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2020年06月23日

ゾンビの作法 もしもゾンビになったら 2


舞踏会に出席するためガラスの靴を履いた絶世の美女であるシンデレラでも自らガラスの靴を砕き、即席の主武装にしなくてはならないほどの危険性のあるゾンビだが、怪我をしても、もうすでに死んでいるので医者に罹る必要性はない。
むしろゾンビになったことを一枚購入した宝籤に当選した、或いは隕石の衝突により頭蓋粉砕――四肢爆裂するなどの幸運性を喜ばなくてはならない。

ゾンビはホモサピエンスと比較して非常に顕著な狩猟民族なので、文明・文化を保持しない、搾取者である奪う者。ゾンビ変容後は「かゆうま」などの手記を記す知性はあるものの、新陳代謝の爆発的な促進のためか、大脳や海馬を含めた知能が急激に衰退していく。だが、ファッション・テレビドラマや脳味噌同士で行われる話題に参加するための協調性が皆無になる。ただ、低音で唸っていれば良く、小難しい議論や気乗りしない話題に合わせる必要はない。
ゲームなどの娯楽に興じる人間は多大なる苦痛を支払ってゾンビになる脳味噌が一定数いることだろうが、アンデットたる死体には人権がない。人権がない=滅多打ちにされても告訴されることはないが、逆に脳味噌をむしゃぶり尽くして訴えられることがないので、プラス思考で御相子になったと考えた方が幸せであろう。対戦ゲームで煽られたら、家を特定し食らい付きに行けば良い。

最近では脳のリミッターをぶっち切った(火事場のクソ力)かの如く俊敏な動きを見せるゾンビが一定数確認されているが、往来にして始祖のゾンビたるノッロノロとしたゾンビは多くを占めている。
歩行速度や知能低下以外にも、脳味噌にはまず見られない咥内の可動範囲(口を開ける大きさ)に変化が伴う。具体的に述べるなら顎が外れたように大きな柔軟性を伴い、脳味噌の人肉及び骨をかみ砕くことが可能なように咬筋が強化し、捕食活動が可能だろう。
しかしゾンビは空腹を満たすために捕食活動を行っているので、味やら風味やら感じ取れているかどうかは不明。聞いたところで呻き声しかあげず、食レポはまず無理だからだ。どこぞの鬼滅の刃では栄養価値の高いものとして、「家族・女性」を優先的に襲うことが報告されているが、アンデットはアンデットでもあちらの方は(本人の賢さに依存するもの)知性はあり、ドラキュラとしての特性を多く有している。

脳味噌たちの捕食活動で特に気を付けてもらいたいのは、頭部・手足・眼球がどれほど長い時間温存できるかに掛かっている。両腕を伸ばしながら、不衛生極めわりない長い爪で獲物の素肌(該当箇所は問わない。擦り傷を負わせたら勝ち)をひっかき、ゾンビウイルスを付与させ完全にゾンビ化しないうちに、じわじわ追い詰めて食事にありつくのも有りである。
脚部の方は、両腕を使って無様に全身で地面を舐めるように這いずり回るよりも、遥かに機動力が高まるため、腕以上に気を使った方が無難である。大統領の娘を助けに行った警察官は重点的に膝を狙い、ナイフでめった刺しにしてくるので要注意。
頭部の重要性はわざわざ説明する必要はないだろうが、知能の低下した我々ゾンビたちに説明するならば、脳は肉体の全ての司令塔。脳から電気信号を送る頭部は、哺乳類をはじめとした脊椎動物には絶対的に必要なものなので、脳の損傷は一等気を使う必要性がある。
でも頭半分ぶっ飛んでも活動可能な個体もいるので、無傷を維持するよりも『どれだけ長期間保持できるか』に、意識を置いた方が良いだろう。
なお、頭部を完全破壊された際にミミズともムカデともつかない生々しい奇声物や、二本足だけではなく、頭からも足を生やしているナースの存在も確認されている。霧深き町でナースを目撃し敵対行動を取られた場合、聖剣・ヒカキホルグと黄金の右足シュートで対処できるので、知性のあるうちは落ち着いて対処しよう。
眼球は涙腺および水晶体を主軸にした感覚器であり、腐りきった眼で標的を見定めるのに重要だが、筋肉以上に腐敗の傾向が早い。中には血涙を流しながら、ゾンビ化する生前の行動を無限ループの如く繰り返しながら、親切心で脳味噌を捕食せず単純に殺そうとする日本製のゾンビがいる。日本製ゾンビの敵対者として、日光を極力避けライトの明かりで怯むなどドラキュラとしての傾向が強いが、日本製ゾンビは脳味噌の肉体を殻と評して憑依しているので、日本製は何かと色々特殊な存在である。

