2022年08月12日
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』5
⇒ 『魔王の娘は解放された』4からの続き
ー目次ー
【PART6 再戦・東の王都 後編】
【PART7 決戦・魔王城 前編】
ーー<魔物ハンター・仲買人 VS 勇者・魔族少女>ーー
魔物ハンター
「そろそろ限界だな!」
勇者
「う…。」
魔物ハンター
「できればそんな迷いのないあんたと組んでみたかったな!」
「恨みはねぇが、黙ってもらうぜ!」
勇者
「私には誰も…守れない…?」
「勇者なのに…世界を救えない…?!
「いや…!」
ー勇者の回想ー
魔族母
「あなたのようなニンゲンに会えたこと、忘れません!」
魔族少年
「おねえちゃん、ありがとう!」
魔族少女
「あなたは命の恩人です。」
ー勇者の回想終わりー
勇者
「私には世界を救えないかもしれない。」
「けど…目の前で命が危ない者を助ける!」
「はぁぁ!」
魔物ハンター
「なんだ…?! この気迫は…?!」
ギィン!
魔物ハンター
「うわぁ!」 ドサッ
仲買人
「おい! 大丈夫か?!」 ダダッ
魔族少女
「ゆ、勇者さんが勝った…?!」
勇者
「はぁ…はぁ…大丈夫ですか?!」 ダダッ
仲買人
「とどめを刺さないだと?!」
魔物ハンター
「く…! 何だよ、敵に肩を貸すなんて、ずいぶん甘いな…。」
勇者
「あなたの言う通り、私にはあなたたちを救えないかもしれません。」
「私にできるのは、目の前の誰かを助けることだけです。」
「勇者失格ですね…。」
魔族少女
「勇者さん…。」
仲買人
「…?!」
魔物ハンター
「まったくだ。だが、あんたの強さはその甘さあってなんだろうな。」
「だからずっと剣を逆刃(さかば)にしてたんだろ? 俺を殺さないために。」
勇者
「…ごめんなさい。あなたを侮ったわけでは…。」
魔物ハンター
「ハハッ、気を使わなくていいぜ。」
「今回は降参だ。勇者さまが現れたんじゃあしょうがねぇ。」
勇者
「私、あなたたちの生活も救える勇者になります!」
魔物ハンター
「ああ、頼むぜ勇者さま。」
勇者
「はい!」
「…最後に1つだけ、お聞きしてもいいですか?」
魔物ハンター
「何だよ。」
勇者
「さっき肩を貸した時に、魔力を吸い取られる感覚がしました。」
「あなたが身につけてる、王都の紋章が入った武具から。」
魔族少女
「魔封じの武具に、王都の紋章?!」
仲買人
「おい! それ以上の詮索はやめろ!」
魔物ハンター
「気づいたか…さすがだな。まぁそういうことさ。」
勇者
「まさか、王国が自ら魔物ハンターを組織して…?」
魔物ハンター
「あとはご想像にお任せだ。」
「勇者さまは世界を救ってくれるんだろ? 俺らも含めて。」
仲買人
「く…! 今日は引くが、変に足を突っ込んでくれるなよ!」
ーーーーー
魔族少女
「勇者さん、ありがとうございました!」
「おかげで仲間を助けることができました!」
勇者
「きみも加勢してくれてありがとう。」
魔族少女
「あの…どうしても魔王さまのもとへ向かうんですか?」
勇者
「うん…。私は勇者、世界を救う使命があるから。」
魔族少女
「そうですよね…。」
「魔物ハンターを倒してくれたことには感謝してます。」
「でも私は魔族です。魔王さまを狙う者がいることを報告しないわけにはいきません。」
勇者
「それでいいよ。きみはきみが正しいと思うことして。」
魔族少女
「あなたは命の恩人です。」
「できれば死んでほしくありません。」
勇者
「ありがとう。」
魔族少女
「魔族も守りたい…。勇者さんも守りたい…。」
「どっちも叶えたいと思ってしまう私は甘いんでしょうか?!」
「私はどうすれば…。」
勇者
「気にしないで。」
「きみは魔族として、仲間を守るために行動すればいい。」
「私も勇者として、人間を守るために行動する。」
魔族少女
