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2022年02月11日

押絵の軌跡



教えの軌跡とは夢野久作によって執筆された作品である。
冒頭は、
「看護婦さんの眠っております隙を見ましては、拙い女文字を走らせるので御座いますから、さぞかしお読みづらい、おわかりにくい事ばかりと存じますが、取り急ぎますままに幾重にもおゆるし下さいませ」
から、始まる。


【内容】



内容は歌舞伎俳優の一人がとある女性と所同じところに喀血をして、入院をしたという冒頭。
どうやら男性俳優の方は、女性嫌いなだけではなく、手紙の書き主である女性が習っていた西洋の音楽までも嫌っているのだが、なぜか主人公が公演などで演奏するとやってきて、番が終わればそそくさと帰るというどこか奇妙な行動を起こしていたようなのであった。


そうして何時か、また同じような演奏会の日に歌舞伎俳優が訪れるのだが、女は思わず喀血をする。それは練習に根を詰め過ぎたなどの問題ではなく、歌舞伎の男を見た瞬間に、


「あっ。お母様……」



と思わず、口に出してしまいそうになったからであった。正直な話、歌舞伎俳優のことは写真などでその姿を知っていたのだが、生で見るのとではその影響力が違ったらしい。

男が病気を治してあげるという中、気を失ってしまう主人公であるが意識を取り戻した時には着の身着のまま、故郷である福岡に帰り、とある神社の絵馬を見る。それは八犬伝を元にしたモノを見てから、東京の安宿に戻ったのだという。


女は福岡生まれで、母親は実に不思議な女性であったようだ。少量の食事だけで生き永らえており、女でさえほれぼれするほど美しいという。

しかし女の母親は子宝に恵まれず、色々なご利益を積極的に受け、ようやく懐妊したらしい。当初は、女子ではなく男の子だと決めつけていたようであるが、雪の降る日に生まれ、


「イッチョはじまり一キリカンジョ……。
一本棒で暮すは大塚どんよ(杖術の先生のこと)
ニョーボで暮すは井ノ口どんよ。
三宝で暮すが長沢どんよ(櫛田神社の神主様のこと)
四わんぼうで暮すが寺倉(金貸)どんよ
五めんなされよアラ六ずかしや。
七ツなんでも焼きもち焼いて。
九めん十めんなさらばなされ。
眼ひき袖引き妾のままよ。
孩児が出来ても妾の腹よ。
あなたのお腹は借りまいものよ。
主と誰ともおしゃらばおしゃれ。
産んだその子にシルシはないが。
思うたお方にチョット生きうつし。
あらイッコイイッコ上がった」


といった子守歌が流行り始める。
その歌は当然のことながら、一家をかこつけたものであり父は意味が分からないながらも意地悪に近所に歌いに来た子守女を叱っていたのだという。

それから母親は何かを忘れるかのように縫物などの仕事熱心になっていったのだという。

その内に父は、主人公から下の妹や弟が出来ないことを不思議がるようになる。
しかしとある日、父が一人で出かけた日のこと、いつもなら帰りに頭を撫でるのであるがそれをせず、父親はしげしげと娘の姿を見て頬をぶつのである。無論、大泣きしてしまい騒ぎを聞きつけた母が寄ると、不義を疑われるのである。

長い間恥を掻かされたと憤慨する父親に、母は罰は受けるが不義不貞は働いていないのだという。

母親は父親に殺され、父は心中してしまい、主人公は別の家で暮らすようになる。
年嵩になるにつれて、「不義の子」だと噂されていることに気付き涙を流しながらもどうしようもないまま、ある日鏡を見ていると不思議なことに気が付く。まるで自分の顔は様変わりするように母などの顔に似ていることに気付くのであった。


そんな最中、東京へ行く決心をしてピアノを教えてもらい夢中になるも、東京通なのに歌舞伎にだけ手を出していないことを指摘される。歌舞伎の雑誌を買い、中身を確認するとそこには自分の顔に似た歌舞伎俳優の姿があったのだ。

そこで彼女は図書館で医学書などを読みふけっていくのだが、その中でとある興味深い医学書を発見するのであった。そして母が最期に残した言葉、「私は不義を致しましたおぼえは毛頭御座いません。けれども……この上のお宮仕えは致しかねます」の真偽が紐解かれていくのであった。

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