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2022年08月14日

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』6

⇒ 『魔王の娘は解放された』5からの続き


ー目次ー
【PART7 決戦・魔王城 後編】
【PART8 勇者・失意の帰郷】

【PART7 決戦・魔王城 後編】

<2日後、魔王城・客室>

魔族少女
「勇者さん、お食事です。」

勇者
「ありがとう。きみが手当てしてくれたんだね。」

魔族少女
「はい。私にできるのはこれくらいです。」

勇者
「何から何まで感謝してるよ。」

魔族少女
「ごめんなさい、こんなことになって。」

勇者
「私は魔王の敵だから。」
「むしろ私を殺さず、幽閉もしないなんて、魔王は何を考えて…。」

コツッ、コツッ

勇者
「足音?」

側近
「魔王さまがお呼びだ。執務室へ案内する。」

勇者
「側近…ここで私を殺せばいいだろう。」

側近
「まぁついて来い。詳しい話は魔王さまから聞いてもらう。」

<魔王城・執務室>

魔王
「傷は癒えたか? 勇者よ。」

勇者
「魔王…なぜ私を殺さない?!」

魔王
「お前を殺す気はない。」
「初めに言っただろう。話がしたいと。」

勇者
「…わかった。負けた私に選択の余地はない。聞かせてくれ。」

魔王
「結論から言おう。我らとともに、魔物ハンターの調査をしてほしい。」

勇者
「魔物ハンターを?」

魔王
「お前が東の王都で奴らと戦った話は聞いている。」
「そのときに見ただろう。どれだけの魔族が被害に遭っているかを。」

勇者
「ああ。あのときは助けられたけど、あんなに大勢…。」

魔王
「そうだ。あのような蛮行は世界中で起きている。」
「そして仲間が被害に遭うたび、魔族のニンゲンに対する憎しみは募っていく。」
「私はこれ以上の仲間の不幸と憎しみの増幅を止めたいのだ。」

勇者
「どうして人間の私にそれを?」

魔王
「お前は種族の分け隔てなく物事を考えられるからだ。」
「無用な殺生もせず、優越感や虚栄心に支配されてもいない。」

「西の街では魔族を救い、ニンゲンの孤児や街のために行動した。」
「東の王都では負かした相手の事情さえ慮(おもんばか)った。」

勇者
「私は彼らを救えてなんか…。」

魔王
「謙遜か。私はお前のそういうところも気に入っているのだ。」
「それに、断ってくれても構わない。」

勇者
「断ったら、ただでは済まさないんだろう?」

魔王
「何もしない。お前を解放するだけだ。故郷へ帰るもよかろう。」

勇者
「私を解放したら、また魔王を倒しに来るかもしれないぞ。」

魔王
「そうだな。」

勇者
「だったらどうして?」

魔王
「お前は復讐の連鎖に加担するようなマネはしないからだ。」
「私を殺そうとしなかったのも、同じ理由ではないか?」

勇者
「あれは私の個人的な…。」

魔王
「まぁいい。お前の生い立ちに起因するなら、詳しくは聞かん。」
「とにかく、協力してくれるなら、あの娘とともに調査隊に加わってほしい。」

勇者
「そこまで私を信じるなんて…。」
「…わかった。私にできることならさせてくれ。」

魔王
「協力、痛み入る。」
「では3日後、お前の出身国の王都へ向かってもらおう。」

勇者
「私の出身国へ?」

魔王
「魔物ハンターどもの武具に、王都の紋章が入っていたと聞いている。」
「魔法を無効化する武具は半端な魔力や組織力では作れない。」
「であれば黒幕はあの王国である可能性が高い。」