「勇者さん…。わかりました。」
「こんなことを言うのも変ですが、どうかご無事で!」
勇者
「いよいよ、この山を越えた先が魔王城か。」
「私が魔王を倒し、世界に平和を…。」
勇者
「…私はこの旅で何を見てきたんだろう…?」
「人間の欲望と、それに怯える魔族。」
「親の愛情を知らず、魔族の売買に手を染める人たち。」
「なのにその人たちも、魔族も救えない私…。」
勇者
「私には魔王が悪の権化だなんて、とても思えない。」
「人間が善で、魔族が悪だなんて、とても…。」
「私は勇者なのに、こんなことを考えるなんて。」
「こんな気持ちで魔王討伐なんて、私にできるだろうか…?」
門番
「よう。姉ちゃんが勇者か。」
勇者
「そうだ。魔王を倒しに来た。」
「あなたに恨みはないが、邪魔するなら倒させてもらう。」
門番
「さすがの気迫だな。まぁ焦りなさんな。」
「魔王さまから言われてんだ。あんたが来たら通せってな。」
勇者
「?! どうして?」
門番
「あんた、俺らの仲間を助けたんだろ?」
「魔王さまはそんなあんたに興味があってな。」
「できれば話がしてみたいってよ。」
勇者
「魔王と話を…?!」
「そう言って私を誘いこむ罠か?!」
門番
「どう捉えても構わねぇ。」
「だが俺らだって受けた恩は返したいのさ。」
勇者
「恩…?」
門番
「それに、俺じゃあんたにはとても敵わねぇしな。」
「門は開けてやるから、あとはあんた次第だ。」
勇者
「…では入らせてもらう。」
「ありがとう。」
門番
「…へッ、『ありがとう』なんてな。悪い気はしねぇ。」
「さすがは魔王さまが見込んだニンゲンだ。」
ーーーーー
側近
「魔王さま、門番から『勇者を通した』との報告がありました。」
魔王
「ついに来たか。側近よ、お前は手出し無用だ。いいな?」
側近
「わかっております。ですが魔王さま…。」
魔王
「勇者の実力は私より上だ。ムダな犠牲は出したくない。」
側近
「魔王さまのお心遣い、痛み入ります。」
魔王
「案ずるな。お前なら気づいているだろう。今の勇者に私は倒せないと。」
側近
「はい…。」
「危なくなったらお助けします。どうかご無理はなさらないでください。」
魔王
「わかっている。お前たちの忠義には感謝している。」
勇者
「この扉の向こうに魔王が…。」
「このために私はここまで来た…のか。」
「魔王を倒し、世界に平和を…平和…。」
ー勇者の回想ー
「お父さまはすごくこわいかおをしてる。」
「だけど、うまく『けんじゅつ』ができたら、ほめてくれるの。」
「お母さまはよく『せけんさまにはずかしい』って言ってる。」
「だけど、うまく『まほう』ができたら、笑ってくれるの。」
「わたし、お父さまとお母さまのために『ゆうしゃ』になる。」
ー勇者の回想終わりー
「…ここまで来て何を迷ってるんだ私は! 行くぞ!」
ギィィィ
魔王
「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ。」
勇者
「魔王…! それに側近と、あの子は!」
魔族少女
「勇者さん…来てしまったんですね。」
「ごめんなさい、あなたと敵対したくはありませんでした。」
魔王
「我らの仲間を救ったことには感謝している。」
「できればお前と話がしたいが、それでは済まないという顔をしているな。」
勇者
「ああ。私はお前を倒し、世界を救うためにここまで来た。」
魔族少女
「勇者さん…。」
魔王
「戦うか。それでいい。」
「勇者は魔を滅する者。お前はその使命を果たすのだ。」
勇者
「そうさせてもらう! いくぞ魔王!」
ギィン!
魔王
「さすがだ。勇者の力は本物だな。」
勇者
「それは光栄だ。このまま押し切らせてもらう!」
魔王
「ほう、それならなぜお前は剣を逆刃(さかば)に持っている?」
「私を倒し、世界を平和にするのではなかったのか?」
勇者
「う、うるさい!」
ギィン! ギィン!
