるか。

この痛みに耐えられず洗脳されても、何も不思議はない。
私たちの意志や、主義や、価値観は、
彼ら(戦争で捕虜となり拷問を受けた兵士)と
同じように日々攻撃を受けている。

つまり、私たちの「尊厳の輪」への攻撃である。
これらの攻撃は拷問ほどわかりやすくはなく、
ほとんど気づかれないほどひっそりと行われている。

広告や社会的圧力、
ありとあらゆるところからの押しつけがましいアドバイス、
間接的なプロパガンダ、時代の風潮、マスコミの煽り、法律など。


『Think clearly』 28章”自分を守ろう” より


これが、現代版の宗教弾圧だ。

4.自分で考えて出した結論を大切に

世間様の目や少数派になることを恐れるのは、
人間として自然だ。

とりあえずマスクをしておく方が、
うまく世渡りできるのも事実だ。

ただ、マスク警察になった時点で、それは
「自分の不安を解消するため」の行為になる。


そして、マスク警察をする理由が
「みんなしてるから」なら、

それは自分で考えたのではなく、
権威や同調圧力に流されて出した”借り物の答え”だ。

自分の信念をつらぬくためには、他人を失望させることは避けられず、
ときにはあなたの好きな人を落胆させるかもしれないということだ。


あなたは人を傷つけたり、人をないがしろにしたりすることになり、
逆にあなたはその人たちから失望させられ、傷つけられ、侮辱されるだろう。
あなたはそれらすべての感情に耐える心の準備をしておかなくてはならない。

それが「尊厳の輪」を構築するために支払わなければならない代償だ。
摩擦を起こさずに生きていける人間は操り人形だけである。

『Think clearly』 27章”自分のポリシーをつらぬこう” より

家族から失望されて感じた痛み。
マスク警察による同調圧力の痛み。

それはきっと、マスクを外すという
「自分で考えて出した結論を貫けるのか?」
を試すための痛みだったんだろう。



もし、あなたが

「自分はひねくれているのでは?」
「なぜなぜ期を卒業できない自分はおかしいのでは?」

などと悩んでいるなら、自信を失わなくていいと思う。

それは、あなたが
権威や不安に流されず、立ち止まって考えることができる証拠だ。






posted by 理琉(ワタル) at 19:29 | TrackBack(0) | 生き方

2022年07月26日

【親子の役割逆転】子どもに”親のカウンセラー”をさせる親。

ー目次ー
  1. 子どもは”お母さんのお母さん”
  2. ストレスでしゃべる親、ケアをする子ども
  3. 子どもが”親のカウンセラー”にされる
  4. 歴代の親は”お母さん聞いて聞いて!”ができなかった
  5. 親は変わらないことを受け入れる覚悟

1.子どもは”お母さんのお母さん”