勇者
「まさか…あの王さまが…?」
「いや、今となっては『やっぱり』かな…。」

魔王
「王国ぐるみで強力な魔術師やハンターを育成しているかもしれない。」
「それを調べてほしい。お前なら土地勘もあるだろう。」

勇者
「…私も真実を知りたい。行くよ。」

魔王
「助かる。」
「それまでは身体を休ませるがよかろう。」

【PART8 勇者・失意の帰郷】

<勇者の出身国・王都>

勇者
「変わってないな。何もなさそうでよかった。」
「にしても、こんな形で帰ってくるなんて。」

魔族少女
「この街には勇者さんのご両親がいるんですか?」

勇者
「うん。お父さまから『魔王を倒すまで帰ってくるな』って言われてるけどね。」

魔族少女
「お会いすることはできないんですか?」

勇者
「魔王に敗れた身ではちょっとね。」

魔族少女
「おつらい立場ですね…。」
「せめて、ご両親のお姿だけでも見られればいいですね。」

勇者
「うん…。」

<王都・繫華街>

魔族少女
「賑やかなところですね。」

勇者
「うん。王都で1番活気がある繫華街だよ。」
「ここにはお母さまがよく来てたけど…。」

ヒソヒソ

勇者
「ご婦人の噂話? あれは近所の奥さん…。」

婦人A
「ねぇねぇ聞いた? 勇者さまの話。」

婦人B
「聞いたわ。勇者一家の実の子じゃないらしいって話でしょう?」

勇者
「…え…?!」

婦人A
「そうらしいのよ。」
「勇者を育てると国から報奨金が出るから、孤児のあの子を引き取ったそうよ。」

婦人B
「やだ、かわいそうねぇ…。素直でいい子だったんだけどね。」

婦人A
「いくら強くても、少女1人で魔王討伐だなんてね。」
「王国は仲間も用意しなかったらしいし、どういうつもりかしら。」

婦人B
「勇者は魔王に負けたんじゃないかって噂もあるし…世知辛いわね。」

婦人A
「本当にねぇ…。」

勇者
「…私が…実の子じゃない…?」

魔族少女
「ゆ、勇者さん…。大丈夫ですか?」

勇者
「…大丈夫! 噂なんて尾ひれがつくものだから…!」
「さ、行こう。」

婦人A
「あら、勇者のお母さま。」

勇者
「お母さま…?!」

魔族少女
「あの方が?!」

勇者
「少し離れよう!」

勇者の母
「ごきげんよう。何のお話ですの?」

婦人B
「勇者様のお話ですよ。いまごろ魔王を討伐したんじゃないかって。」

勇者の母
「ああ、あの子ね。強くていい子でしょう? 私が育てたのよ。」

婦人A
「さ、さすがですわね。」
「それにしても愛する我が子を魔王討伐へ送り出すなんて、すごい覚悟ですわ。」

勇者の母
「ああ、いいんですよ。あの子は勇者候補として引き取った子だから。」

婦人A
「?! …そ、そうでしたの…。」

勇者の母
「ええ。最初は魔法はさっぱりでしたのよ。」
「私の特訓のおかげで魔法学院でトップの成績を上げましたの。」

婦人B
「わ、私の息子も娘も、学院では勇者様に敵いませんでしたわ。」

勇者の母
「私が教えたんですから当然ですわ。」

婦人A
「あ、あははは…な、何度聞いてもすごいですね…。」

勇者
「(…ポロ…。)」 ゴシゴシ

魔族少女
「…勇者さん…。その…涙が…。」

勇者
「…な、泣いてなんかないよ! ほら!」 ニコッ

魔族少女
「そんなにひきつった笑顔を作って…。」
「…勇者さん、人がいないところへ行きましょう。」

<王都・繫華街の外れ>

勇者
「こんなところへ連れて来て、どうしたの?」

ギュッ

勇者
「な、何を?」

魔族少女
「ここなら人目もありません。我慢しなくていいんです。」

勇者
「我慢なんて…。」

魔族少女
「あんなことを聞いてしまって…おつらかったでしょう?」
「思いきり…泣いてください。」

勇者
「…お母さま…お母さま…! う…うぅ…。」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ーーーーー


私は実の子ではなかった。
それは大きなショックだった。
ただ、それだけならまだ受け入れられた。

私にとって何より悲しかったのは、
母親が私を愛していないと知ってしまったことだった。

母親は自らの虚栄心を満たすために私を引き取ったのか?
自らの価値を上げるために私の成績を自慢してきたのか?
私は『勇者』でなければ愛されず、必要とされない人間なのか?

私は全身をかけめぐる無価値観に耐えられずに崩れ落ちた。
どれくらい泣いたか見当もつかなかった。

魔族少女は何も聞かず、優しく抱きしめてくれた。
ずっと、私の頭を撫でてくれた。

私を『勇者』ではなく、1人のニンゲンとして受け入れてくれた。
私は、決して両親からは感じられなかった温もりに触れた。
初めての感覚に、戸惑いと、心地よさを覚えた。

私は…救われた。



⇒ 『魔王の娘は解放された』7へ続く



【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』1

【ファンタジー小説】『魔王の娘は解放された』2

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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