ザッ
勇者
「…くッ…!」
魔王
「なぜそこまで迷う?!」
「手加減した剣で私は倒せんぞ!」
勇者
「どうして…?! 手が震える…。剣が…振れない…!」
「…ならば魔法で…!」
「吹雪よ!」
ゴォォォ!
魔王
「最上位の冷気魔法か。」
「魔の法衣よ、我を包め!」
フワッ
冷気魔法は魔力の衣にかき消された!
勇者
「くッ…! 雷よ!」
バリバリバリ!
魔王
「魔力の壁よ、我を守護せよ!」
キィン!
雷魔法は魔力の壁に跳ね返された!
勇者
「魔法も通じないか!?」
魔王
「お前が無意識に魔力を抑えたからだ。」
勇者
「?!…そんなつもりは…!」
魔王
「はっきり言おう。お前の力は私より上だ。」
勇者
「なぜそんなことを?! 魔王としてのプライドはないのか?!」
魔王
「つまらんプライドなど、見栄のための虚勢に過ぎん。」
勇者
「見栄…虚勢…?!」
ー勇者の回想ー
母親
「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」
「これでまた、おとなりの奥さんに自慢できるわ。」
ー勇者の回想終わりー
勇者
「お母さま…やっぱりあの言葉は…。」
魔王
「私は魔族の長だ。個人的な欲望に固執し、部下を危険にさらすことはできん。」
「必要ならば強者へ従属してでも、民を守る覚悟はできている。」
勇者
「…これが魔王の器…!」
「それにひきかえ私は、私は…!」
魔王
「お前は旅の道中で誰も殺さなかった。」
「本当は誰も殺したくないのだろう? 魔王である私でさえも。」
勇者
「う、うるさい! 騙されないぞ!」
魔王
「お前は勇者としての使命を背負い、ここまで来た。」
「だがそれは本当にお前が望んだことなのか?」
勇者
「…そうだ! 私が望んでここまで来た…!」
魔王
「お前がどんな思いで強くなったのかはわからん。」
「だが、お前の志は本当にお前の意思なのか?」
勇者
「私の本当の意志…!」
魔王
「お前は何のために戦う? 何のために私を討つ?」
勇者
「魔王…私は…。」
ー勇者の回想ー
勇者の父
「今日も城の兵士に1度も勝てなかったそうだな。」
「強くないお前に与える寝床などない!」
「兵士から1本取るまで家に入れてやらん!」
勇者
「お父さま…ごめんなさい…。」
勇者の母
「この前の魔法試験、隣の子に負けたわね?」
「これじゃあ、また隣の奥さんから自慢されるじゃないの!」
「あー悔しい! 次の試験で学院トップを取らないとご飯抜きよ!」
勇者
「お母さま…。ごめんなさい…ごめんなさい…。」
「どうして…? わたしがよわいから…? まほうがへただから…?」
「グスッ…わたしはいらない子なの?」
ー勇者の回想終わりー
勇者
「そうだ私は…世界を救うためじゃなく…。」
「お父さまとお母さまに愛してもらいたくて…。」
魔王
「…崩れたか…!」
勇者
「うぅ…! うわあぁぁぁぁぁ!」
勇者は魔王へ突っ込んだ!
魔王
「冷静さを失っては終わりだ!」
ガンッ!
勇者は魔王に返り討ちにされた!
勇者
「あ…あ…。」 ガクッ
魔族少女
「勇者さん!」
魔王
「安心しろ、殺してはいない。意識を失っただけだ。」
側近
「魔王さま! よくご無事で!」
魔王
「ああ、お前にはいつも気苦労をかけるな。」
側近
「とんでもない。」
魔王
「勇者の手当てを。」
「終わったら客室で休ませておけ。これで話ができるだろう。」
側近
「はい!」
魔族少女
「私が手当てします!」
⇒ 『魔王の娘は解放された』6へ続く
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』3
【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』4
ー目次ー
【PART6 再戦・東の王都 後編】
【PART7 決戦・魔王城 前編】
【PART6 再戦・東の王都 後編】
<夜、東の王都・街外れ>
ーー<魔物ハンター・仲買人 VS 勇者・魔族少女>ーー
魔物ハンター
「そろそろ限界だな!」
勇者
「う…。」
魔物ハンター
「できればそんな迷いのないあんたと組んでみたかったな!」
「恨みはねぇが、黙ってもらうぜ!」
勇者
「私には誰も…守れない…?」
「勇者なのに…世界を救えない…?!
