2015年11月22日
アメフラシの脳神経活動を研究、人工感覚器開発などの足がかりに?
科学が発達した現在でも、地球上にはまだ解明されていない生物学上の課題が多くある。そんなひとつが私たちのすぐそば、人間の脳内に残っているという。
人は口や目など感覚器官で得た情報を、千数百億とも言われる脳の神経細胞の伝達によって認識している。その高度な脳内メカニズムを理解するには、複数の神経活動が伝わっていく様子を捉える必要があるが、情報の伝達速度が非常に速いなど、正確に動きを捉えることが難しく、研究が進まない現状があった。
そんななか、生物の脳神経の動きをモニタリングする新たな手法を開発し、脳神経の伝達活動を可視化することを可能にした研究が国内から発表された。
神経活動の動きを捉えるためにアメフラシを用いる
体外から刺激を受けると、紫色の汁を出すことが知られている軟体動物の『アメフラシ』。この貝の仲間は、他の生物と比べて極めて大きな神経細胞を脳に持ち、その位置関係も特定されている。
そこで芝浦工業大学の吉見靖男教授は今回、神経活動の動きを捉えるために『アメフラシ』を用いたとのことだ。
従来、神経伝達の信号が伝わる様子を計測していた方法は、活動電位の発生から消えるまでの時間が非常に短く、正確に捉えられないという問題があった。吉見教授の研究では、どのようにこうした点をクリアできたのだろうか。
神経の伝達活動の速度を抑制し活動を捉えることに成功
脳神経は活動する際に、ナトリウムを取り込み、カリウムを放出する仕組みがある。この性質に着目した教授は『アメフラシ』にカリウム放出の動きを鈍らせる化学物質『テトラエチルアンモニウムクロリド』を投与し、神経の伝達活動の速度を抑制した。
こうして伝達スピードを遅らせることで、これまで不可能だった、脳神経の伝達活動を捉えることに成功したのだ。
研究では、アメフラシの味覚認識を司る神経節を蛍光色素で染色した後、『アメフラシ』が好むワカメと、嫌いなテングサをそれぞれ与えて味覚を認識させた。
すると、脳内の特定部位が活動し、好きな味覚に比べ、嫌いな味覚への活動がより早く活動が始まることも分かったということだ。
こちらはアメフラシ神経の信号伝達をハイスピードカメラでとらえた映像『※ アメフラシ神経の信号伝達をハイスピードカメラでとらえた様子(応用化学科・吉見靖男教授) – YouTube』
さらに、好きな味覚を与えた後に電気ショックを与える実験を繰り返すと、嫌な経験を学習することよって、好きと認識していた味を“嫌い”であると脳が認識することも確認できたとのことだ。
さまざまな条件化での神経伝達の動きと変化を明らかにすることで、生物の本質的な認識メカニズム解明の一助となることが見込まれているこの研究。
それにより、神経系疾病の新たな治療法や、味覚障害や目、耳の不自由な人それぞれの症状に合わせた人工感覚器の開発などへの応用も期待されている。
今後の進展に注目したい。
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