ゾンビの狩りの優先順位として重要なのは、人間が科学を基にして発展した分類の中で、どの特定の脳味噌の職種が激少することにより、混乱が生じるかである。
脳味噌たちの中で最も狙い目なのは、医療機関に属する医療従事者であろう。ゾンビ化のパンデミックの初期の初期、意識が朦朧とし興奮状態になった患者(ゾンビ)を人類史に多大なる衰退を及ぼす始祖的な存在とは知らず、親切な脳味噌の功労で病院に搬送されることになる。
未知の症状と死後硬直にも似た、未だかつてみたことのない症例に医者は戸惑いながらも、看護師と共にトリアージ的に最優先されることになる。一瞬、狂犬病と思わしき症状から身体拘束されるのが主だが、勘の良い脳味噌は結核などの感染症を疑って肉体が拘束されたまま隔離封鎖されるも、安心してほしい。
あなたはゾンビ初期とは言えども、公的登録と一般的な常識や倫理観から言えば、世間的には『まだ人間』である。そのため、医療機関に搬送されたのにも関わらず、治療を放置するなど脳味噌としてはあってはならないことなので、自然と医者や看護師などの物理的接触が可能だ。
慌ただしく治療や投薬が行われる中、本能に従ってタイミングを狙い一人の人間にでもかみつくことさえできれば、肉を食いちぎり腹を満たすと同時に、我々ゾンビ族の仲間を増やす可能性が増すことだろう。
また、力士の如く裕福な恰幅を持つものは市街地の街道で飲み過ぎて嘔吐するサラリーマンの如く、ゾンビウイルス塗れの吐瀉物を脳味噌の群れに放ち方法も十全である。
見目麗しい(とはいっても経年劣化に従い腐敗するけど)扇情的な姿をした女性型ゾンビは、淫靡な所作で色気に囚われた男性を暗がりに誘い込み、悲鳴を上げる暇など与えず喉笛に食らいついて、捕食する方法も可能である。

ゾンビは俊敏を売りとした痩躯の外肺葉・屈強な肉体を保持する中肺葉・肥満系統の内肺葉型のソレゾレがあり、ゾンビウイルスが脳味噌たちに跋扈する世の中が安定し保持できる秩序が確立したら、それぞれの体系に見合った狩りを行うと良いだろう。
脳味噌は自分が捕食される恐怖及び、ゾンビ化する現実を恐れて、精神的に著しい負荷がかかる。そのため、食料品や雑貨やトイレなどのライフラインが整ったデパートなどで籠城しつつも、一部人間の冒頭や扇情・現実逃避にカルト宗教的な意味不明な行動を起こし、ちょっとした失態で金城鉄壁の安全圏内に突入することが可能だ。

どういった混乱でも構わないが反乱なる無意味でしかない、ヒエアルキーに則ったカースト制度が自然と出来上がるのだが、チャンスとみなしたらすかさず狙い、外肺葉・中肺葉・内肺葉型の皆が各々の特技を活かして、大量の脳味噌を食らい尽くそう。

三人寄れば文殊の知恵という俗諺があるが、実際は凶器を片手で背中に隠して握手する三者三様の格付け合いでしかないことを、農耕民族と狩猟民族の象徴とも言われている、カインとアベルの原始の殺し合いがその事実を半ば物語っている。彼ら兄弟は二人であれば、そういったことは起きなかっただろうが、神という第三者の存在によって、亀裂が生じたのだ。

さて、人間引き籠る建物を目の前に、興奮して鉄線や檻を揺さぶるチンパンのように、ショーウインドウのケーキを見る観察期間は終わった。
数の暴力こそがゾンビの強みであり、銃弾など恐れず獰猛なる食欲の本能のまま突入しよう。


ゾンビの作法 もしもゾンビになったら 3へ続く

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