「いや…!」
ー勇者の回想ー
魔族母
「あなたのようなニンゲンに会えたこと、忘れません!」
魔族少年
「おねえちゃん、ありがとう!」
魔族少女
「あなたは命の恩人です。」
ー勇者の回想終わりー
勇者
「私には世界を救えないかもしれない。」
「けど…目の前で命が危ない者を助ける!」
「はぁぁ!」
魔物ハンター
「なんだ…?! この気迫は…?!」
ギィン!
魔物ハンター
「うわぁ!」 ドサッ
仲買人
「おい! 大丈夫か?!」 ダダッ
魔族少女
「ゆ、勇者さんが勝った…?!」
勇者
「はぁ…はぁ…大丈夫ですか?!」 ダダッ
仲買人
「とどめを刺さないだと?!」
魔物ハンター
「く…! 何だよ、敵に肩を貸すなんて、ずいぶん甘いな…。」
勇者
「あなたの言う通り、私にはあなたたちを救えないかもしれません。」
「私にできるのは、目の前の誰かを助けることだけです。」
「勇者失格ですね…。」
魔族少女
「勇者さん…。」
仲買人
「…?!」
魔物ハンター
「まったくだ。だが、あんたの強さはその甘さあってなんだろうな。」
「だからずっと剣を逆刃(さかば)にしてたんだろ? 俺を殺さないために。」
勇者
「…ごめんなさい。あなたを侮ったわけでは…。」
魔物ハンター
「ハハッ、気を使わなくていいぜ。」
「今回は降参だ。勇者さまが現れたんじゃあしょうがねぇ。」
勇者
「私、あなたたちの生活も救える勇者になります!」
魔物ハンター
「ああ、頼むぜ勇者さま。」
勇者
「はい!」
「…最後に1つだけ、お聞きしてもいいですか?」
魔物ハンター
「何だよ。」
勇者
「さっき肩を貸した時に、魔力を吸い取られる感覚がしました。」
「あなたが身につけてる、王都の紋章が入った武具から。」
魔族少女
「魔封じの武具に、王都の紋章?!」
仲買人
「おい! それ以上の詮索はやめろ!」
魔物ハンター
「気づいたか…さすがだな。まぁそういうことさ。」
勇者
「まさか、王国が自ら魔物ハンターを組織して…?」
魔物ハンター
「あとはご想像にお任せだ。」
「勇者さまは世界を救ってくれるんだろ? 俺らも含めて。」
仲買人
「く…! 今日は引くが、変に足を突っ込んでくれるなよ!」
ーーーーー
魔族少女
「勇者さん、ありがとうございました!」
「おかげで仲間を助けることができました!」
勇者
「きみも加勢してくれてありがとう。」
魔族少女
「あの…どうしても魔王さまのもとへ向かうんですか?」
勇者
「うん…。私は勇者、世界を救う使命があるから。」
魔族少女
「そうですよね…。」
「魔物ハンターを倒してくれたことには感謝してます。」
「でも私は魔族です。魔王さまを狙う者がいることを報告しないわけにはいきません。」
勇者
「それでいいよ。きみはきみが正しいと思うことして。」
魔族少女
「あなたは命の恩人です。」
「できれば死んでほしくありません。」
勇者
「ありがとう。」
魔族少女
「魔族も守りたい…。勇者さんも守りたい…。」
「どっちも叶えたいと思ってしまう私は甘いんでしょうか?!」
「私はどうすれば…。」
勇者
「気にしないで。」
「きみは魔族として、仲間を守るために行動すればいい。」
「私も勇者として、人間を守るために行動する。」
魔族少女
「勇者さん…。わかりました。」
「こんなことを言うのも変ですが、どうかご無事で!」
【PART7 決戦・魔王城 前編】
<魔王城・道中>
勇者
「いよいよ、この山を越えた先が魔王城か。」