絶縁していた父が亡くなった。
葬儀のプラン決め、葬儀本番、つつがなく終了した。

僕は葬儀に出ないと決めていたが、
なんだかんだで出席した。涙は出なかった。



親戚が集まるといつも、女性陣は大騒ぎした。
一方、男性陣はかやの外で沈黙した。

そこには「話し合い」「共感」「関心」はなかった。
あるのは封殺だった。

僕は小さい頃から、
その空気に耐え難い息苦しさを感じてきた。
そして今回、改めて感じた。



僕が育った家庭は、やはり『機能不全家族』だったのだ。



おそらく、僕の家系ではずっと
親世代が子どもを「お母さん代わり」にしてきたんだろう。

親世代はまるで
「お母さん、聞いて聞いて!」と言うように、
自分の不安や愚痴を子どもにぶつけてきたんだろう。


2.ストレスでしゃべる親、ケアをする子ども

僕の家庭環境では、なぜこんなことが起きるのか。

「男女」と一括りにするのは好きじゃないが、
仕組み上は

「女はストレスでしゃべる、男はストレスで黙る」

からだろう。

ストレスがたまったり、強い重圧を受けたとき、
女のほうは言語機能が盛んになって、とめどなくしゃべりだす。

いまの悩み、過去の悩み、起こるかもしれない悩み、
解決しようのない悩み、そのすべてが話題になる。

そうやってしゃべることで心を落ちつかせ、
気晴らしをしているわけで、答えを探しているわけではない。



『話を聞かない男、地図が読めない女』第7章 より


遺影の写真も、葬儀プランも、談笑が長引いて決まらない。
葬儀屋さんは困り果て、精一杯の苦笑いを見せる。

それはきっと、葬儀屋さんへの嫌がらせじゃない。

彼女たちなりの、
「悲しみというストレス」を乗り越えようとする行動


なのだろう。

3.子どもが”親のカウンセラー”にされる

しゃべることで悲しみや不安をやわらげる。
ストレスを発散し、気持ちを落ち着かせる。

それ自体は必要なことだ。
ただそれを長年、子どもにやり続けるとどうなるか。



子どもはいつも、親がぶちまける不安の聞き役にされる。
子どもが「親のカウンセラー」にされる。

子どもは親の気持ちに寄り添わされ、
親の不安のケアをさせられる。

子どもは
「親は自分の話を聞いてくれる」
「親は自分の気持ちに共感してくれる」
という経験ができないまま大人になってしまう。



その結果、子どもの心には孤独感がつのる。

「親と一緒にいるのに寂しい」
「親は自分の気持ちに興味がない」

子どもに甘えていることにすら気づかない親に絶望する。
そして、親に何かを相談することをあきらめる。

4.歴代の親は”お母さん聞いて聞いて!”ができなかった

僕の親も親戚もそうであるように、
子どもをカウンセラーにする親の多くは変わらない。

子どもは不思議に思う。

「無自覚なのか?」
「どこかで自身を振り返るチャンスはなかったのか?」

そして、この疑問にたどり着く。

『なぜ親は子どもに「親のカウンセラー」をさせるのか?』




それはきっと、
親自身が「親の親のカウンセラー」をさせられてきたからだ。



親の親世代が、自分の子どもを聞き役にしてきた。
子どもは親の保護を失う恐怖から、その役割を拒否できなかった。

そんな彼らは、

「親に話を聞いてもらいたかった」
「親に気持ちをわかってもらいたかった」

という欲求が満たされないまま親になった。
すると今度は自分の子どもを「お母さん代わり」にした。



彼ら、彼女らは、親の姿をしているだけだ。
僕や従兄弟たちは、彼らから見て子どもの姿をしているだけだ。

親世代がやっていることは、いつまでも
「お母さん、聞いて聞いて!」であり、

子ども世代がやっていることは
「よしよし、つらかったね、あなたは悪くないよ。なでなで」だ。


おそらく一族の黎明までさかのぼっても、ずっと。




5.親は変わらないことを受け入れる覚悟

僕は束縛されるのが大嫌いだ。

自分でも極端に思うほど、自由への渇望が強い。
かなりの「回避依存」「脱走者」だ。

自由でいたいと思うのは、
どこかで「自分は自由じゃない」と思っているからだ。

そして、脱走者のように束縛を嫌うのは、
「もう、あんな息苦しさを味わいたくない」からだろう。


その息苦しさとは
「親の聞き役にされる閉塞感」であり、
「不安のはけ口にされる消耗感」だ。



大人になり、
子どもにカウンセラーをさせる親の仕組みは理解できた。

親は、

 自分の不安や寂しさでいっぱいいっぱいだった
 子どもに愚痴を吐き出すことしかできなかった
 子どもの気持ちを思いやる余裕も発想もなかった
 親の親のカウンセラーをさせられてきた


残る仕事は、時間をかけて
親は変わらないと受け入れていくことだ。

親は死ぬまで、
親子の役割が逆転していることにも、
子どもに「お母さん、聞いて聞いて!」をしていることにも、
気づかないだろう。




もしこの記事を、
「子どもに自分のカウンセラーをさせてきた」と
気づいた親が読んでくれているのなら。

親のカウンセラーをしてきた子どもが、
どんな願いを抱いているか伝えさせてほしい。

「子どもの気持ちに寄り添える親がほしかった」



話が通じない親には、”心の実体”が存在しないのではないか。






posted by 理琉(ワタル) at 19:55 | TrackBack(0) | 家族
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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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