「私が魔王を倒し、世界に平和を…。」
勇者
「…私はこの旅で何を見てきたんだろう…?」
「人間の欲望と、それに怯える魔族。」
「親の愛情を知らず、魔族の売買に手を染める人たち。」
「なのにその人たちも、魔族も救えない私…。」
勇者
「私には魔王が悪の権化だなんて、とても思えない。」
「人間が善で、魔族が悪だなんて、とても…。」
「私は勇者なのに、こんなことを考えるなんて。」
「こんな気持ちで魔王討伐なんて、私にできるだろうか…?」
<魔王城・城門前>
門番
「よう。姉ちゃんが勇者か。」
勇者
「そうだ。魔王を倒しに来た。」
「あなたに恨みはないが、邪魔するなら倒させてもらう。」
門番
「さすがの気迫だな。まぁ焦りなさんな。」
「魔王さまから言われてんだ。あんたが来たら通せってな。」
勇者
「?! どうして?」
門番
「あんた、俺らの仲間を助けたんだろ?」
「魔王さまはそんなあんたに興味があってな。」
「できれば話がしてみたいってよ。」
勇者
「魔王と話を…?!」
「そう言って私を誘いこむ罠か?!」
門番
「どう捉えても構わねぇ。」
「だが俺らだって受けた恩は返したいのさ。」
勇者
「恩…?」
門番
「それに、俺じゃあんたにはとても敵わねぇしな。」
「門は開けてやるから、あとはあんた次第だ。」
勇者
「…では入らせてもらう。」
「ありがとう。」
門番
「…へッ、『ありがとう』なんてな。悪い気はしねぇ。」
「さすがは魔王さまが見込んだニンゲンだ。」
ーーーーー
側近
「魔王さま、門番から『勇者を通した』との報告がありました。」
魔王
「ついに来たか。側近よ、お前は手出し無用だ。いいな?」
側近
「わかっております。ですが魔王さま…。」
魔王
「勇者の実力は私より上だ。ムダな犠牲は出したくない。」
側近
「魔王さまのお心遣い、痛み入ります。」
魔王
「案ずるな。お前なら気づいているだろう。今の勇者に私は倒せないと。」
側近
「はい…。」
「危なくなったらお助けします。どうかご無理はなさらないでください。」
魔王
「わかっている。お前たちの忠義には感謝している。」
<魔王城・謁見の間>
勇者
「この扉の向こうに魔王が…。」
「このために私はここまで来た…のか。」
「魔王を倒し、世界に平和を…平和…。」
ー勇者の回想ー
「お父さまはすごくこわいかおをしてる。」
「だけど、うまく『けんじゅつ』ができたら、ほめてくれるの。」
「お母さまはよく『せけんさまにはずかしい』って言ってる。」
「だけど、うまく『まほう』ができたら、笑ってくれるの。」
「わたし、お父さまとお母さまのために『ゆうしゃ』になる。」
ー勇者の回想終わりー
「…ここまで来て何を迷ってるんだ私は! 行くぞ!」
ギィィィ
魔王
「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ。」
勇者
「魔王…! それに側近と、あの子は!」
魔族少女
「勇者さん…来てしまったんですね。」
「ごめんなさい、あなたと敵対したくはありませんでした。」
魔王
「我らの仲間を救ったことには感謝している。」
「できればお前と話がしたいが、それでは済まないという顔をしているな。」
勇者
「ああ。私はお前を倒し、世界を救うためにここまで来た。」
魔族少女
「勇者さん…。」
魔王
「戦うか。それでいい。」
「勇者は魔を滅する者。お前はその使命を果たすのだ。」
勇者
「そうさせてもらう! いくぞ魔王!」
ギィン!
魔王
「さすがだ。勇者の力は本物だな。」
勇者
「それは光栄だ。このまま押し切らせてもらう!」
魔王
「ほう、それならなぜお前は剣を逆刃(さかば)に持っている?」
「私を倒し、世界を平和にするのではなかったのか?」
勇者
「う、うるさい!」
ギィン! ギィン!
ザッ
勇者
「…くッ…!」
魔王
「なぜそこまで迷う?!」
「手加減した剣で私は倒せんぞ!」
勇者
「どうして…?! 手が震える…。剣が…振れない…!」
「…ならば魔法で…!」
「吹雪よ!」
ゴォォォ!
魔王
「最上位の冷気魔法か。」
「魔の法衣よ、我を包め!」
フワッ
冷気魔法は魔力の衣にかき消された!
勇者
「くッ…! 雷よ!」
バリバリバリ!
魔王
「魔力の壁よ、我を守護せよ!」
キィン!
雷魔法は魔力の壁に跳ね返された!
勇者
「魔法も通じないか!?」
魔王
「お前が無意識に魔力を抑えたからだ。」
勇者
「?!…そんなつもりは…!」
魔王
「はっきり言おう。お前の力は私より上だ。」
勇者
「なぜそんなことを?! 魔王としてのプライドはないのか?!」
魔王
「つまらんプライドなど、見栄のための虚勢に過ぎん。」
勇者
「見栄…虚勢…?!」
ー勇者の回想ー
母親
「勇者を育てた母なんて鼻が高いねぇ。」
「これでまた、おとなりの奥さんに自慢できるわ。」
ー勇者の回想終わりー
勇者
「お母さま…やっぱりあの言葉は…。」
魔王
「私は魔族の長だ。個人的な欲望に固執し、部下を危険にさらすことはできん。」
「必要ならば強者へ従属してでも、民を守る覚悟はできている。」
勇者
「…これが魔王の器…!」
「それにひきかえ私は、私は…!」
魔王
「お前は旅の道中で誰も殺さなかった。」
「本当は誰も殺したくないのだろう? 魔王である私でさえも。」
勇者
「う、うるさい! 騙されないぞ!」
魔王
「お前は勇者としての使命を背負い、ここまで来た。」
「だがそれは本当にお前が望んだことなのか?」
勇者
「…そうだ! 私が望んでここまで来た…!」
魔王
「お前がどんな思いで強くなったのかはわからん。」
「だが、お前の志は本当にお前の意思なのか?」
勇者
「私の本当の意志…!」
魔王
「お前は何のために戦う? 何のために私を討つ?」
勇者
「魔王…私は…。」
ー勇者の回想ー
勇者の父
「今日も城の兵士に1度も勝てなかったそうだな。」
「強くないお前に与える寝床などない!」
「兵士から1本取るまで家に入れてやらん!」
勇者
「お父さま…ごめんなさい…。」
勇者の母
「この前の魔法試験、隣の子に負けたわね?」
「これじゃあ、また隣の奥さんから自慢されるじゃないの!」
「あー悔しい! 次の試験で学院トップを取らないとご飯抜きよ!」
勇者
「お母さま…。ごめんなさい…ごめんなさい…。」
「どうして…? わたしがよわいから…? まほうがへただから…?」
「グスッ…わたしはいらない子なの?」
ー勇者の回想終わりー
勇者
「そうだ私は…世界を救うためじゃなく…。」
「お父さまとお母さまに愛してもらいたくて…。」
魔王
「…崩れたか…!」
勇者
「うぅ…! うわあぁぁぁぁぁ!」
勇者は魔王へ突っ込んだ!
魔王
「冷静さを失っては終わりだ!」
ガンッ!
勇者は魔王に返り討ちにされた!
勇者
「あ…あ…。」 ガクッ
魔族少女
「勇者さん!」
魔王
「安心しろ、殺してはいない。意識を失っただけだ。」
側近
「魔王さま! よくご無事で!」
魔王
「ああ、お前にはいつも気苦労をかけるな。」
側近
「とんでもない。」
魔王
「勇者の手当てを。」
「終わったら客室で休ませておけ。これで話ができるだろう。」
側近
「はい!」
魔族少女
「私が手当てします!」
⇒ 『魔王の娘は解放された』6へ続く
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